代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称  (和文)   日本カナダ女性研究者交流
               (英文)    The Canada-Japan Women in Science, Engineering and Technology (WISET) Exchange Programme
  2. 会 期
      2014年10月1日~平成26年10月10日(10日間)
  3. 会議出席者名

      Chris Herd(University of Alberta、受け入れ研究者)、Stephen Urquhart(Canadian Light Source, University of Saskatoon、受け入れ研究者)、Robert Bechtel(University of Alberta)、University of Alberta関係者2名、University of Saskatoon関係者9名、St. Joseph Composite High School、Ross Sheppard High School、Lutheran Collegiate Bible Institute 、Evan Hardy Collegiate、Oskayak High School、Walter Murray Collegiate各高等学校教諭、薮田ひかる(大阪大学)

  4. 会議開催地
      エドモントン市、サスカトゥーン市(カナダ)

  5. 参加状況  
      参加国:カナダ、日本(2カ国)
       本プログラムへの参加者総数:約20名
       日本人参加者:派遣代表者(薮田)1名
  6. 会議内容  
    • 日程及び会議の主な議題
      10月 1日(水)日本発、カナダ(エドモントン市)到着
      10月 2日(木)St. Joseph Composite High SchoolとRoss Sheppard High Schoolでの訪問、および理科の授業見学
      10月 3日(金)University of Albertaにて講義、女子大学院生向けの進路セミナー(”Behind the Scene”)、隕石キュレーション見学、ナノ二次イオン質量分析装置(nanoSIMS)見学
      10月 4日(土)・5日(日)サスカトゥーン市へ移動、休日
      10月 6日(月)Canadian Light Source見学、University of Saskatoonの女性大学教員との昼食会、研究者面談、セミナー
      10月 7日(火)Lutheran Collegiate Bible Institute へスカイプ授業、Evan Hardy Collegiateでの授業(2コマ)
      10月 8日(水)Oskayak High School, Walter Murray Collegiate理科クラブでの授業
      10月 9日(木)カナダ発
      10月10日(金)日本着
    • 会議における審議内容・成果
      University of Alberta訪問では、隕石キュレーション施設や微小分析センターを見学し、宇宙化学分野推進に向けた取り組みがうかがえた。Herd博士と所属機関長との対談では、これからの太陽系科学に必要なことについて議論し、原始太陽系星雲の無機・有機物進化を解明すべきとの問題意識を共有した。University of Saskatoonの放射光実験施設見学では、ソフトマテリアルのX線損傷を防ぐためのクライオ走査型透過X線顕微鏡とそれに付属する3次元トモグラフィーの開発進捗に関する情報を得ることができた。5カ所の高校訪問(1校のみスカイプ授業)では自分の研究内容を紹介し、宇宙における生命の起源へのカナダの子供達の好奇心を刺激することができた。
    • 会議において日本が果たした役割
      宇宙化学や生命起源といった学際分野、およびその関連話題がまだそれほど普及していないカナダの大学、研究機関、高等学校に、隕石有機物研究や小惑星サンプルリターン探査の魅力と意義を広めた。また、海外の女性研究者ロールモデルとして、カナダの子供達や大学(院)生の理系進出を勇気づける役割を果たした。
    • その他特筆すべき事項(共同声明や新聞等で報道されたもの等)
      なし


会議の模様

2-1. 学術的内容に関して
カナダ・エドモントン市にあるUniversity of Albertaでは、2013年に国際隕石学会が開催され、またタギッシュ湖に落下したタギッシュ・レイク隕石中の有機化合物に関する最近の研究がScience誌に掲載されるなど、報告者の専門分野である宇宙化学が比較的発展していることで知られる。今回の海外派遣では、地球外物質への汚染を抑えることを目的として独自に建設された低温隕石キュレーション施設や、微小な地球外物質の分析に利用されるnanoSIMS 等が設置された微小分析センターなどを見学し、宇宙化学における一層の推進に向けた取り組みがうかがえた。また地球惑星科学分野全般において博士課程進学率、大学院生の女子の人数共に高いといった点にはわが国が学ぶべき要素があった。

一方で、カナダ・サスカトゥーン市にあるUniversity of Saskatoonには宇宙化学に関わる研究室が全くなく、大学内で報告者が自身の研究内容に関するセミナーを行った際の聴衆の反応にはカルチャーショックのような温度差さえ感じられた。そうはいっても、University of Saskatoonに隣接する放射光実験施設Canadian Light Source(CLS)で開発された走査型透過X線顕微鏡(STXM)が欧米・日本の宇宙物質科学分野で広く活用されている点やカナダ独自の低温STXMが開発されている点では最先端技術開発が進んでいる研究機関である。University of Saskatoonで最も発展している研究分野は農学ということで、CLS訪問では馬などの家畜の全身を画像化する大型放射光X線回折装置など日頃あまり見られない装置などを見学することができた。このような分析装置は将来的に人体への医療にも適用できるポテンシャルを有することが期待できる。


2-2. 学生(大学生、高校生)との交流
今回の海外訪問では、とくにカナダ王立協会から、女性研究者の抱える諸問題やキャリアパスについて研究機関・高校と重点的に交流するよう求められていた。しかしながら報告者自身は、科学研究を遂行するにあたってこれまでジェンダー問題を意識したことはほとんどなく、加えて独身であるためにワーク・ライフバランスについて助言できる立場ということでもなかった。そのため、本件に関しては、各高校を訪問する度に「No matter what gender - we’re Scientists」「It is true that woman in science is still minority, but minority is Advantage」と自身の正直な本音を子ども達に伝えることに一貫し、キャリアパスについては女性としてというよりはあくまで“一研究者として”助言できること(たとえば、海外留学のすすめ、分野横断的思考、など)を述べた。毎回の授業の最後に、松下幸之助氏の言葉「出る杭は打たれるが、出過ぎた杭は打たれない(The nail that sticks out gets hammered down, but the one sticking way too out doesn't.)」を紹介して10代への応援のメッセージとした。訪問した高校の中には、(授業後に知ったことであるが)ネイティブアメリカンの子ども達が集まる学校もあり、女性研究者が「マイノリティ」であるとの話題が彼らにとって共感できる方向に作用したかそれとも触れてはいけない方向に作用したか、微妙なラインも経験した。しかし、授業中の子ども達の純粋な表情や、授業に集中せず続いていた一部の笑い声がはやぶさ・はやぶさ2探査機のイメージ動画を見せた途端に静まり返るような様子を肌で感じた限り、報告者が伝えたかったこと:私達はみな宇宙の塵から生まれ、46億年間かけて旅をしてきた尊ぶべき等しい生命(いのち)であるということを、彼らに間接的にでも感じてもらったのではないかと思っている。


2-3. 総括
今回の海外派遣は、報告者の研究分野に関連する研究機関への訪問と、現地の高校での授業および女性科学者のキャリアパス紹介、の2つが主な目的であった。エドモントン、サスカトゥーンでの研究機関および高校への訪問事業全般を総じてみると、宇宙化学、惑星科学の研究分野はカナダではまだそれほど進んでいないような印象を得た。今回はカナダ西部の訪問のみでトロントなど東部都市を含む全国区を訪問したわけではないが、おそらく、カナダに特徴的な自然と土地面積の広さを生かし人類の生活に直接根づいた農学、地球資源学、環境科学などを国全体として振興している一方で、我々の起源への探究心や好奇心を原動力とした学際的な地球惑星科学分野は未発展と考えられる。しかし、それでも、科学に興味を持つ高校生のクラスや、科学教育に力を入れている高校教諭が担任するクラスで研究紹介の授業を行ったところ、けして身近な話題とはいいがたい太陽系・隕石・惑星探査といった内容に対しても数々の非常に優れた質問や良い反応が子ども達から寄せられた。こういった子ども達の科学への好奇心や取り組む姿勢は、質問やディスカッションを行う力を育てる教育習慣があまりない日本よりも優れていると感じる。今後の科学教育への取り組み方次第で、将来的に次世代の子ども達の地球惑星科学への好奇心が芽生える可能性を強く期待できた。今回訪問したある高校の物理の授業では、子ども達の意欲をうまく引き出すべく、外から力を与えても生卵が割れないような容器を作ることを目標に、ゆでる前のスパゲッティを使って班ごとに自由工作するという、剛体力学(?)に関する内容を見学した。アイディアに独創性があるだけでなく、実験が次々と失敗して(それがねらいかも?)スパゲッティと生卵が粉々に砕け散った様子をクラス全員で共有するのもまたご愛嬌で、記憶に残る楽しい授業であった。一方で、カナダの高等学校理科の授業レベルそのものに関しては、一部の特殊教育高校(self-directed high school)で電子顕微鏡や分子生物学など独自のカリキュラムを扱っていたことを除き、多くの公立高校での授業は意外と知識の詰め込みのような教え方をしている所もあり、日本に比べるとレベルがやや低いようにも感じられた。

科学教育とは別に、訪問したほとんどの高校がインターナショナルで、カナダ国民だけでなくパキスタン、中国、韓国等の外国人の子ども達も多かった。このことは、カナダで教育を受けさせることを希望する海外の家庭が多いことを表しているようにも感じられ、やはり平和的な人格を持つカナダ人の人格形成教育ゆえであろうか、と推測した。それでもまだ、ネイティブアメリカンの子ども達が一カ所に集められるなど人種・部落差別は残っているようである(日本の在日朝鮮学校のような状況かもしれない)。報告者がサスカトゥーンを訪問した期間はバスのストライキが続いていて、ネイティブアメリカンの高校だけがスクールバスが手配されずに時間割を短縮せざるをえない状況であった。子ども達のちょっとやんちゃで純粋な顔々を思い出すと、こういった問題が少しでも早く解決され、真に平等な社会になってほしい、私達大人がそのような社会を作らねば、と切に思った。

今回の海外派遣を通して、ほんのわずかではあるが、カナダ・日本間の外交官のような仕事を経験させていただいた気がしている。普段の研究以外の世界を体験する機会をいただき、自分が将来関わっていきたいことが広がった。これを機会に、できれば今後も、カナダ・日本はじめ、海外と日本との国際教育を推進する事業を通して科学の発展に貢献したいと考え始めているところである。


次回は2016年8月、モントリオール(カナダ)で開催されることが決定された。


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