見解「医療従事者の職業被ばくに係る放射線管理の改善に向けて」のポイント

1.現状及び問題点

 放射線を用いた診療は国民の健康のために大きく貢献しているが、診療を受ける患者に生じる医療放射線被ばくに加え、診療を実施又は補助する医療従事者に職業被ばくを生じることがある。職業被ばくに係る安全管理は法に定められているものの、医療現場での遵守には課題があり、特に医師等に被ばく線量が高い者がいることが明らかになっている。我が国の高い医療水準を維持し発展させるためには、放射線診療の提供を継続しながら、医療従事者の放射線に対する安全確保を改善しなくてはならない。
 医療従事者の放射線管理は、放射性同位元素等の規制に関する法律(RI法)関係、医療法関係、電離放射線障害防止規則関係と複数の法体系に規定されている。RI法が適用される場合の放射線管理では、各医療機関が作成する放射線障害予防規程に則り、放射線取扱主任者が監督する。放射線作業に従事する者には従事開始前及びその後は定期的に健康診断及び教育訓練を実施し、作業時には個々の作業者の被ばく線量を測定して、線量限度を超えていないことを定期的に確認する。一方、RI法が適用されないエックス線検査等では、包括的な内部規程、監督者、定期教育を義務づける法令はない。
 医療現場では専門性が高い診療を行う医師に特に高線量被ばくを生じやすいが、放射線を遮蔽する放射線防護具の配置や活用の不備が高線量被ばくの一因になっている。個人線量計の装着が徹底されておらず、また、高線量被ばくや線量計不装着といった問題があっても改善のための対応は十分でない。放射線作業者として管理すべき対象者が不明確で、特別な管理なしに放射線診療に従事している場合がある。

2.見解の内容

(1) 医療機関内の放射線管理組織の構築
 放射線診療を行う医療機関には、医療従事者の放射線安全に関する事項を包括的に担当する放射線管理責任者を定めることが求められる。放射線管理責任者は医療機関の長の元で、内部の労働安全組織と連携して放射線安全のために必要な事項を行うこととし、その責務と権限を明示して医療機関内で周知する。政府には、各医療機関でこのような放射線管理体制を構築すべきことを定め、実現状況を確認することが望まれる

(2) 医療機関内の放射線安全管理規程の策定
 放射線診療を行う医療機関には、放射線安全管理のための内部規程を定め、医療従事者の放射線安全に関する事項を包括的に定めることが求められる。当該規程に、放射線管理責任者、放射線作業従事者、放射線管理区域への一時立入者、管理区域における遵守事項、線量測定と線量管理、教育訓練、健康診断に関する事項等を明記する。政府が当該規程の策定に係るガイドラインを定め、これに基づいて関係学会等が具体的な規程例等を示すことが望まれる。さらに、行政には、各医療機関の放射線安全管理規程の内容を確認し、必要な指導等を行うことが望まれる。

(3) 放射線安全のための教育の充実
 各医療機関には、放射線作業に関わる者に対して、放射線安全のために必要な教育を行い、放射線影響や放射線防護の一般的知識、放射線線源の安全取扱い、関係法令や医療機関内規程に関する事項等を周知することが求められる。放射線作業従事前の教育に加え、従事開始後の定期的な再教育を実施する。また、放射線管理責任者には関係学会等による研修等の受講、行政機関には適切な教育の実施を確認すること、関係学会等には医療機関内教育の実施を支援することが望まれる。

(4) 職業被ばくの個人線量管理の改善
 各医療機関は、個人線量測定の意義と方法を医療機関内で周知し、確実な実施を確認する体制を構築することが求められる。高線量被ばく者への対応方針を医療機関内の放射線安全管理規程に明示し、放射線管理責任者による適切な対応を保証する。行政機関には、各医療機関が適切な線量測定を実施して高線量被ばくに対応する体制を確立していることの確認が望まれる。





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