報告「サステナブル投資による産業界のインパクト」のポイント

1.現状及び問題点

 国際的な潮流として、持続可能な開発の概念が広まっている。持続可能な開発を実現するためには、過去・現在・未来や各国との比較を行う必要があり、そのために開発指標が必要である。従来の指標である(一人当たりの)国内総生産は、人や国に留まらず、また地球環境問題や人権問題を無視して増加する可能性があり、それを補完する指標が必要である。また、世界的にはサステナブル投資が促進され、非財務資本に関わる企業活動や情報開示が求められており、その影響は日本においても無視できない。

2.提言等の内容

  1. サステナブル投資と新国富の重要性
     SDGsの進捗状況を確認するためには、過去・現在・未来や各国同士を比較する必要があり、このための開発指標が必要だが、従来の指標は主に(一人当たり)国内総生産である。しかし、この指標は経済性にのみ焦点を当てているという問題がある。そこで、この指標を補完する持続可能指標として提案されているのが(一人当たり)新国富であり、新国富は人工資本、人的資本、自然資本の3つの資本の合計値である。また、近年、ポートフォリオの選択やマネジメントにおいて、環境・社会・ガバナンスの要因を考慮したサステナブル投資の主流化が顕著である。サステナブル投資と新国富は、共に、社会的・環境的要因に配慮しながら長期的な経済的繁栄を目指す概念である。サステナブル投資では、従来の財務資本だけでなく非財務資本によっても企業価値を向上させることが求められており、健康や教育などの見えない要素を経済価値化しようとする国際基準化が進んでいる。
  2. 企業の非財務情報の開示とその価値の科学的評価
     グローバル市場に迅速に対応するためには、情報開示とそれに基づく科学的な評価が必要であり、持続可能性への取り組みの影響(インパクト)を測定することが重要である。企業の製品による人権やガバナンスへの影響は、人的資本や自然資本の視点から数値化することが可能で、指標としては新国富指標が欧米を中心に広まっている。
     これらの指標を活用できる産学官の情報プラットフォームを構築することで、投資関係者の情報収集コストを削減し、透明性を高める役割が期待されている。
  3. 見えない価値のウェルビーイングへの貢献
     産業界が社会の変容において果たす影響は大きい。企業は、情報開示の要求が世界的に高まる中で、新国富指標を活用して人工資本だけでなく、自然資本や人的資本を数値化し、自社の業務と社会の持続可能性を評価し対応する必要がある。
     企業にとって、非財務指標である人的資本や自然資本は非常に重要である。また、企業や市民の参画によるデータの蓄積と活用は、新たな価値付けを通じて社会のウェルビーイングの増加に貢献する。このためには、市民や企業の参画に基づいてデータを蓄積・活用し、同時にデータガバナンスの仕組みを構築することが重要である。サステナブル投資の増加は、長期的には人的資本や自然資本にも影響を与える。また、環境、社会、ガバナンス面に取り組む企業、自治体、研究機関の連携によって、新国富が増加し、持続可能な社会を実現することに繋がる。これらの知見は行政や産業界と共有される必要がある。





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