代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称  

    (和文)   哲学系諸学会国際連合運営委員会 及び付帯シンポジウム
    (英文)   Steering Committee Meeting of FISP (Federation Internationale des Societes de Philosophie) & Symposium

  2. 会 期  平成27年3月26日~29日(4日間)
  3. 会議出席者名  佐々木 健一
  4. 会議開催地  タイ王国バンコク市、チュラロンコーン大学(委員会はマンダリンホテル)
  5. 参加状況  (参加国数、参加者数、日本人参加者)
      24か国、35名(委員会)、日本人2名。シンポジウムは概数で80名(日本人は3名)
  6. 会議内容  
    • 日程及び会議の主な議題

      ―3月26~28日は、チュラロンコーン大学において、同大学哲学科主催(FISP後援)のシンポジウム「大いなる哲学的分割を架橋する」、29日はマンダリンホテル会議室において、FISPの定例運営委員会。委員会における主たる議題は、会長、事務局長の事業活動報告、出納責任者の会計報告、2013年の世界哲学会議(北京大学)に関する諸事項の決定、新規加入申請学会の審査、次回の開催地の問題。

    • 会議における審議内容・成果

      ―委員会における主たる審議内容、結論は次の通り。会長、事務局長、出納責任者の報告では、FISPの活動は概ね順調に、かつ拡大基調で展開されている。会長の報告のなかには、今年の国際哲学オリンピック(高校生の哲学論文コンクール)が5月に開催されること、その中心的開催地エストニアのタルトゥには、会長の代理としてマクブライド前会長が参加し、他に2人の審査員が派遣されることが含まれていた。また特に触れておくべき1点の問題は、繰り返し指摘されていることだが、ユネスコとの関係である。人文系の諸学会の連合組織としてCIPSHがあり、FISPもこれに加入している。CIPSHはユネスコ本部の一室を借りて本部とし、FISPはそこに間借りしてきたが、ユネスコはCIPSHに高額の賃料を払うよう要求し、結果として、CIPSHとともにFISPもこの本部を失うことになった。また、CIPSHを主体として刊行されている国際的な雑誌である『ディオゲネス』に対する財政援助の削減の問題が起こっている。
       最も重要な議題は、2013年の世界哲学会議(北京大学)に関する基本的な諸事項を決定することである。昨年9月のプログラム委員会の検討結果に基づき、議論がなされた。主題はすでに “Learning to Be Human”(中国語では學以成人)と決まっている。会期は、2018年8月13~20日と決まり、北京の組織委員会の用意した3つの案から1つのロゴを採択した。会議での公用語は英仏中露西独であることが確認され、それぞれの国語での上記の主題の表現が決められた。以下の諸点を含めて、今回決定された基本事項は、間もなく発行される第1サーキュラーに記載されるが、そこではアラビア語でも主題が挙げられることが認められた。
       続いて全体会議(Plenary Sessions)とシンポジウムの主題が検討された。組織委員会は参加者を5000人と見込んでおり、それに基づいて、それぞれのセッションの数を通例より多い5つ、10と設定している(この2つのスピーカーは招待講演者)。細部の修正を経て、原案が認められた。同じく “Contributed Papers”(一般参加者の研究発表)のセッションについて、94の原案を検討し、修正を加えて98のセッションを決めた。その他のセッションの形態(寄付講義、FISPの委員が企画する invited sessions, ラウンド・テーブル、ワークショップと学生セッション、FISPの会員学会のセッション)についても確認された。公募法(上記 contributed papers)の字数、書式も確認された。登録料は前回と同じ250米ドルで、2段階の早期割引、同伴者100ドル、学生50ドルという案が承認された。これらの内容は第1サーキュラーに記載され、早急にされることとなった。

    • 会議において日本が果たした役割

      特にない(国別に貢献がはかられるような性質の会議ではない)。

    • その他特筆すべき事項(共同声明や新聞等で報道されたもの等)

      今回の会議がバンコクで開かれた動機のひとつは、シリントン王女が60歳の誕生日を迎えられる、ということだった。委員全員が短いが謁見を賜り、会長、事務局長らがお祝いの品を献呈した。王女は、英仏独中国語が堪能で、チュラロンコーン大学の後援者でもあるということで、言葉を交わした会長らはその知的な教養に感銘を受けた。



会議の模様

この欄では、運営委員会に先立って行われたシンポジウムについて報告したい。2つの点に強い印象を受けた。ひとつは哲学そのもののスタンスの問題、もうひとつはこのシンポジウムを企画したタイの哲学者たちの研究レベルの高さである。 上記のようにシンポジウムのテーマは「大いなる哲学的分割を架橋する Bridging the Great Philosophical Divides」というものだが、これは、企画者の弁によれば、アメリカにおける東洋の哲学思想の位置に関する思いに由来する。そこで想定されている「大いなる哲学的分割」とは、所謂比較哲学に関わるテーマと考えられる。しかし、報告された研究のなかに、特定の主題に関して異文化(特に東西)の似た学説を並べて、それぞれの特徴、差異を指摘する、というような研究は殆ど無い。比較哲学と似ているのは「間文化的哲学」の主張だが、これも文化対立と交流に力点をおいている。このほか、参加者は主題の「哲学的分割」をさまざまな位相において解釈して、自らの研究主題と関係づけていた(大陸の哲学と分析哲学、理性主義と主意主義、意見や立場の対立に由来するヘイト・スピーチや流言、藝術におけるオリジナルと贋作、意識に対する無意識、ジェンダーなど)。総じて、哲学を現実の社会問題に応える課題を担うものとして捉えている、との印象を強く受けた。
第2は、タイの哲学者たちの研究発表のレベルが非常に高いということである。それはベテランの先生方、若手の研究者を問わず認められた。特に若手の場合は、日本の若手の研究者たちの仕事に危機感を覚えさせるものであった。研究発表の言語能力の点では既に負けているように思う。注目すべきは、現実に目を向け、そこから問題意識をくみ取っている柔軟性であり、その研究活動は生き生きしていた。


次回開催予定平成28年3月末
この開催地の問題は議題の1つであった。昨年の北京での会議において、アビジャン(象牙海岸)での開催が決まっていた。しかし、主としてエボラに関する懸念から、再考を求める声が出ていた。ブラジルへと変更することになった(流動性の余地を残した印象ではある)。


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