報告「バイオマテリアル界面科学の構築 ~「いのち彩る医療」実現のための学術~」のポイント

1.現状及び問題点

 医療分野を支える科学技術の中でも、医薬品開発における薬物送達用担体、埋植型医療機器・デバイス開発における生体適合性材料、再生医療システム開発における細胞担体材料等、最終的にシステムとしての機能発現の鍵を握るのは基盤となる生体材料(バイオマテリアル)そのものの特性である。
 非生物固体の表面と生物相の間の界面現象は、固体表面あるいは生体組織の物理化学・生化学反応によって支配されるため、その解明は連続的に機能する生体機能界面の創製につながる。従来の生体材料学(バイオマテリアル学)、人工臓器学、再生医療、医学、歯学の分野においては、このような視点は、世界的に見ても完全に欠落した状態で放置され、応用研究が優先して行われてきた。これは、世界的にみても同様である。

2.提言等の内容

  1. 背景
     本報告は、日本学術会議第三部材料工学委員会バイオマテリアル分科会から発出するものであり、バイオマテリアル研究者グループの具体的検討結果をまとめたものである。前回の提言「医療を支えるバイオマテリアル研究に関する提言」発出からほぼ5年が経過した今、30年後の医療を支える基盤学術として必要な「バイオマテリアル界面科学」に関して、日本学術会議法第五条各号に掲げる事項に関して、バイオマテリアル分科会でまとめた内容を「報告」として発出するものである。
     医療機器、人工臓器、人工器官などを構成する固体材料(ハードマテリアル)及び生体機能ゲルや薬物送達システム(DDS)の担体を構成する超分子などのソフトマテリアルの生体適合性と生体機能性は、材料表面と生物相間の界面反応の結果として発現する。その機構解明は連続的に機能する生体機能界面の創製につながるが、これまでは反応の結果現れる現象を個別に解析するのみで、分子レベルから細胞・組織レベルまでを包含した界面反応を統一的・体系的に理解し、その制御指針を構築しようとする学術研究は存在しなかった。本報告では、これら一連の学術研究を「バイオマテリアル界面科学」と定義する。「生きがいをより長く持ち楽しく全うするための医療」を30年後に実現するための基盤学術として「バイオマテリアル界面科学」の構築は必須である。
  2. バイオマテリアル界面科学の構築
     「バイオマテリアル界面科学」を、界面反応データの収集と蓄積により界面現象にアプローチする「バイオマテリアルDX」、材料相と生物相との界面現象をナノメートルからミリメートルのレベルの空間的階層性をもって、またミリ秒から年の時間的階層性をもって解明する「材料-生体反応科学」、これらと並行して生体適合表面・生体機能表面をデザインする「表面創出科学」について、これらの研究を深化させ、統合するための方策、必要性、意義についてまとめる。さらに、「表面創出科学」については、分子と固体とでは取扱が大きく異なるため、分子科学を中心としてソフトマテリアルを対象とする「分子科学表面機能創出」及び固体材料を中心としてハードマテリアルを扱うハードマテリアルを対象とする「固体表面機能創出」に分けて考え、各項目の科学を深化させ、これらを統合して「バイオマテリアル界面科学」を構築する方策についてまとめる。日本は、バイオマテリアルの基盤研究及び新規材料開発において、世界を圧倒しており、本構想のバイオマテリアル界面科学では中心的な取りまとめ役として、国際共同研究を実施していくことができる。
  3. 意義と効果
     「バイオマテリアル界面科学」では、界面反応の解明を第一義とし、金属・無機・有機材料及び分子の表面と体液・軟組織・硬組織との界面を対象として、これらの材料と生体組織との反応を横断的に捉え直し、非生物相である固体と生物相との界面で起こる現象を科学する新学術を提案するものである。究極的には、体内の人工物の界面反応に新たな科学的根拠を与える新学問分野の創成を促し、多くの研究に派生することによってその学術領域を拡充するものと期待できる。この実現は、地球上で広範囲に存在する「非生物-生物間の界面反応」を規定する学理の礎となり、非生物-生物界面が存在する全ての環境・公衆衛生・感染症問題への応用展開が可能となる。





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