代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称
    (和文)第17回科学・技術の哲学、方法論及び論理国際会議
    (英文)International Congress of Logic, Methodology and Philosophy of Science and Technology
  2. 会 期
    2023年7月24日から2023年7月29日まで(6日間)
  3. 会議概要
    1. 会議の形式:国際会議(総会を含む) 対面形式
    2. 会議の開催周期:4年
    3. 会議開催地、会議場:アルゼンチン共和国 ブエノスアイレス市 ブエノスアイレス大学経済学部
    4. 会議開催母体機関:国際科学技術史・科学基礎論連合/科学基礎論部門
    5. 会議開催主催機関及びその性格:同部門 第17回国際会議組織委員会 開催地ローカルオーガナイザー
    6. 参加状況:

      フランス、英国、ドイツ、オランダ、イタリア、スウェーデン、フィンランド、ベルギー、チェコ、スペイン、ロシア、米国、カナダ、メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、日本、中国、台湾、韓国など約40か国及び地域・参加者約600名
      主な日本人参加者
      出口康夫(京都大学教授、招待講演者)
      岡田光弘(筆者、慶應義塾大学名誉教授、日本学術会議代表派遣者、次期CLMPSTコングレス日本招致活動・プレゼンテーション担当責任者)
      松本俊吉(東海大教授)
      三上温湯(東京都立大学研究員、次期CLMPSTコングレス日本招致プレゼンテーションアシスタント)
      松王政浩(北海道大学教授、シンポジウムオーガナイザー)、ほかシンポジウム講演者5名等

    7. 次回会議予定:

      会期:2027年8月23日-28日(予定)
      開催地:日本 神戸大学
      準備組織:第18回科学・技術の哲学、方法論及び論理国際会議組織委員会
      テーマ:未定(科学・技術の哲学、方法論及び論理国に関する大会テーマは今後新DLMPST Councilの手続きを踏んで決定する)

  4. 会議の学術的内容
    1. 日程と主な議題:

      会議全体テーマ:不確実な世界における科学と価値(Science and Values in an Uncertain World)
      会議全体テーマに関わる3つの全体基調講演及び、国際学術会議(ISC)との共同企画シンポジウムが開催された。この他に5つのCommissionsが各Commissionのタスクに関するシンポジウムを開催した。
      その他の個別セッション:論理・科学技術方法論、科学技術哲学の最新の研究関して、個人発表とシンポジウム形式での発表が公募され、採択された個人発表・シンポジウムが開催された。
      第1日目:開会式、基調講演、ISC(国際学術会議)と共催特別企画シンポジウム、招待講演、公募シンポジウム、個人研究発表等。
      第2日目:特別企画シンポジウム、公募シンポジウム、招待講演、個人発表等。
      第3日目:特別企画シンポジウム。公募シンポジウム、招待講演、個人発表等。
      第4日目:総会、基調講演、特別企画シンポジウム、公募シンポジウム、招待講演、個人発表等。
      第5日目:公募シンポジウム、個人発表等。
      第6日目:基調講演、特別企画シンポジウム、個人発表、閉会式等。

    2. 提出論文:

      約600名の参加者のうち、大多数が研究発表を行っている。主な提出論文は以下のとおり。
      日本人:
      出口康夫(京都大学 招待講演)From WE turn to an Alternative Relationship between Humans and Artificial Persons
      松本俊吉(東海大学)Continuities and Discontinuities between Evolutionary Psychology and Evolutionary Psychiatry
      三上温湯(東京都立大学) Reconsidering the role of the Notion of Truth --Assumptions as a resource for inference
      松王政浩(北海道大学 シンポジウムオーガナイザー)ほかシンポジウム提題者5名
       Towards an integrated view of scientific modelling

      日本人以外:
      基調講演(Plenary speakers):
      Philip Kitcher(Columbia University), Why is so hard climate action so hard ?
      Helen Longino(University of Campinas), Science, values, and “development”: How images of science matter
      Itala d'Ottaviano(University of Campinas), Illuminating contradiction: Paraconsistent reasoning in Western thought

    3. 学術的内容に関する事項(当該分野の学術の動向、今後の重要課題等):

      コロナ感染パンデミックをはじめとする諸々の不確実要素を抱える世界のなかで科学と価値を問い直すこと(Science and Values in an Uncertain World)を会議全体テーマとした。 この観点から科学技術哲学、科学技術方法論、論理学の役割の重要さについて議論された。また、Assessment of Research and Knowledgeの重要性について国際学術会議(ISC)と共同企画シンポジウムの形で検討された。 これらのほかに各Commissionが企画シンポジウム形式でCommissionのタスクのテーマに関する研究動向の発表を行った。論理・方法論・科学技術哲学の種々の重要テーマが同定され議論された。 プログラム編成に当たっては論理の各分野、科学・技術哲学・方法論一般についての各分野の諸セッションおよび、科学のドメイン別のセッション(例えば、物理学の哲学、生物学の哲学など)の諸セッションが組まれた。 (これまでのCLMPSTの伝統に沿ったセッションとなっていた。)
      科学・技術哲学、方法論、論理の国際動向を包括的かつ分野別に討議し、最新の成果を持ち寄り国際学術交流が行える学術組織は他に存在しない。今回の大会テーマは新たな時代における科学の価値の問い直しであった。 細分化しつつある各科学・技術哲学や論理学の各分野を超えてこの根本テーマを議論できる組織は本DLMPSTだけであると言える。今回の基本テーマの検討に対してDLMPSTの果たす役割はますます高まっていると言える。

    4. その他の特記事項:

      1. 日本からは一般発表だけでなく、出口康夫氏による招待講演、松王政浩氏がオーガナイザーとなって日本の研究者たちが主導したシンポジウムが成された。

      2. 次回2027年CLMPST神戸招致提案プレゼンテーションを筆者が行い、神戸開催が決定した。神戸コングレスを共催する学協会科学基礎論学会側から、 若手女性研究者三上温湯も登壇し、招致プレゼンテーションをアシストした。神戸招致成功後の閉会式で筆者はDLMPST執行部から依頼され、次回CLMPSTの紹介プレゼンテーションを行った。

      3. 次期役員選出に関して、筆者が第2副会長(2nd Vice-President)に選出された。

・報告すべき審査内容・成果
役員選挙プロセスの改良について前回プラハ大会総会で会員組織から提案があり、現Councilは会員へのアンケート調査を行い、今回の総会でその結果を公表した。アンケート調査結果は現行の(これまで約70年間採用してきた)方式を概ね支持するものであった。 役員選挙規定案が現Councilから示され、今回承認可能な範囲で承認された。次期新Councilにさらなる検討が任され、次回CLMPST総会でその審議・承認が行われる。

・声明について
正式な共同声明の形はとっていないが、大会テーマの重要性についてのDLMPST事務局長とブエノスアイレス会議組織委員長連名で声明が出されたほか、国際学術会議(ISC)との共同特別企画シンポジウムなどの形で重要課題の表明が成された。 DLMPST-Commission on the Education of Logic の創設およびIUHPST-Commission on Education and Science活動への積極的参加の表明はDLMPSTが科学技術及び論理「教育」をこれまで以上に重視し、これにより世界の科学技術教育および論理的思考法教育に貢献しようとする表明でもある。

所見

(a) プログラム及び現地組織運営ともに充実したものであった。

(b) DLMPST誕生(1955年)以来初めての南半球での開催となって意義は大きい。
不確かな要素が増しつつある現代社会の文脈で科学の価値、科学の役割を問い直すことをメインテーマとして議論を深めることには大きな意義があった。今回の大会全体テーマとして提起された議論は今後の本分野での研究動向にも影響を与え議論が続くこととなると予想される。 特に、今日の社会は多重で複雑な不確定性を含んでいるように見える。このような状況の下で科学の価値と役割について本会議で問題提起されたことの意義は大きい。

(c) 本分野における日本の果たす役割への期待が強く感じられる機会となった会議であった。特に、次回2027CLMPST神戸コングレスの招致提案が可決され、参加者の多数から日本開催に対する大きな期待が表明された。

(d) 各分野別の最先端の研究報告がなされ、活発な学術交流が成された。


CLMPST国際会議の集合写真
6日目(7月29日)の閉会式の様子。
次回4年後の2027年CLMPST国際会議が日本・神戸で開催されることがスクリーン上で示されている(写真左は筆者)