提言「自動運転の社会実装と次世代モビリティによる社会デザイン」のポイント

1 作成の背景

 自動車の自動運転は、2022年の道路交通法改正で、特定自動運行としてレベル4が認められるようになり、研究開発や実証実験のフェーズから、社会実装のフェーズへ移行しつつあると言われる。しかし、本格的に普及を進めるには解決すべき課題が多いとも言える。
このような背景の下で、日本学術会議では、第24期に、提言「自動運転の社会的課題について-新たなモビリティによる社会のデザイン-」を発出した。自動運転という新しい技術を社会に実装していくに当たり、将来社会のグランドデザインにおける自動運転・モビリティの役割、人文社会科学的な価値観・倫理観に配慮した人間中心のデザインと社会実装、実証データの整備とエビデンスに基づく持続的な開発、産官学連携の国家的プロジェクトによる人材育成と研究開発といった点について述べた。第25期自動運転の社会実装と次世代モビリティによる社会デザイン検討委員会(以下「本委員会」という。)は、同委員会の下に設置した同委員会自動運転企画分科会及び同分科会自動運転と共創する未来社会検討小委員会とともに、前期の提言を更に具体化していくべく活動を行い、2023年5月には見解「自動運転における倫理・法律・社会的課題」を発出した。それを踏まえて更に議論を重ね、社会デザインにおけるモビリティの在り方まで検討対象を広げ、社会全体の便益が得られる仕組みづくりや人材育成について検討を行ってきた。こういった活動をまとめ、今後のアクションプランにつながる項目等を記し、関係各位の取組の参考になることを目指すものとして、本提言を発出することとした。

2 現状及び問題点

 自動運転については、2020年11月にレベル2ながら茨城県境町で本格運行を始め、2020年度末にはレベル3の車両が公道を走り始めており、社会実装が着実に進展している状況にある。一方、ELSI(Ethical, Legal and Social Issues:倫理的、法的、社会的課題)に関する検討は未だ十分とは言い難いため、他国で先行している倫理指針を定めることにより、法制度については細かいところまで検討し、ジレンマ問題(倫理的・道徳的な対立問題)を含めた安全目標も明確にして、技術ガイドラインが改定されることが望まれる。
また、自動運転及びモビリティサービスという手段を使って、どのようなモビリティ社会を作ろうとしていくのか、社会デザインの検討も十分ではない。特に日本では、少子高齢化による大幅な人口縮小社会の姿を想定し、目指すべき目標の実現に向けた道筋を作ることが不可欠である。技術の高度化も期待されるが、過度に高い目標設定をするとコストに跳ね返るため、普及を阻害させない適正な目標設定に向けた議論を加速する必要がある。

3 提言

本提言は、ELSI、人口減少時代の社会デザイン、持続可能な次世代モビリティに焦点を当て、産学官民が総力を挙げて取り組むべき基本課題を整理し課題解決に向けた道標を提言するものである。

  • (1) 自動運転に関する倫理的検討及び法的課題検討  

     完全自動運転に関する倫理課題を整理することは、法整備及び社会設計を行う上で重要である。国が産業界、自治体、市民と連携して、自動運転に関する倫理的検討を進め、日本文化、地域特性に配慮しつつ、グローバルな対比において最適な「倫理指針」を国家レベルで整備することが望まれる。
     人の運転が介在しない完全自動運転を社会実装するには、長い普及過程において様々なリスクとベネフィットが伴うため、人の介在の在り方、異常時対応システム設計等の技術的課題と併せてELSIについて、時代の要請に応じて産学官民で継続的に検討すべきである。

  • (2) 人口縮小社会における社会のグランドデザイン  

     日本では人口減少が顕著であり、国はこの人口縮小社会における持続可能モビリティの在り方についてしっかり議論して方向性を示すべきである。人口減少問題は今後しばらく続く大きな課題であり、対象とする地域に適合するシステム設計要件を整理し、それぞれの地域の人口動態と特徴を活かした次世代モビリティの導入に向けて検討すべきである。
     この際、地域住民の最低限のモビリティの保障を考え、移動の価値と権利、移動のためのコストとベネフィットを議論し、まちづくりの観点からは、高齢者の健康維持、脳疾患等による運転困難者等を含む交通弱者の救済、医療費の削減、社会生活の質の維持、移動による地域経済の活性化等のベネフィットを定量化することなど、他セクターへの価値向上効果の見える化を進め、対象地域全体のグランドデザインを示すべきである。
     また、誰一人取り残さない社会を目指すSDGsの観点からも自治体と地域住民とが一体となり持続可能社会に向けたモビリティの導入や維持管理をする連携体制を整備すべきであり、自治体が積極的に主導しつつ、地域住民が自分事としてモビリティの課題を考えて対応できる体制整備が必要である。

  • (3) 目標設定の明確化と社会実装に向けた産学官民の連携  

     人が介在しない完全自動運転システムと人がある程度介在する自動運転技術を取り入れた高度運転支援システムを、社会の諸課題を解決するための次世代モビリティとして位置付け、明確な安全目標を掲げ、費用対効果で受け入れ可能な具体的な設計目標を示すことが、社会実装に向けて、特に必要であり、そのための官民連携での検討が必要である。
     完全自動運転の普及には時間が掛かると考えられ、そこに至らなくともレベル2までの運転支援技術を高度化し社会実装することによるベネフィットは大きく、その普及に向けたシナリオも官民連携の体制の下で整備する必要がある。さらに、完全自動運転を目指した移動サービスや物流サービスの事業モデルを意識し、車づくりの仕様設定を明確化することにより、普及を加速すべきである。自家用車の開発と合わせて、日本の自動車産業が日本経済を引き続きけん引できるように、国際協調、国際基準・標準作りに貢献すべきである。
     モビリティに関しては100年に一度の変革の時期にあると言われており、カーボンニュートラルへの対応も含め、新技術の社会実装・普及拡大に向けては、産学官民の連携が非常に重要であり、国がリードし、産業界が技術を進化させ、国民が時代に求められるような変化へ対応し、一人一人の多様な幸せが皆で享受し得る社会の構築を目指すべきである。





     提言全文はこちら(PDF形式:621KB)PDF
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