代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 会議の名称

    (和文)2022防災グローバル・プラットフォーム会議
    (英文)2022 Global Platform for Disaster Risk Reduction

  2. 会 期:令和4年5月23日から令和4年5月28日まで(6日間)
        うち、筆者(西川智)は本会議が開催された
        令和4年5月23日から令和4年5月27日まで(5日間)に出席
  3. 会議の概要
    1. 会議の形式:ステークホルダー・フォーラム、分野別シンポジウム、閣僚級会合、全体会合、分科会、その他(特別セッション、ブース展示、ignite stage講演会)
    2. 会議の開催周期:定期(2年に1回、今回コロナウイルス禍のため2022年に開催、次回は3年後)
    3. 会議開催地、会議場:

      会議開催地:インドネシア・バリ
      会 議 場:バリ国際会議センターBICC及びバリヌサドア国際コンベンションセンターBNDCC

    4. 会議開催母体機関:United Nations Office for Disaster Risk Reduction国際電波科学連合(International Union of Radio Science: URSI)
    5. 会議開催主催機関及びその性格:

      会議開催主催機関 United Nations Office for Disaster Risk Reduction
      同機関の性格 国連本部事務局の防災専門部局

    6. 参加状況:

      参加国数:国連加盟国のうちホスト国インドネシアをはじめ、日本、インド、メキシコ等185か国

      主な日本人参加者

      氏 名職 名派遣機関
      大野敬太郎 内閣府副大臣 内閣府
      水鳥真実 国連事務次長補・防災事務所長 国連防災事務所
      郡和子 仙台市長 仙台市
      西川智(筆者) 名古屋大学減災連携研究センター教授 日本学術会議

    7. 次回会議予定:

      会期 令和7年5月か6月の5日間
      開催地 スイス連邦ジュネーブ市
      準備組織(主催機関) United Nations Office for Disaster Risk Reduction
      所在地 国連欧州本部(ジュネーブ)、代表者 水鳥真実
      主なテーマ 防災と持続可能な開発、気候変動と防災、災害レジリエンス等

  4. 会議の学術的内容
    1. 日程と主な議題

       5月23、24日はマルチステークホルダー会合の日とされ、バリ国際会議センターBICCで開催された「科学と政策のフォーラム」、国際会議場で開催された「世界復興会議」及び「民間セクター会議」をはじめ多数の分野別・地域別・ステークホルダーグループ別会合を開催。 5月25、26、27日はインドネシア・ジョコ大統領及びモハメッド国連副事務総長が出席した開会式、全体会、閣僚級会合(写真1)、テーマ別シンポジウム、テーマ別分科会、ステークホルダー別会合が同時並行で開催、 このほかに、主要テーマに沿った短時間単独講演会(ignite stage、写真2)、企業や国際NGOによるブース展示(写真3)、特別セッション等が開催された。
       会議全体のテーマは、”From Risk to Resilience: Towards Sustainable Development for All in a COVID-19 Transformed World”とされ、その下で3つのメインテーマ「システミック・リスクに対応するための防災のガバナンス強化」「Covid-19からの復興」「防災のためのファイナンスと投資」が掲げられ、これらに応じた分科会が多数開催された。

    2. 提出論文

       全体会では、大野内閣府副大臣が閣僚級会合とハイレベル・ダイアログ(写真4)に登壇するとともに日本政府のステートメントを発表、その中で、仙台防災枠組の進捗状況管理と報告の重要性を強調、日本が長年、災害被害と対応、 そして災害経験に基づいて各府省が講じた施策を防災白書として組織的・継続的に記録・蓄積してきたことの意義を強調、東日本大震災以降の様々な面での防災強化の取組を紹介し、事前防災投資の重要性を強調した。 このほか52か国と40機関から公式ステートメントの発表があった。
       多くの分科会において、日本からの出席者から専門性の高い発表が行われた。例えば、内閣府防災部局とJICAが共催した“From DRR Strategies to DRR Investments - Keys to successful implementation of the Sendai Framework beyond the Global Target E-“のセッションでは、 大野内閣府副大臣による開会挨拶の後、筆者による司会の下、インドネシア国家防災庁Jati次官、仙台市郡市長(オンライン)、東北大学災害科学国際研究所小野教授、UNDP Angelika国際防災チームリーダーによる基調講演が行われた(写真5)。 大野副大臣からは、仙台防災枠組の2020年までのターゲットEを経て、今後は防災戦略の質の向上と具体的な事前防災投資の拡大が重要であることを強調し、当該分野におけるJICAのこれまでの協力に言及した。Jati次官からは防災計画策定及び事前防災投資に関するインドネシアでの取組の紹介があった。 UNDPの報告では、2015年以降の各国への支援内容の紹介があり、JICAの竹谷防災顧問より、開発途上国での仙台防災枠組に基づく事前防災投資の重要性と公共部門の役割を強調した。郡仙台市長からは、東日本大震災以前から1978年宮城県沖地震や1995年阪神・淡路大震災の教訓に基づき地震防災を進めていたこと、2022年3月福島県沖地震では仙台市で大きな揺れを経験したが、東日本大震災の教訓を生かして被害が最小化されたことの報告があった。
       「防災と科学技術」については、5月24日のステークホルダー会合に国際学術会議ISC(International Science Council) が”Closing the Gap between DRR S&T Knowledge and Practice at Local Levels”と題して筆者をモデレーターとするセッションを開催した(写真6)。 ISCでは、今回のGP2022会合に向けて筆者が中心となって提言を取りまとめ、その内容に沿ってセッションを構成した。 この提言では、各国で実質的に災害被害を軽減するためには、各国内の地方レベルでの取組が重要であり、そのためには、防災の科学者がそれぞれの地方の特性を十分理解し、当該地域の地方政府関係者等とよく意思疎通し、被害軽減に役立つ科学的知見を現地の事情に合わせて適応することこそが重要であり、そのような能力を持った若手研究者をファシリテータとして育成することが必要、 そのためには英文ジャーナルに掲載される査読論文数などを中心に若手防災研究者を評価する現在の風潮を変える必要があること、科学者と地方政府の防災実務者が対話する様々な機会を創出する必要があること、実際に科学者が地方に入りその地域に適した防災システムを構築して被害軽減に結び付けた実践例を国際的に紹介する必要性を述べた。 その実例として、神戸市看護大学の神原咲子教授からネパールでのEpiNurseプロジェクトについて、筆者から2023年5月21日に愛媛県で開催した地域安全学会春季研究発表会のシンポジウムや実務者企画委員会で自治体の防災担当者と防災研究者がフラットな場で意見交換する常設のメカニズムが日本の地域安全学会にあることを紹介、参加者から好意的な反応を得た。 なお、ファシリテータ育成の必要性については、日本学術会議が2020年9月に発表した「災害レジリエンスの強化による持続可能な国際社会実現のための学術からの提言 -知の統合を実践するためのオンライン・ システムの構築とファシリテータの育成」に基づいている。
      ISCの提言はこちら https://council.science/publications/closing-the-gap/
      日本学術会議の提言はこちら https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/kohyo-24-t298-1-abstract.html

    3. 学術的内容に関する事項

      今回のグローバル・プラットフォーム会合は、2015年仙台での第3回国連防災世界会議から7年が経過し、2030年を目標とする仙台防災枠組(SFDRR)のMid Term Reviewを2023年に行うことが予定されていることを踏まえ、全体会に時間を割き、各国、国連専門機関、国際NGOなどが交替で登壇したが、討議して意見集約をする形ではなく、それぞれが発言する形式に留まった。

    4. その他の特記事項

      この会合は、政府間交渉でもなく、また会議参加者の合意文書を作成することが目的ではないものの、ホスト国インドネシアとUNDRRが中心となり、会議の報告としてCo-Chairs’ Summary Bali Agenda for Resilience副題 From Risk to Resilience: Towards Sustainable Development for All in a COVID-19 Transformed Worldが発表された。この文書については、
      https://globalplatform.undrr.org/publication/co-chairs-summary-bali-agenda-resilience
      を参照願いたい。

会議の所見

 2022年は11月にエジプトで国連気候変動枠組条約第27回締約国会議 COP27が開催予定であり、今回のグローバル・プラットフォーム会合は、その前に開催される国連の会議ということもあり、災害よりも気候変動に関心を持つ参加者も多数見受けられた。気候変動の問題は、従前より国連の場では南北対立の課題でもあり、彼らはCOP27の交渉の前段階でのロビイングの場として参加の価値を見出したようであった。
 仙台防災枠組では、優先行動3として防災への投資Investing in disaster risk reduction for resilienceを掲げている。このinvest という言葉に敏感に反応して会議に参加した欧米の金融関係者も見受けられた。現在、green finance あるいは blue financeという概念が環境分野で使われているが、前述のCOP27の前段の議論として、気候変動適応に金融関係者が一役買おうという意欲から参加していたものと思われる。
他方、防災のためのインフラ投資が必要であることは認識されており、その中でも、resilient infrastructure への投資が必要だとの国際的な共通認識が形成されつつある。この分野では、2019年の日本でのG20サミットの機会にG20 Principles for Quality Infrastructure Investmentが日本のイニシアティブで決定されている。 今回のグローバル・プラットフォーム会合に合わせて、UNDRRはPrinciples for Resilient Infrastructure という文書をまとめてセッションで発表しようとしたが、その中身が未熟であるとの日本政府からの指摘を受け、draftとしてこの会議に提示し、各国からの意見を募集することとなった。ここ数年、インドが事務局となって設立されたCoalition for Disaster Resilient Infrastructure をはじめ強靭なインフラに関する国際的なイニシアティブが相次いで発足しており、今後防災とインフラ投資についての国際的な議論が進展していくものと思われる。

閣僚級会合の様子 (写真:UNDRR提供)
短時間単独講演会 ignite stage 企業や国際NGOによるブース展示
ハイレベル・ダイアログでの大野内閣府副大臣(大会場での開催のため発言者の映像、手話通訳、自動英語字幕がスクリーンに投影される)
大野副大臣による開会あいさつ、郡仙台市長とUNDPはオンライン参加
5月24日国際学術会議ISC主催のセッション、神原教授はオンラインで参加
屋外テントでのPCR検査 参加者に配布された感染対策セット