代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称

    (和文)世界科学フォーラム2022
    (英文)World Science Forum 2022

  2. 会 期

    令和4年12月5日~9日(5日間)

  3. 会議出席者

    近藤康久、標葉隆馬、高村ゆかり(オンライン参加)

  4. 会議開催地

    ケープタウン市(南アフリカ共和国)

  5. 参加状況(参加国数、参加者数、日本人参加者)

    118か国から1,331名(うち日本人参加者14名。登録参加者数計3,225名

  6. 会議内容
    • 日程及び会議の主な議題
      12月5日(月)サイドイベント(非公式分科会)
      12月6日(火)サイドイベント(非公式分科会)、開会式、運営委員会(第1回)
      12月7日(水)全体セッション「人間の尊厳のための科学」「気候正義のための科学」、テーマ別分科会など
      12月8日(木)全体セッション「アフリカと世界のための科学」「外交のための科学」、テーマ別分科会、運営委員会(第2回)など
      12月9日(金)全体セッション「科学における正義」、閉会式
    • 会議における審議内容・成果
      「人間の尊厳のための科学」、「気候正義のための科学」、「アフリカと世界のための科学」、「外交のための科学」、「科学における正義」の5章からなるケープタウン宣言を採択した。
      全文:https://worldscienceforum.org/contents/draft-declaration-of-world-science-forum-2022-is-now-open-for-comments-110144
    • 会議において日本が果たした役割
      全体セッション「外交のための科学」に小谷元子・外務大臣次席科学技術顧問が登壇し、Society 5.0を始めとする日本の科学技術外交政策を概説した。また、科学技術振興機構と日本学術会議若手アカデミーの合同で「Ecosystem to enhance global public good with science: distributive justice and well-being as key concepts」と題するテーマ別分科会を企画・主催した。
    • その他
      ケープタウン宣言については先述及び後述の運営委員会部分記載のとおり。
      現地報道は https://worldscienceforum.org/news に掲載されている。

会議の模様

世界科学フォーラム(World Science Forum; WSF)は、科学コミュニティーと社会、政策立案者、産業界の対話を促進する政策フォーラムであり、1999年の第1回会合以来、隔年で開催されてきた。今回は、コロナ禍の影響もあって、2019年以来3年ぶりの開催となった。ロシアによるウクライナ侵攻を始め、国際秩序の基盤が揺らぐ中での開催となり、全体テーマに設定された「社会正義のための科学(Science for Social Justice)」はまさに時宜に適うものとなった。また、アフリカ大陸では初めての開催となり、全体セッションで「アフリカと世界のための科学」が議論されるなど、開催国の南アフリカ共和国を始めとするアフリカ諸国、及びグローバル・サウス地域における科学技術の振興を強く意識させるプログラムとなった。

本会議において、日本学術会議若手アカデミーが科学技術振興機構(JST)との協働により企画・申請したセッション「Ecosystem to enhance global public good with science: distributive justice and well-being as key concepts」が、テーマ別セッションに採択された。このセッションは、モデレーターとコメンテーターが南アフリカ、スピーカーが日本、ナミビア、タイからの参加となり、国際色豊かなセッションとなった。セッションの企画に当たっては、JSTのほかに在京南アフリカ大使館及びグローバル・ヤング・アカデミー(GYA)の協力を得た。

このセッションでは、社会正義のための視点として「分配的正義(distributive justice)」の視点からスタートし、ジェンダー平等/公平(gender equality/equity)、科学技術交流をめぐる南北問題(ビザをめぐるハードルの高さに代表される南北間の構造的格差)などを論じた。そしてそのような問題を考える方策に対する示唆を、オープンサイエンスをめぐるこれまでの議論や実践から教訓を引き出す形で論じた。このような議論が最終的に世界的な福利(well-being)の向上に貢献する可能性を確認する機会となった。
また、このセッションに限らず、今回のWSFでは、ジェンダー・人種・性自認(例えばLGBTQ)などにおける少数派の機会均等(minority in stem)をめぐる議論や、気候正義(climate justice)をめぐる議論、そしてそれらを推進するための科学・研究活動の価値が、会議におけるコンセンサスとして繰り返し強調されていた点は重要である。特に少数派の機会均等(minority in stem)は、現在の米国バイデン政権における科学技術政策の重要課題となっていることも思いだされる。
また多様な視点の包摂のプロセスとしての市民参加(public engagement)に触れる議論も度々なされていた。同様に、日本では学際共創または超学際と訳されるトランスディシプリナリティー(transdisciplinarity)も、複数のスピーカーの話題にのぼった。ジェンダーや地域だけでなく、世代間ギャップの解消にも配慮がなされており、全体セッション各回の登壇者には必ず1人以上、GYAの関係者が含まれていた。
加えて興味深い議論として、南米の研究者が提起したサイエンス・ディアスポラ(Science Diaspora)の議論があげられる。この議論はGYAが主催したセッションにおいて言及されたものである。前述の国際共同研究や留学などにおけるビザをめぐるハードルの高さを含めた南北間の構造的格差とも重なる点であるが、グローバル・サウス諸国において研究者になるためには留学が必要となりまたポジション獲得においても海外が主な場になる(そして出身国や地元においては異質な存在になる)ことが多く必然的に離散(diaspora)の性格を帯びるという指摘である。このテーマもまた科学技術の南北問題や社会正義のための科学、そして分配的正義の問題を考える上で重要なコンセプトであるとの認識を得た。
 フォーラム全体を通して、テーマに設定された社会正義(social justice)が、不平等(inequality)や不公平(inequity)を解消するように制度や施策を改善することの正義、すなわち分配的正義を指すということが、各国からの参加者の間で共有されたように感じられた。全体セッションの成果として取りまとめられたケープタウン宣言にも、この共通認識が通底しており、これからの科学は、例えばジェンダー等や世代間・地域間格差の解消に寄与する決意と、特にアフリカ諸国をはじめとする新興国においては、これらの格差を解消した状態から科学技術を振興していくという決意を読み取ることができる。ひるがえって「Society 5.0」構想に基づく新たな科学技術イノベーション立国をめざす我が国はどうか。「Society 5.0」は上記のさまざまな格差を解消した社会なのか。我が国とその科学技術イノベーション政策の行く末を改めて考えさせられた。

<参考>
THEMATIC SESSION I./C BUILDING BRIDGES FOR EARLY CAREER SCIENTISTS: GLOBAL EXPERIENCES ON IMPACTFUL LEADERSHIP TRAINING AND NETWORKING

参考文献
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/frma.2021.657120/full

 なお、「ケープタウン宣言」草案作業は運営委員会(Steering Committee)が担った。同委員会はフォーラム中の12月6日及び8日に計2回招集され、宣言文案を検討した(事務局国際担当坪井ひろ子参事官補佐が代理出席・現地対応)。概要は以下のとおり。

第1回(12月6日14:30-15:30)
ホスト:Blade Nzimande南アフリカ共和国高等教育科学イノベーション大臣
アジェンダ:
(1)開会挨拶Blade Nzimande南アフリカ共和国高等教育科学イノベーション大臣
(2)ラウンドテーブル討論
 ・「社会正義のための科学」宣言草案の確認及び修正案
 ・「社会正義のための科学」を支えるための国際協力及び連携への提言
(3)閉会挨拶Freundハンガリー科学アカデミー会長・World Science Forum2022運営委員長

上記主要出席者による発言後、自由討論及び宣言草案の確認が行われた。提起された論点は以下のとおり。
公共財としての科学、アジェンダ2030とアジェンダ2063の融合及び理解醸成、伝統・非伝統的な研究と土着の知識の融合、多様性、アクセシビリティ、包摂性、均衡性、科学ジャーナリズム、倫理、基本的人権、自然科学と人文社会科学の融合、人類社会のインフラとしての科学、研究インテグリティ、科学のグローバルガバナンス、基礎科学、信頼性、教育、科学の傲慢性と自己内省性、等

第2回(12月8日17:00-18:00)
ホスト:World Science Forum 2022事務局
アジェンダ:宣言文案最終作業
宣言文案への提案及び修正案としてパブリックコメント(8日16:00〆切)が26件され、うち2件を事務局が反映した草案を検討し、承認。別途、運営委員からは主にユネスコからの修正案があり、確認・議論の上、全て反映された。

次回開催予定
2024年、ハンガリー共和国ブダペスト市

WSF2022開会式でのシリル・ラマポーザ南アフリカ共和国大統領による開会の辞(12月6日)