代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称
    (和文)国際地質科学連合、第78回理事会および執行理事会
    (英文)International Union of Geological Sciences (IUGS), 78th Executive Committee and Bureau Meetings
  2. 会 期
    令和5年2月13日~17日(5日間)
  3. 会議出席者
    John Ludden (President)、Stanley Finney(Secretary General)、Hiroshi Kitazato (Treasurer(筆者))、DaeKyo Cheoung (Vice President)、Jennifer McKinley(Councillor)、Lora Pereira(Councillor)、Ludwig Stroink (Councillor)、Yamirka Rojos-Agramonte (Councillor)、Qiuming Cheng (Past President)、Hassina Mouri※ (Vice President)、ほか50名 (※・・・オンライン参加)
  4. 会議開催地
    ベルファスト(英国)
  5. 参加状況
    参加国数28カ国、参加者数60名、日本人参加者1名
  6. 会議内容
    • 日程及び会議の主な議題
      • 2月12日:会議場準備、議題整理(執行部のみ)
      • 2月13日:世界自然遺産およびIUGS 世界地質遺産100選であるGiant’s Causeway への巡検。夕方、執行理事による打ち合わせ
      • 2月14日~15日:(理事会オープンセッション)ウェルカムトーク(IUGS会長、Queen’s University Belfast 自然科学部長)、会務報告(執行部(会長、事務局長、財務)、各委員会・課題別研究プロジェクトからの報告、関連学協会活動報告、International Geological Congress(IGC)報告、IUGS 重点活動(Geoethics, Public Outreachのあり方、)、IUGS の将来に関する意見交換
      • 2月16日~17日:(理事会クローズドセッション)委員会活動の評価、新しい委員会、タスクグループの立ち上げの是非に関する議論、それらに基づく2023年予算案の策定、2024年総会に向けた会則・附則の改訂などIUGS 活動、ロシアのウクライナ侵攻に伴うロシアとの公的な関係の凍結と個人レベルでの活動の容認、それらの関連組織への周知、その他
    • 会議における審議内容・成果

      1)IUGS活動の世界への効果的周知について議論した。Social Mediaとともにold mediaなどをも使った周知ならびに委員会活動を通じて学術的成果を広く世間に伝えることが必要であることを確認。

      2)財務報告を北里が行い、承認された。加盟国分担金で運営していることを認識し、偏らない、透明性の高い運営と運用を進めることを確認。

      3)Commission on Geoethics をTask Force in Diversity and Inclusion を発展させた形で立ち上げることにした。日本から委員1名を推薦。

      4)Task Group on Marine Geohazards (Chair 川村喜一郎山口大学教授)の立ち上げを承認した。課題研究の進め方と組織、予算執行計画を来年の理事会で報告する。

      5)ロシアによるウクライナ侵攻が続いている。IUGSはロシア政府による他国への軍事侵略を非難し、組織レベルでの連携を凍結することを表明した。一方、個人レベルでの連絡は継続すべきであるとの立場を維持する。2024年の37th万国地質学会議(IGC)では、ロシアからの個人参加は認める方向で検討している。ロシア・サンクトペテルブルグで開催予定であった38th IGC は中止。開催地を再募集している。現在、3カ国が立候補する意向である。

      6)日本と韓国の間には、竹島(韓国名、独島)の帰属、日本海の呼称(韓国はEast Sea と呼ぶ)などの双方が容認していない問題がある。2024年のIGCは韓国釜山で開催されるが、当初案では竹島への巡検、日本海は東海と呼ぶなどの日本側が容認できない内容が含まれていたため、日本は協力はできない立場を維持していた。今回のIUGS 理事会で紹介された1st Circular は、表記の問題は全て避けられており、最大の問題は表面上なくなった。協力は可能であると思うが、日本の学協会などの不信が強く、文書での確認を求めており、そう簡単には折り合わないだろう。ただ、このままいくと日本に対する国際社会の風当たりは強いものに変わりつつあり、どこかで折り合わねばならないだろう。

      7)IUGSには、ICS(層序学)、TGIG(放射壊変定数)などの科学の基礎を構成する分野のほか、IFG(法地質学)、DDE(地質情報科学)、ICG(世界地質遺産)など、その成果が社会と直結するプロジェクトも多い。この社会とつながるトピックは、学問間を結ぶ分野融合(Interdisciplinary Science)や、市民を含むさまざまなステークホルダーをも巻き込んだTransdisciplinary Sciences に広がる境界領域になっている。地質科学は基礎科学の一つであるが、社会とのつながりをもった科学でもあることを認識し、そのバランスの中で生きるフレキシビリティーが求められている。

    • 会議において日本が果たした役割
      北里は財務担当理事として、国際組織の財務の公平性、透明性、持続的安定性を維持することに努めている。その方針は加盟国に浸透しつつある。2023年度予算を策定した後、理事およびその場に居合わせた関係者から拍手され、あらためて信頼されていることを認識した次第である。
    • その他特筆すべき事項
      会期前に発生し、会期中に死傷者が増大していったトルコ・シリア地震について、IUGS 理事会は中日にレセプションを行った際に、振る舞ったワイン代に相当する金額を国連機関の災害支援団体に寄付するチャリティーを行った(まだ金額が確定していないので寄付金額は未定)。こういった活動を通じてIUGS はアクティブな国際組織であることをアピールしている。

会議の模様

 IUGS は基礎科学としての地質科学の振興を支え、またその成果の社会実装を促している。また、学術組織として大きな問題となっている性差、人種、人権に関わる話題に立ち向かっている。とくにジェンダーバランスに関する問題には先進的に取り組んでおり、現理事会メンバー10名中4名が女性である。また、ユネスコとの共同プロジェクトであるIGCPは、リーダーの6割が女性である。来年、IUGS理事会選挙が実施されるが、初の女性会長選出を目指して人選中である。
 国際地質科学連合(IUGS) は、地質科学分野の研究を振興するとともに、全球に影響を与える環境問題、資源・エネルギー問題、防災など、人間生活に関わる課題に関わっている。科学では、本来、地球規模課題は国境を超えたシームレスな対応をしなければならない。しかし、昨今の覇権主義国家の拡大に伴って、国境を意識せざるをえない事態が数多く発生するようになってきた。日本は、地政学的に覇権国家と国境を接しており、対岸の火事ではない。評論家として綺麗事をならべるのではなく、地球規模課題を我がこととして捉え、真剣に議論し、答えを出し、行動に移すことを目指さねばならない。
 日本は、Category 8 という最も高い分担金を支払っている。これは、他国から大国として認められていることを意味しており、日本から理事や委員を送り込みやすい立場にいる。しかし、日本からIUGSに参加する委員の数は、カテゴリーが高い国の間では最低である。理事会や委員会での発言は、国際組織の運営に直接関わることができるために重要であるが、人数が少ないために発言力を発揮できないのが残念である。また、委員会委員としての参加数も少なく、より多くの若手研究者が参加しやすい環境整備を日本の学術コミュニティには強く望みたい。日本が世界で果たす責任は大きく、また効果がある。
 次回理事会開催地は、ケニア・ナイロビで開催される。多くの加盟国がありながら議論の俎上に乗りにくいアフリカでの開催を求める意見が強く出され、問題なく決定された。西欧を中心とした運営に偏りやすい国際組織が多い中で、IUGSのグローバルな視点を示す好例である。

次回開催予定
令和5年2月19~23日の期間、ケニア・ナイロビで開催される。理事会前日には巡検が企画されることを望んでいる

初日の円卓会議の様子。中央3名が執行理事
クイーンズ大学ベルファストの本部ロビー。白い彫像はガリレオ・ガリレイ
IUGS EC(理事会)の集合写真。参加者の4割近くが女性である