代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称  (和文)   太平洋学術協会 執行理事会・評議会及び太平洋学術中間会議
               (英文)   PSA Council and Executive Board Meeting and the 12st Pacific Science Inter-Congress
  2. 会 期  2013年7月07日~12日(6日間)
  3. PSA分科会からの会議出席者名  
    (執行理事会・評議会)土屋 誠・谷口 旭
    (太平洋学術中間会議)上記名のほか 帰山雅秀・齊藤誠一
  4. 会議開催地  フィジー共和国スバ市(Suva, Republic of Fiji)
  5. 参加状況  (参加国数、参加者数、日本人参加者)
      約40か国400名の参加申し込み、実際の参加数は現在集計中
  6. 会議内容
    集会全体の構成:
    ①太平洋学術協会の執行理事会・評議会と講演等が行われる第12回太平洋学術中間会議とからなる。前者は7月7日09:00-17:30;9日09:00-17:00;11日16:00-18:00に行われ、後者は7月8-11日の08:20-17:20および最終日7月12日午前中に開催された。

    執行理事会・評議会における審議内容と成果:
    ①太平洋学術協会(Pacific Science Association: PSA)はICSU傘下の学術団体としては最も長い歴史を有するもののひとつで、太平洋域諸国が連携協調して科学技術の発展と社会への浸透を推進し、太平洋域全体の持続的な発展に貢献することを主目的としている。そのために4年ごとに太平洋学術会議(Pacific Science Congress: PSC)を、その中間年に太平洋学術中間会議(Pacific Science Inter-Congress: PSIC)を開催し、全体に共通する科学的課題に関して幅広く討論する場を設けてきた。今回は後者の中間会議であった。
    ②PSAの執行理事会・評議会はPSCおよびPSICのたびに開催されることになっており、今回もその規定に沿って招集された。この役員会では、PSCおよびPSICを計画通り開催し、また、協会内に設置する課題別科学パネルや作業部会等の活動を強化して、太平洋地域および国際社会の安全と持続的発展に貢献することを確認した。
    ③グローバルな社会経済の発展に伴って変化するであろう太平洋島嶼国のPSAにたいする期待はますます大きくなる一方、加盟国の大部分が規模の小さな島嶼国と途上国であるため、分担金で賄われるPSAの年間予算は窮屈である(前年度は6万ドル弱)。このような制約の下で活動を活発化することに関して、真剣な討議が長時間行われた。
    ④しかし、名案はなかなか見つからず、広大な太平洋に散在する多数の国々にわたる課題についてはインターネットを活用した連絡協議が有効であること、引き続きハワイのBishop Museumとハワイ大学などに支援をあおぐことなどが話題になった。
    ⑤PSAの活性化には次世代を担う若手研究者の参画が必要であるが、彼らの関心が決して高くはないことが大きな問題として取り上げられた。彼らの関心を高めるために、PSAに関する広報を強化することに加えて、PSC, PSICで発表された研究成果をインパクトファクターが付いているPSAの科学誌(Pacific Science)や他の高度な学術誌の特集号として刊行することが論議された。
    ⑥ ICSUにおける活動としては、"Future Earth"への関わり、特にUNESCOやSCOR(ICSU傘下の海洋学研究科学委員会)等と連携して、生物多様性、海洋酸性化および海洋貧酸素化などの課題への関わりを強化することの重要性が確認された。
    ⑦PSIC最終日午前(7月12日09:00-12:30)はPSICの閉会式であり、PSAの総会でもあった。最初に、執行理事会・評議会の決議文が読み上げられ、一部修正のうえ承認された。これは、近いうちにPSAのHPに公表することになった(http://www.pacificscience.org/)。次いで、今回のPSICからさっそく発表論文の一部を収録するPacific Science誌の特集号を編集することになり、そのテーマの絞込みを総会参加者の希望を聞きながら進めた。今回も人文社会科学から医学工学までの全分野にセッションを設けていたので、この作業には時間がかかり、討議の内容は閉会式にふさわしくないといった苦情も出た。Proceedingsに関する討議は初めてのことであり、今回はやむを得なかった。今後Proceedings刊行をあらかじめ決定できれば、閉会式でこのような討議をする必要はなくなる。

    PSIC(太平洋学術中間会議)について:
    ①第12回太平洋学術中間会議(PSIC)では、基調講演9題のほか、4日間10会場で、総合シンポジウム1、企画課題シンポジウム7、研究集会・討論会7および課題別セッション14が企画され、計305の講演がプログラムされた。しかし、欠席者もいたため、現在主催者が最終的な講演数等を集計している。
    ②基調講演のひとつは元日本学術会議会長、元PSA会長であった黒川清氏による"Science for Human Security and Sustainable Development in the Pacific Islands and Rim"で、好評であった。この講演は、Fiji共和国大統領や在Fiji日本大使も聴講されたほか、講演全体が広く太平洋諸国に中継放送された。
    ③北海道大学の齊藤教授と帰山教授は日本学術会議PSA分科会の提案を受けて、世界人口の60%以上が集中する沿岸地域に接する海洋生態系の維持に資するため、"Risk Management and Sustainable Use of Biodiversity and Ecosystem Service in Coastal Ecosystems"を企画し、日本からの3講演を含む9講演をコンビーンした。日本からの3講演のうち齊藤教授は、GISと人工衛星モニターの連携併用による東日本大震災の被害状況の監視を復興事業に活用することについて提案、帰山教授は大津波で壊滅した三陸沿岸域のシロサケ増殖業を例にとり、気候変動や自然災害はもとより、乱獲や都市化などの人為影響リスクの下で持続的な社会を構築することの重要性について講演した。また、美馬教授は、持続的で強靭な地域社会の基盤として、地域住民が地域における関心事について科学的な理解を深め、主体性をもって活動できるようになることが重要であり、科学者は工夫を凝らして住民の科学リテラシー向上に貢献すべきことを、公立はこだて未来大学の取り組みを例に挙げつつ説いた。東日本大震災と東電原発事故は今なお記憶に新しいので、このセッションは参加者の関心を集めた。また、他国の参加者からは、太平洋島嶼国で憂慮されているリスクの例とそれに対する備えの提案、島嶼国に特有の自然系の保全に関わる人文社会科学的課題および自然科学的な活動計画などが広く講演された。
    ④南太平洋大学に在籍している中川治生研究員(経済学)およびJICA派遣専門家(沿岸資源管理)宇田川和夫氏は、次項に記すような特殊性をもった太平洋島嶼国において、社会経済の持続的発展と強靭性を確保するために政府や地域社会が果たしうる役割について講演した。すなわち、中川氏は、南太平洋島嶼国における予算管理制度の現状と課題を示したうえで、とりわけ弱者にたいする社会保障制度の充実が重要であることを強調した。また、宇田川氏は、フィジーを拠点として調査研究した漁業集落の社会経済的な変遷と現状を紹介し、漁業の振興と資源管理の健全化は、集落における経済を安定化するのみならず、高齢者の健常化と長寿化、一旦都市部に離れた若者の呼び戻しなどにつながることを強調した。

    その他特記事項:
    ①太平洋は世界でもっと大きな大洋であり、その広大な域内に人口数万ないし数十万の小さな島嶼国が多数散在しており、想像を超えた特殊性と厳しい条件に束縛された地域を形成している。グローバルな社会経済活動の発展に遅れることなく、諸国間、かつ、各国における小地域間で斉一性のとれた社会経済の向上を実現するために、情報通信技術(Information and Communication Technology: ICT)を駆使した社会の構築に努力している。長い歴史の過程で自然生態系の生産に依存してきた諸国は、ICTという非自然的な仕組みに慣れるという技術的な課題と、その結果進行する自然環境や生態系の破壊、さらに伝統的生活文化の喪失といったリスクを的確に認知してそれに備えるという思索的な課題とに、同時に取り組まなければならない。この観点から、茫漠としているかのように見える今次PSICの総括テーマ"Science for Human Security & Sustainable Development in the Pacific Islands Rim"は、大変時宜を得たものであったといえる。このような包括的なテーマに沿った大きな学術的会合は太平洋学術協会なくしては実現しがたいものである。それだけに今回の大会に関する報道陣の期待は大きく、新聞や放送で大きく取り上げられていた。
    ②いずれの国も、社会経済的発展を優先しがちである。その傾向は発展途上ほど著しいので、太平洋諸国では自然環境や生態系の破壊、生物多様性の喪失、伝統的文化の崩壊への関心は高まりにくい。地球温暖化に伴う海面上昇が島嶼国の国土消滅を招くことへの強い警戒感は、ほとんど唯一の例外であるといえる。そうした、非経済的ないし学術的な側面への関心を高める役割は、やはり太平洋学術協会が担うべきものであると感じた。
    ③太平洋学術協会の執行理事会・評議会の議題は例年と同じであったが、今回特に話題になったことは、次世代の活動を担う若手研究者の参画を強化することであった。背景には、ほとんどの加盟国が小さな島嶼国であり、加盟分担金を増額することが難しいというPSA特有の事情がある。PSAは若手研究者の研究費やCongress参加旅費を支援するだけの財力を持っていないため、別の方法で若手研究者の関心を喚起しなければならない。その一つが、隔年に開催するPSCとPSICで講演する若手研究者の論文を評価の高い学術誌に公刊することである。今回はこれに関する討議が重ねられたが、名案は固まらなかった。今後も引き続き検討することとなった。

    次回開催予定:
    次のPSCは2015年、PSICは2017に開催する予定である。PSCは台湾の中央研究院(Academia Sinica)が主催する予定であるが、まだ決定ではない。
太平洋学術中間会議(会場:南太平洋大学)の開会式で紹介された大会役員と基調講演者
太平洋学術中間会議(会場:南太平洋大学)の開会式で紹介された大会役員と基調講演者
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