代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称
    (和文)第21回国際第四紀学連合大会(INQUA)総会等
    (英文)21st Congress of the International Union for Quaternary Research with General Assemblies, etc.
  2. 会 期
    2023年 7月13日から2023年 7月20日まで(8日間)
  3. 会議概要
    1. 会議の形式:総会、国際評議会、基調講演、学術口頭発表、学術ポスター発表を対面で実施
    2. 会議の開催周期:4年ごと
    3. 会議開催地、会議場:イタリア・ローマ市、ローマ・ラ・サピエンツァ大学
    4. 会議開催母体機関:国際第四紀学連合(International Union for Quaternary Research)
    5. 会議開催主催機関及びその性格:ローマ・ラ・サピエンツァ大学(ヨーロッパ屈指の歴史的大学)
    6. 参加状況:

      10名以上の参加者があった国:(人数順)イタリア、英国、ドイツ、米国、中国、スペイン、フランス、インド、スイス、オーストラリア、ポーランド、日本(約70名)、カナダ、オランダ、チリ、ノルウェー、韓国、スウェーデン、デンマーク、オーストリア、ベルギー、ルーマニア、イスラエル、南アフリカ、ポルトガル、アイルランド、ニュージーランド、ハンガリー、フィンランド、メキシコ、スロベニア、ギリシャ、ブラジル、トルコ、シンガポール、チェコ、クロアチア、アルゼンチン
      参加者数:2,783名
      日本人参加者:小口 高・教授・東京大学(筆者・国際評議会への代表者)、横山祐典・教授・東京大学(国際評議会への副代表者)等

    7. 次回会議予定:

      2027年2月17日~2月26日、インド・ラクナウ市。
      オーガナイザーとしてインドの3組織(Birbal Sahni Institute of Palaeosciences, National Centre for Polar and Ocean Research, Association of Quaternary Researchers)が連携する。
      主要テーマは未定だが、会議では第四紀学の全般をカバー。

  4. 会議の学術的内容
    1. 日程と主な議題:

      日程:2023年7月13日~7月20日
      主な議題:第四紀学に関する多数の研究発表に付随した学術的議論、国際第四紀学連合の運営に関する総会および国際評議会における議論。発表は5つの基調講演を含み、基調講演の時間帯は他のセッションやイベントは行われなかった。一方、一般セッションがある時間帯には、複数のセッションや他の行事が並行して異なる場所で行われた。一般セッションの総数は144で、以下の7つのテーマ別に行われた。
       1)自然のプロセスと地学的災害(セッション数21)
       2)地形と堆積構造(18)
       3)第四紀の環境と人類の進化(33)
       4)生態系と生物地理学(20)
       5)気候の記録、プロセス、モデル(38)
       6)第四紀のタイムマシン(10)
       7)第四紀学における変化の時(4)
      総会は大会の初日と最終日の計2回開催され、執行部による国際第四紀連合の活動状況の説明や表彰式などが行われた。国際評議会は7月15日、7月17日、7月19日の計3回行われた。参加者は日によって若干異なったが、執行部役員が9名、会費を払っている正式参加国の代表者が約45名、会費を払っていない国のオブザーバーが約35名であった。

    2. 提出論文:

      約70名の日本人が参加し、約100件の日本人による発表があった。日本人以外を含む総発表数は3,594で、そのうち口頭発表が1,480で、ポスター発表が2,114であった。

    3. 学術的内容に関する事項(当該分野の学術の動向、今後の重要課題等):

      本大会は4年に1回、定期的に開催されているものの一つであり、内容は第四紀学の全般をカバーしている。一方、本大会を特徴づけるサブテーマとして Time for Change(変化の時)が設定された。主催者はこの背景として、温暖化などの地球環境の大きな変化が社会にも強い影響を与えている現状を挙げ、過去の気候変化とその陸域への影響を検討してきた第四紀学の知見が、今後の意志決定などにも重要であると指摘した。本大会では、純粋科学としての第四紀学の成果が多数発表されるとともに、今後の環境変化の予測や、社会との対話といった内容も重視された。学術発表にもこのような状況が反映されており、山岳地域の氷河の消長などの環境変化や、海岸域における海面変動に関する研究が多かった。また、災害や教育といった社会性のある話題を取り上げたセッションも設置された。この方向性は今後の大会でも継続すると考えられる。さらに、70年前の1953年にも国際第四紀学会の大会が開催されたことを踏まえて、国際第四紀学会の長期的な歴史を振り返る企画展示も行われた。

    4. その他の特記事項:

      国際評議会では、委員会の再編が主な議題の一つとなった。現状の委員会の構造は1999年に決められ、対象となる研究の内容によって分かれているが、その後に発展した分野などを考慮した再編が必要という指摘が執行部から出された。この再編の進め方について執行部から提案があったが、参加者から一部に異議が出された。その結果、今後、慎重に検討を進めつつ、委員会の再編を2025年までに行うことになった。また、日本第四紀学連合が特定のグループに提供している研究費や若手を支援する経費についても、意見収集や議論が行われた。特にイタリアなどのヨーロッパの国に研究費や経費が払われる傾向が強いことが話題になった。この際には評議会に参加した日本の2名の代表者も発言し、アジアやアフリカの途上国への配慮が必要といった点を指摘した。関連して、現時点では負担金を払わない国は国際第四紀連合の正式メンバーになれないが、途上国については負担金を免除してメンバーを増やす可能性が、今後検討されることになった。

所見

 大会開催時にはローマに歴史的な熱波が訪れ、気温が摂氏約42度に達した。このため、会場として使用された複数の建物を行き来する際に酷暑を実感したが、全て屋内で行われた学術発表には特に支障がなかった。むしろ、多数のセッションで多数の発表が行われたことによる熱気を、参加者は楽しんでいるように見えた。
 国際第四紀連合は、最後の学位を取得してから8年以内の研究者をECR(Early Career Researchers)と呼んでいる。本大会では若手を主体とするECRを非常に重視していたのが印象的だった。たとえばECRに国際第四紀連合の機能や特色を説明する企画、ECRであれば誰でも無料で参加できるパーティー、ECRの代表者の会議が行われた。実際、大会参加者の半数近くの1,313名がECRであり、会場のどこにいっても若手が多数いる感じだった。日本人の参加者でも、大学院生やポスドクなどのECRに該当する人の比率が高かった。参加者のジェンダーに関する情報は提供されなかったが、参加者の女性比率はかなり高い印象だった。
 本大会に特化した、スマートフォンで利用できるアプリがAndroid、iPhone共に提供された。これによりプログラムなどの情報を手軽に閲覧し、個人の予定を登録するといった便宜が図られ、さらに大会の開催中に最新情報が随時配信された点が有益であった。また、会場の一角にマンモスの大きな復元模型を設置したり、第四紀学に関連したマンガを配布したりするような、アウトリーチの類にも工夫が感じられた。

総会の模様
国際評議会の模様
口頭セッションの模様
会場に設置されたマンモスの模型と大会ロゴ入りのポスター