代表派遣会議出席報告
会議概要
- 名 称
(和文) 国際宗教学宗教史学会 理事会
(英文) International Association for the History of Religions (IAHR),Executive Committee Meeting
(IAHRの地域学会の一つであるヨーロッパ宗教学会[EASR]の年次大会に合わせて開催された) - 会 期 平成28年6月26日 ~7月1日(6日間)
- 会議出席者名
藤原 聖子 - 会議開催地 フィンランド国 ヘルシンキ市
- 参加状況 (参加国数、参加者数、日本人参加者)
①国際宗教学宗教史学会 理事会
参加国名 デンマーク、米国、スペイン、スイス、フィンランド、ドイツ、インド、スウェーデン、リトアニア、日本
参加国数 10か国
参加者数 11名(うち日本人 1名)
②ヨーロッパ宗教学会
参加国名 フィンランド、北欧諸国、ドイツ、英国、イタリア、東欧諸国他
参加国数 約30か国
参加者数 約500人(うち日本人 5名) - 会議内容
- 日程及び会議の主な議題
①国際宗教学宗教史学会・理事会 (平成28年6月26、27日)
・会長、事務局長、会計担当、出版担当による報告
・他の委員による報告
・理事会の運営方法の検討
・若手研究者に対するメンター・プログラムの提案
・各国・地域の宗教学会の状況、新規加入
・次期世界大会開催地の選考
・学会HPのデザイン変更
・名誉会員選出委員会の推薦
・国際哲学人文学会議(CIPSH)に関する報告
・学会誌の出版状況に関する報告
・その他
②ヨーロッパ宗教学会・年次大会の日程
6月28日 オープニング・セッション、理事会
28日~7月1日 基調講演・パネル発表 (29日 総会)
7月1日 クロージング・セッション、総会
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提出論文(日本人によるもの、基調講演)
Midori Horiuchi, “What Does the Tenrikyo Funeral Rite Say to the Bereaved?”
Mitsutoshi Horii, “Sociological Theory and the Category of ‘Religion’”
Linda Woodhead, “Why 'no religion' is the new religion: exploring a major 'relocation' using Britain as a case study”
James R. Lewis, “Seeker Milieus in Nordic Countries: From Exclusive Memberships to Changing Multiple Involvements and Interests”
Giovanni Filoramo, “Relocating religion as a historiographical task. Aims and perspectives”
- 日程及び会議の主な議題
会議の模様
- (1) ヨーロッパ宗教学会 年次大会
大会のテーマは「Relocating Religion 宗教を位置づけなおす」というものであり、これは学術の動向として、
①伝統的宗教に対するオルタナティブとして、非制度的宗教、さらに「無宗教」が広がっていること
②移民の増加により宗教分布に変化が起きていること
③ ①と②を受けて、宗教研究の諸概念、理論、方法論が再検討されていること
の3点が大きな課題になっていることを示唆している。大会開催地であるフィンランドを中心とする北欧諸国を例にとれば、
①については、ルター派プロテスタント教会という伝統的な宗教(チャーチ)に対し、ヨガ、ヒーリングなど、身体と個人的体験を中心としたスピリチュアルな実践が世代を問わず受け入れられていること。さらに、このところ新たな学術的関心を集めているのは、国勢調査等で宗教所属を聞かれたときに「無宗教」であると答える者が欧米諸国において増加していること(Nonesという呼称が用いられている)が挙げられる。Nonesがどのような社会的特徴をもつかについては国際的共同研究が進められており、同じように国教会がありかつ世俗化が進んでいると言われてきた英国と北欧諸国でも、Nonesが人生儀礼をキリスト教式で行うかどうかの割合には有意な違いがあること、他方、政治的傾向性や階級等とNonesの間には相関性が認められないこと等が明らかになりつつある。日本については、「無宗教」を自称する者が多いことが指摘されて久しいが、欧米諸国でのこのような新たなNones研究に照らして、日本人の「無宗教性」はどのような特徴を持つのか、そこに変化はあるのかといったことを改めて精査することが課題となっている。②については、ムスリム移民(加えて、近年はシリア難民)の増加により、宗教的マイノリティに対する合理的配慮の法令化、学校教育の対応、メディアによる報道の問題などが起きていることが挙げられる。また、ムスリム移民とホスト国の関係は、ヨーロッパ諸国内部でも一様ではなく、もっぱら南アジアからの移民により構成される英国のムスリムと、多様な国の出身者から成る北欧のムスリムの場合でどのような相違が発生するかなども研究されている。今後の課題としては、ヨーロッパ宗教学会、国際宗教学宗教史学会にはフランスの研究者の参加が少なく、フランス内のデータ、議論への参照が十分ではないことが挙げられる。フランスの共和主義・同化政策下でのムスリム移民の現状との比較は極めて重要であるため、研究者間の研究交流の構築は急務である。
③については、フィンランドにおける宗教研究の歴史的変化が象徴的である。フィンランド宗教学は19世紀後半の民俗学的研究を主な起源とし、20世紀中葉には(歴史的には過去の)諸宗教の共通要素を共時的に比較・類型化する宗教現象学が興隆した。しかし、1990年代以降、急速に現代社会の宗教現象に対する社会学的研究が盛んになる。より正確には、宗教民俗学、宗教人類学、宗教社会学、宗教心理学といったように、方法論の違いによって研究者グループが分かれるのではなく、スピリチュアリティ、宗教と経済の関係、宗教的ダイバーシティなど、研究テーマによって研究者のネットワークが作られるという傾向が顕著になっている。その中で、20世紀に多用された宗教学の古典的概念・理論をどう批判的に継承するかが課題として共有されている。
- (2) 国際宗教学宗教史会 理事会
熱心に話し合われたのは、中東や南米などこれまで国際宗教学会への参与が少ない地域の研究者といかに研究交流を増やしていくかという課題であった。今期の事務局長、Afe Adogame氏はナイジェリア出身であり、欧米諸国出身者以外の事務局長は学会史上初ということもあり、アフリカの研究者を支援するために、メンター・プログラムを提供できないかといった提案がなされ、その可能性について意見が交換された、日本の場合は、他の非欧米諸国に比べ、研究の蓄積は多いが、海外に向けての発信量がなお十分ではないという課題がある。報告者は今期、国際宗教学会の出版担当委員を務めるため、この点の改善に向けて、学術誌で日本の研究者による特集を組むほか、国際宗教学会叢書用に新企画を提案し、他国の研究者の協力をとりつけるなど、実質的な対策をとり始めている。
次回開催予定 2017年 夏季
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