報告「持続可能な社会に貢献する看護デジタルトランスフォーメーション」のポイント

1.現状及び問題点

     
  •  少子高齢化に伴う人口構造の変化に加え、新型コロナウイルス感染症による医療システムの変化、社会・経済状況の急速な変動により、保健・医療・福祉サービスの受け手は増加し続け、サービスの提供者は減り続ける中、看護実践や看護教育に、デジタルテクノロジーを加えることが必須となった。しかしながら、現状ではテクノロジーによる看護開発に必要な看護データの標準化が不足している。データの標準化と大規模データ蓄積基盤の整備により、バイタルサインデータ、ナースコールデータ、看護記録データ等、看護の場面で創出されるあらゆるデータの二次利用に関する研究が足りていない。
     大規模データ蓄積基盤の構築と基盤の維持管理並びに蓄積したリアルワールドデータを研究利用できる人材、ポピュレーションアプローチができる人材の育成は限られており、また、看護教育の現場でも、情報学に詳しい教員が不足している。医療現場においても、情報システムに詳しい看護人材が足りていない。
     加えて、教育機関において、キャンパスや職場で学習を強化したり、意思決定を支援したりするためにデジタル技術にアクセスして使用する環境が整っていない。そのため、看護学生がデジタルヘルスについて学び、デジタルヘルスに対応するためのコンピテンシーを高める機会が妨げられており、同時に、そのために必要な標準化されたカリキュラムも十分でない現状がある。
     さらに、デジタル技術を使用する際に、安全、効果的、適切に行動する方法について、規定や制度、ガイドライン等の整備不足がある。特に大規模データ利用に関して、看護における個人情報保護法上の整理が必要である。

2.報告の内容

(1) 看護実践のDXが目指すこと
 看護実践のDXが目指すことは、看護実践の標準化とその先の個別最適化である。看護実践の標準化では、まず形式知の特定とともに、提供した実践が看護対象のアウトカムの維持・向上に貢献したのかを評価するために実践の質(プロセス、アウトカム)や安全性を評価する指標や基準も設けていく必要がある。そして、人が担うべき部分、技術に任せてもよい部分を検討した上で、看護実践の最適化や実践を強化するためのツールとして、デジタル技術の活用や技術開発を検討していくことが肝要である。

(2) 看護教育のDXが目指すこと
 看護教育のDXが目指すのは、「看護実践のDXを推進できる人材」の育成に加え、教育DXの観点では「教育のデジタル化と教育DXを推進できる人材」の確保となる。特に教育DXは、紙媒体の教材をデジタル化してタブレットやパソコンで参照したり、オンライン会議システムで講義を提供するといった、デジタル技術への移行のみを指すのではなく、学習効果・効率性の向上を目指した取り組みであり、学習者の個別ニーズに応じた学習効果の最大化、学習プロセスの可視化、新しい学習方略で学ぶことによる意欲や関心の向上等を通して、学習効果の向上が期待されるものである。また、教育を行う者にとっては、このような教育DXによる教育の質の均てん化、個別フォローアップの強化が期待される。

(3) 看護研究のDXが目指すこと
 テクノロジーの発展と共に、治療・診断の場と同様に重要な、看護・ケアの場におけるリアルなニーズと、工学的な開発方法論の融合が必要である。加えて、すでに利用可能なデータを積極的に活用し、仮説提案型・課題提起型・問題抽出発見型の研究や調査を、リアルワールドデータ(臨床データ)に基づいて行うことも重要である。看護が扱う現象は、対象の身体状況のみならず心理社会的状況、生活・環境状況が絡み合っている健康課題を包括的に取り扱っているため、DXを推進していくためには、健康課題に対して臨床的な疑問と優れた研究としての問いの設定ならびにそれに基づく的確なリアルワールドデータの活用が必須である。

(4) 看護DXに必要な法的整備
 日本の個人情報保護法では、研究においては医療データを匿名加工し、権限を有する者が完全に復元できないようにすれば、利用することができると規定されている。平時・緊急時の医療保健福祉に跨り個別のケアを行う看護実践・研究は、個別の法的に高度な判断が必要になる。新たな法整備や倫理指針の更新などを広く捉えながら、看護実践・研究のDXとデータの利活用を進めていくことが重要である。





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