代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称  (和文)   第47回IUPAC総会 および 第44回IUPACコングレス
               (英文)   47th IUPAC General Assembly and 44th World Chemistry Congress
  2. 会 期  2013年8月08日~15日(8日間)
          2013年8月11日~16日(6日間)
  3. 会議出席者名   所 裕子
  4. 会議開催地  イスタンブール(トルコ共和国)
  5. 参加状況  (参加国数、参加者数、日本人参加者)
      約60カ国、約300名、約15名
      約60カ国、約1800名、数十名
  6. 会議内容
    • 日程及び会議の主な議題

      IUPAC(国際純正・応用化学連合)は、グローバルな視点で化学を進展させていくこと、化学技術を通して現代社会に貢献していくこと等を主な任務としており、2年に1度、総会(General Assembly)とコングレス(World Chemistry Congress)が開催されている。今年は第47回IUPAC総会(2013年8月8日~15日)と第44回IUPACコングレス(2013年8月11日~16日)が、トルコ共和国のイスタンブールで開催された。
      IUPAC総会では、上述した任務を遂行するため、8つの専門分野の議題を取り扱うディビジョン・ミーティング、これからの化学のあるべき姿を議論するワールド・ケミストリー・リーダーシップ・ミーティング、化学産業や化学教育など特定のトピックスを取り扱う常設委員会、IUPACの最高決議機関である理事会、Distinguished Women in Chemistry/Chemical Engineering award授賞式が開催された。
      IUPACコングレスは、化学全分野を対象とした学術的な研究発表および研究討論を目的としており、野依良治先生をはじめとするノーベル賞学者らによる基調講演などが行われるとともに、約60カ国から世界中の化学研究者が集まり、各専門分野に分かれて研究発表および研究討論が行われた。

    • 会議における審議内容・成果

      IUPAC総会ではYoung Observerとして参加した。Young Observers Briefing(説明会)、ディビジョンI(物理化学、生物物理化学分野)のミーティング、ワールド・ケミストリー・リーダーシップ・ミーティング、理事会に参加した。
      Young Observer Briefingでは、IUPACの任務および活動に関する説明、IUPAC総会でYoung Observerが果たす役割についての説明が行われた。
      ディビジョンIのミーティングでは、ディビジョンIのこれまでの活動報告、これからの活動の提案、現在進行中のプロジェクトについての進歩状況報告、新規プロジェクトの提案など、15個の議題について報告・議論・提案が活発に行われた。
      ワールド・ケミストリー・リーダーシップ・ミーティングでは、化学の将来(The future of chemistry)、純粋および応用研究のスコープ(The scope of Pure and Applied Research)、IUPACの役割(The Role of IUPAC)、キャリアの願望(Your Career Aspirations) の4項目を審議した。まず、純粋および応用研究のスコープ、IUPACの役割、キャリアの願望 のグループ3つに分かれ、ディスカッション形式でミーティングが行われ、次に、全体会議が行われた。
      理事会では、国ごとに決められたエリアに着席した形式で、本総会での成果の発表および決議などが行われた。各ディビジョンのプレジデントによるディビジョン・ミーティングの成果、各常設委員会のチェアーよる委員会の成果、Young Observer代表によるワールド・ケミストリー・リーダーシップ・ミーティングの成果が報告された。財務報告、次回総会コングレスの説明、その他必要な決議作業を経て、次々回開催地、Vice President、Members of the Bureauの投票などが行われた。
      Distinguished Women in Chemistry/Chemical Engineering award授賞式および受賞講演会では、11名の国際的女性研究者が受賞し、受賞記念講演が行われた。日本からは、栗原和枝東北大学教授が受賞された。
      IUPACコングレスでは、基調講演および関連分野のセッションに参加した。特にマテリアル・サイエンス・セッションでは、セッション・チェアーを務めるとともに口頭発表を行い、研究討論を深めた。

    • 会議において日本が果たした役割

      巽和行先生がIUPAC会長を務められ全体を指揮されており、また、総会においてディビジョンIでは山内薫先生がプレジデントを務め、強いリーダーシップをもって活動されていた。さらに、栗原和枝先生がDistinguished Women in Chemistry/Chemical Engineering awardをご受賞された。また、理事会では日本が米国、イギリス、中国と並んで6票の投票権(最多投票権数)を有し、存在感を見せた。その他、総会において、日本から参加された先生方や研究者の方々が鋭い意見を発信し各国の代表と議論を交わしており、コングレスにおいては、野依良治先生の基調講演をはじめ日本から参加された研究者の方々が活発に研究発表・討論をされており、本会議において日本が果たした役割は非常に大きいものであった。

    • その他特筆すべき事項(共同声明や新聞等で報道されたもの等)

      インターナショナルイヤー・オブ・ケミストリー・セレブレイションズ2011のプロジェクトの一つとして始められた、世界の優れた女性化学者を顕彰する賞Distinguished Women in Chemistry / Chemical Engineeringの表彰式が開催された。11名の女性化学者が受賞され、日本からは栗原和枝・東北大学教授が表彰された。

会議の模様

IUPAC総会ではYoung Observerとして参加した。
Young Observers Briefing(8月8日): 説明会には巽IUPAC会長やMoreau前会長らIPAC幹部の方々も多数参加され、IUPACはグローバルな視点で化学を進展させ、化学技術を通して現代社会に貢献していくこと等を主な任務としていること、2年に1度、総会とコングレスを開催していること、毎年多くの専門的なシンポジウムを開催していること、新元素の命名やデーターの国際標準の設定など多くの活動を行っていること、また、IUPAC組織の説明などが行われた。IUPAC総会でYoung Observerが果たす役割についても説明が行われ、約30名程度のYoung Observer全員が自己紹介を行った。日本からのYoung Observerは竹内孝江先生と報告者の2名であった。アジアから2名のYoung Observerが参加しているのは日本だけであった。今後も日本の存在感を高めていくことが重要と感じた。
ディビジョンI・ミーティング(8月9日、10日):2日間行われたディビジョンIのミーティングでは、プレジデントである山内先生が議長を務められ、米国、イギリス、フランス、イタリア、ドイツなど、世界各国からの代表者からなる約20名の参加者により活発な議論が行われた。Titular MembersやAssociate MembersなどディビジョンIの委員の紹介、ディビジョンIの過去2年間の活動報告(国際ミーティングなど)、これからの活動の提案、現在進行中のプロジェクトについての進歩状況の報告、新規プロジェクトの提案、物理化学Cartoon学生コンペの結果報告、アドバイザリー委員リストの報告、会計報告、ディビジョン間の連携活動についての報告および今後のさらなる必要性に関する議論など、15の議題について審議が行われた。現在進行中のプロジェクトについては、例えばIUPCAが出版しているグリーンブックの要約版を作成するプロジェクト、プロテインの円偏光二色性データーベースを含めた円偏光二色性分光のフォーマットを作成するプロジェクトなど、1つ1つのプロジェクトをリストアップし内容の確認および進歩状況を確認した。新規プロジェクトの提案という議題では、物理化学関連のプロジェクトのみならず、生物物理関連のプロジェクトも積極的に走らせたいという意見が出され、今後のプロジェクト提案の課題となった。また、会議二日目にはディビジョンIII(有機化学、生物分子化学分野)、ディビジョンV (分析化学分野)およびディビジョンVIII (化学命名と構造表記分野)との合同ミーティングが開催され、ディビジョンを超えた活動の必要性や、合同プロジェクトにおけるディビジョン間の共通点や相違点に関する議論が行われた。
ワールド・ケミストリー・リーダーシップ・ミーティング(8月13日):ミーティングの冒頭、巽IUPAC会長より挨拶があり、続いて担当の方からミーティング内容についての説明がなされた。審議内容は 化学の将来(The future of chemistry)、純粋および応用研究のスコープ(The scope of Pure and Applied Research)、IUPACの役割(The Role of IUPAC)、キャリアの願望(Your Career Aspirations) の4項目であり、午前中は、純粋および応用研究のスコープ、IUPACの役割、キャリアの願望 のグループ3つに分かれ、ディスカッション形式でミーティングが行われた("化学の未来"は、全てのグループでディスカッションすべき事項となった)。純粋および応用研究についてのグループ・ディスカッションでは、議長1名、Young observer12名(ポーランド、イギリス、ロシア、アメリカ、ガーナ、ナイジェリア、モロッコ、ドイツ、日本など)、observer 5名が参加し、Young observerそれぞれの自己紹介の後、ディスカッションが始まった。化学の未来についてという議題に対し、グローバルな視点で化学が独自に貢献できることとは何か議論した。グローバルに深刻な問題として、食料問題、アフリカにおけるアマリアの問題、水資源環境問題、健康問題、(石油やレアメタルなどの)資源の枯渇問題、エネルギー問題など諸問題が挙げられた。そして、これらの問題を解決のために、室温触媒の実現、効果的な環境浄化システムの構築、新しい酵素の開発、新しい物質の開発など、優れた化学技術を開発し、役立てていくべきという意見が出された。次に、アカデミックと産業界の協力についての議題となった。まずは各国の現状を説明することがら始まり、各国により状況がかなり異なることが報告された。例えば、米国ではアカデミックと産業界の協力体制ができているのに対し、アフリカでは全くなく、また難しい状況であること。ポーランドやロシアでは、インターンシップなど前向きな協力体制を促進しているものの、アカデミックおよび産業界の双方で、心の中では懐疑的であるとのこと。日本は、まだまだ十分とは言えないものの協力体制が進んできているということ、協力体制を構築していこうという試みが近年盛んであるという認識がなされた。各国の共通事項としては、産業界は利益優先であるから短期間での利益を求め、アカデミックは数十年先の利益の可能性を開発している、このギャップを埋めるべくコミュニケーションをとり共同開発を進めていくことが重要というという点が挙げられた。また、アカデミックと産業界の協力を促進するには、産学連携プロジェクトに対する政府からの科学研究費が非常に有効だろうという意見がなされた。しかしながら、そうすることによる基礎科学の衰退は避けなければならないというもの共通認識であった。
午後からは全てのグループが集まり、全体会議となった。Moreau前会長によるオープニングから始まり、各グループからの代表が、午前中に行ったディスカッションの成果を発表した。各グループ代表の話を受けて、パネリストの方々による発表が続き、次に、会場全体が参加する形式のディスカッションが活発に行われた。全体会議では、化学は、物理・薬学・材料化学などの分野間の壁を超え、お互いに協力しながらグローバルに深刻な問題の解決にあたっていく必要があること、また、IUPAC独自の役割としては、諸問題に対する意識を高める啓蒙活動、オピニオンリーダーの枠割を果たす、リーダーシップを持って汚染問題をマネジメントすることなどが挙げられた。その他化学教育の在り方についてなども議論された。
理事会(8月14日、15日):各国の代表が集まり、国ごとに決められたエリアに着席した形式で、会議が進行された。オープニングの後、巽IUPAC会長より、前回のIUPAC総会、2011化学年におけるイベント、新元素の命名、ユネスコや各国の化学会との連携、産業界との連携に関する活動成果の説明や、IUPAC役員立候補者の紹介などがなされた。会場全体が参加する形式のディスカッションも行われ、例えば、IUPACの知名度をさらに高めていくための意見などが出された。休憩をはさんで、各ディビジョンのプレジデントにより、本総会でのディビジョン・ミーティングの成果が発表された。日本からは、ディビジョンIのプレジデントである山内先生が発表された。また、各常設委員会のチェアーより、本総会で行った委員会の成果も発表された。その後、財務報告、次回(2015年・韓国)開催地の説明があり、次々回(2017年)の開催候補地の代表による候補地のアピール(オーストラリアとブラジル)が行われた。投票の結果、次々回は、ブラジルのサンパウロに決定した。最後に、2019年の開催予定地であるフランス・パリのアピールが行われ、開催が承認された。2日目は、Vice President、Members of the Bureauの投票などが行われた。Vice PresidentにはロシアのNatalia Tarasova氏が、Members of the Bureauには日本からは山内薫先生が選ばれた。また、Divisional Officersの承認も行われた。最後に、巽IUPAC会長からのスピーチが行われ、閉会した。
Distinguished Women in Chemistry/Chemical Engineering award授賞式および受賞講演会(8月15日、16日): Distinguished Women in Chemistry/Chemical Engineering award授賞式はミリタリー・ガーデンで行われ、Mary Garson クィーンランド大学教授(オーストラリア)、Eva Hey-Hawkins ライプチィヒ大学教授(ドイツ)ら11名の女性研究者が受賞した。日本からは、栗原和枝東北大学教授が受賞された。受賞講演会では、各国の女性研究者を取り巻く状況や、ご自身の研究歴についてなどのお話がなされ、特に栗原先生からは、日本の女性研究者の状況について、男女共同参画の取り組みの紹介などのお話がなされた。
コングレス(8月11日、12日):IUPACコングレスは、様々な国から多くの研究者が参加しており、活気あふれる学会であった。基調講演および関連分野のセッションに参加した。特にマテリアル・サイエンス・セッションでは、セッション・チェアーを務めるとともに口頭発表を行い、研究討論を深めた。電池や光合成などエコ・サイエンス分野の研究が多く発表されており、環境問題における化学の重要性を再認識した。

次回開催予定 2015年8月 韓国(釜山)で開催予定である。

会議の模様 会議の模様 会議の模様
Distinguished Women award を受賞された
女性研究者の方々
IUPAC総会の会場(ミリタリー・ミュージアム) ワールド・ケミストリー・リーダーシップ・
ミーティングの様子
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