報告「脱炭素化を取り巻く現状と課題 -住宅・建築分野の対応-」のポイント

1.現状及び問題点

 我が国が2050年までにカーボン・ニュートラルを達成するためには、住宅・建築分野において、1) 運用段階の徹底した省エネルギー、2) 再生可能エネルギー電源の導入、3) 材料、施工、廃棄段階の排出削減を可及的速やかに国内のあらゆる種類の新築及び既築建物に遍く実施する必要がある。運用段階のCO2排出をネットゼロとする住宅・建築物はZEH(ネット・ゼロエネルギー・ハウス)・ZEB(ネット・ゼロエネルギー・ビル)と呼ばれ、その拡大普及は急務であるが、その実現には多くの課題がある。

2.提言等の内容

  1. 住宅における省エネ推進と再エネの導入
     第六次エネルギー基本計画では2030年以降の新築住宅の100%がZEH水準の省エネ性能を有し、新築戸建住宅の60%に太陽光発電が導入されることを目標としている。しかし、2021年度の新築戸建住宅のZEH割合は26.8%で目標には遠く、より一層の取組が必要である。戸建住宅や分譲住宅に関しては、省エネ推進が居住者の健康や快適性、光熱費削減などのベネフィットをもたらすことを社会に周知する一方、賃貸住宅に対しては省エネやZEH化への投資がオーナーに利得をもたらす仕組みの構築が必要である。
  2. 建築物における省エネルギー対策の推進
     中高層建物は床面積に対する太陽光発電容量が小さいため、太陽光発電による消費電力のオフセットは難しい。しかしそのような条件であっても、大幅な省エネにより脱炭素化へ貢献することは可能であり、対応する認証制度も整備されている。しかし現在の新築件数における認証取得割合は工場で27.3%、オフィス、ホテル、病院はいずれも5%未満で低い。これを100%近くに引き上げるためには、抜本的な取組が不可欠である。
  3. エンボディド・カーボン対策
     住宅・建築のライフサイクルにおいて材料製造、施工、廃棄におけるCO2排出の占める割合は大きく対策は急務である。特に、鉄やコンクリート等はCO2強度が高いことから、大規模かつ安価に導入可能な低炭素型素材の技術開発は喫緊の課題である。一方、産学で開発が進む低炭素型建設材料や施工法等を適切に評価するLCAツールが我が国には存在しない。国際的な流通性を有する基準や評価の枠組を産官学の協力の下、早急に構築する必要がある。
  4. 既築対策
     住宅・建築物は他の製品と比較して長寿命である故に、新技術がストック全体に波及するには長期間を要する。2050年時点でも、省エネ基準導入以前に建設された古い建築物が相当数残る可能性は高いことから、不動産評価、金融、税制など多様で長期的観点に立ち、既存住宅・建築物対策を検討・実施する必要がある。なお、既存建物の改修・建替の意思決定は、コストだけでなくエンボディド・カーボンを考慮したライフサイクルで評価する戦略も必要となる。
  5. 異分野協働の促進
     住宅・建築分野は裾野が広く関連する産業分野も多岐に渡る。例えば、再生可能エネルギー電源の増加により喫緊の課題となった受給一体となったエネルギーマネジメントは電気・電力・情報分野との境界領域である。一方、コンクリート・鉄など共通の構造材料を使う土木インフラ分野とは低炭素型素材の開発や基準化における協働が求められる。気候変動による災害の頻発や高温化による熱中症増加などを背景として、社会安全、健康・医療分野、冷凍空調分野との協力も期待される。
  6. 学術・産業分野における国際社会への貢献と国際的競争力
     世界で住宅・建築分野の脱炭素化が加速している状況下、建築物の環境性能の認証や格付け、低炭素型材料の規格、LCAツールなど、脱炭素化対策を評価する国際的枠組の構築に日本が積極的にコミットし、日本のみならずアジアの気候風土や社会特性に踏まえた適切な評価が行われるよう産官学一体となって取り組む必要がある。また、学術分野においては日本から海外への研究発信が低調であり、日本の研究力の世界的プレゼンスが極めて低い現状を重く受け止め、学術コミュニティにおける組織的な取組が必要である。





      報告全文はこちら(PDF形式:801KB)PDF
このページのトップへ

日本学術会議 Science Council of Japan

〒106-8555 東京都港区六本木7-22-34 電話番号 03-3403-3793(代表) © Science Council of Japan