SDGsから見た学術会議 ―社会と学術の関係を構築する―

SDGsとのかかわり ―日本学術会議の活動:意思の表出等を中心に―

日本学術会議は、社会の中での学術のありかたについて考え、社会のための学術の推進に取り組み、多数の提言等の意思の表出や学術フォーラムを実施しています。
それらは国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」とも密接に関わっています。
SDGsとは、世界共通の社会的課題にとりくみ、人類全体のウェルビーイング(幸せ)を達成するための17の国際的目標です。

このコーナーでは、23期(2014年10月1日~2017年9月30日)以降に発出された意思の表出や、25期(2020年10月1日~ )に実施した学術フォーラムがSDGsにどう関わっているのかをご紹介します。
SDGsの観点からは、日本の社会において何がいま取り組むべき課題なのか、日本の学術は世界に対してどのような貢献をなしうるのか、紹介文から興味をひかれた意思の表出等については、ぜひその本文もご覧ください。
なお、できる限り多様な意思の表出等をご紹介するために、1つの意思の表出等提言につき1目標を割り当てていますが、ほとんどの意思の表出等は複数の目標に関係しています。

「持続可能な開発目標(SDGs)」とは:
2015年9月に国連総会が決議した「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が掲げた目標。
詳細は国連広報センターHPをご覧ください。

  • SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS
  • 目標1:貧困をなくそう
  • 目標2:飢餓をゼロに
  • 目標3:すべての人に保健と福祉を
  • 目標4:質の高い教育をみんなに
  • 目標5:ジェンダー平等を実現しよう
  • 目標6:安全な水とトイレを世界中に
  • 目標7:エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
  • 目標8:働きがいも経済成長も
  • 目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 目標10:人や国の不平等をなくそう
  • 目標11:住み続けられるまちづくりを
  • 目標12:つくる責任つかう責任
  • 目標13:気候変動に具体的な対策を
  • 目標14:海の豊かさを守ろう
  • 目標15:陸の豊かさも守ろう
  • 目標16:平和と公正をすべての人に
  • 目標17:パートナーシップで目標を達成しよう

SDGs目標における提言の網羅性を可視化
科学的知見の創出に資する可視化―文理融合研究と新パラダイム策定― 総合工学委員会科学的知見の創出に資する可視化分科会 当分科会では、社会的期待を的確に把握するために、社会的データを効果的に可視化することを目標に掲げている。その活動のひとつとして、日本学術会議の提言文書285件を機械学習技術によりベクトル化し、SDGsに設定された17ゴールとの類似度に基づき文書を自動分類した。その結果、各ゴールに対して概ね均等に文書が配分されることが判明した。

キーワード:政策意思決定、エビデンス発見、可視化、機械学習、自動クラスタリング

学術会議はSDGsについてこう考えた。あなたは?
学術とSDGsのネクストステップ -社会とともに考えるために- 科学と社会委員会、同科学と社会企画分科会 本報告は、今期(2017~2020年)の学術会議がSDGs(国連の持続可能な開発目標)にどのように取り組んだかを自らレヴューし、次期への課題を示しています。科学者・研究者がSDGsの達成にどのように寄与しているか、その中でどのような問題が浮かび上がっているかをまとめています。SDGsは社会との共創なしには達成できません。SDGs貢献に関心がある企業・NPO・市民の皆さんは学術会議を対話の相手としてぜひご利用ください。

キーワード:科学とSDGs、紐づけ、トレードオフ、社会との共創、シチズンサイエンス


目標1:貧困をなくそう

未来のために子どもファースト、遊び活性化
我が国の子どもの成育環境の改善にむけて-成育空間の課題と提言2020- 心理学・教育学委員会・臨床医学委員会・健康・生活科学委員会・環境学委員会・土木工学・建築学委員会合同 子どもの成育環境分科会 子どもの成育環境に関する分野横断的な最初の提言から10 年を経てもなお、子どもに不寛容な社会、貧困、虐待、引きこもり、外遊び減少等、より深刻化する状況を鑑み、1)子どもを中心においた投資と政策、2)各成長ステージで子ども自身の力が育まれる環境・社会づくり、3)子どもの育ちを多世代で包括的に支援する社会づくり、4)分野横断的に居場所となる空間づくりについて具体的に空間整備関連の施策提言としてまとめた。

キーワード:子ども、空間、外遊び、居場所、子どもの育ちへの包括的支援

人口減少・少子高齢化を超えて持続可能な「幸福な社会」へ
「人口縮小社会」という未来-持続可能な幸福社会をつくる- 人口縮小社会における問題解決のための検討委員会 日本は世界に先駆けて、人口減少・少子高齢化を基調とした社会へと歴史的転換を経験しつつあります。それは人類にとってこれまでに直面したことのない転換であり、日本の社会経済の成り立ちとその持続可能性を根幹から揺るがしかねないものです。この提言では、この事態の理解の基礎となる人口変化の状況、課題とその認識、方途について概観した上で、「幸福な社会」へ向かう具体策を提示します。

キーワード:人口減少、少子高齢化、持続可能性、幸福社会

日本の貧困をなくすには
若者支援政策の拡充に向けて 社会学委員会 社会変動と若者問題分科会 我が国の「若者の貧困」問題は深刻です。若者が「使い捨てられる」ことがないように、若者支援政策を5つの観点(セーフティネット、教育・人材育成、雇用・労働、ジェンダー、地域・地方)から具体的に提案しました。裏付けるデータをもっと知りたい方はお問合せください。

キーワード:若者、貧困、セーフティネット、教育・人材育成、雇用・労働、ジェンダー、地域・地方

世界の途上国の貧困をなくすには
日本型の産業化支援戦略 地域研究委員会 国際地域開発研究分科会 途上国の貧困をなくすには、産業発展を実現して雇用を創造し、生活水準の向上を達成することがきわめて重要です。しかし、これまでの開発支援は、“対症療法”的なところがあり、必ずしも効果的とは言えませんでした。そこで、もっと「戦略的」に開発支援を組み立てるため、アジア諸国のなかでは途上国支援の実績が豊富な日本が、その経験を活かして支援戦略を構築しようと提案しました。

キーワード:、途上国、開発支援、FDI(Foreign Direct Investment, 海外直接投資)、農業

目標2:飢餓をゼロに

農業情報システム科学の課題と展望
人口減少社会に対応した農業情報システム科学の課題と展望 農学委員会・食料科学委員会合同 農業情報システム学分科会 少子高齢化と農業人口減少に伴う農業生産力の急速な低下に対して、農業持続のための農業データ及び農業情報の再評価と運用方法を提言する。具体的には、農作業のすべての工程の自動化・高度化・システム化をめざしたデータベースの構築と運用および評価の仕組み、スマートフードシステム科学の構築、農業情報分野におけるオープンイノベーションの推進、およびスマートフードシステムを支える人材養成の仕組み構築を提言する。

キーワード:技術変革(technology transformation)、農業情報(agricultural information)、オープンデータ(open data)、フードチェーンシステム(food chain system)、人材養成(capacity building)

日本の生産農学研究の底力とSDGs
日本における農業資源の潜在力を顕在化するために生産農学が果たすべき役割 農学委員会 農学分科会 本報告では、主に土地利用型農業に関する日本の農業資源の現状と問題点、新たに注目されている技術等を整理し、農業資源の持つ潜在力を顕在化させるために農学の一分野である生産農学(作物学、園芸学、土壌科学、育種学、植物病理学)が取り組むべき研究開発の内容とはなにか、また、その研究開発がSDGsのどの目標の達成に貢献するかについて取りまとめた。

キーワード:農業資源、潜在力、生産農学、SDGs

ASF感染症から豚を護り、食を守ろう
アフリカ豚熱(ASF、旧名称:アフリカ豚コレラ)対策に関する緊急提言 危機対応科学情報発信委員会 医療・健康リスク情報発信分科会
食料科学委員会 獣医学分科会
農学委員会・食料科学委員会合同 食の安全分科会
ASF(アフリカ豚熱)は、豚の致死的感染症で、食料安定供給を脅かす。アフリカ由来のASFは2018年に世界最大の豚肉消費国の中国に入って以来、周辺国へも広がり甚大な被害をもたらしている。ASFの日本への侵入防止と蔓延防止のため、行政上ならびに生産現場の対策強化に加え、人が病原体を持ち込まないよう、国民の理解と対策に必要な調査研究推進の緊急提言を行った。日本学術会議も学協会と連携し、国民啓発を図る。

キーワード:ASF(アフリカ豚熱)、越境性動物疾病、食料安全保障、豚、感染症

世界の食糧生産の安定化には
緩・急環境変動下における土壌科学の基盤整備と研究強化の必要性 農学委員会 土壌科学分科会 食料生産の基盤は農業ですが、今、農業生産を妨げているのは、世界でも日本でも、気象現象の激化などの環境変動のために加速している、土壌の変化です。有害物質による土壌汚染も地域によっては深刻です。土壌が本来持つ、生態系を支える機能を保持しながら、持続的にその生産機能を高めるという国際的課題のために、我が国の科学と教育はどうすればよいのか提案しました。

キーワード:国際土壌年(2015年)、土壌観測ネットワーク、土壌情報、土壌科学、土壌教育、土壌保全に関する基本法

世界の食糧生産の安定化には
気候変動に対応する育種学の課題と展開
農学委員会 育種学分科会 農業の生産性向上にはまた、作物の種の開発も重要です。たとえば温暖化等の気候変動により、日本ではコメの品質が劣化し、世界では果物の品質低下が問題になっています。そのような変動に耐えうる種を開発し、増収を図ると同時に、環境への負荷を小さくする持続的な農業生産を実現するための課題を検討しました。

キーワード:農業、種、育種学、気候変動

目標3:すべての人に健康と福祉を

学術フォーラム「コロナ禍を共に生きる#7 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のレジストリ研究の現状と今後の方向性 医療情報の収集と活用による対策について」 第二部 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、様々な医学的・社会的な課題を引き起こしております。これらの課題に適切に対応するには、医療機関を受診された患者さんの情報を収集して解析したレジストリの結果に基づくことが重要です。本学術フォーラムでは、レジストリとは何か、収集された医学情報管理はどの様になっているかに触れながら、我が国で進められている、COVID-19に関するレジストリの状況や成果、課題と今後の方向性を含めて分かりやすくお話しいただき、皆様と広く共有したいと考えております。

我が国における移植医療と再生医療の発展と普及
我が国における移植医療と再生医療の発展と普及 臨床医学委員会 移植・再生医療分科会 臓器・組織移植は既に技術的には確立された医療であるにもかかわらず、国内の移植件数は諸外国に比し非常に少ない。他の先進国と同等のレベルで行える体制を構築するための人材育成、プログラムの整備を提唱する。
 また、再生・細胞医療を医療産業として定着させるため、組織・細胞バンク等の整備、治療技術の進化、安全性評価等の具体的・現実的な課題を明らかにし、産学連携を推進する仕組みづくりを提唱する。

キーワード:臓器・組織移植、再生医療、産学連携、人材育成

医療から介護までの幅広い歯科医療提供体制
地域包括ケアシステム構築のために求められる歯科保健医療体制 歯学委員会病態系歯学分科会臨床系歯学分科会 歯科医療は、国民が健康を確保し安心して生活を送るための重要な基盤となっています。歯科医療を取り巻く環境が変わる中で、医療から介護までの幅広い歯科医療需要に応えるために他の医療関連職と連携して地域で一貫した包括ケアシステムとしての歯科保健医療体制を構築する必要があります。そこで、日本学術会議歯学委員会は時代の要請に応える歯科医療提供体制を構築するため、現状の問題点を抽出し提言を作成しました。

キーワード:地域包括ケアシステム、医科歯科連携、多職種連携、病診連携、歯科医療ニーズ

持続可能な医療を担う薬剤師
持続可能な医療を担う薬剤師の職能と生涯研鑽 薬学委員会 薬剤師職能とキャリアパス分科会 超高齢社会において持続可能な医療を提供するために、薬剤師は処方箋に基づく調剤に加えて、多職種と連携しながら地域包括ケアシステムにおける役割を担うことが求められている。そのために必要な多職種間の情報連携システムの構築や薬剤師の卒後研修や専門認定制度の整備の必要性を提言する。

キーワード:薬剤師、地域包括ケアシステム、情報連携システム、薬剤師レジデント、専門薬剤師制度

ライフコースアプローチによる生活習慣病予防
生活習慣病予防のための良好な成育環境・生活習慣の確保に係る基盤づくりと教育の重要性 臨床医学委員会・健康・生活科学委員会合同 生活習慣病対策分科会 より根源的な生活習慣病対策を進めて行くため、ライフコース疫学研究の長期継続、小児期・学童期・青年期を対象とした研究の充実が必要である。若年女性・妊産婦の栄養改善は緊急の課題であり、栄養学的実践法の検証と普及が必要である。地域の関係機関や専門学会等と連携した学校における健康教育の深化、高校卒業後以後の健康教育の機会保障が望まれる。さらに、医学部における栄養・身体活動・生活指導教育の強化が求められる。

キーワード:生活習慣病(NCDs)、学校教育、胎児プログラミング仮説(DOHaD)、ライフコース、研究支援

大規模感染症・危機的感染症の予防・制御
感染症の予防と制御を目指した常置組織の創設について 第二部大規模感染症予防・制圧体制検討分科会 本提言は、令和2年3月6日公表日本学術会議幹事会声明「新型コロナウイルス感染症対策に関するみなさまへのお願いと、今後の日本学術会議の対応」を受け、令和2年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に関する行政等の対応、学術界の異分野協働や産官学連携などを検証し、大規模感染症・危機的感染症の予防・制御に必要な体制とその整備について検討した結果をまとめたものである。

キーワード:感染症予防、新型コロナウイルス感染症、COVID-19 pandemic

Evidence Based Sports for all the people
科学的エビデンスに基づく「スポーツの価値」の普及の在り方 日本学術会議 スポーツ庁は第2期スポーツ基本計画を策定し、スポーツをより多くの国民に普及することを推進している。現在、社会には様々な健康情報が溢れ、科学的エビデンスに基づくスポーツの価値の普及が重要であるが、そのためにどうすればよいか、自明ではない。そのため、スポーツ庁より学術会議にこの問題を検討するよう審議依頼が寄せられた。この回答は、新たに立ち上げた委員会でこれらの問題を審議した結果をまとめたものである。

キーワード:スポーツの価値、科学的エビデンス、eスポーツ、証拠に基づく政策立案、Society 5.0

ゲノム編集技術の臨床応用に対する法的規制
ゲノム編集技術のヒト胚等への臨床応用に対する法規制のあり方について 科学者委員会 ゲノム編集技術に関する分科会 ゲノム編集技術は疾患を克服する手段として期待されており、すべての人がその恩恵に預かれるべきである。だがそれと同時に、そのヒト胚等への臨床応用は、特定の形質を持つ人を排除するためや人の育種のために用いられてはならない。また、これが人類全体に与えうる影響も考慮しなければならない。これらを確保するためには、同技術の使用に対する適正な規制が必要であることから、速やかな法律の制定を提言する。

キーワード:ゲノム編集技術、ヒト胚、臨床応用、法的規制、生命倫理、国際的ルールメーキング

口腔疾患の保健・医療現場も喫煙対策の場に
口腔疾患の予防・治療・保健教育の場も喫煙防止・禁煙支援などの喫煙対策の場として活用すべきである 健康・生活科学委員会・歯学委員会合同脱タバコ社会の実現分科会 本提言は、口腔疾患予防・治療・保健教育の場も喫煙防止や禁煙支援に活用する体制を整えることを提唱したものである。学校歯科医を喫煙防止教育に積極的に活用し、保険医療制度において、歯科による禁煙支援を強化することが重要である。歯周病予防、口腔がん予防が充実し、国民の健康を増進させることができる。同時に、喫煙対策に関して歯と医の連携を図り、また、歯科医師の卒前教育、卒後の研修などを充実させる必要がある。

キーワード:口腔疾患、予防・治療・保健教育、喫煙防止、禁煙支援

多様な民族ごとの最適医療を実現する基盤へ
ゲノム医療・精密医療の多層的・統合的な推進 基礎生物学委員会・統合生物学委員会・基礎医学委員会合同 ゲノム科学分科会
臨床医学委員会 臨床ゲノム医学分科会、脳とこころ分科会、腫瘍分科会
ゲノム医療は、SDGsの目標3の達成につき、その科学的基盤を提供する役割がある。個人ゲノムには民族差が存在し、現在研究が盛んな欧米で得られたゲノム医療の結果が、そのまま開発途上国などに適応できるとは限らない。本提言では日本でのゲノム医学研究の推進方策を述べているが、得られる結果は、東アジアを中心にその他のアジア地域に適用可能であり、多様な民族について、ゲノム情報に根差した医療を推進する基盤となる。

キーワード:ゲノム、民族差、最適化、多様性、医療

研究・教育力の低下を招かない専門医制度の確立
専攻医募集シーリングによる研究力低下に関する緊急提言 臨床医学委員会 2018年度に発足した新専門医制度において提案されている専攻医採用シーリングに関し、「研究」、「教育」の将来的な低下を来すことのないよう、専門医制度の設計に、医師の行う「診療」についての視点のみならず、学術的視点を含めることを提言するものである。

キーワード:新専門医制度、専攻医募集シーリング、診療エフォート、教育エフォート、研究エフォート、医師地域的偏在、診療科偏在

国民の健康をみんなで守るために
サマータイム導入の問題点:健康科学からの警鐘 基礎科学委員会・基礎医学委員会・臨床医学委員会合同生物リズム分科会 日本オリンピック組織委員会は、2020年の7月から9月にかけて開催予定の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、低炭素社会の実現と暑さ対策としてサマータイムの導入を提案しました。国際的には、サマータイム制度を廃止する方向に進んでいる中、サマータイムは生体リズムに長期にわたり影響を与えることを示し、多くの国民の健康を危険にさらすべきでないと主張しました。

キーワード:サマータイム、健康、国民生活、社会制度、東京オリンピック・パラリンピック

もっと効果的で俯瞰的な研究費配分を
生命科学における研究資金のあり方 第二部 生命科学における公的研究資金のあり方検討分科会 本報告は、生命科学研究のための公的研究資金の現状を分析し、研究現場の要望を反映し、より効率的で総体として効果の上がる研究費配分のあり方を審議した内容です。研究費の配分システムには、生命科学研究が持つ特徴への配慮が乏しく、むしろ、短期間で目に見える研究成果、特に経済効果につながる成果をあげる要求が強まっていることへの警告を発しました。

キーワード:生命科学、基礎研究、スモールサイエンス、競争的研究資金、研究資金制度

すべての人により良い医療をとどけるには
持続可能な最善の医療を実現する次世代型ヘルスケアプラットフォームの構築 臨床医学委員会 手術データの全国登録と解析に関わる分科会 高齢化社会では、医療費を抑えながら医療の質を向上させることが喫緊の課題です。現在、それに対して壁になっているのは、患者さんたちの臨床データがまとまった形で蓄積されておらず、検証に使えないという問題です。もちろん個人情報が十分に守られることを前提とした上でのことですが、とくに病気の予防効果の検証には、全国規模のデータベースが有効です。そのための具体的方策として、「ヘルスケアプラットフォーム」の構築を提案しました。

キーワード:実臨床データ、データベース、大規模な日本人データ、成果志向の医療

先端的医療技術を社会の理解を得ながら開発するには
我が国の医学・医療領域におけるゲノム編集技術のあり方 医学・医療領域におけるゲノム編集技術のあり方検討委員会 我が国の医療・医学領域におけるゲノム編集技術のあり方について、学術会議から出された初の提言です。焦点は、ヒト生殖細胞・受精胚ゲノム編集、つまり、受精卵の段階で(主に)遺伝性の病気を治すためにゲノム編集を行うことについて、研究と臨床に分けてその規制の範囲を、医学者を中心とする委員会が検討したものです。これから社会での議論が高まることが予想されます。学術会議内でも議論を継続していきます。

キーワード:体細胞ゲノム編集治療、ヒト生殖細胞・受精胚ゲノム編集、臨床応用の規制、社会的理解

誰もが受け得る検査をより安全にするには
CT検査による医療被ばく低減に関する提言 臨床医学委員会 放射線・臨床検査分科会 「わが国の医療被ばく線量は米国とともに世界で最も高く、しかも増加を続けている」という事実をご存知でしたか? 1年間に受ける日本人の平均被ばく線量は約6ミリシーベルトですが、CTによる医療被ばく線量は、1回の検査で平均数ミリシーベルトから十数ミリシーベルトとのことです。それでも(この提言を出した委員会によれば、)成人ならば検査を受ける方がよいそうですが、とはいえ、減らす必要性があることは疑いなく、そのための方策について提案しました。

キーワード:CT検査、医療被ばく、医療被ばく教育、低線量高画質CT装置

訪日客の健康にも配慮するには
東京都受動喫煙防止条例の制定を求める緊急提言 健康・生活科学委員会・歯学委員会合同 脱タバコ社会の実現分科会 東京都限定ってなぜですか?と思いましたら、この提言は、2020年の東京オリンピック・パラリンピック対策とのことです。海外から観戦に来るスポーツファンが、公共の場で受動喫煙にさらされては問題です。健康・生活科学委員会が、都に対し、公共の場での受動喫煙を防止するための法整備(条例化)を行うよう緊急提言しました。

キーワード:喫煙、タバコ、健康、公共、東京オリンピック・パラリンピック

目標4:質の高い教育をみんなに

学術フォーラム「持続可能な社会を創り担うための教育と学習のチャレンジ」 フューチャー・アースの推進と連携に関する委員会、持続可能な発展のための教育と人材育成の推進分科会 持続可能な世界を目指す国際プログラムであるフューチャー・アース、SDGs(国連持続可能な開発目標)、ESD(持続可能な発展のための教育)などの活動が活発化していますが、それらの推進には学術と社会、それに教育、特に学校教育との連携が重要です。カリキュラムマネジメントと評価、地域における学習の実践、学校と地域の連携などについての議論も深める必要があります。これらについて研究者、現場教員(生徒も含む)などからの報告を参考に、参加者全員で多角的に考えます。

学術フォーラム「リスク認知と教育」 環境学委員会・健康・生活科学委員会合同環境リスク分科会、総合工学委員会・機械工学委員会合同工学システムに関する安全・安心・リスク検討分科会、農学委員会・食料科学委員会・健康・生活科学委員会合同食の安全分科会、薬学委員会・食料科学委員会・基礎医学委員会合同毒性学分科会、食料科学委員会獣医学分科会、環境学委員会環境思想・環境教育分科会 日頃「リスク」という言葉を聞く機会は多いが、「リスク」の考え方を社会全体のものとするには、日本の教育課程の中でリスクにかかわる教育を行う必要があろう。本フォーラムでは、リスクの概念、リスク評価の方法、基準値の持つ意味、教育の場でのリスク教育の現状と国際的動向を踏まえつつ、「リスク教育」の必要性やリスク認知の方法などについて議論し、初等・中等教育への「リスク教育」の導入のあり方を多角的に討論する。

学習データを利活用して教育革新しよう
育のデジタル化を踏まえた学習データの利活用に関する提言 -エビデンスに基づく教育に向けて- 心理学・教育学委員会・情報学委員会合同 教育データ利活用分科会 教育の情報化により、デジタル教科書の閲覧履歴や試験の答案など様々な学習データが蓄積されているが、これを社会全体で共有・活用することはあまり検討されていない。これにより、児童・生徒・学生の多面的なデータの分析による研究が促進され、エビデンスに基づく教育が実現できる。本提言は、学習データの種類やその利活用の必要性について論じ、それを利活用するための制度設計や支援体制等のあり方について提言する。

キーワード:学習データ、教育のデジタル化、学習分析、教育データ科学、EBPM(根拠に基づく政策立案)

小学校から大学までの一貫した情報教育
情報教育課程の設計指針―初等教育から高等教育まで 情報学委員会 情報学教育分科会 小学校から大学までの一貫した情報教育の参照基準を定義した。情報教育で取り扱う内容を11カテゴリに分けた。各カテゴリは3~5の項目から成る。各項目には4レベルを設定し、各レベルを学ぶのに適した教育段階を指定した。プログラミングについては、小学校で基礎的な作成体験を持ち、中学校で論理的な考え方とコード構築、高校で問題解決やシステム等実用的なものを学ぶ。全ての内容はよりよい個人生活や社会の実現までを扱う。

キーワード:情報教育、参照基準、プログラミング教育、計算論的思考、プログラミング的思考

学問分野の専門性に基づく物理教育研究推進
物理学分野における学問分野に基づく教育研究(DBER)の推進 物理学委員会物理教育研究分科会 科学技術立国を目指すわが国では、時代の展開に対応し、リードする科学的思考力を持った人材の必要性が高まっている。そのためには大学基礎課程において論理性を付与する物理学の教育改革と強化が必要であり、物理学分野の専門性に基づく教育研究の推進が求められる。物理教育研究では、ジェンダー・ギャップの現状の分析とその克服に向けた調査・研究も重要なテーマの一つである。

キーワード:物理教育研究、物理学、学問分野に基づく教育研究(DBER)、男女差、エビデンス

すべての市民に無償の普通教育を
すべての人に無償の普通教育を 多様な市民の教育システムへの包摂に向けて 心理学・教育学委員会排除・包摂と教育分科会 本提言では、「すべての市民に無償の普通教育を提供すること」を教育システムの目標とすべきことをうたい、その包摂性を高める手立てについて手立てした。具体的には、「不登校の子ども」「外国籍の子ども」「障害のある子ども」「貧困家庭の子ども」「被差別部落の子ども」「周辺化される目立たない子ども」という6つのグループの教育経験を洗い出し、それをもとに国・自治体・各学校・教育養成にできることを提言した。

キーワード:排除、包摂、普通教育、教育を受ける権利

新しい地理教育で「持続可能な社会づくり」
「地理総合」で変わる新しい地理教育の充実に向けて―持続可能な社会づくりに貢献する地理的資質能力の育成― 地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会 2022年度から高等学校でスタートする必履修科目「地理総合」は、ESD(持続可能な開発のための教育)やSDGs、そして深刻化する地球環境変化や防災・減災の学びの基礎となります。「地理総合」による地理教育の改革が急務で、地理的な見方・考え方を問う大学入試、「地理総合」を支えるための大学地理教育の変革、小学校・中学校・高等学校間及び諸教科間の関連性を活かした地理教育改革、「地理総合」を支えるための社会的環境整備が必要です。

キーワード:地理教育、「地理総合」、「持続可能な社会づくり」、SDGs(持続可能な開発目標)、防災・減災教育、GIS(地理情報システム)

公平な英語入試と高大接続のあるべき姿
大学入試における英語試験のあり方についての提言 言語・文学委員会 文化の邂逅と言語分科会 バランスのとれた英語力を育成するという目標のために、「4技能」を技能ごとに切り分けて入試で計測する必要はありません。特に、「話す」「書く」力の計測を大規模試験で実施すれば、入試の公平性を犠牲にします。これらについては大学入学共通テストではなく、各大学がそれぞれのアドミッション・ポリシーに基づき、入学後のカリキュラムとの接続を考慮して、実施方法を決定する仕組みとすることを提言しました。

キーワード英語教育、大学入試改革、大学入学共通テスト、高大接続、4技能

大学で教育学を教え・学ぶための骨組み
大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 教育学分野 心理学・教育学委員会 教育学分野の参照基準検討分科会 教育学とは、ある社会・文化における人間の生成・発達と学習の過程、及びその環境に働きかける教育という営みを対象とする様々な学問領域の総称です。この提言は、日本の大学教育において、教育学分野の教育課程を編成する際の参照基準に関するものです。教育学の定義と特性、学生が身に付けることを目指すべき知識や能力、学修方法や評価方法、専門教育と教養教育との関わり、教育学と教員養成の関係について述べています。

キーワード:教育学、教育課程、参照基準、教員養成、教育研究

算数・数学教育における統計教育の実効性
新学習指導要領下での算数・数学教育の円滑な実施に向けた緊急提言:統計教育の実効性の向上に焦点を当てて 数理科学委員会 数学教育分科会 学習指導要領の改訂に向けて第23期の数学教育分科会では「初等中等教育における算数・数学教育の改善についての提言」を発出した。今回は、 新学習指導要領の下での算数・数学教育の円滑な実施に向けて、特に統計教育の実効性の向上に焦点を当てた提言を行っている。また、令和7年度からの大学入学共通テストでは「数学Ⅱ・数学B・数学C」という科目を設定すべきことも指摘もした。

キーワード:算数教育、数学教育、統計教育、数学的活動、大学入学

「考え、議論する道徳」を推進する
道徳科において「考え、議論する」教育を推進するために 哲学委員会哲学・倫理・宗教教育分科会 学習指導要領の一部改正により「特別の教科 道徳」が設置された。現代社会では多様な価値観が併存する「道理ある不一致」が生じていることを鑑み、道徳教育は、特定の価値観を注入することなく、「考え、議論する」ことを重視する「手続きの道徳性」を涵養しなければならない。哲学的思考を教員教育に導入し、批判的に教科書を再検討し、「修身」の影響を払拭して、多様性を重んじる民主社会を構築する教育を推進すべきである

キーワード:「考え、議論する道徳」、ジェンダー平等、権利、シティズンシップ、多様性

知識詰め込み型から思考力重視の歴史教育へ
歴史的思考力を育てる大学入試のあり方について 史学委員会 中高大歴史教育に関する分科会 新学習指導要領では、思考力重視の歴史教育への移行というねらいを込め、新科目「歴史総合」を必履修科目とし、「世界史探究」「日本史探究」を選択科目とした。本提言では、今回の高校歴史教育改革を成功させるために、大学入学者選抜(大学入試)の歴史系科目に関する改善を提言した。あわせて大学入学共通テストにおけるマークシート式試験を念頭に、知識・技能と思考力・判断力・表現力をバランスよく問う出題例を提示した。

キーワード:思考力、歴史的思考力、歴史教育、大学入試、歴史総合

生物学は知識ではなく思考で取り組む学問
高等学校の生物教育における重要用語の選定について(改訂) 基礎生物学委員会・統合生物学委員会合同生物科学分科会 高等学校の生物教育で使用される用語について、語数の多さと不統一が指摘されていた。このことは、学習上の障害となっているばかりでなく、生物学が暗記を求める学問であるという誤解を生んでおり、大学入試においても敬遠されるなど、深刻な影響を及ぼしてきた。そこで、生物科学分科会は、高等学校の生物教育で学習すべき用語として約500語の重要用語を選定した。今後の高等学校生物教育における用語使用の指針としたい。

キーワード:高校生物、用語、思考力、学習指導要領、入試改革

宇宙膨張は「ハッブル-ルメートルの法則」
ハッブルの法則の改名を推奨するIAU決議への対応 物理学委員会IAU分科会、物理学委員会天文学・宇宙物理学分科会 国際天文学連合で「宇宙膨張の法則は今後『ハッブル-ルメートルの法則』と呼ぶことを推奨」と決議された。一般社会にも広く浸透している『ハッブルの法則』の推奨名称が変わるため、社会、特に学校教育現場で混乱が起きないよう、対応の指針を示す。
・教科書の記述変更は直近の改訂時に対応
・各種試験で宇宙膨張の法則の名称そのものを問うような問題は出さない
・一般書等で用いる名称は担当者次第だが、新名称が望ましい

キーワード:宇宙膨張、ハッブル-ルメートルの法則、名称、学校教育、試験

大学における化学教育の参照基準
大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 化学分野 化学委員会 化学分野の参照基準検討分科会 化学分野の参照基準では、大学教育において化学を専門としない人を含むすべての学生が習得すべき6つの基本原則を示しています。そして、これらの基本原則を習得するために必要な化学の知識と理解を18の科目に整理しました。化学の学習は、講義や本からの学習、実験や演習を通じて知識と理解を身につける必要があります。本報告では、問題解決などの能動的な学習を通じて包括的な知識を獲得することの重要性を指摘しています。

キーワード:大学教育,分野別質保証,化学,参照基準,教育課程編成

自立した社会人を育むために
生きる力の更なる充実を目指した家庭科教育への提案―より効果的な家庭科教育の実現に向けて― 健康・生活科学委員会家政学分科会 本提言は児童・生徒にとってより効果的な家庭科教育の実現を目指し、家庭科教育の現状と問題点を挙げ、小・中・高等学校における家庭科について提案を行ったものです。

キーワード:教育、家庭科、小学校、中学校、高等学校

総合的な歴史教育をみんなに
「歴史総合」に期待されるもの 史学委員会 高校歴史教育に関する分科会 学術会議では我が国の中等教育のあり方に対し、23期だけでも10の提言を発出していますが、特に注目を集めたのは高校の歴史教育に関するこの提言です。史学委員会は、2011年から、「世界史か日本史か」の二者択一ではなく、グローバルな視野の中で世界と日本の過去・現在・未来を主体的・総合的に考える教育の必要性を訴えてきました。これを受けて文科省でも「歴史総合」という必修科目を新設する方向に動きましたが、その内容にはなお大きな課題があることを、6点にわたって指摘しました。

キーワード:中等教育、歴史教育、歴史総合、大学入試

みんなのための社会をつくる教育をみんなに
18歳を市民に―市民性の涵養をめざす高等学校公民科の改革― 心理学・教育学委員会 市民性の涵養という観点から高校の社会科教育の在り方を考える分科会 もう一つの高校必修新科目「公共」についても、教育学・政治学・歴史学・哲学・法学・人類学の委員からなる分科会が提言を出しました。これまでの「公民」教育を一歩進めた、学ぶ側の多様性により配慮し、かつ学ぶ側の主体性を重視した「市民性」を育てる教育です。18歳選挙権の施行を見すえ、民主的な社会をともに築くための教育においては何が重要かを論じた緊急提言です。

キーワード:中等教育、公共、公民教育、市民性、民主主義、18歳選挙権

みんなのための社会をつくる教育をみんなに
環境教育の統合的推進に向けて 環境学委員会 環境思想・環境教育分科会 環境教育といえば、資源の大切さや、産業による環境破壊の問題を学ぶ教育だけでいいのか?というのが、東日本大震災以来、学術会議で検討してきたことでした。つまり、防災・減災教育や災害教育とも環境教育は関係があるのではないか。学校のなかで学ぶだけでなく、地域社会全体で取り組むべきでないかといったことが見えてきたのです。そこで「統合的な環境教育」への提言がなされました。

キーワード:環境教育、学校教育、社会教育、防災、災害教育

教育環境を改善するために
我が国の大学等キャンパスデザインとその整備システムの改善にむけて 土木工学・建築学委員会 知的創造と活動を喚起する環境としての大学等キャンパスに関する検討分科会 全国の大学にアンケートをとったところ、自分の大学のキャンパスデザインは国際的競争力が低いと多くの大学が答えたとのことです。重要なのは教育・研究という中身だ、入れ物ではないのだ、という風潮がその一因でしょうが、しかし今の時代、見た目にも魅力的で機能においても優れたキャンパスの方が、国内外から優秀な学生を惹きつけられるはず、と考えた検討分科会が、キャンパスデザインの改善、キャンパス整備にあたっての組織・システムの構築について提言しました。

キーワード:大学キャンパス、デザイン

目標5:ジェンダー平等を実現しよう

学術フォーラム「性差研究に基づく科学技術・イノベーション」 科学者委員会男女共同参画分科会、性差に基づく科学技術イノベーションの検討小分科会 近年、性差を科学の重要な要因と捉え、研究と科学技術イノベーションの質の向上を目指す動きが欧米で始まり、世界中に展開されるようになってきた。国内においても、「第5次男女共同参画基本計画」及び「第6期科学技術・イノベーション基本計画」でその必要性が記されている。 特に、新型コロナウイルス感染症の拡大により性差をはじめとする人の特性に関する問題が大きな課題を生んでいる。新型コロナウイルス感染症の診断で使われるパルスオキシメーターは肌の色によってその感度が異なり、またオンラインの普及とともに一般的に使用されるようになった顔認証は、性別と人種によってその認識率が大きく異なる。これらの問題は、性差をはじめとするあらゆる人の特性を研究開発に取り込む必要性を提示している。このように、性差をめぐるさまざまな観点から研究と科学技術・イノベーションを見直し、あらゆる分野で性差研究の必要性を共有することが求められている。 第25期日本学術会議では、男女共同参画分科会と性差に基づく科学技術イノベーションの検討小分科会にて、本テーマに関する議論を蓄積してきたが、市民等多くの関係者を交えた議論と共有が必要である。 本フォーラムは、性差研究の提唱者であり人の特性差をあらゆる研究に組み込むことの必要性を訴えてきた Londa Shiebinber 教授の基調講演を行うとともに、人文・社会科学、生命科学、理学・工学における性差研究の話題提供を行い、新型コロナウイルス感染症の拡大により顕在化した問題について議論し、科学技術イノベーションの在り方をパネル討論で議論する。

「同意の有無」を中核とする刑法改正を!
「同意の有無」を中核に置く刑法改正に向けて―性暴力に対する国際人権基準の反映― 法学委員会ジェンダー法分科会、社会学委員会ジェンダー政策分科会、社会学委員会ジェンダー研究分科会 本提言は、2017年刑法改正法の残された課題を2020年に見直すべきことを提言する。見直しにあたっては、「同意の有無」を中核とする国際人権基準に従うことを旨とし、「暴行・脅迫」及び「抗拒不能」を犯罪成立の要件からはずすべきである。その他の項目についても、今後、順次法改正を行うことが望まれる。刑事司法におけるジェンダー主流化を実現するために、ジェンダー法学教育の徹底と性暴力事件の審理システムの改善が必須である。

キーワード:刑法改正、性暴力、同意の有無、国際人権基準

「尊厳」としてセクシュアリティを保障する
性的マイノリティの権利保障をめざして(Ⅱ)-トランスジェンダーの尊厳を保障するための法整備に向けて- 法学委員会 社会と教育におけるLGBTIの権利保障分科会 本提言では、①「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(2003年)の廃止とそれに代わる新法(「性別記載変更法(仮称)」)の制定、②多様な分野で生じている人権侵害を防止するための性的マイノリティに特化した人権保障法の制定を求める。②の制定を通して、最終的には、③あらゆる差別の解消をめざす包括的な差別解消法の成立を展望したい。

キーワード:トランスジェンダー、SOGI、LGBT、性的マイノリティ、差別禁止法

あなたの意識改革で理系女性はもっと輝く
理工学分野におけるジェンダーバランスの現状と課題 第三部 理工学ジェンダー・ダイバーシティ分科会 理工学分野は他分野と比して女性研究者比率が極めて低く、理工学の男女共同参画を加速するには、これまで以上の働きかけが必要である。全ての人々が無意識の偏見に気づき、意識改革をする必要がある。これが子供たちの自由な理系選択を男女ともに促進し、高等教育および社会の様々な場面に現れる女性割合の減少に歯止めをかけるための基盤となる。その上で、初等・中等・高等教育機関、家庭・社会における必要な方策を提示する。

キーワード:ジェンダー、理工学分野、男女共同参画、無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)、リ―キーパイプライン

「ジェンダー平等」をもっと包括的に
性的マイノリティの権利保障をめざして―婚姻・教育・労働を中心に― 法学委員会 社会と教育におけるLGBTIの権利保障分科会 実はSDGsは、ジェンダー平等の達成は掲げていますが、性的マイノリティ(LGBTI)には直接的な言及がありません。世界には同性愛に対して法的・社会的にネガティヴな国もあるため、合意を作れなかったのです。本提言は、日本では13人に1人が性的マイノリティとされるにもかかわらず、その多くが社会生活や学校生活で様々な困難を抱えている現状を踏まえ、差別解消のための法律の策定・改正などを訴えたものです。

キーワード:性的マイノリティ(LGBTI)、ジェンダー、法律、権利

「リケジョ」をブームで終わらせないために
科学者コミュニティにおける女性の参画を拡大する方策 科学者委員会 男女共同参画分科会 1999年に男女共同参画基本法が公布され、最近ではリケジョ(理系女子)ブームもありましたが、依然として、研究者に占める女性割合では、日本はOECDで最低レベルです。その原因は、男女共同参画推進のためのさまざまな取り組みがバラバラで、データの収集・検証も不十分というところにあると突き止めて提言を出しました。内閣府の第4次男女共同参画基本計画への反映をめざし、関連する取り組み全体を有機的に結びつけ、評価・是正する権限を有する専門機関の設置と、そのためのガイドラインの作成を求めました。

キーワード:男女共同参画、女性科学者・研究者

目標6:安全な水とトイレを世界中に

対策本部のアジアのハブとして
持続可能な地球社会の実現をめざして -Future Earth(フューチャー・アース)の推進- フューチャー・アースの推進に関する委員会 日本にいると気づきにくいですが、世界の環境問題としては命に直結する「水」が最重要課題と言われます。「フューチャー・アース(FE)」は、水問題を含む世界的な環境問題に対処するために新たに立ち上がった国際的プロジェクトです。新たに、というのも、これまでの取り組みでは足りなかったことは、世界の現状を見れば明らかですから。FEの5つの国際本部事務局のうちの1つは日本にあり、学術会議はその運営を担当しています。本提言では、日本におけるFE推進を、すべての科学コミュニティ及び社会の関係者(政策担当者、企業、地方自治体、メディア、教育関係者、市民団体など)に対して呼びかけています。

キーワード:フューチャー・アース、環境

放射能汚染を取り除くために
放射能汚染地における除染の推進について―現実を直視した科学的な除染を―

農学委員会 土壌科学分科会 福島第一原発事故以降、本委員会は、放射能汚染地における除染について調査研究を行い、除染を効果的に推進するための方法を検討してきました。本提言では、汚染土を遠隔地に搬出・隔離するという発想に縛られない複数の提案をし、水質汚染に関しては、ため池、湖沼や水田に注目しています。

キーワード:福島第一原発事故、放射能汚染、除染

目標7:エネルギーをみんなに、そしてクリーンに

原発事故の環境影響を解明して後世に伝える
東京電力福島第一原子力発電所事故による環境汚染の調査研究の進展と課題 総合工学委員会 原子力安全に関する分科会 東京電力福島第一原子力発電所の事故から9年が経過する中で、環境中への放射性物質の放出、環境中での動態や影響に関する調査研究が大きく進展しました。本報告は、多岐にわたる学術分野、学協会、数多くの機関で担われてきた環境汚染調査研究を概観するとともに、残された課題を整理し、長期にわたる試資料の保存や放射線教育の充実、包括的な環境汚染調査報告の必要性など、今後に向けた教訓と提案をまとめたものです。

キーワード:東電福島第一原発事故、環境動態、モニタリング、アーカイブ、放射線教育

原子力安全規制のあるべき姿
原子力安全規制の課題とあるべき姿 総合工学委員会原子力安全に関する分科会 原子力施設における継続的な安全性向上を進めるために、規制機関が、事業者及び多くのステークホルダとともに改革を進めるべき課題とその解決の方向性の基盤となるべき事項を8項目の提言としてまとめた。これは、経済発展と人間の福祉を支援するために、質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを開発するというSDGsに寄与できる。

キーワード:原子力施設の安全性向上、原子力安全規制、リスク情報、継続的な取り組み、安全目標、人材育成

パワーレーザーが開く科学技術の量子的飛躍
パワーレザー技術と高エネルギー密度科学の量子的飛躍と産業創成 総合工学委員会エネルギーと科学技術に関する分科会 エネルギーと環境問題等の多種多様な社会的・学術的問題の解決に向け、パワーレーザーが広く利用されている。最近、高出力パワーレーザーの技術革新により高エネルギー密度科学が急速に進み、新産業が創成されつつある。パワーレーザー技術と高エネルギー密度科学の量子的飛躍を実現し世界の学術の先端を切り開くとともに、関連科学技術を推進し新産業を創成する国際的人材を育成するため、我が国の研究開発環境の整備を提言する。

キーワード:パワーレーザー、高エネルギー密度科学、量子的飛躍、レーザー核融合、超高圧量子物質科学

気候変動緩和に向けてイノベーション促進を
長期の温室効果ガス大幅排出削減に向けたイノベーションの加速 総合工学委員会エネルギーと科学技術に関する分科会 気候変動リスク対応が必要だが、世界での排出削減は成功していない。低炭素、脱炭素を実現するエネルギーインフラ投資の予見性の向上、また、再生可能エネルギーを拡大させつつ、経済的負担を抑制しながら課題解決に取り組むこと、長期的には電力化率の向上が必要である。そして、情報技術などを含め基礎的な技術・研究の充実を図ることでイノベーションを幅広く誘発する政策を行うべきである。それが持続可能な発展にもつながる。

キーワード:気候変動緩和、エネルギーシステム、イノベーション、再生可能エネルギー、シェアリング経済

福島第一原子力発電所事故を教訓に
我が国の原子力発電所の津波対策―東京電力福島第一原子力発電所事故前の津波対応から得られた課題―
総合工学委員会 原子力安全に関する分科会 東北地方太平洋沖地震による想定を大きく超えた津波により、福島第一原子力発電所は、過酷事故を引き起こした。本事故以前の津波対応の経緯を分析・検討し自然現象に誘起される事故要因への対応に反映すべき点として、新知見への取り組みの強化、深層防護による安全性向上への取り組み、社会への行動規範に基づく説明責任と対話という3点が得られた。これは、経済発展と人間の福祉を支援するために、質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを開発するというSDGに寄与できる。

キーワード;想定を超える自然現象、津波対策、新知見、深層防護、社会への説明責任と対話

クリーンなエネルギーを安全に、みんなに
再生可能エネルギー利用の長期展望
東日本大震災復興支援委員会 エネルギー供給問題検討分科会 本報告は、福島第一原発事故以降、「我が国のエネルギー需給計画は根本的な変更を余儀なくされた」という認識のもと、二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーの導入拡大のために検討を重ねた結果をまとめています。太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、地熱発電、水力発電、海洋エネルギー発電のそれぞれについて分析がなされています。

キーワード;再生可能エネルギー、福島第一原発事故

「あちらを立てればこちらが」にならないエネルギー政策のために
パリ協定を踏まえたわが国のエネルギー・温暖化の対策・政策の方向性について
総合工学委員会 エネルギーと科学技術に関する分科会 パリ協定とは2016年に発効した、温室効果ガス排出削減の枠組みを定めた国際的取り決めです。世界では温室効果ガス排出の約67%がエネルギー起源の排出であり、我が国においてはそれは約84%に及ぶとのこと。省エネが大切だということは皆わかっているけれども、費用対効果にも留意しながら対策を立てるにはどうしたらよいか。S+3E(安全・安心+エネルギー安全保障・安定供給、経済性、環境性)のバランスに配慮したエネルギー・ミックスという観点から、課題を整理しました。

キーワード:温暖化、エネルギー・ミックス、温室効果ガス、パリ協定

目標8:働きがいも経済成長も

国際通用性のある質保証に向けて
わが国の経営学大学院における教育研究の国際通用性のある質保証に向けて 経営学委員会 経営学大学院における認証評価の国際通用性に関する分科会 わが国の経営学大学院における教育研究を国際的に通用する質の高いものにすることは、わが国の産業競争力を強化するに留まらず、国内外の人材に対する教育を通して世界の経済成長に貢献することになる。そのため、わが国の経営学大学院における教育研究の質を保証し、授与される学位の国際通用性を担保する上での課題を整理し、わが国が早急に取り組むべき施策を論じ、必要な提言を行った。

キーワード:ビジネススクール教育、第三者評価、質保証システム、学位、国際通用性

活力ある超高齢社会の構築に向けて
活力ある超高齢社会の構築に向けて-これからの日本の医学・医療、そして社会のあり方- 臨床医学委員会老化分科会 個々の健康の視点からだけではなく、その環境や地域社会の在り方という広い視野から高齢化する日本社会の将来ビジョンを提言する。まず従来の治す医療から「治し支える医療」へのパラダイム転換を図るべきである。さらに高齢者のフレイル対策には多面的な包括的アプローチが求められ、なかでも栄養管理を再考すべきである。さらに、高齢者の薬物療法においてポリファーマシー対策も重要である。また地域共生社会も含めたまちづくりや産学官民連携の視点も必要である。

キーワード:治し支える医療、フレイル対策、ポリファーマシー対策、地域共生社会、産学官民連携

衣料管理士の活躍で衣生活の質の向上を
被服学分野の資格教育の現状と展望 健康・生活科学委員会家政学分科会 衣料管理士は大学の被服学教育で養成される唯一の資格であり、生活者の視点から衣生活の質の向上に貢献する有用な資格である。生活者には商品の品質や取り扱い表示の情報を提示して衣生活の安全性や快適性を支援し、企業には商品試験結果の情報を提供して、生活者が必要としかつ環境負荷の低い製品開発のために重要な任務を担っている。養成大学と卒業生を対象にアンケートを行い、1級衣料管理士資格の現状と将来展望を提言した。

キーワード:被服学教育、衣料管理士、環境負荷の少ない衣生活、衣生活の質、大学院教育

SDGs推進に資する地域研究推進体制の構築
不透明化する世界と地域研究の推進-ネットワーク化による体制の強化に向けて- 地域研究委員会地域研究基盤強化分科会 本提言はネットワーク化による地域研究教育推進体制を構築し、日本のSDGs政策に寄与することを提案する。世界情勢の複雑化の中で、日本における地域研究はその重要性を増しているが、研究教育体制の弱体化や人材育成の困難などの課題も抱えている。事務局を擁する研究組織間の連携ネットワークを通じて、地域研究人材養成、社会貢献と情報発信、研究資源の共同利用、持続的な地域研究推進体制を強化し、日本の取組の土台を提供する。

キーワード:地域研究人材養成、ネットワーク化、研究資源の共有化、国際貢献、グローバルとローカル

化学の変革とSDGsへの貢献
化学・情報科学の融合による新化学創成に向けて 化学委員会化学企画分科会 AIが導入される化学における環境変化に対応できる人材の教育、そしてその平等性が重要である。生産現場へのAI導入は、生産性・安全性の向上はもちろん、働き手のダイバーシティの推進を生み、それが働き方の改革をも生み出す。このような技術革新により、水・エネルギー・気候問題の解決と経済成長との両立を達成できる。また、多くのステークホルダーが情報共有する社会では、生産者も市民も、自らの責任を認識するようになる。

キーワード:新学術、技術革新、教育、ジェンダー平等、働きがい、経済成長

多様な研究人材支援から新産業を創出しよう
日本の停滞を打破し新産業創出を促す社会基盤と研究強化~応用物理からの提言~ 総合工学委員会未来社会と応用物理分科会 応用物理は、産業と学術、理学と工学など、様々な面で結節点に位置し、基礎物理を新産業に繋げる役割を担います。しかし近年、日本では科学技術や産業の停滞あるいは低下傾向が強く懸念されています。本提言では、本来生まれるべき成果を創出するため評価にかかる時間的コストの低減、新産業創出に向けた多様な研究人材支援、産学連携における人材交流の促進、地域との連携によるイノベーションエコシステムの重要性を提言します。

キーワード:応用物理、評価の時間的コスト、新産業創出、多様な研究人材支援、イノベーションエコシステム

日本どこでもやりがいのある仕事に出会えるために
人口減少時代を迎えた日本における持続可能で体系的な地方創生のために 地域研究委員会 人文・経済地理学分科会、地域情報分科会 東京圏に若者が集中するのは、地方に魅力ある仕事が少ないからだと言われています。内閣官房のまち・ひと・しごと創生本部は、そのために多様な施策を立案・実施しています。しかしどうもそれがうまくいっていないのではないかと見て、地方創生関係交付金の検証作業や、政策立案のための情報化の活用、柔軟な広域連携の実現などを盛り込んだ提案をしました。

キーワード:地方創生、まち・ひと・しごと創生本部、地域経済、若者

ワーク・ライフ・バランスあってこその働きがいを
労働時間の規制の在り方に関する報告
経済学委員会 ワーク・ライフ・バランス研究分科会 その一方、若者の過労自殺も大きな社会問題になっています。なぜ皆働きすぎるのか?「残業が昇進に結びつく企業風土があるから」説にはデータの裏付けは全くないのだそうです。政府も2017年に「働き方改革実行計画」 を導入し、時間外労働については上限規制(違反した企業にする罰則を設けたのは政府として初めてのこと)を設け、さらに勤務間インターバル制度(勤務時間の間に一定の休息時間を設けること)の努力義務化を始めましたが、現状の実態を調べたところ、なお不十分な対策とのことです。

キーワード:労働時間、過労死、働き方改革、ワーク・ライフ・バランス

目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう

誰もが受信発信ができる学術情報環境再構築
学術情報流通の大変革時代に向けた学術情報環境の再構築と国際競争力強化 第三部 理工系学協会の活動と学術情報に関する分科会 今後10年に起こる学術論文出版や電子ジャーナル購読などに関わる学術情報流通の大変革時代に向けて、我が国の学術情報環境を再構築して国際競争力の向上を目指すために必要な新しいシステムと組織を提案する。電子ジャーナルの一括購読、トップジャーナル刊行や学協会発行の学術誌の国際競争力向上、オープンデータリポジトリ創設などのために、広く分散している経費を集約して3新法人組織、1新センターによる運営を提案する。

キーワード:電子ジャーナル購読、トップジャーナル刊行、日本語論文インデックス、同時多言語出版、データリポジトリ

オープンサイエンスの深化と推進
オープンサイエンスの深化と推進に向けて 課題別委員会 オープンサイエンスの深化と推進に関する検討委員会 本提言は、データ科学に象徴されるこれからの科学の作法をも変えうるオープンサイエンスを、データを中心とした総合的な視点でとらえ、研究データ共有の促進と共有のためのプラットフォームの重要性を明らかにすることを目的としている。データが極めて重要な資産と見なされる時代において、データの特性に応じた協調と競争のバランス、および、データ科学を牽引し、科学を変容するデータ共有の精神の維持の重要性を論じている。
多様なSDGsへの施策・対応の基盤
第24期学術の大型研究計画に関するマスタープラン(マスタープラン2020) 科学者委員会 研究計画・研究資金検討分科会 人文・社会科学から生命科学、理学・工学分野、これらの分野をまたぐ融合領域に及ぶ全学術分野において、今後進めるべき大型研究計画とその中から速やかに進めるべき重点大型研究計画を選定し、マスタープラン2020として学術界のみならず国や地方自治体、産業界等、社会に広く公表するものである。これらは直接間接に多様なSDGsへの施策・対応の基盤となるものであり、その達成に大きく貢献することが期待される

キーワード:マスタープラン2020、大型研究計画、重点大型研究計画、人文・社会科学から、生命科学、理学・工学まで全学術分野

生命科学でも持続性の考慮が必要
持続可能な生命科学のデータ基盤の整備に向けて    基礎生物学委員会・統合生物学委員会・農学委員会・基礎医学委員会・薬学委員会・情報学委員会合同 バイオインフォマティクス分科会 ゲノム編集や遺伝子医療など、生命科学は社会に大きな影響を及ぼしうる段階に発展した。生命科学を今後も維持・発展させるには多くの施策が必要となる。本提言では生命科学の現状を紹介しつつ、①データベースの構築やビッグデータ解析技術の開発、②解析を支えるスーパーコンピュータ及びネットワークの整備、③新たな生命科学やバイオ産業の担い手となる人材の育成、の必要性を解説する。

キーワード:データ共有政策、データベース、スーパーコンピュータ、バイオインフォマティクス、ゲノム

まちづくりの基盤としての地名政策に向けて
地名標準化の現状と課題 地球惑星科学委員会IGU分科会
地域研究委員会地域情報分科会
日本では、市町村合併、住居表示、駅名その他の施設の名称決定において、地域の文化や歴史が反映されていない地名やネーミングライツが採用される例が問題となっています。地名は地方自治体の独占的所有物ではないことから、その土地に住み、訪れ、思いを馳せるまちとなるためには、住民とともに広く地域文化を共有する人々の意向を踏まえた地名管理により、地域のアイデンティティを高める必要があります。そのために、地名を調査、評価、助言、調整する地名委員会が重要であることを本報告で提示しました。

キーワード:地名委員会、助言、市町村合併、ネーミングライツ

学術を発展させるために法人制度を見直そう
学協会に係る法人制度―運用の見直し、改善等について 科学者委員会学協会連携分科会 学協会の弱体化の背景に法人制度の過剰な規制と煩雑な手続きがある。公益法人改革から十年目にあたり学術分野の法人制度の3つの見直しを提言する。1)公益法人の「収支相償基準の弾力的な運用」「遊休財産の保有制限の緩和」「公益目的事業比率の見直し」。2)学協会連携組織体に関して「会計ガイドラインの新設」「国際会議のための連携準備金制度の新設」。3)公益認定等委員会と学協会連携分科会との定期的な意見交換。

キーワード:収支相償基準、遊休財産の保有制限、公益目的事業比率、学協会連携組織体、国際会議準備金

新たな時代を切り拓くために
産学共創の視点から見た大学のあり方-2025年までに達成する知識集約型社会- 科学と社会委員会 政府・産業界連携分科会 現在、様々な政府委員会で産学連携に焦点を当てながら、大学改革の具体的計画が審議されています。産業界の国際競争力を高めるために、イノベーションを引き起こす人材の育成を大学に求める声が高まっています。その期待に応えるために、「資源やモノではなく知識を共有し集約することで、様々な社会課題を解決し、新たな価値が生み出される社会」を目指して、大学のあり方を見直し、改革の方向性を提示しました。

キーワード:大学、産学連携、イノベーション、知識集約、ビッグデータ活用、人材育成、国際人材

大型共同利用研究施設のあり方を考える
研究と産業に不可欠な中性子の供給と研究用原子炉の在り方 総合工学委員会 原子力安全に関する分科会 研究炉の重要性は将来にわたって高いにもかかわらず、共同利用者の多い日本の研究炉は高経年化が進んでおり、新設計画もないのが現状です。研究炉の廃炉決定が進む中、研究炉のあり方について早急に検討しなければならない状況にあります。本提言では、(1)量子ビームである放射光及び中性子を提供する施設の充実、(2)照射炉の早急な建設、(3)冷中性子源増強、(4)費用の適切な負担の在り方検討、の必要性を示しました。

キーワード:試験研究用原子炉、中性子、大型研究施設・設備整備、高経年化

つくる人の知的創造性が適切に評価されるように
公共調達における知的生産者の選定に関わる法整備 ―創造的で美しい環境形成のために会計法・地方自治法の改正を― 法学委員会・経済学委員会・土木工学・建築学委員会合同 知的生産者の公共調達検討分科会 新国立競技場のデザインが話題になったことは記憶に新しいですが、日本では多くの場合、公共施設のデザイン・設計は、あのようなコンペ方式ではなく価格競争入札により決まります。つまり安く上がる方が採用されてきました。しかしそれでは作る側は意欲を失い、品質も低下します。そこで、法学者・経済学者・土木工学者・建築学者が協力して、そのような仕事をする人を「知的生産者」と呼び、価格競争入札を止めるための法改正を提案しています。

キーワード:公共的知的生産、企画、コンサルテーション、設計、デザイン

「ものづくり大国」再生のために
材料工学からみたものづくり人材育成の課題と展望 材料工学委員会 材料工学将来展開分科会 「ものづくり大国」日本と言われますが、そこには落とし穴がありました。日本人は優れた素材を作るのは得意なのですが、それを製品開発に結び付けるのは下手なのです。たとえば日本人が作ったファインセラミックスを、航空機機材に使って儲けるのはアメリカです。そこで、材料工学の専門家たちは、社会のニーズを敏感に察知して、製品の設計構想を立案できるような、新しいものづくり人材を育成するための提案を行いました。なかでも女性研究者・技術者に高い期待が寄せられています。

キーワード:ものづくり、教育、女性

目標10:人や国の不平等をなくそう

学術フォーラム「コロナ禍を共に生きる#8 コロナパンデミックが顕在化させた「働くこと」の諸課題は人口問題にどう影響するか?」 人口縮小社会における問題解決のための検討委員会 2019年末に始まったコロナ・パンデミックは、すでに2年以上をへて、いまだ収束しない。コロナ・パンデミックによる人口動態への直接的な影響は今後の分析を待たざるを得ないが、社会内の様々な格差が顕在化することによる間接的な影響が危惧される。中でも大きなものが、そもそも不安定な立場におかれた人びとの労働状況が、コロナ・パンデミックによって、エッセンシャルワーカーへの過大な労働需要と、サービス関連産業における雇用削減の両面から、いっそう悪化するのではないかという危惧である。本フォーラムでは、「働くこと」の問題を中心に、コロナ・パンデミック以降の社会における人口縮小社会の課題解決に向けて、緊迫する国際情勢や移民問題も視野に入れつつ、多面的な検討を行う。

学術が日本の最大課題「認知症」を考える
認知症に対する学術の役割----「共生」と「予防」に向けて---- 認知障害に関する包括的検討委員会 認知症患者や軽度認知障害(MCI)の増加は、少子高齢化の人口転換の最大の問題であり、社会全体に大きな影響を与える。今回、日本学術会議では、学術として認知症に対して、どのように向かい合い、その役割を果たすべきか、以下の5つの提言を行う。①認知症と共生する社会の構築、②認知症を支える新しい学術領域の確立、③認知症を支える産業育成・展開、④基本的学術基盤の確立、⑤持続可能な医療供給体制の在り方である。

キーワード:Dementia、 Symbiosis、 Prevention、 Mild Cognitive Impairment

子ども・妊婦への受動喫煙対策と禁煙支援をさらに充実させるべきである
子ども・妊婦への受動喫煙対策をさらに充実させるべきである 健康・生活科学委員会・歯学委員会合同脱タバコ社会の実現分科会 子どもたちを受動喫煙から守るため、また、妊婦の喫煙・受動喫煙による胎児の健康被害を防ぐため、受動喫煙の法的規制も考慮すべきである。また、学校等における喫煙防止教育をさらに充実させ、初等教育の時期から喫煙防止教育を行うべきである。教育現場や保護者の間に「喫煙している子どもに対しては、叱責ではなく、治療を優先すべきである」との認識を広めるため、学術界が教育関係者への啓発活動を行うべきである。

キーワード:子ども、妊婦、胎児、受動喫煙防止、喫煙防止

地域的不平等の是正
国土構造の将来像を踏まえた第2期地方創生施策の実施に向けて 地域研究委員会人文・経済地理学分科会 日本では、2014年に地方創生本部が設置され、以来、地方創生交付金により、選択的に事業支援がなされてきた。しかし、第1期の検証結果は、地域的不平等の是正が不十分であったことを示している。第2期の政策展開にあたり、本提言では、東京一極集中の是正に向けて、体系的に政策を再構築することを勧めるとともに、国土ビジョンにもとづき、リニア中央新幹線による地域変化に対応することの重要性を示唆するものである。

キーワード:地域活性化、地域不平等、地域政策、東京一極集中、国土構造

ゲノム医療では横断的診療体制の構築が必須
ゲノム医療推進に向けた体制整備と人材育成 臨床医学委員会臨床ゲノム医学分科会 個人のゲノム情報に基づき、体質や病状に適した、より効果的・効率的な疾患の診断、治療、予防が可能となる「ゲノム医療」の推進の取組みが行われている。ゲノム医療の研究基盤の整備とともに、臓器別ではなく、診療科横断的で、十分な遺伝カウンセリングを実施できる診療体制を構築することが求められる。すでに実施されている学会等の活動と連係するとともに、遺伝カウンセラーを国家資格化することが必要である。

キーワード:ゲノム医療、遺伝カウンセラー、横断的診療体制、遺伝医学関連学会、全国遺伝子医療部門連絡会議

外国人生徒の高校進学と進路拡大への提言
「外国人の子どもの教育を受ける権利と修学の保障――公立高校の「入口」から「出口」まで」 地域研究委員会多文化共生分科会 2019年4月の改正出入国管理法の施行に伴い、今後の外国人居住者の定住が予測される。日本において一般の高校進学率が極めて高いにもかかわらず、外国人生徒の高校進学率は低い数字のままである。本提言は、公立の高等学校に特化した上で、高校の「入口」から「出口」までの外国人生徒に関わる背景的事象と現在の課題を検証し、高校進学、就学、卒業後の進路保障に関する改善案を提言するものである。

キーワード:外国人、高校進学、教育、不平等、日本語教育

生殖医療における親の自己決定権と子の福祉
人の生殖にゲノム編集技術を用いることの倫理的正当性について 哲学委員会 いのちと心を考える分科会 生殖医療の倫理的問題が指摘されながらも法規制のないまま、ゲノム編集技術に対する過度な期待が増長している日本では、この技術を用いた人の生殖が拙速に実施され、倫理的・社会的問題が生じる懸念がある。本分科会は、この技術を用いる生殖に関する倫理的問題を明確にし、(1)ゲノム編集技術を使う生殖の法的禁止、(2)臨床応用を目指す基礎研究についても禁止、(3)より包括的な生殖医療法に向けた議論の開始、3点を提言する。

キーワード:社会福祉、家庭、職場、地域

社会的つながりが弱い人の問題をみんなで解決するために
社会的つながりが弱い人への支援のあり方について 社会学委員会 社会福祉学分科会 社会的つながりが弱い人が抱える問題は、個々が選択した生き方の結果ではなく、家族・職場・地域と言う社会構造の変化によってもたらされており、今後ますます深刻化することが予想される。本提言は、社会的つながりが弱い人が抱える問題を、社会が解決すべき問題としてとらえ、社会福祉学の視点から提言しました。

キーワード:社会福祉、家庭、職場、地域

経済的不平等をなくすために
いまこそ「包摂する社会」の基盤づくりを
社会学委員会・経済学委員会合同 包摂的社会政策に関する多角的検討分科会 格差・貧困問題といえば、欧州連合の先進国でも主要な対象は失業ですが、我が国ではそれ以上にワーキング・プアや長時間労働が大きな問題です。日本の労働政策に必要なのは「社会的包摂」の発想、すなわち、ただ現金を給付することによって貧困を解消するのではなく、すべての人が潜在的に有する能力をフルに発現できる社会を作ることが必要だと、政府に訴えました。

キーワード:貧困、格差、社会的包摂、労働法

原発避難者に対する支援のために
東日本大震災に伴う原発避難者の住民としての地位に関する提言 東日本大震災復興支援委員会 原子力発電所事故に伴う健康影響評価と国民の健康管理並びに医療のあり方検討分科会 日本学術会議はこれまでの提言において、福島第一原発事故の結果、避難することを余儀なくされた被災住民について、避難元への帰還か移住かの二者択一を迫るのではなく、避難した被災住民が避難元自治体と避難先自治体の両方との結びつきを維持することを可能にする制度を設けることを提案してきました。本提言は、この提案をさらに進めるべく、住民登録の問題に焦点を当て、具体的な制度について論じています。

キーワード:福島第一原発事故、避難住民、住民登録、健康管理

目標11:住み続けられるまちづくりを

学術フォーラム「国難級災害を乗り越えるためのレジリエンス確保のあり方」 土木工学・建築学委員会IRDR分科会  21世紀前半に発生が確実視される超巨大災害を乗り越えるために、関連するさまざまな学術分野の知見を統合し、残された時間の中で何をすべきか、発災後に何をすべきかについて、今期中の提言の検討に向けて、学術の見地から国難級災害を乗り越える俯瞰的な戦略と実行可能な具体的方策を考える。

再帰的ガバナンスによる復興過程の検証
社会的モニタリングとアーカイブ―復興過程の検証と再帰的ガバナンス― 社会学委員会東日本大震災後の社会的モニタリングと復興の課題検討分科会 本提言は、東日本大震災から9年目となる2020年に至っても未だに故郷に戻れない多くの人がいること、その人々に十分な補償や帰還のための政策がとられているのか、について「再帰的ガバナンス」「社会的モニタリング」「アーカイブ」という側面から議論しました。災禍に見舞われても十分な保健と福祉が保証され、住み続けられること、多くの人とパートナーシップを築きながら将来を見すえたまちづくりができることを願って執筆しました。

キーワード:再帰的ガバナンス、社会的モニタリング、アーカイブ、東日本大震災、福島原発事故

ケアサイエンスへの参加からケア共同社会へ
ケアサイエンスの基盤形成と未来社会の創造 臨床医学委員会・健康・生活科学委員会合同少子高齢社会におけるケアサイエンス分科会 現代社会は、高齢化・人口減少、大規模自然災害の増加等により、単一の学術領域では対応できないケアに関わる課題に直面している。これに応ずるため、本提言では、新たな知の体系である「ケアサイエンス」の創設を提唱する。ケアサイエンスは、相互補完的関係を核とし、多様な学問領域、市民、行政等の協働によってケア共同社会を構築する。ケアサイエンスの社会実装を実現するため、人材育成と基盤形成、社会実践の方略を提案する。

キーワード:地ケアサイエンス、少子高齢社会、相互補完的関係、ケア共同社会

社会と看護学の協働で「地元創成」の実現へ
「地元創成」の実現に向けた看護学と社会との協働の推進 生活・健康科学委員会看護学分科会 現代社会は人口減少・偏在と少子高齢が進展し、保健医療福祉の課題は、全国一律の方策では解決困難である。地域包括ケアシステムの中、各地元に特異な課題について、地元の人々が主体的・自律的に固有の方策を創成することが期待される。本提言では、全国の地元と看護系大学が連携し、「地元創成看護(学)」の創設を提唱する。住民の参加・協力や政策の制度設計やモデル構築を進めながら、看護界が取り組むべき方策を提案する。

キーワード:地元創成、少子・高齢社会、看護学、住民参加、産官学連携

発達障害への成育医療と多職種連携支援の強化
発達障害への多領域・多職種連携による支援と成育医療の推進 臨床医学委員会出生・発達分科会 今日、発達障害への対応は社会が解決しなくてはならない世界共通の重要課題である。その頻度の多さ、個人、家族、そして社会への影響の広範性から、医療・保健・教育・福祉の多領域連携支援による包括的ケアが必要不可欠である。本提言は、行政の関係各所に、支援の社会実装をすすめるために、平成30年12月に制定された成育基本法の下に、多職種連携を強化し実効性のある対応を求めるものである。

キーワード:発達障害、成育医療、多職種連携支援

グリーンインフラを活用した“いのちまち”
気候変動に伴い激甚化する災害に対しグリーンインフラを活用した国土形成により“いのちまち”を創る 環境学委員会都市と自然と環境分科会 本提言は、気候変動に伴い激甚化する災害に対して、グリーンインフラを活用した国土形成により、暮らしの場の安全・安心、人命の尊重を基盤とする“いのちまち”を創り出すことを目標とする。なかでも、気候変動に対して極めて脆弱な構造を有する首都圏に対する「戦略的グリーンインフラ計画論」、及び、人口減少に直面している地方における沿岸低平地の「多重防御」とグリーンインフラについ、具体的方法論の提示を行った。

キーワード:グリーンインフラ、いのちまち、首都圏、気候変動、多重防御

安全な移動とまちづくりに貢献する自動運転
自動運転の社会的課題について-新たなモビリティによる社会のデザイン- 自動車の自動運転の推進と社会的課題に関する委員会 社会が大きく変わろうとしている今、移動の自由が確保された安全に住み続けられる社会を築くためには、自動車の自動運転が大きく貢献すると期待されています。しかし、自動運転が正しく理解されていないと不信につながりかねません。そこで、技術開発とともに人文社会学的な価値観にも配慮し、幅広い観点から自動運転という新モビリティが将来社会において果たす役割や人間中心のデザイン等について審議した成果を提言しています。

キーワード:自動車、自動運転、交通事故、総合モビリティサービス、医療看護、人文社会

自然災害への地域防災力を高めよう
災害が激化する時代に地域社会の脆弱化をどう防ぐか 地球惑星科学委員会地球・人間圏分科会及び土木工学・建築学委員会IRDR分科会 本提言は、1.激甚災害・複合災害を前提とした「想定外」を回避できる対策の実現、2.災害・防災情報に対する市民の防災リテラシー向上、3.少子高齢化を踏まえたレジリエントな減災社会の形成、4.地域ぐるみの安全目標設定と事業継続方策、5.防災教育の充実を柱として、災害に強い地域づくり、持続可能な社会の構築を目指すものである。SDGsの中では特に、SDG 11に関連する。

キーワード:自然災害、レジリエンス、地域社会、防災教育、事業継続

夏を前に、地域で進めるダニ媒介感染症予防
日本紅斑熱・SFTSなどのダニ媒介感染症対策に関する緊急提言 基礎医学委員会・健康・生活科学委員会合同パブリックヘルス科学分科会 SFTSをはじめとするマダニ媒介感染症は重要な公衆衛生上の問題である。2020年にオリンピック・パラリンピック東京大会が開催されることを一つの契機に、わが国でも、国民や来日外国人への公衆衛生対策の一環として、SFTSと日本紅斑熱に関する緊急の対策が必要と位置づけ、ダニ類の生息状況等を調査・確認することを主な目的とする強化サーベイランスの実施ならびにその後の対策について緊急提言を行った。

キーワード:マダニ、日本紅斑熱、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)、感染症予防、公衆衛生

衛生害虫から人の生活を守る教育研究の和を
衛生害虫による被害の抑制をめざす衛生動物学の教育研究の強化 農学委員会応用昆虫学分科会、食料科学委員会獣医学分科会、基礎医学委員会病原体学分科会 社会のグローバル化・ボーダーレス化、及び地球規模の温暖化が進行する中で、輸入感染症のリスクは格段に高まっています。蚊やダニ等による重篤な感染症の媒介やスズメバチ等による刺傷などへの対策は火急の課題です。その背景の中で、日本において衛生動物学の専門家が極端に減少している現状と問題点を指摘し、研究拠点の活性化、大学及び大学院における衛生動物学の教育と人材育成、国際貢献等の必要性について提言しました。

キーワード:衛生害虫、節足動物媒介感染症、グローバル化時代、地球温暖化、衛生動物学教育

地震が起きても住み続けられる都市に
大震災の起きない都市を目指して 土木工学・建築学委員会 大地震に対する大都市の防災・減災分科会 わが国は首都をはじめとする大きな都市に極端に人、財産、および機能が集中し、近い将来の大地震発生が予測されている中で、震災の危険性はますます高まっています。巨大にふくれあがった都市で大災害が発生すると、周辺の都市からの支援能力だけでなくわが国の対応能力を超えてしまう可能性があり、事前の対策が必須です。すべての対策について行動を起こすのは容易ではありませんが、震災を受けてからの対応だけでなく、将来の都市構成を見通した中で災害を極力減じるための抜本的で具体的な活動を、個人・家族・企業・自治体・国は、それぞれ推進し、さらに協力して推進すべきと考え、ここに11の提言をまとめました。

キーワード:地震、震災、都市

災害軽減のための科学の成果を社会に届けるために
災害軽減と持続可能な社会の形成に向けた科学と社会の協働・協創の推進 地球惑星科学委員会 地球・人間圏分科会 このように、日本では多くの科学者が災害の軽減と持続可能な社会の形成に向けた研究を行っています。しかし問題は、その研究が常に社会に届き、実を結ぶわけではないというところです。そこに目をつけ、科学者と社会の人々の協働・協創の場、またその基盤としての教育を充実させ、さらに災害軽減に役立つ地域情報を整備、公開することを提案しました。

キーワード:災害、ユネスコスクール、ジオパーク、地質地盤、歴史記録、科学インタープリタ、地理教育

さらに世界に届けるために
防災・減災に関する国際研究の推進と災害リスクの軽減―仙台防災枠組・東京宣言の具体化に向けた提言― 国際委員会 防災・減災に関する国際研究のための東京会議分科会 土木工学・建築学委員会 IRDR分科会 さらに、日本だけでなく国際協力を通じて世界各国の防災・減災を実現していきたい。この目標のもと、日本学術会議では、2015年1月に「防災・減災に関する国際研究のための東京会議」を開催しました。ここでの議論の結果を「東京宣言」、「東京行動指針」にまとめて国際社会に示すことにより、同年3月の国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組」における科学・技術の重要性の認識を促しました。本提言は、これらの議論をまとめ、科学・技術の観点から、世界各国が協調して実施すべき事項とその実施主体および具体的活動、さらに日本がとるべき行動を総合的に提示したものです。

キーワード:防災、減災、国際協力、仙台防災枠組

目標12:つくる責任つかう責任

学術フォーラム「安心感への多面的アプローチ」 総合工学委員会・機械工学委員会合同工学システムに関する安全・安心・リスク検討分科会 COVID19の大流行、異常気象、他国からの侵攻、核爆弾利用の脅し、福島事故後の風評被害など、昨今、従来にも増して不安感の強い社会状況が続いている。一方、道路交通における自動運転など新しい技術や地球温暖化を抑制する施策の社会実装においては、その技術や施策が社会に受け入れられる形になっている必要がある。ここで、江戸時代の「知らしむべからず」施策による無知に根ざした安心感ではなく、寺田寅彦の「正当に怖がる」ことが重要である。本フォーラムでは、「科学技術基本計画」(第6期から「科学技術・イノベーション基本計画」)にも継続してうたわれている人々が安心を感じる社会を実現するために必要な科学技術について、多様な専門分野の研究者から事例や考え方をご紹介頂き、安心感の構成要素を明らかにすることで、人々が安心を感じる社会の在り方を議論する。

科学技術社会における新たな社会安全の体系
工学システムの社会安全目標の新体系 総合工学委員会・機械工学委員会合同工学システムに関する安全・安心・リスク検討分科会 安全な社会を構築するためには、規制による安全に加えて、社会として共有できる具体的な目標を設定し、安全対応の進捗状況を確認して目標の達成を検証していく必要がある。
本提言は、工学システムにおける安全目標を設定し社会の安全を確保するという新たな仕組みを提示し、その実現を目指すものである。本提言では、安全の概念を整理し、社会としての目標の立て方とその評価の方法の検討を行った。

キーワード:安全、安全基準、工学システム、リスク、社会的意思決定

「工学システムの安心感」と社会の関係は?
工学システムに対する安心感と社会 総合工学委員会・機械工学委員会合同 工学システムに関する安全・安心・リスク検討分科会 「安心」は「安全」と並び称されることが多いが、「安全」の重要性に関してこれまで多くの議論がなされてきたのに対し、「安心」に関する議論はそれに比較して少ない。しかし、工学システムは、安全であっても安心でなければ、あるいは安心感を得られなければ、社会に受け入れられないのが現状である。そこで、「安心とは何か」あるいは「安心感とは何か」ということは、大きな社会的課題であり、本報告はその議論の結果である。

キーワード:工学システム、安心感、社会、安全、安心

ロボット/AIの明確な理解からの未来創造
より良い近未来創造のためのロボットAIの理解と人材育成 機械工学委員会ロボット学分科会 今後、ロボット/AIによって社会が大きく変化すると予想される。豊かな未来創造のためには、ロボットとAIの技術を正しく理解し、適切に利用することが重要となる。本提言では、まずロボットとAIの違い、現状、課題などを述べる。次に、ロボット/AIを活用した未来社会創造のためのユーザの理解促進の方法およびロボット/AIの研究開発者育成の方法を提言する。

キーワード:ロボット、AI、明確な理解、使い方

サステナブルなサービス化社会の実現
サステナブルで個人が主体的に活躍できる社会を構築するサービス学 経営学委員会・総合工学委員会合同サービス学分科会 サービス化社会では、市民はサービスの受容者であるだけでなく、シェアリングサービスなど多様なサービスの提供者にもなります。私たちはサービスの価値を、コミュニティ、社会、地球環境への影響などの観点から評価することが求められます。本提言では、サステナブルなサービス化社会に必要なサービス学の鍵概念と教育方法を示すと共に、本社会における市民、産業界、国・政府の役割と必要な体制について述べています。

キーワード:サービス化社会、サービス学、価値共創、教育方法、人材育成

海洋マイクロプラスチック汚染防止に行動を
マイクロプラスチックによる水環境汚染の生態・健康影響研究の必要性とプラスチックのガバナンス 健康・生活科学委員会・環境学委員会合同環境リスク分科会 海洋のプラスチック汚染は有害化学物質の運び屋となるマイクロプラスチックの起源となり、持続可能な社会とは相容れない。「我々の世界を変革する:持続可能な開発のためのアジェンダ2030(SDGs)」の目標11「住み続けられるまちを」、12「つくる責任つかう責任」、13「気候変動に具体的な対策を」、14「海のゆたかさを守ろう」および15「陸のゆたかさも守ろう」を達成するためには、官・民・学・企業が協働して喫緊に取り組む必要がある。

キーワード:海洋プラスチック汚染、マイクロプラスチック、生態系、有害化学物質、ガバナンス

免震・制振の信頼回復で、安全で住み続けられるまちづくり
免震・制振のデータ改ざん問題と信頼回復への対策 土木工学・建築学委員会 大きな社会問題となった免震・制振構造に用いられる製品の試験データ改ざん問題は、製品の性能確認を、縮小モデル等を使った製造会社の自社出荷検査に任せてきたことに根本的な要因がある。免震・制振構造の信頼回復と今後の健全な発展のためには3つの抜本的な対策「第三者の試験施設を用いた抜き取り検査の実現」「大型製品の実大試験施設の導入」「共用の大型試験設備を持つ検査機関の設置」が必要である。 免震・制振の信頼回復が安心・安全なまちづくりにつながる。

キーワード:免震・制振、データ改ざん、抜き取り検査、実大試験施設、信頼回復

過度の期待と誤解のない未来のために
自動運転のあるべき将来に向けて-学術界から見た現状理解- 総合工学委員会・機械工学委員会合同 工学システムに関する安全・安心・リスク検討分科会 自動運転に対する期待が高まっていますが、交通事故等負の側面はまだまだ解決されず、高齢化が進むことでより一層深刻になる面も想定されています。つくる側もつかう側も、自動運転の現状を技術的・法的に正しく理解し、基礎から出口までを見据えながら、長期的視点の産官学連携の体制整備を提案しました。

キーワード:自動運転、安全、高齢化、産学官連携

社会と共に創られる科学技術に裏付けられたSociety5.0を実現するために
医療を支えるバイオマテリアル研究に関する提言 材料工学委員会 バイオマテリアル分科会 長寿高齢化社会が進行する中、期待が寄せられながら日本の国際的地位が低下しつつある材料分野、特にバイオマテリアル分野に対して対策が必要です。ここでは、学術、基礎研究、及び実用化までつくる立場とつかう立場が俯瞰できる教育研究環境の整備と人材育成について提言しました。

キーワード:高齢化、材料、バイオマテリアス、人材育成

目標13:気候変動に具体的な対策を

学術フォーラム「食料システムから地球温暖化の抑制を考える」
カーボンニュートラル(ネットゼロ)に関する連絡会議 農水畜産業による食料生産から加工・流通を経て消費・廃棄に至るサプライチェーンの全体システムとしての食料システムが地球環境、特に温暖化に与える影響が、近年さまざまな研究から明らかになってきました。本フォーラムでは、「食」という、誰もが自分事と認識できる身近なテーマを切り口として、カーボンニュートラルの実現に向けた取組を多角的に俯瞰し、市民を含むマルチセクターで課題を共有することにより、今後の研究開発および産学公民連携の道筋を見通すことを目的とします。

「地球衛星観測は持続可能な社会の基盤です」を身につけよう。
持続可能な人間社会の基盤としての我が国の地球衛星観測のあり方 地球惑星科学委員会地球・惑星圏分科会 気候変動に伴い自然災害が激甚化する中、社会の損害を最小限に抑え、持続可能な人間社会を実現するための社会基盤として地球衛星観測の有効性を最大限に引き出す必要があり、我が国の貢献も重要である。(1)持続的な人間社会の基盤としての地球衛星観測計画の強化、(2)地球衛星観測の戦略的計画推進、(3)観測データアーカイブ体制の構築と利活用促進、(4)人材育成の体制強化と地球観測リテラシーの向上を提言する。

キーワード:人工衛星、地球観測、気候変動、自然災害、社会基盤

超高齢化社会で脱炭素健康住宅を実現する
長寿社会における脱炭素健康住宅への道筋 環境学委員会・土木工学・建築学委員会合同長寿・低炭素化分科会 長寿化、人口減少、世帯構成などの急激な社会環境の変化が訪れる我が国では、成長を仮定した対策とは異なるすまいの脱炭素化が必要になる。高齢者住宅のエネルギー消費量把握、エネルギー需要・情報・サービスに関する動向把握、寒い住宅からの脱却、断熱による死亡率の低減、豪雪被害への対応、夏季の猛暑に対する住宅のレジリエンス対策、人口減少社会における脱炭素戦略、アジア蒸暑地域の冷房・国際協力に関して提言を行った。

キーワード:脱炭素、超高齢化、健康、快適、寒さ

「変動する地球に生きるための素養」を身につけよう。
初等中等教育および生涯教育における地球教育の重要性:変動する地球に生きるための素養として 地球惑星科学委員会地球惑星科学人材育成分科会 日本は、気候変動、自然災害、環境汚染など、自然環境と人間社会と間で多くの問題に直面している。われわれは、その猛威に立ち向かう心構えと十分な防災・減災対策を用意していなくてはいけない。そのためには、地学・地理学などの自然と密接にかかわる分野の教育を通して、この災害大国に暮らす人々が共有すべき「変動する地球に生きるための素養」を身につける必要がある。

キーワード:災害、地学・地理の素養、学校教育、生涯教育、命を守る

水災害リスク認識の共有に向けて
低平地等の水災害激甚化に対応した適応策推進上の重要課題 土木工学・建築学委員会気候変動と国土分科会 気候変動の影響によって水災害が激甚化しています。防災のための施設整備を進めていくことはもちろんですが、それだけではなく、社会全体で互いに助け合っていくことが必要になっています。そのためには水災害リスクに関する認識を社会全体で共有することが出発点になると思います。提言では、(1)リスクの把握とリスク認識の共有、(2)未着手に近い重要検討課題について、これらを進めていくための提案を行っています。

キーワード:気候変動、水災害、リスク認識、海面上昇、耐水性建築、大規模氾濫減災協議会

地球惑星科学者の夢、地球惑星科学者の責任
地球惑星科学分野における科学・夢ロードマップ2020 地球惑星科学委員会、地球惑星科学委員会地球惑星科学企画分科会及び地球惑星科学委員会地球・惑星圏分科会 地球惑星科学分野は、太陽系・地球・生命の誕生・進化等の学術的重要性はもとより、温暖化等の地球環境や安全・安心、SDGs等、社会の課題と深く関連します。今回の報告「地球惑星科学分野における科学・夢ロードマップ2020」は、科学者の学術的な夢です。それを社会や国民に示すことは、科学者の責務を果たすことであるとともに、社会や国民の幅広い理解を得ながら科学者と国民が共に議論する機会を提供するものです。

キーワード:地球惑星科学、地球人間圏、温暖化、自然災害、安全・安心

気候変動対策を高齢化社会対策にリンクさせる
低炭素・健康なライフスタイルと都市・建築への道筋 環境学委員会・土木工学・建築学委員会 合同低炭素・健康社会の実現への道筋と生活様式・消費者行動分科会 気候変動、温暖化対策のためにCO2の排出を抑える低炭素化は、都市・建築・交通の空間設計に携わる者にとって重大な責務です。日本では昭和の経済成長期、都市への人口流入時に鉄道を整備したため、CO2排出に関してはかつて世界でも優等生だったのですが、現在は超高齢社会への移行にあたり、新たな方針が必要になっています。高齢者と子どもが健康で憩える場への転換が求められること、中小都市では交通の一層の低炭素化も同時に進めなければならないという問題点を認識し、4点にわたり具体的な提案を行いました。

キーワード:温暖化、低炭素、超高齢化、都市

ニーズに応えた大規模風水害適応策を
大規模風水害適応策の新たな展開に対応した科学・技術研究を進めるために―社会実装の進展とともに顕在化するニーズに応えて― 土木工学・建築学委員会 地球環境の変化に伴う風水害・土砂災害への対応分科会 大規模風水害適応策の推進には、本来、課題把握や解決策検討の基礎となる知見とともに解決策を支える「技術」が必要である、という認識のもとに、提言を出しました。(1)現場ニーズの把握による連携体制の活動への支援、(2)連携体制の維持発展への支援を呼びかけています。「レジリエンス」(社会が外部環境の変動による影響に耐え、復興する能力)という言葉を、地域社会が“明るく”受け止めることに役立ちたいという気持ちから書かれています。

キーワード:大規模風水害、『水防災 意識社会再構築ビジョン』(国土交通省)、レジリエンス

目標14:海の豊かさを守ろう

宇宙・空・海のフロンティアを拓く科学技術
人類の未来を開くフロンティア人工物工学の展開のために 総合工学委員会・機械工学委員会合同フロンティア人工物分科会 航空・宇宙・海洋におけるフロンティア人工物は大規模なシステムで、科学的な発展に加えて国際政治や経済への配慮も必要である。その発展のためには新しい学術技術の展開、国家的事業としての論理と社会的な合意が必要である。国家的政策立案とそのプロジェクト評価などの科学的手法の開発、AI(Autonomous Intelligence)など新技術とフロンティア人工物実現のための産業基盤の強化、人材育成・アウトリーチと国際連携の在り方について提言を行った。

キーワード:AI(Autonomous Intelligence)、政策科学技術、EEZ、オープンイノベーション、デジタライゼーション、産業基盤強化

海の多様な生物を守りながらの水産業振興を
わが国における持続可能な水産業のあり方-生態系アプローチに基づく水産資源管理- 食料科学委員会 水産学分科会 世界のあちらこちらで寿司ブームと言われますが、日本の水産物生産量は1980年代のピーク時の30%にまで減少しています。原因は漁業界の高齢化、消費者の魚離れなどもありますが、本提言は、水産資源の減少、つまり魚がとれなくなったという問題に焦点を絞り、生態系アプローチに基づく水産資源管理について、具体的な施策を提案しています。すなわち、海洋生態系の生物多様性を保ちながら、持続可能な水産業を構築する試みです。

そのための研究を支える
我が国の海洋科学の推進に不可欠な海洋研究船の研究航海日数の確保について
地球惑星科学委員会 SCOR分科会 生物資源や海底資源を確保し、生態系を保全するには、海の研究に従事する海洋科学者の育成が必要です。しかし、そのための海洋研究船の研究航海運行日数、つまり若手の海洋科学者の実習の期間がこの5年ほどで半減しているとのこと。この問題について警鐘を鳴らしました。 

キーワード:水産業、漁業、海洋生態系、海洋科学

目標15:陸の豊かさも守ろう

都市域の土壌に科学と保全を!
都市域土壌の現状と課題  農学委員会 土壌科学分科会 都市域土壌は宅地,道路、商業地域,工業地域,都市公園・緑地,レクリエーション施設など,都市的土地利用下にある土壌で、多様な廃棄物や浚渫土などが含まれる。都市公園や道路法面のように植生の基盤となる一方,都市構造物の基盤として締め固められていることもあり,自然的土地利用下の土壌と異なる。都市域土壌の保全と土地の転用のために,その内容物の記載、造成の履歴などの情報や学術的な分類法の整備が望まれる。

キーワード:都市域土壌、都市的土地利用、土壌分類、土壌保全、グリーンインフラ

中高層木造建築を促進し都市を炭素吸収源に
地球温暖化対策としての建築分野での木材利用の促進 農学委員会 林学分科会 中高層建築物の木造率を高めることは、都市の炭素吸収源機能を高めるものであり、地球温暖化対策として実施可能な選択肢である。その実現のために、持続可能な森林資源管理の基盤整備とともに、中高層建築物に適した木質構造部材の開発と規格制度整備や建築技術の革新、木材の優れた環境性能を客観的に示す指標の提案を積極的に進め、消費行動への働きかけを図る必要性を提言した。

キーワード:炭素吸収源、中高層木造建築、木質構造部材、環境負荷評価、持続的森林資源管理

柔軟な発想で都市の緑を守るために
神宮外苑の歴史を踏まえた新国立競技場整備への提言―大地に根ざした「本物の杜」の実現のために 環境学委員会 都市と自然と環境分科会 明治神宮外苑は大正15年創建というその歴史の短さにもかかわらず、多様な生物が生息する自然環境を誇っています。しかし、新国立競技場の建設に伴い、人工地盤の広場が作られるならば、外苑の生態系にも影響が及びます。そこで、地域の植生帯に即した植生で、(人工地盤ではない)大地に根ざすことにより持続的成長が可能である、なおかつ健全な水循環が維持されている「杜」を実現するために、具体的な提案を出しました。

キーワード:生態系、植生、大地、水循環

生物多様性を保護するための費用負担と遺伝子研究の振興を両立させるために
生物多様性条約及び名古屋議定書におけるデジタル配列情報の取扱いについて
基礎生物学委員会・統合生物学委員会・農学委員会・基礎医学委員会合同遺伝資源分科会

農学委員会・食料科学委員会合同農学分野におけ る名古屋議定書関連検討分科会
生態系は多様な生物によって維持されていますが、その生物の遺伝子は、遺伝子工学の発達とともに、「遺伝資源」と呼ばれるようになりました。多くの動植物や微生物の遺伝子が、有用物質の生産、農作物の改良などに実用価値をもつことがわかってきたからです。2010年に採択され、現在100カ国が締約している名古屋議定書は、遺伝資源を利用したことによって得られた利益を、利用国と、資源を提供した国(原産国)とでどう分け合うかを定めたものです。最近の展開として、一部の資源提供国が、デジタル配列情報(DNA配列情報)を議定書の対象に含めるよう主張しているのですが、そうするとDNA情報の利用に制限がかかり、研究に影響が及びます。この問題について緊急に提言を出しました。

キーワード:生物多様性、遺伝資源、名古屋議定書、デジタル配列情報

目標16:平和と公正をすべての人に

学術フォーラム「地球規模のリスクに立ち向かう地域研究 ウクライナ危機に多角的に迫る」
地域研究委員会地域研究基盤強化分科会 令和4(2022)年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻は、現地の人びとのくらしを破壊するだけでなく、地球規模での混乱をもたらしました。8ヶ月が過ぎようとする現時点でも解決の見通しはまだありません。混迷する世界をどのように理解したら良いのでしょうか。本フォーラムでは、コンパクトな解説をいくつも積み上げていきます。日頃、解説されている事象の背後にあることを前景化し、画面を入れ替えるように、総合的に現代世界に接近してみましょう。

感染症対策と社会変革に向けたICT基盤強化とデジタル変革の推進
第二部大規模感染症予防・制圧体制検討分科会、情報学委員会ユビキタス状況認識社会基盤分科会

若年層への主権者教育授業は民主主義を救う
主権者教育の理論と実践
政治学委員会政治過程分科会 2015年に有権者年齢が18歳へと引き下げられた。彼らに対する主権者教育の必要性が叫ばれている。本報告では、若年有権者の投票率を向上させるのには何が必要なのかをさぐっていく。まず主権者教育の理論をその原点である「クリック・レポート」から検討をはじめて、ナッジという考え方などを紹介する。次いで高校と大学での主権者教育の実践例を取り上げ、その効果を大学生対象のアンケートから振り返る。最後に若干の提言を試みる。

キーワード:選挙権年齢引き下げ、主権者教育、「クリック・レポート」、アクティブ・ラーニング、ナッジ

学術の健全な発展に向けて
「軍事的安全保障研究に関する声明」への研究機関・学協会の対応と論点
科学者委員会 軍事的安全保障研究声明に関するフォローアップ分科会 日本学術会議は、「軍事的安全保障研究に関する声明」(2017年3月)において、軍事的安全保障研究が学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にあることを確認し、大学等研究機関に対して軍事的安全保障研究の適切性を審査する制度の創設を、また、学協会等に対してガイドライン等の設定を求めた。本報告は、調査結果に基づき、「声明」への研究機関及び学協会の対応を明らかにし、今後の議論に向けた論点を整理するものである。

キーワード:軍事的安全保障研究に関する声明、研究審査制度、研究ガイドライン、学問の自由、学術の健全な発展

Evidence Based Sports for Diverse Humanity (EBS4DH)
科学的エビデンスを主体としたスポーツの在り方
科学的エビデンスに基づく「スポーツの価値」の普及の在り方に関する委員会 スポーツ庁より学術会議に寄せられた審議依頼をもとに、科学的エビデンスに基づくスポーツの価値について検討した。その内容は審議依頼内容を大きく超えたため、スポーツ庁への回答としてまとめるだけでなく、政策提言としてもとりまとめた。スポーツは、その対象も意義も時代とともに変化し、競技としての意味合いは歴史的には必然ではないことから、新たな価値を提供できる時代に即したスポーツの在り方を提案する内容である。

キーワード:スポーツの価値、科学的エビデンス、多様性、障害者スポーツ、暴力、非常時のスポーツ

アディクション問題の包括的対応体制の確立
アディクション問題克服に向けた学術活動のあり方に関する提言
臨床医学委員会アディクション分科会、同脳とこころ分科会、基礎医学委員会神経科学分科会 アディクションは、物質依存のみならず行動嗜癖も含み、近年では大きな社会問題となっており、その研究・対策の必要性が謳われているが、実質的な対応はまだほとんどなされていない。アディクション問題克服に向け、法的・臨床的な視点のみならず、学術的視点を踏まえた包括的な調査・研究・対策を行うことを提言する。

キーワード:薬物依存、アルコール依存、ギャンブル障害、ゲーム障害、物質依存、行動嗜癖

全世界の遺棄化学兵器等を安全に処理しよう
老朽・遺棄化学兵器廃棄の安全と環境の保全に向けて
総合工学委員会・機械工学委員会合同工学システムに関する安全・安心・リスク検討分科会 化学兵器禁止条約に基づき日中共同で、旧軍が中国に遺棄した化学兵器の処理事業が推進されている。埋設された化学兵器等の発掘廃棄には爆発など様々なリスクが伴い、特に作業員などのヒ素被曝が危険とされ、埋設跡地や最終処分場周辺の土壌や地下水の汚染も懸念される。本報告は化学兵器廃棄の国際動向、関係する環境基準、安全な処理・処分技術、適切な救急医療や健康管理体制などを検討・紹介すると共に、将来的課題を提起した。

キーワード:化学兵器禁止条約、遺棄化学兵器処理事業、ヒ素廃棄物処理・処分手段、環境浄化技術、労働安全衛生

研究成果が戦争・テロに使われることを防ぐために
病原体研究に関するデュアルユース問題
基礎医学委員会 病原体研究に関するデュアルユース問題分科会 病原体が細菌兵器として悪用され、バイオテロを引き起こすのではないかという危惧は深刻なものになっています。2011年には、病原体の遺伝子変異による高病原性鳥インフルエンザに関する研究の発表が、テロに悪用されるのではないかと議論を呼び、関連研究の自粛などが起きました。そこで、病原体研究が危険性を持つことについて研究者間で認知を広め、教育・管理を徹底するための方策を提案しました。

キーワード:病原体、バイオテロ、デュアルユース

公正な判断のもと、平和を志向する市民を育てるために
高等学校新設科目「公共」にむけて―政治学からの提言― 政治学委員会 日本の公教育では、中立性を保つために、高校の「政治・経済」の科目も、政治教育に関しては、統治機構や政治制度の基礎知識の習得に留まっていました。しかし、選挙権年齢が18歳に引き下げられ、新科目「公共」が導入されるという変化の中、中立性と参加学習を両立させる教育が新たに必要になっています。そこで、政治的争点を自ら理解し、複雑な現象を分析・判断する力を生徒が身に付けることにより、国家・社会の形成に主体的に参画していく力を養う教育の具体的方策を提案しました。

キーワード:中等教育、公共、政治教育、市民性、民主主義、18歳選挙権

目標17:パートナーシップで目標を達成しよう

目標1~16について紹介した提言・報告の内、とくにグローバル・パートナーシップを活性化するのに直接的に貢献するものを再掲します。

学術フォーラム「地域の課題解決を地球環境課題への挑戦に結びつける超学際研究」 フューチャー・アースの推進と連携に関する委員会 地球規模課題の解決には、学術界、産業界、行政、市民団体などの多様なステークホルダーとの協働が不可欠であり、協働企画、協働生産、協働発信を行うトランスディシプリナリー研究(超学際研究)の推進が求められるが、その本質は、各地域での課題解決の取組に宿っている。
本フォーラムでは、地域の課題解決に取り組んでいる国内外の実践的な超学際研究の好事例を紹介し、それをいかに地球規模課題の解決に資する超学際研究に結び付け、研究の推進や成果創出の加速に結び付けていけるのかについて議論する。また、当該研究分野の将来の発展に向けて研究評価の在り方や人材育成についても意見交換を行う。

統合知によるレジリエントで持続可能な社会
災害レジリエンスの強化による持続可能な国際社会実現のための学術からの提言-知の統合を実践するためのオンライン・システムの構築とファシリテータの育成- 科学技術を活かした防災・減災政策の国際的展開に関する検討委員会 持続可能な開発の実現を目指した災害レジリエンスの強化には、成立背景や経緯、立場の異なる国際社会の課題を理解して、あるべき姿を提示し、社会実現を支援し、その経験を基に理解をより深め、より良い姿を描く知の循環構造を構築する必要がある。そこで、「知の統合ネットワーク基盤(OSS)」と、現地にいて司会進行機能、問題解決推進機能、専門的助言機能を併せ持つ触媒的存在である「ファシリテータ」の育成を提言する。

キーワード:知の統合化、仙台防災枠組、持続可能な開発目標、知の統合ネットワーク基盤、ファシリテータ

学術の未来を切り開くシチズンサイエンス
シチズンサイエンスを推進する社会システムの構築を目指して 若手アカデミー シチズンサイエンスは一般の市民によって行われる科学的活動であり、世界的に拡大しつつある。しかし、研究者が国民や政策形成者等と共に研究計画を策定し、研究実施や成果普及を進めるような方法論の創出と環境整備を促進する社会システムの構築は途上である。若手アカデミーでは、その取り組みを通じて、海外と比較したシチズンサイエンスの国内の現況を把握し、その実践にあたり解決すべき課題を提言としてまとめるに至った。

キーワード:シチズンサイエンス、モード論、素人の専門性モデル、サイエンスカフェ、基盤整備

研究の現場の声を科学技術政策に反映させる
第6期科学技術基本計画に向けての提言 科学者委員会 学術体制分科会 近年、日本の研究者のノーベル賞受賞が相次ぐ一方で、研究者の間では、世界の中で日本の研究力が危機にあるとの認識が急速に広がっている。本提言は、次期科学技術基本計画が対象とする5年間は日本の学術の将来にとって極めて重要な意味を持つとの認識に立ち、①基礎研究の重要性、②学術の多様性・総合性の実現、③バランスのとれた研究投資の3つの基本的視点と、これに基づく各種の具体的提言を行うものである。

キーワード:基礎研究の重要性、学術の多様性・総合性、公的研究資金制度の再構築、学術における男女共同参画、科学技術政策への科学者コミュニティの参加

持続可能な地球社会の実現をめざして-Future Earth(フューチャー・アース)の推進- フューチャー・アースの推進に関する委員会 フューチャー・アース(FE)」は、SDGsに関係する地球規模から地域・国レベルでのさまざまな環境問題に対処する研究を推進するために、科学者コミュニティや国連機関などが協働で進めている国際的プログラムです。FEの下で、SDGsで掲げられた水、エネルギー、気候、海洋、生態系、都市などの課題の解決をめざして、多くの学際的な国際的な共同研究を進めています。FEの5つの国際本部事務局のうちの1つは日本にあり、学術会議はその運営を担当しています。本提言では、日本におけるFE推進をすべての科学コミュニティ及び社会の関係者(政策担当者、企業、地方自治体、メディア、教育関係者、市民団体など)に対して呼びかけています。

防災・減災に関する国際研究の推進と災害リスクの軽減―仙台防災枠組・東京宣言の具体化に向けた提言― 国際委員会防災・減災に関する国際研究のための東京会議分科会 土木工学・建築学委員会IRDR分科会 さらに、日本だけでなく国際協力を通じて世界各国の防災・減災を実現していきたい。この目標のもと、日本学術会議では、2015年1月に「防災・減災に関する国際研究のための東京会議」を開催しました。ここでの議論の結果を「東京宣言」、「東京行動指針」にまとめて国際社会に示すことにより、同年3月の国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組」における科学・技術の重要性の認識を促しました。本提言は、これらの議論をまとめ、科学・技術の観点から、世界各国が協調して実施すべき事項とその実施主体および具体的活動、さらに我が国がとるべき行動を総合的に提示したものです。

日本型の産業化支援戦略 地域研究委員会 国際地域開発研究分科会 途上国の貧困をなくすには、産業発展を実現して雇用を創造し、生活水準の向上を達成することがきわめて重要です。しかし、これまでの開発支援は、“対症療法”的なところがあり、必ずしも効果的とは言えませんでした。そこで、もっと「戦略的」に開発支援を組み立てるため、アジア諸国のなかでは途上国支援の実績が豊富な日本が、その経験を活かして支援戦略を構築しようと提案しました。

 当ページの英訳版(“Relationship of SCJ and SDGs-Focusing on recommendations in the 23rd term-”)はこちらから

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