代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称  

    (和文)   国際地質科学連合理事会および執行委員会
    (英文)   74rd IUGS Executive Committee Meeting and Bureau Meeting

  2. 会 期

    2020年 1月14日 ~ 1月18日(5日間)

  3. 会議出席者名

    北里 洋・大久保泰邦

  4. 会議開催地

    大韓民国・釜山市

  5. 参加状況  (参加国数 16カ国; 参加者数 61名;日本人参加者 2名)
  6. 会議内容  
    • 日程及び会議の主な議題

      〇 1月14日 事務局会議を開催した。理事会の議事次第を確認するとともに、主要な課題、会計上の問題点について事前打ち合わせを行った。
      〇 1月15~16日 理事会(IUGS関係者、UNESCOメンバーなどオープン参加) を行い、IUGS 執行部から年次報告を行ったのち、IUGS傘下の
        各委員会、関連学協会から2019年度活動報告を受け、成果、運営のあり方などについて議論を行った。
      〇 1月17~18日 理事会(理事会メンバーのみ参加)を行い、役員改選にかかる候補者選考にかかる段取り、現在、余裕がある財政を用いて、
        どのように分野の振興につなげるファンディングを行うかについて議論した。また、2020年度予算とくに各委員会に分配する活動資金を2019年
        の活動状況を勘案しながら決定した。来年度の加盟国分担金は、米国のインフレーションレートに比例させ、2.3%増とした。その結果、
        一単位が634ドルから648ドルに値上げされ、カテゴリー8である日本は、45,360 ドルの分担金を支払うことになる。

    • 会議における審議内容・成果

       本会議は、国際地質科学連合、理事会および事務局会議というビジネスミーティングであるので、学術研究の発表はなく、IUGS 傘下の各委員会活動を中心とする報告が中心である。ただ、報告の中には、世界各国の資源問題、地盤災害、環境問題など、世界レベルの課題への対応を問われる話題も多い。
       今回の理事会において、日本人にとっての最大の成果は、国際層序学委員会で審議されてきた新生代第四紀更新世中期の基底のGSSP を千葉県養老川の田淵セクションに決め、更新世中期を「千葉時代(Chibanian)」と呼ぼうという日本からの提案を最終的に承認したことである。1月17日の理事だけによる理事会の最初の議題として議論を行い、その後、理事全員による挙手による賛否で諾否を決めた。幸にして賛成が過半数を占め、提案は承認された。実際には、かなり激しい議論になったが、「世界で最も良い古地磁気逆転の記録が田淵セクションである」ことが決め手になった。国際地質科学連合理事会での議論が政治的な駆け引きではなく、純粋に科学的データを評価する内容であったことをうれしく思うとともに、日本列島に露出する後期新生代の地層には地磁気記録、海洋生物化石記録、さまざまな同位体の変化から読み取れる古環境変動記録などが高い解像度で記録されていることが世界に認められたことがなにより誇るべきであろう。これをきっかけにして、日本の国民の地球科学への関心がより高まることを望みたい。また、日本の地球科学研究の黎明期から現在に至る過程で弛まぬ研究を積み重ね、世界に誇る発見とデータの蓄積を行なってきた多くの先達に心から感謝を申し上げたい。
       日本人の発表としては、2016年9月の総会において承認された Geohazard Task Group について、チェアーを務める大久保泰邦氏から、ジオハザードの防災・減災に向けた活動方針、年次計画について報告された。会議出席者から、タスクグループの活動が活発とは言えず、また、地すべり3つのサブテーマの2つに取り上げていることから、国際地すべり学会との区別がつかないとの強い意見が複数だされた。2020年度は7000ドル付与するものの、2020年度末でタスクグループの活動は終了することになった。2020年度は、津波被害調査手法の標準化をめざしたユネスコマニュアルの改定を行うとともに、この5年間で行った成果をまとめて報告するように追って指示されることになる。
       各委員会からの報告として、IFG Initiative (犯罪地質学)に関する発表が著しく目を引いた。地質科学の社会貢献の象徴的な活動であるからである。

    • 学術的内容に関する事項(当該分野の学術の動向、今後の重要課題等)

       地質科学分野は地球の創生以来の地球と生命の共進化を明らかにするような基礎科学の領域と、人間社会が直面する地球規模の課題である、地盤および気象災害、資源エネルギー、そして環境問題への対応等、社会と強く関わりを持つ領域とがある。とくに、近年の地球環境変動に伴うさまざまな災害、人口拡大によるエネルギー資源の枯渇、そして地盤災害などは、喫急の課題となっている。このような人間社会に関わる問題に適切に対処することを目指して、さまざまな国際プロジェクトが立ち上がっており、IUGS もそれらに積極的に参加している。しかし、より人間社会に関連する分野では齟齬と軋轢があり、地球レベルの問題であるにもかかわらず、地質科学の重要性が理解されておらず、IUGSの存在価値が額面通りには評価されていない。このジレンマからの脱却が急務であり、理事会における大きな課題となっている。
       こういう流れの中で、このたびの理事会において、あらたに2つのイニシアティブが立ち上がり、動き出したことを報告したい。一つ目は、Deep-time Digital Earth である。最近の世界の動向であるビッグデータを集め、情報科学との連携で新しいデータ科学を作り出そうというもので、中国政府の肝煎で立ち上がっている。データ共有のありかたについて見守りたい。もう一つは、海洋データネットワークを作り、Marine GIS の共通のネットワークの上に物理、化学、生物、地学、ひいては人文社会科学情報まで重ね合わせて、Habitat Map を作成し、海域の管理と持続的な利用を促す試みを始めようという Marine Scoping Study というイニシアティブである。ドイツ連邦地質調査所のDr. Kristine Asch と北里がコーディネータを務める。 ヨーロッパの海域データネットである、EMoDNet とアジアの海域データをなんとか繋ぎたいと考えている。世界規模での研究が動き始めた。日本の研究者の参加を歓迎する。

    • 会議において日本が果たした役割

       理事会では、北里が財務担当理事を務めており、IUGSの会計全体を管理している。来年度の予算作りに当たっても、議論をリードすることができている。委員会活動では、Task Group on Geohazards が動いており、大久保泰邦氏がチェアーを務めている。日本を含むプレート収束境界では、極端な地学現象に伴う災害が頻発しており、地質学的な視点からの地盤災害の理解と減災に向けた活動が急務になっている。明確な科学目標を立て、確実な成果を出し続ける事が、日本の地質科学の実力を評価してもらうことにつながると考えられ、理事会メンバーからも成果を上げる事が期待されている。

    • その他特筆すべき事項(共同声明や新聞等で報道されたもの等)

       「チバニアン」が新生代後期、更新世中期の基底として世界の基準として認められ、「千葉時代」と名乗ることが決定されたニュースが、少なくとも日本の多くのメディアに取り上げられた。New York Times などの欧米の新聞、American Geophysical Union の機関紙 EOS などでも取り上げられたが、科学的な意義を強調するものであり、日本国民の関心との違いが鮮明であった。
       とはいえ、「チバニアン」の決定が、日本において大きく取り上げられたことについては多くの理事が強い印象を持ったようで、IUGS の存在意義を改めて確認した次第である。



会議の模様

 IUGSはISC 傘下の国際組織としては最大規模である。地球科学系の9つの国際組織と共同してGeoUnion を結成し、地球規模の問題への取り組みを含めて、活動している。IUGSが、新しい組織の中でいかに効果的に発言し、影響を持ち続ける事ができるか、問われている。

次回開催予定
当初、2020年 3月初旬にインド・デリー市で開催される第36回万国地質学会議のおりに開催することにしていた。しかし、新型コロナウィルス蔓延を受けて、2月21日にインド政府が会議の秋以降への延期を決定し、現在、IUGS-IGC Joint Councilで議論することになっている。突然の延期通知に伴い、世界の地質科学コミュニティーは混乱している。


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