見解「安全安心なディジタル社会に向けて」のポイント

1.現状及び問題点

 コロナ禍で、必要な情報やサービスを、必要な人が、必要な時に常に受けられることの重要性が明らかになった。つまり、社会活動の効率化や持続可能性につながるディジタル社会の構築が、国や自治体、また個々人にとっても重要であることが明らかになった。ディジタル社会では、将来の成長、競争力強化のために、組織・業務モデルの柔軟な改変・新たな創出やコストや時間の大幅な削減やディジタル化された「データ」の機械学習などを用いた各種社会課題の解決なども期待されている。ディジタル化は医療、行政、教育、産業界など各種業界で必要なため、課題に遮られてディジタル化をためらうのではなく、課題を克服して安全安心なディジタル社会を浸透させることに向けた制度構築が必要と言える。
 一方で、ディジタル化された「データ」、「モノ」や「サービス」はサイバー攻撃などのセキュリティリスクやプライバシ侵害などの新たな課題を引き起こす。実際、コロナ禍の間に急速に広がった遠隔業務・在宅勤務業務に伴い、本格的なサイバー攻撃の対象が個人にまで広がっている。また、サイバー攻撃は企業規模や業種に関わらずあらゆる産業活動が対象となる。ディジタル社会ではネットワークで様々な組織や世代がつながるため、一部の組織や世代におけるディジタル化の遅れは、セキュリティ上の問題や不公平な社会につながるおそれがある。よって、社会全体としての安全安心なディジタル社会の構築が重要となる。

2.見解の内容

 本分科会では、絶対なる安全はないという前提において、日本社会全体としてのセキュリティとプライバシを考慮した安全安心なディジタル社会の構築に必要な制度構築について検討し、安全・安心なディジタル化の構築に向けて、大きく4つの課題が明確になった。検討結果を踏まえ、政府及び行政、学術研究機関、産業界が取り組むべき4つの課題について、見解を述べる。

  • (1) リカレント教育等によるディジタル人員強化の制度構築
     個人の学び直しを阻害する要因として、費用、時間、学び直しの意義が指摘されている。本見解では有職者の社内教育と離職者の就業の2つの観点から、政府に対しては、以下の項目の制度構築が必要と考える。
    • ① 職業情報の可視化
    • ② 個人への学び直しの公的支援の充実
    • ③ 企業・教育機関・地方公共団体等の連携による体制整備
     また、学術研究機関におけるリカレント教育に対しては、以下の取組が必要と考える。
    A) リカレント教育の質を保証する情報の見える化と人材交流
    B) カリキュラム改良に関する連携
  • (2) プライバシ保護とディジタル社会の両立
     プライバシ情報は、個人情報と違い、その保護対象となる情報が不明確であり、リスクや保護方法は利用形態により異なる。本見解では、政府に対しては、以下の項目の制度構築が必要と考える。
    • ① プライバシガバナンス確立の支援
    • ② プライバシ情報に関する共同利用評価機関の設置
     また、学術研究機関に対しては、以下の取組が必要と考える。
    A) プライバシガバナンスの確立
  • (3) サイバー攻撃を見据えたディジタル社会の設計
     企業、地方自治体等でのサイバーセキュリティ対策を阻害する要因として、対策にかかる費用や、対策の効果が見えないことなどが挙げられる。本見解では、政府に対しては、以下の項目の制度構築が必要と考える。
    • ① サイバーセキュリティ対策への公的支援
    • ② サイバーセキュリティ対策の可視化
  • (4) インシデント情報共有及び援助の仕組みを備えたディジタル社会の設計
     サイバー攻撃の複雑化、巧妙化に伴い、被害組織が単独で分析、対策を実施することも難しくなってきており、適切な対処や再発防止の遅れは更なる被害の拡大を招く。政府に対して、以下の項目の制度構築が必要と考える。
    • ① インシデント情報の共有と運用の推進
    • ② サイバーセキュリティ関連の人材交流
    • ③ サイバーセキュリティに関する公的支援
    • ④ サイバー攻撃対策の可視化、啓蒙・広報活動

 上記4つの課題に加えて、安全安心なディジタル社会の構築時に考慮すべき課題として(5)ディジタル技術の社会受容性(6)研究力強化についても述べる。





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