提言「第6期科学技術基本計画に向けての提言」ポイント

1 現状及び問題点

 近年、世界の中で日本の研究力が危機にあるという認識が急速に広がっており、それを示す指標として、世界における注目度の高い論文数に基づく世界シェアの大幅な低下が指摘される。しかし、それらの数字は、危機の表層ないし結果であって、危機の本質は、今日、日本の大学等の教育研究機関において、研究者各自の内発的関心に基づき、長期的視野から腰を据えて基礎研究に取り組む環境が急速に失われ、学術の裾野を形成する研究者の活動が弱体化している点にある。このような日本の学術の現場が直面する危機の本質を直視し、改善を図る視点が次期基本計画には不可欠である。この視点なくしては、日本の学術が将来に向けて確かな展望を描き、また、SDGsやSociety 5.0等に示されるような世界及び日本の諸課題の解決への期待に応えることは難しい。

 学術の目的は真理の探究にある。同時に、それを通じて、人びとの生活の向上や社会的諸課題の解決に貢献することも学術の重要な役割である。日本の学術が、今後も持続的な発展を遂げ期待される役割を果たし続けるために重要なのは、とりわけ次の3点である。

  1. (1) 基礎研究の重要性

     この点は日本学術会議が繰り返し強調してきた点である(たとえば、第5期科学技術基本計画に向けた2015年提言)。20年、30年先の社会では、「今」に基づく予測をはるかに超える変化が起きる可能性がある。予測困難な変化に迅速かつ適切に対応するためには、幅広い分野における多様な学術研究、とりわけ短期的視野にとらわれない基礎研究の分厚い蓄積と、それを可能にする継続的な投資の努力が不可欠である。

  2. (2) 学術の多様性・総合性

     分野により、地域により、さらに研究者個人により、多種多様な関心や考え方があるのが学術の特徴であり、目前の課題を意識するあまり、研究の内容を画一的な方向性に誘導することは学術の優れた部分を失わせる。蓄積された多様な学術基盤があってはじめて、直近の課題解決も効果的に進めることができる。さらに、現代社会が解決を求める様々な課題に学術が貢献するためには、自然科学と人文・社会科学とが連携し、総合的な知の基盤を形成することも不可欠である。

  3. (3) バランスのとれた投資

     基礎研究の充実及び学術研究の多様性・総合性を実現するためには、基盤的研究資金と競争的研究資金、そしてボトムアップの自由な研究のための研究資金とトップダウンで計画化された研究に対する資金のバランスが重要である。過度の「選択と集中」というこれまでの研究投資のあり方が日本の研究力の地盤沈下につながったと考えている研究者は多い。日本の学術の持続可能な発展を確保するには、各種のバランスのとれた資金配分が必要である。

2 提言の内容

本提言における提案は多岐にわたるが、その中で特に重要な点は以下の通りである。


  1. 提言1 次世代を担う博士課程学生への経済的支援の抜本的拡充、キャリアパスの多様化

    日本の研究力低下の最大の要因は博士課程学生数の大幅な減少(社会人・留学生を除く一般学生の博士課程入学者数は、15年間で4割も減少)であり、日本の研究力復興の最優先課題として、欧米並みの博士課程学生への経済的支援が必要である。テニュアトラックポジションの増加、リサーチ・アドミニストレーター(URA)や高度技術職員の採用枠拡大のほか、産業界や政府部門を初め社会の幅広い分野における多様なキャリアパスの提示及びそれを支援する施策も必要である。

  2. 提言2 学術の多様性に資する公的研究資金制度全体のグランドデザインの再構築

     大学等の教育研究機関において行われる基礎研究を支援する運営費交付金・私立大学等経常費補助金等の基盤的資金の維持・拡充、科学研究費補助金のさらなる拡充が必要である。また、科学技術振興費も含めた公的な研究資金制度全体に関して、学術の多様性を考慮した、より適切で真に有効な全体最適なグランドデザインの再構築が必要である。

  3. 提言3 科学者コミュニティにおける多様性の実現

     科学者コミュニティにおける多様性の確保は、現在国際標準となっているにもかかわらず、日本では、この間、女性研究者比率の増加は限定的な水準にとどまっている。世界における日本の学術の存在感低下の一因は、研究の質と結びつく多様性の確保が世界水準に達していないことにある。「無意識のバイアス」の排除やライフイベントへの配慮などにより、女性、外国人、障がい者等の研究者の多様性を実現し、それぞれの活躍の場を提供するとともに、日本の研究力強化に結びつけることが急務である。

  4. 提言4 科学技術政策への科学者コミュニティの参加

     日本の研究力が停滞する状況を前にして、その対策が有効に機能しないのは、停滞の背景に存在する要因が複合的であることによる。日本の研究力の失速を回避し、さらなる向上を目指すには、当面の課題に対する解決策の発信と並んで、学術の持続的発展という根本的な課題に立ち戻り、科学技術政策における学術研究のあり方を包括的に考える視点が重要である。科学技術政策への科学者コミュニティの主体的かつ組織的な参加によって、これを実現することが重要である。



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