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提言「教育のデジタル化を踏まえた学習データの利活用に関する提言-エビデンスに基づく教育に向けて-」のポイント

1 現状及び問題点

 現在、教育機関においてはGIGAスクール構想の推進や新型コロナウイルス対策でのオンライン授業の実施など、「教育のデジタル化」が行われている。これによって、各教育機関や民間企業には、デジタル教材の閲覧履歴やオンライン試験の答案など大量の学習データが蓄積されているが、これを教育改善のために利活用することはあまり実施されていない。例えば、成績や質問紙調査などの従来のデータだけでなく、ICT利用によって記録される教育・学習のプロセスデータと統合し、解析することで、いつどの問題で分からなくなったか、どのように概念を理解できるようになったか等がきめ細かく把握できるようになる。さらに、国全体で、個人情報保護に配慮して適切に処理して、学習データを共有することによって、児童・生徒・学生(以下、学習者)の多面的なデータの分析による研究が促進され、エビデンスに基づく教育が実現できる。そこで、本提言は心理学・教育学、情報学の立場から、学習データの種類やその利活用の必要性について論じ、学習データを利活用するための制度設計や支援体制、基盤情報システム等のあり方について提言する。

2 提言等の内容

 本提言は、文科省・経産省・総務省などの国の政策に向けたものであり、以下の4点にまとめることができる。なお、本提言は、一人一台の情報端末や学習支援システム等を用いて蓄積される学習データに限定したものであり、教育活動全般で利用される広範な教育データの取り扱いについては、慎重に議論を深め、継続して検討する必要がある。

  • (1) 学習データの種類と教育改善のための利用
     教育のデジタル化が進展している中で、1人1台の情報端末やLMS(Learning Management System)、校務支援システム等を用いて学習データが蓄積されている。これは校務系データと授業・学習系データに分類できる。また、教育改善のための学習データの利用方法は、教員や学習者(学習者の保護者)を含めた個人レベル、教育機関全体で分析する機関レベル、政策立案者・研究者・市民などが利用する国レベルに分類できる。学習データの収集は、まずはそれが比較的行いやすい小学校から大学・大学院までの公教育を対象として集め、各教育機関等内で、教育の改善に利活用すべきである。そして小中学校等が属する地方自治体や国立大学法人、私立学校等の法人内部で学習データを個人情報保護に配慮して適切に処理して、国全体で収集して利活用すべきである。なお、この学習データは教育・学習活動の一部を切り取ったものであり、教育の効果や達成度などを全てはかることはできない、ある意味限定されたデータある点に注意が必要である。

  • (2) 学習データを収集・利活用するための制度設計
     学習データの収集・利活用方法などの制度設計を国が行う場合に注意すべきこととしては、①教育機関が民間企業等のシステムや試験等を利用する場合、企業が学習データを囲い込む恐れがあるため、学習者の学習データを学校に提供するよう、契約時に盛り込むこと、②国全体で学習データを収集する際には、「データを個人情報保護に配慮して適切に処理して収集する」、「データの利用者は、個人を特定するような分析や地域や学校間の無用な比較をしない」、「教育に係る選択は本人が実施するものであり、学習データを利用した推薦や提案が本人にとって決めつけや押し付けにならないようにする」などである。一方、学習データの共有や利活用を促進するためには、データの書式や意味(言葉や数字の解釈)の標準化、学習要素のID化や、教育評価などで使う用語の統一などが必要である。なお、この制度は国民全体で議論しながら、学習者の人権と個人としての尊厳を脅かすようなことのないように、制度設計や実施がなされているかを倫理審査委員会のような第三者機関を設けて、学習データの悪用を防ぎつつ適切に利活用が進むように定期的に見直していく必要がある。

  • (3) 学習データを収集・利活用するための情報環境の整備
     学習データの中でも学習プロセスデータを効率的に収集するためには、情報端末を一人につき一台整備し、デジタル教科書などを各自が、授業内外で制限なく常時使える環境を整える必要がある。現在の初等中等教育の学校ではネットワーク接続に制限が多いため、高等教育の現場で広く用いられているSINET(Science Information NETwork)に接続して、クラウド環境を用いて適切に学習データを収集・利活用することも検討すべきであろう。このような環境の整備と同時に、情報モラルやセキュリティ教育を提供したり、健康やメンタル面への配慮も必要である。

  • (4) 学習データを収集・利活用するための人材の育成
     学習データを教育現場で利活用するためには、それをうまく活用できる教員及びそれをサポートするLA専門員の育成が必須である。これには現職の教員への研修や大学の教員養成課程において、学習データを利活用したカリキュラム・授業・評価の設計・実施の方法をしっかりと教えていく必要がある。また、蓄積された学習データを十分利活用するためには、効果的な教育・学習方法、AIによる新たな支援方法等を見いだすことができる、学習データサイエンティストの研究者を養成する必要がある。これには、新たな大学院の創設や、既に実施されているデータ科学教育との連携が必要であろう。また、この研究者の役割として、どのような学習データがどのように利活用されることによって、教育がどのように良くなったか等を研究していくことも重要である。





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