日本学術会議は、わが国の人文・社会科学、自然科学全分野の科学者の意見をまとめ、国内外に対して発信する日本の代表機関です。

提言「社会的モニタリングとアーカイブ―復興過程の検証と再帰的ガバナンス―」のポイント

1 背景

 本提言は、東日本大震災、とりわけ福島原発事故の被災地・被災者が直面する課題について、社会科学、自然科学を含む複眼的視点から、問題点とその改善に資する方策について論じる。本分科会は社会学委員会に属するが、それ以外の分野を含む幅広い分野のメンバーから構成されている。これまで第22期以降、「原発災害からの回復と復興のために必要な課題と取り組み態勢についての提言」(2013年6月)、「東日本大震災からの復興政策の改善についての提言」(2014年9月)、および報告「多様で持続可能な復興を実現するために―政策課題と社会学の果たすべき役割―」(2017年9月)を公表してきた。第24期は、本分科会として2回のシンポジウムを開催し、震災アーカイブおよび社会的モニタリングのあり方について議論を行った。 復興庁の存続が決定し、新たな復興像が模索される中、復興過程をどう把握し、今後の復興政策にそれをいかに反映させていくかの制度設計のあり方についての検討は喫緊の課題となっている。本分科会が提言する社会的モニタリングとそれを支えるアーカイブの構築は、復興政策の制度設計のあり方にきわめて重要な役割を果たすと考えられる。

2 現状および問題点

 再帰的ガバナンスとは、変化していく社会の中における政策の実行がさらに社会の変化を引き起こし、当該政策の立案要因となった社会的課題でさえも変化していくというように「らせん状」に社会を変えていくような社会における政策決定のあり方を指す。
 現在の震災復興政策を振り返ると、既に9年以上の年月を経て、その進展には多くの問題が指摘されている。意思決定の硬直性、透明性の確保、プロセスの公開などがそうだが、これらは再帰的ガバナンスの考え方を取り入れることによってよりよい方向に持っていくことができる。特に意思決定の硬直性の問題には複数の側面がある。①トップダウンで決めたことについて、多くの利害関係者からの異論を受け付けない場合の硬直性。②利害関係者の要望とは逸れてしまってきているにもかかわらず政策変更のできない場合の硬直性。これは、多くの利害関係者の声を聞きながら計画したはずの政策が、実行に予想以上の時間を要することによって起きている。そして、③政策初期には想定していなかった新たな課題が新たに起きてくることに対応できない場合の硬直性もある。例えば、被災者や現場の政策実行者、また震災報道などにより衝撃的な報道を見たり聞いたりした被災地域ではない地域の居住者ら(幼児など)などの「心の問題」の発生などがあげられる。
 もちろん、これらの硬直性には当初の計画自体に不備があった場合もあるだろう。いずれにしても、政策は時間経過とともに想定外のことや想定がずれてきたことなどにあわせて微修正していくべきものであり、そのような仕組みを内在させることによって改善できる。政策形成過程に立ち返って導き出される反省点とそれらに関する多くの利害関係者の声を踏まえながら組み込む微修正のシステムが「再帰的ガバナンス」である。そして、それを可能にするのが社会的モニタリングとアーカイブの構築であると考える。

3 復興統治の再考と社会的モニタリング導入の提言

 「復興の司令塔」と呼ばれる復興庁の復興事業は、関連制度上・関連法令上根拠のあるフォーマルな制度・機構を中心にして繰り広げられる政策決定過程に根ざしており、必然的にフォーマルな目標設定とそれを達成するための計画的な行政の推進のしかたに規定されている。そうした計画的な行政の下でおこなわれる復興関連事業は、「上からの統治」にともなう限界を避けることがむずかしく、「縦割り行政」の制約をうけがちである。これを克服するためには、「再帰的ガバナンス」にもとづく、被災者に寄り添った復興政策が必要不可欠である。そのために、「社会的モニタリング」のシステムの導入を提言する。
 社会的モニタリングとは、計画行政の達成度をみる復興政策の事後的な評価や、国民の健康状態の改善をみる公衆衛生だけでなく、社会の少数派の声を含む多くの利害関係者、多様な声を継続的に拾い上げる観察や評価も指す。このような仕組みの導入は、行政の「縦割り」を排除する意味を持つので、総務省行政評価局、内閣府での検討が望まれる。

4 「東日本大震災・原子力災害復興過程検証委員会」の設置と「復興白書(仮称)」の発行、復興に関する学術的調査の進展を
  とりまとめる「復興学術報告書(仮称)」発行、基盤となるアーカイブの整備の提言

 上記のような「社会的モニタリング」を具現化し一般に公開していくための「しかけ」として、複合災害という性格に対応した復興政策検証の担い手となる「東日本大震災・原子力災害復興過程検証委員会」を設置すべきである。同委員会は、独立性を備えた組織として、政府(内閣府あるいは復興庁)または国会の下に設置されることが想定される。
 また、復興過程を政策担当者の立場から総括する「復興白書(仮称)」の発行を提案する。これは、復興庁が担当し、関連する経済産業省、厚生労働省、文部科学省、国土交通省、環境省、関係自治体(特に福島県)が協力することが想定される。さらに、復興に関する学術的調査の進展をとりまとめる「復興学術報告書(仮称)」(日本学術会議が担当)も提案する。こうした白書・報告書を相互批判的、相互補完的に活用することにより、行政管理のためのシステムであるPDCA(plan, do, check, action)のプロセスが本来の意味で円滑に機能するようになるであろう。特に復興学術報告書(仮称)は、政府施策の実効性に関するチェック機能および新たな施策のエビデンスとなる知見を提供することが期待され、それによって新たなアクションプランの構築が可能となる。
 社会的モニタリングは、上記によって完了するものではない。モニタリングの結果は、アーカイブとして体系的に蓄積されることで、短期的な政策の微修正に役立てられるだけではなく、長期的な政策立案や政策評価にも用いることが可能になる。現在、震災に関するさまざまな記録は、複数の自治体・大学・学会や国立国会図書館などを中心に運用されているデータベースなどがあるが、データ収集・維持の長期的な保証はなく先細りの状況にある。地域住民の防災と災害対応力を高めるためには、地域住民団体や被災地域の自治体・大学が収集した資料・データの維持・活用も視野に入れた総合的なアーカイブの設置が必要不可欠である。そのためのアーカイブの設置が必要不可欠である。





     提言全文はこちら(PDF形式:1,016KB)PDF
このページのトップへ

HOME日本学術会議とは提言・報告等一般公開イベント委員会の活動地区会議の活動国際活動会員・連携会員等協力学術研究団体▲ページトップ
このホームページについて
Copyright 2012 SCIENCE COUNCIL OF JAPAN