第14回IACIS国際会議 開催結果報告
開催概要
- 会 議 名
- (和文) 第14回IACIS国際会議
(英文) 14th International Association of Colloid and Interface Scientists Conference (IACIS2012) - 報 告 者
- 第14回IACIS国際会議実行委員会委員長 栗原 和枝
- 主 催
- 公益社団法人日本化学会、日本学術会議
- 開催期間
- 24年5月13日(日)~ 5月18日(金)
- 開催場所
- 仙台国際センター(宮城県仙台市)
- 参加状況
- 33ヵ国/1地域・1,032人(国外319人、国内713人)
会議結果概要
(1) 会議の背景(歴史)、日本開催の経緯:
IACIS国際会議は、国際コロイド・界面科学者連盟(IACIS:International Association of Colloid and Interface Scientists)が3年ごとに開催する会議であり、1979年の第1回から当申請会議で14回を迎えるコロイドおよび界面科学分野で最も権威と歴史のある国際会議である。1988年に日本で開催されたIACIS会議より年月が過ぎたことから、2003年頃より日本化学会コロイドおよび界面化学部会より再招へいの働きかけを開始し、2008年の理事会にて、仙台開催とドイツ開催の申請が審議され、地域バランスを考慮し2012年日本(仙台)開催、2015年ドイツ開催という予定が2009年6月の総会で承認された。これをうけて、日本化学会コロイドおよび界面化学部会は、2009年9月に組織委員会を発足させ準備を開始し、また10月に日本化学会理事会は主催を承認した。日本での開催は1988年に箱根で開催された第6回IACIS国際会議から24年ぶり、2回目である。
(2) 会議開催の意義・成果:
コロイドおよび界面科学は数学、物理、化学、生物、薬学などに関連する極めて学際的な学問領域であり、現在、学術的に大きな変革・飛躍期にある。物理において大きく進んでいる“ソフトマター物理”の主な対象は、コロイドおよび界面現象である。計算科学においても複雑系として、挑戦的な計算対象となっている。実験面では、共焦点顕微鏡による微粒子の直接観察、微粒子間の相互作用の直接計測も可能となり、またSPring8など高輝度放射光施設や中性子線施設を用いる精密計測技術の発展により、従来、現象論的に議論されてきたコロイドおよび界面現象を分子・原子レベルで理解する新しい段階の研究が世界中で進展している。
また、当分野は古くから化粧品、洗剤、塗料、潤滑剤、食品、薬、製紙、セラミックスなど幅広い応用分野と密接に関わっている。最近では、様々な、電気デバイス・触媒・潤滑剤から医薬品まで、材料の高機能化、低環境負荷、省資源・省エネルギー化に対する要求が高まっており、コロイドおよび界面科学の知識の活用とその発展がますます求められている。現在、当分野の学術的展開が、基礎科学としても、また様々な材料産業分野や環境技術の基盤としても世界的に求められており、コロイドおよび界面科学は、関連する多くの物質科学分野に刺激を与え、日本の研究者は当分野で国際的に活躍している。
この度の日本での本IACIS国際会議は、コロイドおよび界面科学の学術としての新しい展開を議論し、その発展を踏まえ、社会が直面する課題の解決に向けて、コロイドおよび界面科学分野と関連科学技術分野の産学の研究者に研究の交流の場を提供し、将来に向けて幅広い展開を図ることを目的として開催された。
(3) 当会議における主な議題(テーマ):
Colloid and Interface Science for Society: Basics to Innovations
社会のためのコロイド界面科学:基礎からイノベーションへ
主要題目:(1)溶液中の分子集合体、(2)微粒子・コロイド分散系、(3)超分子組織化システム、(4)ナノ構造表面と材料、(5)コロイドおよび界面化学の新手法、(6)テクノロジー:応用と製品を主要題目として、研究発表と活発な討論が展開された。
(4) 当会議の主な成果(結果)、日本が果たした役割:
本会議を日本で開催したことで、この分野の日本の研究者を全世界の研究者に大きくアピールし、多くの研究者の参画を促す絶好の機会となった。また、我が国のこの分野の科学者に世界の多くの科学者と直接交流する機会を与えることとなり、我が国のコロイドおよび界面科学及び関連する境界領域の研究を一層発展させる契機となった。
また、日本学術会議との連携プログラムとして、「持続可能な社会のためのコロイド・界面科学の役割」と題したシンポジウムを開催した。低炭素化技術といった地球規模の重要課題の解決に必要な先端技術がコロイド・界面科学の知識を必要としている。分野横断的な主題を扱う本会議を日本で開催したことで、相互理解と共通課題の認識を促進することができた。今後、コロイドおよび界面科学分野のみならず関連する幅広い学術から技術までの国際的な発展につながるものと期待される。
また、市民講座「ぼく、コロイドに夢中!」としては、小学生を主な対象として、洗剤や化粧品などの実験講座を開催し、さらに企業展示や学術展示で先端研究の紹介を合わせて行い、参加した小学生より非常に高い反響が得られ、当分野の日本人科学者のもたらした成果について社会に還元し、科学に関する一般社会の興味を大いに高めることにつながった。
(5) 次回会議への動き:
本会議中に次回の2015年ドイツ、マインツ開催が報告された。
(6) 当会議開催中の模様:
5月13日の午後1時の登録受け付け開始より、徐々に参加者が集まりはじめ、開会式の開始時刻である午後4時に近づくにつれて続々と参加者が集まり、特に海外からの参加者が目立った。開会式では天皇皇后両陛下のご臨席を賜り、引き続いてレセプションでは、天皇皇后両陛下とのご懇談が行われた。
翌14日の午前9時からの総合講演に始まり18日の夕刻までに、総合講演5件、招待講演62件、基調講演38件、一般口頭発表397件、ポスター発表410件が行われた。17日の午後には日本学術会議との連携プログラムとして、「持続可能な社会のためのコロイド・界面科学の役割」と題したシンポジウムで、国内外の当分野のトップレベルの研究者による講演が行われ、低炭素化技術といった地球規模の重要課題が討論された。また、15, 16日には、市民講座「ぼく、コロイドに夢中!」が開催され、その一貫として近隣の小学校3校の5, 6年生(234名)を招待し、日常生活の中で洗剤や化粧品などの身近なものの中で関わっている “コロイド界面化学現象”ついての講演、さらに実験を通じて体験をしてもらった。参加した小学生に非常に好評で、界面化学の面白さと有用性を実感してもらうことができた。17日の夜に催された懇親会では、300名を越える参加者が集まり、大変好評であった。
16日にはIACIS理事会、17日には総会があわせて行われ、栗原和枝実行委員長がIACIS会長に就任した。
(天皇皇后両陛下御臨席のもと、開会式で開式の辞を述べる栗原実行委員長)
(主催者挨拶を行う大西隆日本学術会議会長)
(来賓挨拶を行う古川元久内閣府特命担当大臣)
大臣挨拶(PDF形式:233KB)
(レセプションに御臨席される天皇皇后両陛下)
(7) その他特筆すべき事項:
震災後であり無事に仙台で開催できるか不安視する声もあったが、これまで培った国際的なネットワークを最大限に活用し、また仙台の安全性をアピールしたことなどから、いち早く参加を表明してくれる海外の研究者も多くあり、結果として各国の世界のトップの研究者を集めて開催することができた。本会議の成功は、その後の地域国際会議の誘致などを勇気づけるものとなり地域活性化へも貢献できたものと考えている。
また、当分野は幅広い分野の企業の研究者・技術者も活発に学会活動に参加しており、本国際会議の開催は、先端技術の発展とその製品への応用を促進し、社会への還元にもつながると考えている。
市民公開講座結果概要
- (1) 開催日時:
- 2012年5月15日(火), 16日(水)
- (2) 開催場所:
- 仙台国際センター 小会議室7, 小会議室8
- (3) 主なテーマ、サブテーマ:
- 本物の化学がやってくる。ぼくコロイドに夢中!
- (4) 参加者数、参加者の構成:
- 234名、主に仙台市内の近隣の小学校の5, 6年生
- (5) 開催の意義:
身近な生活の場面で見られる界面化学現象や、洗剤や化粧品などの製品に使われているコロイド界面化学に基づいた技術を分かり易く解説し、それを応用したものづくりを体験してもらい、自然科学の大切さを実感し、興味・関心をもたせる。また、日常生活と自然環境とのかかわりや地域から世界への広がりについて学んでもらうという目的で開催した。日常生活と関わりが深く、実感できる現象が身近にあるというコロイド界面化学の特色を生かした企画であり、感受性の豊かな小学生の時期に、科学の面白さ、有用性、研究の醍醐味を伝え、興味を持ってもらう機会として大変重要な意義をもつと考えている。
(展示を見る小学生,「本物の化学がやってくる:ぼく、コロイドに夢中」)- (6) 社会に対する還元効果とその成果:
-
洗剤、化粧品などの日常的に何気なく使っているものを題材として、実はその優れた性能の背景にはコロイド界面化学に基づいた技術が活用されているということを分かり易く解説した後、実際に実験をおこなってもらい、“コロイド界面化学現象”の面白さと有用性を実感してもらい、夢中になることの醍醐味と大切さを伝えるようにつとめた。
具体的な題材として、実験では洗浄コロイドでは洗剤による汚れが落ちる過程の観察、コスメコロイドではジェルやカプセルの作成などを実施した。また、企業展示では、レーザー、精密計測機器、水を内包する撥水性パウダーなど、最先端の実験装置や材料を見て、触って実感してもらった。
参加した小学生は好奇心をもって、嬉々として実験にとりくみ、展示会場でも活発に質問する様子がみられた。また、実施後の感想文でも反響は非常に大きく、以下のような還元効果と成果がえられたと考えている。
- ・コロイド界面化学がどのように役にたっているかを、実感できるかたちで伝えられたことは、科学技術の社会への還元として成果があった。
- ・科学技術立国である日本の将来を担う子供達に対して、感受性の豊かな時期に、科学の面白さ、有用性、研究の醍醐味を伝えることができた。
- ・英語での展示、発表・質疑応答など国際会議の様子などにも触れてもらうことができ、成果や考えを伝えることの大切さ、英語の必要性などを感じてもらうことができた。
- (7) その他:
- 本市民講座に参加した小学生からの反響が予想以上に大きく、主催側もエネルギーをもらうことができたという点でも有意義であった。このような企画は、科学の社会還元の非常によい例となるのではないかと考えている。
日本学術会議との共同主催の意義・成果
日本学術会議と共同主催できたことで、開会式では天皇皇后両陛下のご臨席を賜ることができた。参加者からは、大変感銘をうけた光栄であるという感謝の声が多くきかれた。また、日本においてコロイド界面化学分野が非常に関心をもたれ、期待されているという認識をもってもらうことができた。また、日本学術会議との共同主催により、国内外の非常に広い分野の方に本会議を知って頂き、多くの参加者が得られたことは当研究分野の発展につながると期待できる。このIACIS2012は仙台で震災後に初めての大きな国際会議であり、本会議が成功裡に終わったことはその後の地域の活性化にも貢献できたものと思っている。