見解「計算科学を基盤とした産業競争力強化を推進する人材育成とエコシステムのあり方」のポイント

1.現状及び問題点

 Society5.0、IoT、サイバーフィジカルシステム(Cyber-Physical System、以下「CPS」という。)、カーボンニュートラル等が標榜される複雑でグローバルな社会環境において、従来とは違う意味や目的等の新しい価値の製品、システム、サービス等の構築は喫緊の課題である。これに対し、計算科学の効果的活用は、特にCPSを推進する上で重要度が増加していくと考えられる。製造業では様々な分野の計算科学活用が進められているが、現在では、汎用のソフトウェア活用が主流である。特に、海外発ソフトウェアが大半を占め、それらの特徴としてはメンテナンス、バージョンアップや使い勝手が優れている点が挙げられる。一方、地球シミュレータ、「京」、「富岳」等の開発を契機にスーパーコンピュータ使用を前提とした国産ソフトウェア開発が国主導プロジェクトの支援を受け精力的に行われてきた。
 国産ソフトウェアを強化する狙いとしては、ソフトウェアの中身や理論を十分理解することで得られる高信頼で効果的な活用や人材育成の観点が大切である。さらに、昨今の海外情勢も踏まえ、データやソフトウェアの覇権争いなどで生じる機会損失のリスクや、長期的な安全保障上の観点から、国内ソフトウェア産業のグローバルな地位確保強化の視点は重要である。
 しかしながら、これらのソフトウェアが実用化され製造業に十分浸透しているとはまだ言えない状況である。浸透させる手段の一つとして、ユーザーがソフトウェアを有効に使いこなし、解析モデリングをノウハウ化しながら、ソフトウェア性能や利便性も適宜、継続的に改良していくこと、いわゆる、解析品質向上プロセスの普及が重要である。
 このプロセスを継続的に推進、普及するには、有能な人材の確保や育成、産学連携、ソフトウェアの実用化等を支える仕組みとして、国内の関連する企業や人材、組織等のステークホルダーが有機的に結び付き、広く共存共栄して、産業競争力強化につながるような「新たなエコシステム」の構築が必要と思われるが、これまで十分検討されていない。また、長期的継続的な取組が必要であるが、現状では開発者自身の努力に頼っているのが実情であり、それを改善するための施策も明確ではない。

 上記の背景、課題を踏まえ、計算科学を産業競争力強化に寄与しうる技術として発展させ、人材育成も含めて利活用の裾野を広げる施策について見解を示す。

2.見解の内容

  • (1) 新たな視点に基づく評価の考え方(指標等)の導入検討
    •  これからのモノづくり環境の進展の中、AIや情報科学等の技術との連携も踏まえると、今以上に多様なツール、ソフトウェアの組合せや最適化を行う技術人材育成において、システム・インテグレーションの研究開発及び競争力の源である事例研究に基づく解析品質研究やソフトウェアの改良、維持等の仕事に従事する者の役割は重要になる。それを積極的に評価する新たな連携や評価の仕組みを作ることが大切である。
  • (2) 計算科学活用における多様なエコシステムの構築
       
    • エコシステムを推進する上で必要と思われる仕組みや組織を以下に示す。
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    • 1) ソフトウェアベンダーと大学、ユーザーのスパイラル的な連携の仕組み、国産汎用ソフトウェア、オープンソースソフトウェアと商用ソフトウェアの交流の場
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    • 2) 解析品質の考え方を踏まえた事例研究等の関係者が有用情報を共有、活用する活動を担うための、産業界の人材も含めた、学協会連携・統合、NPO等の組織化
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    • 3) ソフトウェア企業への解析人材育成支援コンサルティング機能(学協会等)
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    • 4) パンデミック等の社会活動が困難な状況下においても計算科学活用を維持できるオンラインシステム、人材ネットワーク、成果公開の仕組み
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    • 5) AIや情報科学系を含むソフトウェアインテグレーションや関連組織、及び異分野間連携を促進、コーディネートできる人材の育成プログラム
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    • 6) 上記1)~5)をサポートして、研究者個人の努力にのみ頼るのではない、エコシステムのドライブフォースとなるインキュベーション組織
  • (3) 出口を見据えた戦略  
       
    • 上記(1)、(2)を推進する上での具体的な戦略案を以下に示す。
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    • 1)計算科学活用に関する研究者活動を探索、抽出、評価する仕組み開発
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    • 2)独立行政法人、国立研究開発法人、学協会等と産業界との連携によるインキュベーション支援組織の構築や運営システム
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    • 3)1)2)を試行、実用化するための新たな国主導ファンド等の施策
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