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報告「老朽・遺棄化学兵器廃棄の安全と環境の保全に向けて」ポイント

1 現状及び問題点

 化学兵器の廃棄は化学兵器禁止条約が定める2022年の処理期限に向けて内外で進展している。我が国の懸案である中国遺棄化学兵器処理事業も、ハルバ嶺処理場の本格稼働に向け現場の課題解決に注力している。これらを踏まえて、今後の本事業の進展や国内の老朽化学兵器の発見・回収・廃棄などで想定される様々なリスクを公衆並びに社会一般と共有し、本事業に対する今後の学術の貢献に資するべく、本報告を作成した。

 ハルバ嶺事業の期限内完了のための設備増強を含む処理能力の向上が喫緊の課題であるが、それと並行して、国内で発見される老朽化学兵器を含めた共通課題として、爆発、化学剤被曝、その他リスクの対策に努める必要がある。

 そして、緊急医療体制は、現場で応急処置する一次部署と充実した高度医療を行う二次機関に、明確に階層化する必要がある。更に、中高年作業者が多いため、各種ストレスや生活習慣病などに係る保健・医療体制が望ましい。

 また、処理に伴い発生するヒ素など有害物質を含む汚染残渣の処分方法を選定する必要がある。なお、ヒ素をはじめ弾薬など由来の有毒物質が埋設坑などの周辺土壌に浸潤して残留する可能性があるが、処理事業によって生じたと特定される汚染については、日本側の負担で処理することが決まっている。そうした土壌浄化の技術的方法を検討することが望ましい。

2 報告の内容

  1. (1) 世界的な化学兵器廃棄処理の進展と環境問題への回帰

     諸外国は化学兵器禁止条約が定める2022年のストックパイルの廃棄処理期限を達成できる見込みである。代わって欧州を中心に近年注目されている海洋投棄化学弾や非化学兵器由来有毒物質による環境問題については、我が国の化学兵器処理事業経験が貢献できる分野である。

     化学兵器禁止機関(OPCW)などの国際機関をハブとして、バルト海沿岸諸国や中国などの専門家・研究者との国際協力を強化することが期待できる。

  2. (2) 旧日本軍化学兵器廃棄に伴うヒ素処理・処分手段

     廃棄作業に伴い発生するヒ素を含む処理残渣の処分には、日本では管理型地表処分に実績があるほか、米独で実績がある地中処分が有用である。廃岩塩坑での処分も妥当な選択肢の一つである。

     また、地表処分向のガラス固化法も研究が進んでおり今後の実用化が期待できる。

  3. (3) 処理作業員の緊急医療体制と日常的健康管理

     老朽および遺棄化学兵器処理には、「爆発影響リスク」、「化学剤漏洩リスク」および「その他リスク」の3種のリスクがある。高度医療機関と適確に分業した緊急医療体制が必要である。

     処理作業員の慢性的ヒ素被害防止には、長期発がん性を考慮した基準設定と日常的な尿中ヒ素濃度の管理が不可欠である。

  4. (4) 土壌浄化技術

     化学兵器廃棄後に埋設坑などの周辺に残留が懸念される化学物質などの土壌汚染については、技術的に種々の方法について予め検討しておくことが望ましい。

     従来の物理・化学的処理方法(焼却、固化・安定化、洗浄)のほか、微生物による分解と植物濃縮を利用したバイオ/ファイトレメディエーション法がコスト面や環境負荷の観点から有望である。

  5. (5) その他のリスク要因

     ハルバ嶺埋設抗に混入して発見される通常弾の安全な発掘については、沖縄の不発弾対策が参考になる。そして、発掘された通常弾は速やかに中国に引き渡し、分別管理することが望ましい。

     また、ライフライン供給などを周辺地域に依存することから、ハルバ嶺処理場を広域システムと捉えた事業継続計画の策定が有用である。



     報告全文はこちら(PDF形式:3,824KB)PDF
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