代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称  

    (和文)   アジア若手アカデミー会議 in イスラエル 「科学と社会: その課題と可能性」
    (英文)   “Science and Society: Challenges and Prospects” A Meeting of the Asian Young Academies in Israel

  2. 会 期

    平成30年2月11日~12日(2日間)

  3. 会議出席者名

    岸村 顕広、狩野 光伸

  4. 会議開催地

    エルサレム(イスラエル)

  5. 参加状況  (参加国数、参加者数、日本人参加者)

    参加国数: 約10か国、参加者数:約40名
    日本人参加者:岸村 顕広、狩野 光伸

  6. 会議内容  

    今回のアジア若手アカデミー会議は、イスラエル若手アカデミーが世話人となり運営され、エルサレムにて開催された。なお、本会合はそもそも、日本学術会議においてthe Global Young Academy (GYA)との協力の下に日本若手アカデミーにより世界で初めて開始したアジア若手アカデミー会議に源流を発している。特に前回2016年の日本学術会議で開催した同会合にイスラエルをアジアの一部と位置づけて招待したことから、今回の開催に至ったものである。今回の会合全体を貫くテーマは“Science and Society: Challenges and Prospects” であり、アジア諸国に加え、アフリカ、ヨーロッパからの参加者がいたことがイスラエルの地理的特徴を示していると考えられた。また、参加者の多くがGYA関係者(現役およびアルムナイメンバー、あるいはマネージャー)であったことを付記しておく。以下、開催日毎に内容をまとめる。

    第1日目、Sharon Aronson Lehavi氏の基調講演の後、話題提供の発表とそれに応じた質疑討論を行うセッション(Panel 1、Panel 2)、及び、円卓会議が行われた。Panel 1は、“ON THE ROLE OF SCIENCE IN POLICY” がテーマであった。北海道大学に所属のインドネシア人女性研究者のLucy Lahrita氏は、特に日本のアカデミアにおける女性研究者比率の低さをデータを示しつつ指摘し、出身国であるインドネシアを含め、アジア諸国におけるジェンダーバランス改善を訴えていた。英国で研究を行うベトナム人女性研究者のThanh Nguyen Thi Kim博士からはベトナムにおける問題を中心に、若手アカデミーの活動にいかに次の世代を巻き込みうるかについての問題提起があった。Andre Xuereb博士からは、自らの国であるマルタを小国とした上で、マルタの研究費獲得の現状の説明があり、政策との連携を重視していることが語られた。Panel 2では”ON BARRIERS AND FACILITATORS TO PROMOTING SCIENCE”がテーマとして掲げられ、モロッコの研究者・Badre Abdeslam博士からはMENA地域(Middle East and North Africa)での若手を中心とする学術振興についての話題提供があった。タイの研究者であり、GYAアルムナイであるOrakanoke Phanraksa博士とWibool Piyawattanametha博士からは、ASEAN諸国における若手研究者の現状について興味深い調査報告の結果が紹介された。台湾の英文学研究者であるChung-Jen Chen博士からは、気候変動などの課題に取り組むにあたって、これまでであれば何か権限を与えられてから具体的な活動があるという順序で来たかもしれないが、今後はまず行動を起こすことがあって、その人達に権限を与えるという順序が主流になるであろうことを、文学作品等から示唆する内容が論じられた。いずれも活発な議論がかわされ、問題点については解決のためのアドバイスがあるとともに、過去の経験にもとづいて懸念点が提示される場面もあった。

    1日目後半は、ノーベル化学賞受賞者であるAda Yonath博士の基調講演の後、2つのテーマに分かれて円卓会議が行われた。一つのテーマはPrivate vs. governmental funding of scienceであり、岸村連携会員が座長の一人を務めた。まず、研究資金における現状の把握と各国での問題点の共有のために意見交換が行われた。その結果、現状では国によらず研究資金全体が飽和状態であるにもかかわらず、研究者の数は増え、研究コストも増大していることが大きな懸念点であることが浮き彫りとなった。解決策として寄附金などへの期待も議論されたが、その一方で、利益相反や学問の自由についてどのように解決されるべきかも議論された。また、産業界からの資金提供についてはイスラエルでの実績のデータを中心に各国での産学共同研究の実態などが報告された。時間の制約で議論を掘り下げることはできなかったが、今後の産業界との連携の重要性については参加者で認識が一致しており、さらなる議論が期待されるところである。いま一つのテーマはGlobal commitment vs. national and public commitmentであったが、各国におけるglobal issueとnational issueの優先順位のあり方について情報共有が行われ、これらの要因として研究資金の提供元との関係や関連して政治との関わりなどに議論が及んだ。その他、エネルギー問題などのいくつかの具体的な話題などについて議論がなされた。最終的に各国間での対立を無くすためには適切な対話が重要であり、本アジア若手アカデミー会議やGYAなどを積極的に活用しつつ議論を進めるべきだ、と結論された。

    第2日目は、The Israel Academy of Sciences and Humanitiesの代表であるNili Cohen博士の挨拶ののち、Jonathan Ben-Dov博士から古文書のデジタル化とオープンソース化に関する最近の動向について基調講演があった。その後、Panel 3とPanel 4が行われた。いずれも、SCIENCE IN THE SERVICE OF SOCIETYがテーマであった。Panel 3では、インドの研究者であり起業家であるAkhilesh Kumar博士からその経験について話題提供があり、特にインドにおける農業の産業としての問題点の紹介と、その解決のための科学・技術の応用の事例が紹介された。狩野連携会員からは、科学的思考法の、課題に満ちた現代における意味として、新しいアイディアをより正確にするという理解が提唱された。特に、SDGsに基づく若手アカデミーの取り組み(2017年8月の岡山大学と若手アカデミーの共同開催イベントなど)の紹介があった他、瀬戸内の過去の事例の紹介を通じて、各国・各地域での課題発見とそれに基づくサイエンスの社会貢献の必要性が訴えられた。Panel 4では、環境やヘルスケアのトピックを扱い、台湾の研究者Hsien-Sung Huang博士からは、脳疾患治療の新しい戦略としてのエピジェネティクス制御に関する最近の研究成果が発表された。スペインのPedro Martinez-Santos 博士からは貧困地域(特にアフリカのマリ)における低コストな井戸の作製技術に関する紹介があった。イスラエルAndrea Ghermandi博士からは、ソーシャルメディアを活用したインドでの環境問題への取り組みについて紹介があった。Panel 3とPanel 4通じて、いずれも社会との関わりが大きい内容であり、SDGsとの関連性が述べられるものが多くあった。この他、2日目の昼食前には、2017年に発足した韓国若手アカデミーの組織紹介・活動紹介があり、今後、日本をはじめとするアジア諸国の若手アカデミーとの連携について示唆があった。昼食後にはHagai Shagrir氏 (Israel, Head of Asia and Pacific Bureau, Ministry of Foreign Affairs) からはイスラエルにおける国際化や国際連携の現状についての紹介があり、大学において英語学習プログラムを強化し効果があがっていることが報告された。また、Israel-Asia Leaders Fellowshipや他国の大学との連携についても紹介があった。

    全ての議題が終了したのち、今回の会合を総括する討論が行われた。全体を踏まえた大きな結論を得るには至らなかったが、次回以降に向けた課題が抽出された。具体的には、シニアアカデミーとの差別化可能な議事設定・議論の進め方、政策決定との関係性、議論のための調査や意見聴取の必要性、運営資金をどのように調達するか、などについて議論があった。

    以上、本会議ではアジア地区とヨーロッパ、中東・アフリカ地区をつなぎうるというイスラエルの土地柄を生かした議論が行われ、アジアの一部として考えた場合のイスラエルのユニークさを認識するに至った。今後、社会と科学の関係についていよいよ注目がなされる中で、様々な取り組みが始まってはいるが、学術としてどのように応えていくかさらなる検討が必要であることが示唆された。また、アジア全体であると対象が広範になることから、もう少し絞られたアジアの国々でテーマを絞った内容の討論を行う必要性も示唆された。



次回開催予定 未定


登壇する狩野光伸連携会員 参加者の集合写真
(The Israel Academy of Science and Humanities
敷地内にて撮影)
登壇する狩野光伸連携会員


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