見解「気候変動に伴う水災害の頻発化・激甚化に対応して、今、科学・技術に求められるもの ~将来の市街地土地利用のために~」のポイント

1.現状及び問題点

 気候変動の影響を受けて洪水や土砂災害が頻発化・激甚化している。河川の氾濫原であるとともに海面下の土地を含む低平地に稠密な市街地が広がっている我が国は、洪水や高潮などの水災害に対して極めて脆弱である。各国が報告した緩和策では産業革命以前からの気温上昇が今世紀中に2.1~2.9℃に達する可能性が高いとの報告がなされており、豪雨の頻発化・激甚化がさらに進むことが懸念される。また、海面上昇が進む将来を想定すると高潮の発生頻度が増加するとともに防潮堤嵩上げ等の防災対策のペースが海面上昇の速度に追い付かないなど、対応不能な事態となることも危惧される。
 政府は「流域治水」を掲げて社会全体で対応する防災・減災対策へと大きく舵を切り、洪水に関係する法制度を整備して本格的な取組をスタートさせた。氾濫をできるだけ防ぐ対策に加え、被害の軽減・早期復旧・復興のための対策や部分的に被害対象を減少させるための対策を含め、洪水に限らず土砂災害や高潮などの水災害リスクに対して社会全体で取り組む総合的で多層的な施策展開を目指している。
 しかし、将来、気候変動影響の激化が急速に進めば、被災によって移住・移転を余儀なくされる事態が各地で頻発することも想定されるため、数十年後の構想として流域や国土全体を対象とした大規模で計画的な土地利用の変更によって被害対象を抜本的に減少させることも選択肢の一つとして視野に入れ、一歩先へと検討を進めておく必要がある。その際、自然外力の変化速度や個々の土地の脆弱性という不都合な事実を社会全体が共通認識として受け止めることに資することも意図しつつ、視点を組み立て直し、必要な知見を考究することが重要となる。

2.見解の内容

 豪雨災害や高潮災害に限って、また災害の態様が異なる山間地や農地を除いて、対象を市街地に絞り、計画的な土地利用変更やこれと関連する住宅の耐水対策に資する知見の考究について、今、科学・技術がなすべきことについて見解を述べる。

  • (1) 市街地の土地利用の検討に資する水災害リスクに関する知見の考究
     自然外力の変化状況や将来見通しとともに、水災害に対する個々の土地の脆弱性に関する知見について考究し、その結果を公開するべきである。
    • ① 水災害の要因となる要素の時間変化の明示
       地方ブロックなどの広域スケールのエリアを対象に、豪雨災害については降雨量やその発生確率の変化、高潮災害については潮位偏差と海面水位の変化について、過去から現在までの実測値の分析結果と将来予測値を時間軸とともに長期間にわたってプロットした図は、計画的に土地利用を変更しなければならない時期の目安として活用できるとともに、社会全体の水災害リスク認識の共有にも資する。
       このため、気象研究者、水文研究者、河川・海岸研究者は国土交通省や関係学会とともに、関係者の協力を得て、こうした研究を推進し、さらに毎年更新して、その成果を広く公開するべきである。
    • ② 地形特性による豪雨の発生しやすさの明示
       市町村単位やこれを越える中規模スケールのエリアを対象に、豪雨をもたらす気象現象ごとに地形特性による豪雨の発生しやすさを示すことは、市街地の脆弱性を把握する有効なツールとなる。
       このため、気象研究者と水文研究者は国土交通省や関係学会とともに、関係者の協力を得て、こうした研究を推進し、その成果を広く公開するべきである。
    • ③ 地形特性による浸水形態別の区域の明示
       市街地内のミニスケールのエリアを対象に、低速流浸水や高速流浸水など浸水形態別に区域を明示することは、住宅の耐水対策の効果と相まって、市街地内の土地利用の検討に有効なツールとなる。
       このため、河川・海岸研究者と建築研究者は国土交通省や関係学会とともに、関係者の協力を得て、こうした研究を推進し、その成果を広く公開するべきである。
  • (2) 地域と連携した体制の整備
     上記の研究によって得られた知見を地域に浸透させるとともに、地域ごとに異なる事情を把握して新たな研究の推進を図り、その成果を地域に還元してさらに課題を把握するといった、地域と連携した体制の整備が知見の考究にとって極めて重要である。
     特に、住宅の耐水対策研究においては、地域と連携した体制の下で、被災住宅に関するデータ取得等の活動を積み重ねていく必要がある。
     このため、建築研究者と河川・海岸研究者は地域の建築技術者や関係機関、NPO等と連携し、流域治水協議会等の場も活用するなど、地域と連携した体制を整備するべきである。




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