「未来からの問い」特設HP

 「未来からの問い」は、現在執筆中ですが、これから10年後、30年後の世界を予想した上で、現在できる課題を導き出して学術による解決策を探る試みです。この「未来からの問い」は、学術の力で日本の皆さんと緊密に協力しながら明るい未来を拓いていくための道標であり、皆さんと日本学術会議との対話の出発点です。
 本「未来からの問い」特設HPでは、昨今の大きな課題である新型コロナウイルスの影響について、「コロナ後」の世界の未来を考えわかり易く紹介するため、対談形式によりその展望を紹介し、その映像をウェブにあげ、一般に公開することにしました。日本学術会議24期は対話を重視しています。そこで、本対談ビデオの公開を通じて未来への展望をともに考えていきたいと思います。そして、ご覧になったみなさまからのご意見やご評価もお待ちしたいと思います。
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概要説明

山極壽一

山極壽一(日本学術会議会長)

山極壽一
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(概要)
 日本学術会議は、1949年の創立以来ほぼすべての分野における学術の課題を共有し、世界や日本の抱える問題について数々の指摘や政策提言を行ってきました。しかし、その発信力は十分ではなく、提言が社会に浸透して政策に着実に反映されるには至っていない現状にあります。また、創立当時と比べると、世界も日本もさらに不確かな時代を迎えており、さまざまな意味で私たちは文明の転換点にいると思います。私たち人間や社会を発展させてきた文明が今、その大きな破壊力のゆえに地球を崩壊の危機に追い込み始めています。最近世界中で蔓延している新型コロナウィルスの被害はその好例と言えましょう。それらの危機を救うのは、これまで文明の発展に中心的な力を担ってきた学術であることは間違いありません。そこで、これまでの70年を踏まえ、これから10年後、30年後の未来社会を見通した上で、現在の問題点について学術が貢献できることを、この1年余り協議してきました。その成果をこのシンポジウムで皆さんにお示してご意見を伺おうと思っています。
 今、私たちが抱える課題は、地球市民としてのグローバルな視点から導き出さねばなりません。それにはまず、私たちが人新世(Anthropocene)という時代にいるということを自覚する必要があります。それは、この時代に人口の急増、大都市化、大量の工業生産物、人と物の急速な移動によって、二酸化炭素の増加、温暖化、海洋の酸性化、熱帯雨林の減少といった地球環境の重大な変化が起こっているからです。日本が直面しつつあるのは人口の減少縮小と少子高齢化です。人口の都市集中によって地方の過疎化が進み、限界集落が急増しています。働き手となる若い世代が減れば、これまでの年金制度が立ち行かなくなり、地域行政や産業振興に多くの支障が生じます。
 その問題を情報通信技術(ICT)で解決しようというのがSociety 5.0が目指す超スマート社会です。ビッグデータをもとに人工知能(AI)を使って画像診断をする医療技術が急速な発展を遂げています。病院が近くになくても遠距離診断で治療法を確定し、薬を処方する。人手の足りない部分を情報技術やロボティクスによって補い、スマート農業やスマート漁業を創出する。的確な需要予測や気象予測をもとに、多様なエネルギーによって安定的にエネルギーを供給する。さらには、どこでも手軽に情報を入手でき、家庭やオフィスの多くの作業を遠隔操作できるスマートシティが構想されようとしています。こうした技術は、気候変動や地殻変動を予測し、災害を未然に防止することにも役立ちます。また、災害用のロボットは人間の能力を超えるような作業が必要となる環境で大いに力を発揮するでしょう。
 ただ、ICTは正しいことに使われるとは限りません。現代の科学技術は災害の予測や防止など人間の福祉に用いられるばかりでなく、国の防衛や侵略の目的に利用されるということをしっかりと頭に入れておかねばなりません。科学技術への過度な依存は、人間の心身のあり方にも負の影響をもたらしかねません。すでに、私たちは栽培植物や家畜を作り、人間以外の生命を操作し始めています。地球上に暮らす哺乳類の9割以上は人間と家畜とペット動物で、今や人間が作り出した生命が地球上を覆いつくそうとしているのです。
 そういった議論をもとに世界観や人間観、人間の生きる意味など、現代の課題や課題の解決方法について社会に問うのが学術の役割です。内閣府の下に置かれた総合科学技術・イノベーション会議CSTIには会長の私が非常勤議員として参加し、他の会員や連携会員も出席して科学技術政策について意見を述べ、第6期科学技術基本計画の策定にあたっては第5期に「人文科学を除く」となっていた文言を削除して、人文・社会科学の知を大きく取り入れることになっています。最近では若手研究者や女性研究者の環境改善や基礎研究力の向上へ向けて日本学術会議全体の意見をまとめてCSTIに提言するなど、科学技術政策に学術現場の意見を取り入れるように働きかけています。大学の運営基盤の強化へ向けてはCSTIが中心となって「大学改革を支援する産官学フォーラム」PEAKSが設立され、国公私立の大学長と産業界のトップが顔をそろえて魅力的で国際競争力のある大学づくりの構想を練っています。こういった産官学間の連携の動きに伴って各省庁や大学で学術政策に貢献する情報の整理が実施されています。
 これまでにも、日本学術会議は50周年の節目には「日本の計画―学術により駆動される情報循環社会へ」、60周年には「日本の展望―学術からの提言2010」という2つの提言を発出してきました。これらの提言を振り返り、今私たちは新たな展望を構想しなければなりません。それは、世界の動きが21世紀の初めよりも速度を増しており、以前には予想できなかった事態が起こっているからです。グローバルな世界の動きに反するような米国を代表する自国優先主義、政治情勢の悪化による大量の難民、東日本大震災に見られるような大規模な地震、津波、台風、ハリケーンなどの自然災害が頻発し、原子力発電所の崩壊によって広域に放射能汚染が起きるなど、これまで想定しなかったような事態です。温暖化などによる地球環境の悪化や科学技術によるインフラの思わぬ脆弱さが明らかになりました。新型コロナウィルスの脅威は日に日に増し、人々の暮らしに深刻な打撃を与えています。こうした現況をとらえ、私たちはこれまで歩んできた人間の歴史や構築してきた社会のあり方をもう一度見つめなおし、新たな未来の人間社会を模索しなければならなくなったのです。
 これまでの討論を踏まえて出てきた各論は、1)多様性と包摂性のある社会、2)持続発展的(な社会)、3)文化、4)医療の未来社会、5)知識社会と情報、6)国土の利用と資源管理、7)エネルギー・環境問題、8)日本の学術の、世界の学術における役割、9)日本の学術の展望、の9つです。これらの各論を本日は3つのセッションにまとめて紹介するとともに、さまざまな学問分野や若い世代の方々からご意見を伺い、より分かりやすいものに仕上げていこうと考えています。
 日本学術会議は社会に向けて開かれた学術の組織です。この「未来からの問い」は学術の力で日本の皆さんと緊密に協力しながら明るい未来を拓いていくための道標です。ぜひ、多くの方に参加していただき、研究者が何を考えているか、どういった未来を構想しているかを知っていただきたいと願っています。