代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称
    (和文)第79回国際地質科学連合理事会、執行理事事務局会議、及びIUGS アフリカのための地質科学イベント
    (英文)79th International Union of Geological Sciences, Executive Committee, Bureau meeting and IUGS Geoscience for Africa Event
  2. 会 期
    2024年2月19日から2024年2月23日まで(5日間)
  3. 会議概要
    1. 会議の形式:対面
    2. 会議の開催周期:原則1年に1回
    3. 会議開催地、会議場:ケニア・ナイロビ市、オル・セレニホテル会議場
    4. 会議開催母体機関:国際地質科学連合
    5. 会議開催主催機関及びその性格:国際地質科学連合主催(地質科学及び関連分野の振興を目指すISC傘下の国際組織)
    6. 参加状況

      米国、英国、中国、日本、韓国、フランス、ドイツ、デンマーク、オランダ、スペイン、イタリア、スウェーデン、ギリシャ(※)、イスラエル、リトアニア、インド、オーストラリア、カナダ、南アフリカ、ケニア、エチオピア、モザンビーク、ナミビア、アンゴラ、ナイジェリア、 ボツワナ、ルアンダ、ウガンダ、セネガル、ガンビア、ペルー、 コロンビア 32か国、60名が参加。※ギリシャはオンラインでの参加
      日本人参加者(3名)
      ① 北里 洋(IUGS執行理事(財務担当))・早稲田大学招聘研究員・日本学術会議代表派遣制度による派遣 ※筆者
      ② 大久保泰邦(日本学術会議連携会員・土木委員会)・日本地熱開発Co.Ltd
      ③ 川村喜一郎(IUGS海底災害タスクフォースChair)・山口大学教授・基礎地盤Co.Ltd

    7. 次回会議予定(会期、開催地、主なテーマ):

      会期:2024年8月25〜31日
      開催地:大韓民国釜山市
      準備組織:第37回万国地質学会議組織委員会
      「The Great Travelers: Voyages to the Unifying Earth (偉大なる旅行者:地球統合への旅)」をスローガンとして地質科学全体分野について議論する万国地質学会議の際に開催する。

  4. 会議の学術的内容
    1. 日程と主な議題:

      ・2月18日夕刻にBureau Members(President, Secretary General及びTreasurer) による打ち合わせを行い、議事次第の確認、会議経費負担についての現状確認などを行った。

      ・2月19 日、20日午前 理事会(IUGS関係者、UNESCOメンバーなど42名参加) IUGS 執行部がそれぞれ年次報告を行ったのち、IUGS傘下の各委員会、関連学協会から2023年度活動報告を受け、それぞれの委員会、関連学協会の成果について議論を行った。執行部の2023年活動報告はいずれも承認された。

      ・2月20日午後、21日 理事会(理事会メンバーのみ参加) 万国地質学会議に政治的に解決していない案件を持ち込まない件、ジェンダー問題、南北、東西格差問題など、広く議論した。また、2024年度予算とくに各委員会に分配する活動資金について、各委員会報告から提出された2023年の活動成果と2024年予算請求に基づいて配分額を決定した。 本理事会に連続して開催されるアフリカイベント、夏の第37回万国地質学会議の開催など、大きなイベントへの出費が見込まれるために、今年度予算総額は約94万ドルに膨らんだ。
       なお、21日の昼に緊急議題としてAnthropoceneについて、Subcommission on Quaternary Stratigraphy(層序学委員会第四紀層序学分科会)における投票を巡る倫理的な課題などIUGS Geoethics Committee から提起された問題を中心に 、ICS Chair にZoom参加をお願いし議論した。 IUGSとしては、現代の課題を象徴したAnthropocene 提案に最大限の敬意を払っており、人類が引き起こしている地球規模課題に対して地質科学コミュニティーがどう対応できるかについて前向きな検討を始めている。

      ・2月22日〜23日 アフリカ諸国及びアフリカ地質科学連合の地質科学の現状にIUGSがどう関わることができるのかを議論することを目的とした「African Event」を開催し、15か国から25名が参加する大きなイベントを行った。なお、北アフリカ諸国には参加を促したが、参加国はなかった。 会議では各国から、地質科学教育、資源エネルギー問題、データサイエンスに向けた取り組みなど様々な活動状況が報告された。一方、地震火山活動、気候変動による豪雨など自然災害が頻発しているものの、国にとっては経済の安定化が最重要課題であるようで、防災減災についてはほとんど話題にならなかった。 会議では、初日は全体での報告会、2日目は地質科学教育、資源・エネルギー問題、データサイエンスの3つの分科会に分かれ、アフリカ諸国の実情に対してIUGS加盟国、委員会として何ができるかについて踏み込んだ話し合いを行い、10項目のステートメントにまとめた。現在、ステートメントの文案を吟味しており、追って公表予定。

    2. 提出論文:

       本会議は、理事会及び事務局会議というビジネスミーティングであるので、学術研究の発表はなく、IUGS 傘下の各委員会などの活動報告が大半であった。
       日本に直接関わる議論、広く世界の関心を踏まえた重要な話題について、以下、報告する。

      1) 2023年から立ち上がったタスクグループとして、「海底災害に関するTask Group」の報告が委員長である山口大学・川村喜一郎教授からあった。研究計画の紹介があり、海底地滑りの実態の把握とその防災に向けた活動が世界に広がりを持つ内容であると認められた。立ち上がりの1年の成果は順当であるという評価が得られたと理解している。

      2) 地質科学データ統合に関する議論があった。各国が保持する資源エネルギーデータを含む地質データを統合し、スパコンで解析する計画が中国を中心に進行している。データ統合は、ともするとデータパイラシーに繋がりかねないことから、厳しい科学リテラシーの遵守が求められる。遵法の精神を持って実施することが確認された。 とはいえ、データ統合は進んでおり、全球規模のネットワーク化が進みそうである。日本も自国のデータを守りつつも主体性を持って国際協力をして行くことが求められている。

      3) IUGSの活動では、ICS(層序学)、TGIG(放射壊変定数)などの地質科学の基盤を構成する分野のほか、IFG(法地質学)、DDE(地質情報科学)、ICG(世界地質遺産)など、成果が社会と直結するプロジェクトが多くある。この流れは、学問間を結ぶ分野融合(Interdisciplinary Science)から、市民を含むさまざまなステークホルダーをも巻き込んだTransdisciplinary Sciences に広がるきっかけを作っている。 地質科学は基礎科学の一翼を担いつつも、社会とのつながりをもった実学である面があることを自覚したい。国連が定める国際基礎科学の10年であることに鑑み、基礎科学の一環として、sustainable developmental goals を目指すことを一層促す必要がある。

所見

 今回は、定例の第79回理事会をケニアで開くことで、開発途上国からなるアフリカにIUGSがどう関われるのかを議論する会合をも合わせて開催することができた。アフリカ諸国は、50年前ぐらい前までは欧米の植民地であったこともあり、ヨーロッパ、アメリカそしてカナダとの繋がりが強い。 それから半世紀経った現在、カーボンニュートラルに向けた技術開発、レアーアースなどの有用地下資源開発、温暖化に伴う異常気象の影響をどう防ぐかなど、地球規模課題に直面しているのがアフリカであることを実感できた会議になった。私自身は人材育成に関わる話題を議論した分科会に出席したが、アフリカ諸国は欧米に対する期待は高いものの、中国、韓国、日本などとの人材育成プログラムを期待する声はあまり出なかった。 今後、ラテンアメリカとの連携強化も促すことになるが、アジアが孤立することがないように全球的な視野を持った発言と行動が求められる。

 国際地質科学連合(IUGS) は、地質科学分野の研究を振興するとともに、全球に影響を与える環境問題、資源・エネルギー問題、自然災害などの人間生活に関わる課題に関わっている。本来、地球規模課題は国境を超えたシームレスな対応をしなければならない。しかし、昨今の覇権主義国家の拡大に伴って、国境を意識せざるを得ない事態が発生するようになってきた昨今、IUGSの活動に関わることは重要である。 日本が、現在、Category 8 という最も高い分担金を支払って加盟国として参加していることは、日本から理事を送り込みやすくしている。筆者は8年間にわたって財務担当理事として執行部に所属し、その間、地質科学関連分野の世界の動向を把握できるメリットがあった。執行部のみならず、委員会活動に積極的に関わることで、引き続き日本の存在感を高めることが重要である。 現在、地球規模課題への対応にとどまらず、レアーアース、石油・天然ガスなどの資源エネルギー、そしてデータサイエンスに関わるなど経済安全保障にかかる問題へコミットすることで、世界の安定した発展に寄与することが求められている。

アフリカイベント参加者と筆者