代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称
    (和文)第19回国際人類学民族科学連合(IUAES)・世界人類学連合(WAU)世界人類学大会2023 デリー (世界人類学大会2023ポスト・コングレス、国際人類学民族科学連合(IUAES)役員会、世界人類学連合(WAU)運営会議、人類学会世界協議会(WCAA)役員会等の諸会議を含む)
    (英文)IUAES-WAU World Anthropology Congress 2023 Delhi (includes IUAES-WAU World Anthropology Congress 2023 Post-Congresses, the meeting of the Executive Committee (EC) of the IUAES, the meeting of the Steering Committee (SC) of the World Anthropological Union (WAU), the meeting of the Organizing Committee (OC) of the World Council of Anthropological Associations (WCAA) and other meetings)
  2. 会 期
    2023年10月14日~28日
  3. 会議概要
    1. 会議の形式:

      総会、役員会、運営員委員会、協議会、式典、キーノートほか講演会、シンポジウム、パネル、ラウンドテーブル、ワークショップ、特別展示、映像資料上映、 エクスカーション、文化公演、その他からなるコングレス (メイン・コングレスのほかプレ・コングレスとポスト・コングレスを含む)
      今大会のウェブサイト: https://iuaes2023delhi.org/index.html

    2. 会議の開催周期:

      IUAES(国際人類学民族科学連合)は、1934年以来5年毎にWorld Anthropology Congress(世界人類学大会)を開催してきた。今回の世界大会は第19回大会である。 このほか1990年代からは、年次大会が毎年開かれている。なお2023年以降、世界人類学大会の開催は4年周期に変更された。 また2024年以降の世界人類学大会と年次大会は、IUAESとWCAA(人類学会世界協議会)の協力のもとに、WAU(世界人類学連合)の世界大会・年次大会として開催されることになった。
      1934年以来の世界大会・年次大会: https://www.waunet.org/iuaes/congress/

    3. 会議開催地、会議場:

      ・第19回IUAES-WAU世界人類学大会2023デリー(2023年10月14日~21日)…デリー大学(デリー市)
      ・ポスト・コングレス(2023年10月26日~27日)…ハイデラバード大学(ハイデラバード市)
      ・ポスト・コングレス(2023年10月27日~28日)…アジア協会(コルカタ市)
      デリーのメイン・コングレスと2回のポスト・コングレスに加え、5回のプレ・コングレスが、デリー市やラックノウ市で2022月6月から2023年8月にかけて開催された。

    4. 会議開催母体機関:

      IUAES(International Union of Anthropological and Ethnological Sciences、国際人類学民族科学連合)
      IUAESのウェブサイト: https://www.waunet.org/iuaes/

    5. 会議開催主催機関及びその性格:

      主催機関:Indian Anthropological Association (Delhi)
      共催:Ethnographic and Folk Culture Society (Lucknow); Depart of Anthropology, University of Delhi (Delhi); Depart of Anthropology, University of Hyderabad (Hyderabad); The Asiatic Society (Kolkata); Discipline of Anthropology, Indira Gandhi National Open University (IGNOU); Guru Gobind Singh Indraprastha University (New Delhi)

    6. 参加状況:

      参加国・参加者数(推計): 約50か国・千数百名

      日本人参加者: 約20名
      小泉潤二 大学共同利用機関法人人間文化研究機構監事、大阪大学元理事・副学長
      綾部真雄 東京都立大学教授
      池谷和信 国立民族学博物館教授 ほか

    7. 次回会議予定:

      名称: World Anthropological Union Congress 2024(世界人類学連合コングレス2024)
      (2023年以降のIUAES大会はWAU Congressとして開催される。)

      会期: 2024年11日11日~15日
      場所: 南アフリカ ヨハネスバーグ市 ヨハネスバーグ大学
      会議開催母体機関: WAU (IUAESとWCAAを統合する世界人類学連合World Anthropological Union-WAU)
      会議主催機関: Anthropology Southern Africa (AsnA 南部アフリカ人類学会)

      テーマ: Reimagining Anthropological Knowledge: Perspectives, Practices, and Power(人類学的知を再想像する――展望と実践と力)

      ウェブサイト: https://waucongress.org/

  4. 会議の学術的内容
    1. 日程と主な議題:

      (*印は筆者が議長、共同議長、式辞などを務めた会合)

      10月12日~13日 メイン・コングレス準備、コングレス組織委員長ほかとの打ち合わせ

      10月14日    IUAES役員会*、IUAES役員会(2018-2023)と新IUAES役員会(2023-2027)の合同会議*、IUAES-WCAA合同役員会、IUAES-WAU 世界人類学大会2023レセプション

      10月15日    IUAES-WAU世界人類学大会2023開会式*(Inauguration)、展示開会式、キーノート講演*

      10月15日~19日 コングレス全体講演、ラウンドテーブル、パネル、文化公演など

      10月18日    IUAES総会*、WAU全体集会*

      10月19日    閉会式(Valedictory Session)*

      10月20日    IUAES(2023-2027)新役員会、WCAA代表者会議、IUAES会長(筆者)とWCAA議長 の面談

      10月21日~25日 IUAES役員、IUAES新役員、WCAA新旧役員との非公式の会談

      10月23日    IUAES新役員会

      10月24日~25日 ポスト・コングレス準備

      10月26日~27日 IUAES-WAU世界人類学大会2023 ポスト・コングレス(ハイデラバード大学)、開会式*、パネル、文化公演、など

      10月27日    IUAES-WAU世界人類学大会2023 ポスト・コングレス(アジア協会) 開会式*、講演セミナー、など

      10月28日    IUAES-WAU世界人類学大会2023 ポスト・コングレス(アジア協会) 講演セミナー、閉会式*、アジア協会資料コレクション特別展示

      10月29日    IUAES役員とコングレス組織委員長との連絡会議

    2. 提出論文(日本人、日本人以外):

      発表論文数(主催者発表による速報値): 発表論文1159件、パネル数(137件+16件)、これらパネルのほか、18 Roundtables、8 Workshops、Panels for Young Anthropologists、 3 Plenary sessions、A collaborative session with the Archaeological Survey of India (ASI)、20 ethnographic filmsが発表された。
       主な提出論文
      ・論文:
      Miriam Pilar Grossi, “Feminist Anthropology and Gender Marginalities: From Kinship Studies to Subalternities in the Global World.”
      Virginius Xaxa, “Tribal Situation in Independent India.”
      Helen Macdonald, “Colonial India’s ‘woeful Crescendo of Death’: Administrative and Cultural Responses to Cholera.”
      Thomas Reuter, “Inequality is the Real Killer in a Crisis: Lessons from the Covid-19 Pandemic.”
      Subroto Bagchi, “The Anthropology of a Pandemic.”
      ・ラウンドテーブル:
      “How can the World Anthropological Union contribute to the UNESCO-BRIDGES Coalition in developing humanities-led sustainability science?” Vesna Vucinic, Luci Attala, Steven Hartman, Soumendra Mohan Patnaik, Noel Salazar, Fadwa El Guindi, Thomas Reuter, Michal Buchowski
      “The Future of Anthropology.” Subhadra Channa, Junji Koizumi, Isaac Nyamongo, Soheila Shahshahani, Virginia Dominguez, Danilyn Rutherford, Gordon Mathews (WAU共同議長、筆者、Nyamongoが、世界人類学の観点から組織したラウンドテーブル)

    3. 学術的内容に関する事項:

      今回の第19回IUAES-WAU世界人類学大会2023における主要テーマは、“Marginalities, Uncertainties and World Anthropologies: Enlivening Past and Envisioning Future” (周辺性と不確実性の世界人類学――過去を生かし未来を視る)であった。現在の世界の危機的状況にみられる諸問題、特に上下間・階層間の関係や周辺・中心の関係について広く議論した。 現在と過去の現実を分析し理解するための展望を得るとともに、実践上の矛盾や不一致に基づいて新しい理念を導き出すことを目指している。人類学的な研究は、常にダイナミックな現象を ローカルな具体的事例として視野に収めるとともに、広く人間に関わる分野について学際的にアプローチし議論することが目的である。 気候変動の深刻化、情報技術の急進展と影響、感染症の世界規模の拡大、移民や難民の拡大や先住民社会に関わる紛争や差別の激化など、不安定化し予測不可能なかたちで変動する現在の世界を新しいアプローチや概念装置で理解しようとしている。 このような人類学の関心のあり方や問題の捉え方は、1年後の2024年11月に南アフリカで予定されている World Anthropological Union Congress 2024(世界人類学連合コングレス2024)に引き継がれることになった。 テーマは “Reimagining Anthropological Knowledge: Perspectives, Practices, and Power”(人類学的知を再想像する――展望と実践と力)である。理論的にはPost-modernism、Post-colonialism、Post-socialism、 Post-structuralism, Post-humanism、またPost Post-colonialismなど、さまざまな “Post” をもって形容されるような複雑化する理論状況と不定形な現実の実践状況の中で、どのような人類学的理解を展望することができるかがテーマである。
      ハイデラバードでのポスト・コルグレスのテーマは “Anthropology and Digital Cultures”(「人類学とデジタル文化」)であり、デジタル技術とデジタル文化がもたらしている急速な変化を研究することだった。 コルカタでのポスト・コルグレスのテーマは”The Roots of Indian Anthropology: Transition from the Colonial Period to the Present”(「インド人類学の始まり――植民地時代から現代への移行」)であり、 植民地時代からの変化の中に置かれたインド・ベンガル研究をグローバルな世界人類学の中に位置づける。ともに、上に記したような実践的状況の中で、多様に進められている人類学的研究の一端が示されている。

    4. その他の特記事項:

      ・WAUは、ISC(国際学術会議)やInternational Council for Philosophy and Human Sciences(CIPSH、国際哲学人文学会議)、またStanding Committee for Gender Equality in Science(SCGES、科学におけるジェンダー平等委員会)の 加盟団体であり、IUAESやWAU運営会議ではその関係の議題が増加している。WAUはこのような国連関係の国際組織に代表を送っており、WAU・IUAES・WCAAの組織内また会員の間でも、人類学また人類学者全体としてグローバルな課題に関わろうとする傾向が強くなっているように思われる。 一方、他の関係分野や組織でも人類学の参加が求められることが増えていることが報告されている。そのような状況下で、2017年に設立されたWAUは統合的な活動を本格的に開始している。活動のための人材を集め、予算を準備し組織を整備してWAUの統合を進めることができたことが、 これまでのWAUが達成した最大の成果であるということを、筆者はコングレスの閉会式で強調した。
      ・今回のIUAES総会・WAU全体会議で発表された声明はない。しかしWAUは全世界的見地から発表すべき声明(Statement)や署名すべき書簡(Letter)について合意の基準やルールを定めている(https://www.waunet.org/statements-letters/)。 特に全世界でHuman Rights(人権)についての関心が高まる中でWAUが発表した声明は重要である(https://www.waunet.org/statement/statement-on-human-rights/)。
      ・前年度のIUAESの会計報告が総会資料にまとめられ、周知された。
      ・会員2名がHonorary Memberとして認められた。
      ・IUAESとWCAAがWAUを設立した2016年9月26日を記念して、毎年9月26日をGlobal Anthropology Day (GAD 「世界の人類学の日」) と定め、人類学の理解を進めるための活動やイベントを全世界で行うことになった。
      ・今回のコングレス、また総会や全体会議と、そこに至るまでの数年にわたる役員会や運営会議等で、筆者はIUAES会長・WAU共同議長として議題を提案し承認する役割を担った。

所見

新型コロナ感染症等がようやく収束し、初めて対面で開催する世界人類学の大会である。2019年ポーランドのポズナン大会を最後として、2020年クロアチアのシベニク大会、2021年メキシコのユカタン大会がオンライン開催のみ可能となった後、2022年5月開催に向けてロシアで準備が進んでいたサンクトペテルブルク大会は、ロシアによる侵攻のため直前に中止となった。 このような世界状況またインドの国内状況や財政状況のために、準備はたいへん大きな困難を伴った。にもかかわらず、世界人類学大会2023が大きな成功を収め、WAUの今後の発展への礎となったたことは明らかである。

IUAES会長(筆者)とCongress Organizer のSoumendra Mohan Patnaik 会場に掲示された会議ポスター。掲載されているのはVice Chancellor、IUAES President(筆者), Congress Organizer、IUAES Secretary-General

本会議の会場となったデリー大学のキャンパス
本会議の会場となったデリー大学のキャンパス

本会議の会場となったデリー大学のキャンパス
本会議 開会式(Inauguration)の様子

本会議 開会式(Inauguration)の様子
本会議 開会式(Inauguration)の様子
本会議 開会式(Inauguration)の様子

本会議 meetingの様子
本会議 plenary sessionの様子
本会議 meetingの様子

Gala Dinnerの様子
ポスト・コングレス ハイデラバード会場

ポスト・コングレス コルカタ会場
ポスト・コングレス(コルカタ)でInaugurationに登壇する筆者

コルカタでUPWORDS Magazineのインタビューを受ける筆者
ポスト・コングレス(コルカタ)で最後の挨拶をする筆者