代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称  

    (和文)   第16回 国際科学哲学・方法・論理会議
    (英文)   The 16th Congress on Logic, Methodology, and Philosophy of Science (CLMPS)

  2. 会 期

    2019年8月5日~10日(6日間)

  3. 会議出席者名

    岡本賢吾(科学基礎論学会理事長)

  4. 会議開催地

    チェコ国プラハ市

  5. 参加状況

    参加国数: 60か国、参加者数:約 800名
    日本人参加者:岡田光弘 齋藤政彦 松本俊吉 山田友幸 など約20名

  6. 会議内容

    国際科学哲学・方法・論理会議(CLMPS)は、科学史・科学哲学国際連合(IUHPS)を構成する2つの団体の1つ、科学哲学・方法・論理部門(DLMPS)が4年に1回開催しているものであるが、今回はチェコ工科大学を会場として6日間にわたって開催された。



会議の模様

 今回のCLMPSの統一テーマは「異なる学術文化を架橋する」であり、このテーマに合わせて3件の基調講演が行われたほか、22件の招待講演、41件のシンポジウムが開催され、一般応募発表も700件近く行われた。並行セッションの数も多く、報告者はその一部にしか参加できなかったが、どのセッションにおいても白熱の議論が交わされていた。

大会ウェブページの冒頭でも印象深く宣言されている通り、上記の統一テーマによって意図されているのは、第一に、CLMPSの中心を成す学術分野(論理学並びに科学と技術の哲学)がこれまで歴史的に担ってきた重要な役割――自然科学・人文科学・社会科学という異なった3つの文化をまさに「架橋する」こと――を改めて強く意識し、その一層の発展を目指すことである(ちなみに、よく知られたC. P. Snowの「2つの文化」講演は1959年に行われ、したがって本年2019年にちょうど60周年を迎えるが、本大会のテーマは、一つにはこれを記念すべく設定されたとのことである)。と同時に、やはり同じ宣言にある通り、地球上の多様な諸地方・諸地域の間の文化的相違に目を向け、とりわけ、これまで十分に反映されてこなかったマイノリティーの文化との豊かな対話を行っていくことが、CLMPST自身これからますます注力すべき課題として意識されている。実際、例えば大会4日目に行われた第2基調講演(Heather Douglas: Scientific Freedom and Scientific Responsibility)は、報告者も参加したが、以上の2つの課題に対して、この問題に一貫して誠実に取り組んできた研究者が応答しようとする大変充実したものであった。
他方また、報告者の個人的意見を含むことになるが、以上と並んで印象深かったのは、第3基調講演(Joel D. Hamkins: Can Set-theoretic Mereology serve as a Foundation of Mathematics? )である。こちらは、現代の数学の哲学の先鋭な問題意識と、数理論理学の先端的なテクニックとを駆使して展開される専門性の高いものであったが、まさに「諸科学の架け橋」としてのDLMPSTにふさわしい、大変充実した講演であったと思う(実はこの講演の内容は、もともと日本の論理学者・菊池誠氏の問題提起を受けてHamkinsが発展させたものであり、Hamkins自身、この点を講演内で大いに強調していた。ここに地方・地域間の「架け橋」としてのDLMPSTの働きの一端をも併せて認めたとしても、あながち牽強付会ではないであろう)。

会議四日目に行われた総会では、次回の開催地の決定があった。周知の通り、近年では、日本で国際大会開催を行うことが諸外国からますます期待され、実際に開催されることも増えているが、そうした中、様々の方々から科学基礎論学会(DLMPSTの日本側窓口の一つ)に対して「次回DLMPST大会開催の招致案を出してはどうか」という趣旨のお誘いを受けた。そのためもあって、今年の初めころから、 DLMPSTの運営委員である岡田光弘氏、神戸大学の齋藤政彦氏・菊池誠氏ら(神戸大は、会場を提供するという大変労苦を伴う役割を引き受けてくださった)と報告者などで、神戸コンベンションビューローの支援も得ながら、2023年神戸開催のための招致案を準備 していた。総会の場では、アルゼンチンのブエノスアイレスからもう一つの招致案が提出され、それぞれがプレゼンテーションを行った上で、投票が行われた。結果は、神戸48票、ブエノスアイレス56票で、残念ながら神戸への招致はならなかったが、日本で開催することの意義や魅力はかなりアピールできたものと考えられ、今後とも、DLMPSTと日本側との交流・協力を大いに進めていくということで、DLMPSTと私たちは意見が一致している。この点でも、今回、派遣をしていただいたことに大いに感謝申し上げる次第である。併せて言うと、ブエノスアイレス大会が行われれば、DLMPSTとして初めての南米大会ということになる(アジアでは中国で行われたことがある)が、まさにその点で「諸地方・諸地域の架け橋」というテーマが成就したとも言え、実際、投票した会員の中には自覚的にそうした選択を行った者も少なくなかったと拝察される。この意味で、私たちとしてもブエノスアイレスに決定したことを心から ともに喜びたいと考えるものである。

DLMPSTの前回大会であるヘルシンキ大会の報告の中で、伊勢田哲治氏は「科学哲学はまだまだ欧米が研究の中心であり、アジアの研究者はそれほど大きな業績を挙げているとはいえない。(中略)しかし、科学哲学という分野が興隆していくためにさまざまな視点を取り入れていく必要があることは言うまでもなく、そのためにはCLMPSが交流のプラットフォームとしてますます盛んに開催されていくことが重要であろう。」と書かれている。まことに的を射た、もっともな指摘である。実際、今回の大会に参加してみて、依然同じ課題は残されていることを認めざるをえなかった。しかし同時に、以上述べてきたとおり、状況は大きく改善されつつあり、なお一層の発展を望みうるということを確認しておきたい。


次回開催予定:
2023年 アルゼンチン共和国 ブエノスアイレス



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