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提言「行政記録情報の活用に向けて」のポイント

1 作成の背景

 経済学分野では、新しい情報技術や分析手段の登場によって、これまで以上にデータの重要性が高まっている。一方、政策決定の分野では、的確で客観的な資料・情報にもとづいて日本社会・経済についての現状を正しく理解し、日本社会・経済を構想していくため、証拠に基づく政策決定(Evidence Based Policy Making: EBPM)が推進されている。こうした動向を踏まえ、数量的経済・政策分析分科会では、日本における経済・政策分析の深化のための新たな情報源として行政記録情報等を活用する必要があると認識し、その活用に向けた議論のため以下の通り提言を行う。

2 現状及び問題点

 社会・経済の構造が急速に変化する中、限られた資源を有効に活用し、国民により信頼される行政を展開するためには、政策部門がEBPMを推進する必要がある。その情報基盤として、これまでの調査に基づく統計だけでなく、通常の行政業務に伴い蓄積される情報、すなわち行政記録情報を活用することが重要である。
 行政記録情報には、長期間の雇用関係や所得の推移など、既存の統計調査で得られる情報を補完する貴重な情報が含まれている。その活用によって既存の統計では得ることのできない知見が得られる。たとえば、社会保険の加入履歴によって生涯所得の水準を把握できれば、社会保障制度の受益と負担の構造を明らかにでき、税制などの評価が可能となる。
 研究対象が社会そのものである社会科学分野では、その社会で利用可能な情報が研究の質を決定する。行政記録情報の活用が進む国ほど研究対象としての魅力が高まり、より多くの研究者の関心を集めることができ、さまざまな課題の解決を促進する。その意味で、データの整備には国際競争の側面があり、迅速に進めることが国民全体の福祉に貢献する。
 情報技術の発展に伴い膨大な情報量を持つ行政記録情報を管理・分析することは容易になっており、データの活用体制を整備すること自体は難しくない。しかし、どのような目的でどのような情報を活用するべきかの判断は自明ではない。社会・経済の構造や行政手続きにも依存するため、他国での経験がそのまま日本に適用できるものでもない。行政記録情報の活用は、政府内だけで検討するのではなく、その主たるユーザーとなる経済学・政策評価分野の研究者との連携を模索していくべきである。
 政府活動は多岐にわたっており、すでに膨大な行政記録情報が蓄積されている。しかも、その整理はすでにされており、利用可能なものから順次活用を開始すべきである。特に、税務関連の行政記録は、各個人の経済活動の基礎となる所得の情報を含み、格差などの重要政策課題と関連するため、経済学的な観点から重要である。
 行政記録情報には高度な個人情報が含まれる可能性があり、適切な管理は不可欠である。法律的な枠組みにのっとり、適正な利用が促進できる運用体制を整備すべきである。

3 具体的な提言内容

    行政記録情報の活用に向けて以下の4項目の提言を行う。
  • (1) 行政記録情報の整備の加速
     EBPMの推進のために、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室を中心に行政記録情報の整備・開示を加速する必要がある。特に税務関連の行政記録は最優先で活用を図るべきであり、国税庁長官官房および総務省自治税務局と連携しての対応を期待する。情報の開示にあたっては、集計された情報を公開するのではなく、ミクロレベルでの開示が望ましい。個人情報保護の観点から匿名化処理などの情報の秘匿は必須であるが、データの有効活用に向けた試行錯誤のためにも集計前の情報の開示が不可欠である。

  • (2) 経済学・政策評価分野の研究との連携
     行政記録情報の活用には、データの保存・処理といった技術面、個人情報保護などの法律面の知見は不可欠である。同時に、学術研究の資料とするには、情報の性質、信頼性、活用方法をデータ利用の観点から明らかにする必要がある。内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室は、その検討のために、データの社会科学、特に経済学・政策評価分野の研究者との連携を進めるべきである。

  • (3) 「行政機関の保有する個人情報保護法」の規定に関するガイドラインの整備
     行政記録情報を学術目的で利用することは、「行政機関の保有する個人情報保護法」の規定の範囲内である。原則として行政機関の保有する個人情報は第3者への提供が禁じられているが、「学術研究の目的」においては提供可能である旨が明記されている。総務省行政管理局には、この規定を運用して学術利用を可能とするために、利用に関するガイドラインの制定を求める。

  • (4) 統計調査との連携
     行政記録情報を活用していくことは、統計調査の価値を下げるものではない。行政記録情報と統計調査を両輪として、政府の統計情報全般の品質向上を目指すべきである。行政記録情報は統計調査を補完するものであり、既存の統計資源の削減につながらないことを求める。各府省のEBPM統括責任者においては、管轄業務における行政記録情報と統計調査を一元的に管理することで、統合された情報の整備を望む。また、統計調査と行政記録が照合を可能とすることで、両者の価値を高めることができる。今後の統計調査において、マイナンバーを調査項目に含める可能性を探るなど、連携を目指すことが望まれる。





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