「未来からの問い」特設HP / 各界からのメッセージ
各界からのメッセージ
「未来からの問い」への産業界からのメッセージ
梶原ゆみ子(富士通株式会社理事)
この度は、「未来からの問い」にコメントする機会を頂きましてありがとうございます。山極会長をはじめ日本学術会議の皆さまには、日頃より、日本の科学技術の振興のため、多くの提言を出されるなど活発に活動されていることに感謝しております。今回お纏め頂いた「未来からの問い」につきまして、産業界に身を置く立場から、一言コメントさせて頂きます。
昨今、デジタル社会や、デジタルトランスフォーメーション、DXといった言葉は、様々な場面で使われ、耳にしない日はありませんが、今回の新型コロナウィルスへの対策として、いざ、多くの人が一斉に外出を控えなければならない状況になり、改めてテレワークやオンライン会議の必要性に気づかされた方も多いのではないでしょうか。
一方、日本の教育や医療、行政などの現場では、インフラやルール、業務のオペレーションを含めて、まだまだデジタル化が進んでおらず、現場の方々、国民の方々が、それぞれ大変なご苦労を強いられている状況だということも、改めて痛感しています。
我々はよく「社会実装」という言葉を使います。アカデミアで生まれた「知」の成果を、どのように製品やサービスにするのか、そして、それをどのようにビジネスとして、継続的に社会に価値を提供していくのか。産業界として、いつもそう考えて取り組んでいます。しかし、今回のような緊急事態に、テクロノジーが人や社会を助けられる状態になっていて、初めて「社会に実装できている」と言える、と思い至りました。
新型コロナウィルスとの闘いは長期戦になるかもしれないと言われています。一日でも早くこの闘いを終息させ、そして、今回の対応を踏まえて、更にレジリエントでサステイナブルな社会に大きく進化させていくため、政府やアカデミア、産業界、そして多くのステークホルダーが、知恵と力を総動員させていくことが必要です。
感染症以外にも、「未来からの問い」でご指摘されているとおり、地球規模で、多くの社会課題が顕在化してきています。また、予測できない規模の変化が、予測できないスピードで進んでいます。ここ数年の災害や世界情勢の変化、そして今回の新型コロナウィルスなどによって、先の見えない不安感は一層高まっています。
そうした中で、課題を一つずつ解決するとともに、科学的な見地から将来を俯瞰し、今に問いかける学術的な取り組みは、言うまでもなくその重要性を増しています。知恵と力を総動員するという意味では、多様な学術分野の多くの専門の方々が、こうして一つの方向性を示すという取り組みには、非常に大変なご苦労があったのではないかと推察します。改めて、「未来からの問い」をお取りまとめられた日本学術会議の皆様に敬意を表させて頂きます。
知的社会基盤が進化することで、知の創造を担うプレイヤーは、現在の科学者コミュニティに留まらず、企業や一般国民にまで広がり、知の創出プロセスにおいても、より多様化が進んでいくものと期待しています。今回は残念ながら多くの方が一堂に会することはできませんでしたが、広くオープンな場を引き続き増やし、知の融合や、知の裾野を広げていくことも、日本の研究開発力やイノベーション創出力を高めていくために大変重要なことだと感じています。
「未来からの問い」では、多くのセクションで、デジタル化に触れられています。科学技術の研究成果によって、社会生活や企業の経済活動のデジタル化が進展するとともに、シミュレーションやAIなどのデジタル技術の高速化、高度化によって、研究や教育そのものにも大きなイノベーションが起きていると認識しています。このサイクルをポジティブかつ、アジャイルに回していくためにも、初等中等教育を含めた、データやデジタル技術を扱う人材の育成が必要です。Society5.0を担っていく人材の育成という観点から、産業界も積極的に協力していくべきだと考えています。
そして、日本が今後、知識やデータを核にした価値創造を発展させていくためには、人材に加えて、第5章に書かれた「知のデジタルインフラ基盤」の構築が非常に重要となります。物理的なシステムを構築するということだけではなく、利用ルール、継続的に運用するためのビジネスモデルや、データをこの基盤に登録するインセンティブ設計などがキーポイントになると考えており、戦略的な対応が求められます。
また、サイバーセキュリティや安全保障、プライバシーとデータ戦略、AI・ロボットとの共生など、いずれのテーマも、既に課題が顕在化し始めているとともに、今後、世界経済や人類社会のレベルで更に大きな問題となると見込まれている重要な領域です。各国が、自国の事情に応じたルール形成で争う事態も想定されますが、アカデミアには、分野横断的な学術研究を進め、科学的な見地からグローバルにハーモナイズ可能なルールの合意形成を提言し、人類社会共通の発展に向けた取り組みを主導して頂くことを期待しています。
特に、生活や労働において益々デジタル化が進展していく中で、デジタル化が社会の在り方や人間そのものにどのような影響を与えるのか、人々の不安を取り除き、受容性を高めるには、まずは社会との対話が重要です。アカデミアの方々には、引き続き、社会への積極的な発信をお願いしたいと思います。
科学技術とイノベーションを担う人材の議論をする際、ジェンダーの問題についてはなかなか本質的な論点として取り上げられない印象があります。「未来からの問い」の第2章では、最後の項でジェンダー・バイアスについて述べられています。
私は富士通ではダイバーシティ推進も担当していますが、まずは、欧米では当たり前になっているアンコンシャス・バイアスを各自が認知することが重要と考え、自分ごととしての気づきを引き出す機会として、日本の社員へのe-Learningを実施しています。ジェンダーに限らず、ダイバーシティの取り組みは、日本全体でも進められていると思います。しかし、海外ではその取り組みが更に先に進んでおり、ジェンダー・ギャップ指数などに見られるように、日本との差はむしろ開いている状況もあります。アカデミアの皆さまには、アンコンシャス・バイアスに関する調査や研究を進めるなど、日本のダイバーシティの推進に積極的に貢献頂きたいと思っています。そして何よりも、アンコンシャス・バイアスの理解増進など、ご自身での対応や実践をお願いしたいと思います。
その他、医療の問題、国土の利用や資源の問題、エネルギー・環境の問題など、各章で書かれている事項はいずれも非常に重要な内容で、技術面、経済面、倫理面など、とても幅広く、奥深い議論や研究が必要だと考えます。30年後には、おそらく現在では想定できないことも当たり前な世界になっているのでしょう。科学技術によって人の生き方や在り方が決められるのではなく、ウェルビーイングの実現に向けて科学技術が発展していくという基本的な価値観や倫理観を持つこと、一方で従来の考え方ややり方に捉われない柔軟性、そういったことが今後の30年間の方向性に大きく影響するのだと思います。
山極会長の書かれた総論の後半で、新しい研究領域への挑戦を進めることや、様々な世代がそれぞれの力・能力を活かして学術を発展させることに対する重要性が書かれています。産業界としてもまさにこうした部分をアカデミアの方々に期待しており、今後も継続的に対話を深めていければと考えています。
「未来からの問い」への若手アカデミーからのメッセージ
川口慎介(国立研究開発法人海洋研究開発機構研究員)
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(概要)
川口慎介です。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究員として調査船で海に出て深海の生態系を調べる研究をしながら、日本学術会議若手アカデミーのメンバーとしても活動しています。
「未来からの問い」へのメッセージとして、3つの課題を提示することを考えました。1つは、安全保障としての国内エネルギー供給力の強化、またそれを実現する地方における再生可能エネルギー発電とスマートグリッド網の充実について。もう1つは、フェイクニュースや疑似科学商法に対する学術界としての責任の果たし方、特に専門家集団たる学会が担うべき役割について。最後の1つが、ビデオメッセージで取り上げた社会の少子化についてです。
「未来からの問い」への大学学部生からのメッセージ
宮﨑紗矢香(立教大学社会学部)
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(概要)
私の名前は紗矢香です。さやかの「や」は、弓矢の矢です。まさに弓矢のごとく、これ!と的が定まれば一直線に突き進む、そんな人間です。5年前、立教大学を志望校に決めたときも、合格という的に向けて弓矢を放ち合格を勝ち取りましたが、晴れて到来した大学生活は、期待を下回る味気なさでした。ゆえに大学4年になり、出会ったFridays For Futureの活動は私の視界を一気に開かせました。けれど、威勢よく動き出したのも束の間、愛猫の死により的を見失いました。一心不乱に弓矢を放ってきた日々を内省する時間が訪れ、ある気づきを得ました。それは、自分は的に向かって弓矢を放っていたのではなく、周りの人からもらった愛を発揮していたのではないかということです。そのことに気づかされたとき、私の頭に浮かんだ言葉は一つでした。根拠のない真理が明らかになったとき、未来への道標は、おのずと一つに絞られるのではないでしょうか。
「未来からの問い」への高校生からのメッセージ-1
黒岩露敏(玉川学園高等部(国際バカロレアクラス))
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人生の約半分を海外で過ごした経験をもとに話をする。スウェーデンの高校生の強い自主性、また生徒中心の授業スタイルなどを通し「挑戦」の重要性について考えるようになった。挑戦は学びである。成功しても失敗しても学びがあり成長できるからだ。しかし「出る杭は打たれる」というように才能があり抜きん出ているものは妬まれる社会で、その才能を伸ばす場がなく圧倒的な「スター研究者」が減っていることを様々なデータが示唆している。人は保守的になりがちだが挑戦する姿勢を身につけるべきだと考える。そのためには自主性、自律性、積極性の養い、挑戦する姿勢を身につけさせる教育が必須である。国連の持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる「誰一人取り残さない」世界のために義務教育の小学校から始めれば、皆が問題解決力や努力、継続の力を学べる。受け身の授業ではなく生徒の自主性に重きをおき、それを育てる教育である。皆が挑戦する世の中こそ若者は志している。
「未来からの問い」への高校生からのメッセージ-2
白坂翠萌(清泉女学院高等学校)
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(概要)
近年、日本では、スマートフォンなどの技術開発は急速に進みましたが、環境問題への取り組みは同じスピードで進んでいません。それは環境に良い技術を開発しても、売れない、利益がでないという現状があるからです。このため、開発に踏み切りづらい状況となっています。それに対し、ヨーロッパやアメリカなどでは積極的に環境に良いものの開発が行われています。そこにはどのような工夫があるのか、日本も課題先進国として世界の環境問題解決に貢献するにはどうしたらよいのか…。これからの地球を担う世代の1人として、アイデアや、所属するアメリカのニューヨーク科学アカデミーの活動の紹介を交えながら、今の社会、これからの社会にどうあってほしいか、そのためにするべきだと考えることを高校生の視点からお伝えします。
豊かな自然の中で子供たちが生き物と触れ合って遊び、美しい海で泳げる地球を失わないために、世代を超えたつながりと協力を重視する社会であってほしいと心から願っています。
「未来からの問い」特設HP
概要説明
「未来からの問い」特設HP/著書「未来からの問い―日本学術会議100年を構想する」
「未来からの問い」特設HP/公開対談「新型コロナウイルス後の世界」
趣旨説明
対談者
- 秋葉澄伯
- 池坊専好
- 井野瀬久美惠
- イリス ヴィーツォレック
- 沖 大幹
- 落合恵美子
- 梶 光一
- 梶原ゆみ子
- モンテ カセム
- 神尾陽子
- 喜連川 優
- 五箇公一
- 五神 真
- 坂田紀乃
- 塩田佳代子
- 澁澤 栄
- 高村ゆかり
- 平田オリザ
- 米田雅子