日本学術会議は、わが国の人文・社会科学、自然科学全分野の科学者の意見をまとめ、国内外に対して発信する日本の代表機関です。

提言「人口減少社会に対応した農業情報システム科学の課題と展望」のポイント

1 背景

  • (1)

     気候変動の自然環境や社会への甚大な影響の拡大、人口減少と少子高齢化を背景とした地域社会の持続性の崩壊、労働力の不足と多様化の進行、食料・エネルギーの需給の不均衡(インバランス)リスクの拡大、大規模災害と復興事業の長期化・恒常化など、20世紀後半まで安定に機能していたと思われる自然・技術・社会・生活の旧来の仕組みが大きく変化し始めた。従来型の個別技術による個別課題の解決ではなく、生産や流通および地域社会の仕組み全体にわたる課題解決が求められる時代になっている。

  • (2)

     一方、 2015年に国連が定めた新たな持続可能な開発目標SDGs、情報技術と生命技術の技術革新を背景にした将来社会構想Society5.0、第6期科学技術基本計画に対する日本学術会議の提言、オープンサイエンスに対する提言準備、第5次環境基本計画の地域循環共生圏に対応した野生動物管理に関する日本学術会議の回答など、2030年ないしは2050年をめざした社会全体のあり方を念頭に置く解決策の模索気運が高まっている。しかし、これらの動きの中で農業分野は断片的な技術問題として取り上げられる傾向があり、例えば、スマート農業や農業ロボットなども個別技術として扱われ、食料生産供給の全体のあり方を展望する議論は少ない。

  • (3)

     近年、農作業の省力化・自動化・システム化にわたる農業支援技術の発達は目覚ましく、農業生産技術の開発や普及および農産物の出荷や販売計画などにわたって、信頼あるデータの蓄積とその効果的な運用方法の開発が農業競争力を左右する状況になっている。欧米の先進国でも、農場計測技術の開発とデータ管理の標準化が取り組まれており、農業機械をはじめとする農業支援産業や農業生産そのものもソフト産業の様相を見せている。わが国の農業が自立的に発展するためには、わが国発の農業用ソフトの開発や農業用ソフト企業育成への強力な支援が重要になっている。

  • (4)

     農業者人口の急減に対応して生産規模の縮小が必至とみられる果樹や畜産などの個別作目に対しては、平均して農業経営者一人あたりの生産性を5倍以上に高める具体的で効率的な体制確立が求められている。すべての農作業の省力化・自動化・システム化、海外からの労働者も含む新たな労働力の投入、高度な自動機械の投入、などの一体的な取り組みが期待されている。特に、人間の手作業でしか対応出来ない各種の熟練作業や補完作業の機械化は、農作業の高度な自動化・システム化を進める上での深刻なボトルネックであり、そのための設計データベースの完備が必要である。

  • (5)

     農業情報システム学分科会では、過去に農・食・健、ICTと農業、科学と市民と農業、ロバスト農業に関するシンポジウムを開催し、また内閣官房や農林水産省との意見交換を行い、農業および食料に係わる技術革新や情報通信技術(ICT)に関する包括的な検討を重ねてきた。特に緊急に解決を迫られる課題は、自由貿易体制のもとでの地域社会や農業のあり方、農業経営の急速な大規模化と労働力の多様化、流通システムの再編とリスクの管理、情報の所有権問題と共有化の促進、都市と地域の災害および復興に対する包括プラン、などである。

  • (6)

     本分科会は、わが国の地域(産地)の農業生産性持続のための農業情報の再評価と運用方法の高度化を展望する。農業生産に係る技術情報が共通化されることにより、異分野からの新技術導入や異業種からの新規参入のハードルが下がり、農業人口減少による生産力低下が緩和され、農業の国際化や地域活力回復が促される。

2 提言

農業ITに係る行政部局(内閣府、内閣官房、農林水産省など)や産業界および教育研究機関を対象に以下を提言する。

    (1)
  • わが国の食料生産に関係する農作業のすべての工程の自動化・高度化・システム化をめざし、機械化が困難であった熟練・補完作業の設計利用可能な分散・モジュール型のデータベース化およびシステム化・機械化の促進、およびシステム設計者や利用者によるデータベース評価の仕組みを整備すること。

  • 時間と場所と事実が一体となった農作業データは、情報通信機器を配備した自動化機械により、刻々と収集され、農業データ連携基盤(WAGRI、農研機構)へ集積される仕組みが完成した。機械化困難な作業であっても、携帯端末を利用して時間と場所と事実の農作業データを収集することにより、作業の効率化に利用できる。事実の内容がほ場や作物および作業を克明に表現できれば、効率的な機械化促進に利用できる。

    (2)
  • 生産・出荷から小売・消費までを支える事業体群が連携して健康維持をめざし安定した食料供給を実現するため、マーケットイン対応のデータ共有スキームを構築すること。

  • わが国の農業の競争力を高めるためには、その価値を生産・流通・消費のプロセスすべてを含む農産物の生産と供給の仕組み(フードシステム)の総合力によって測られるべきである。そのため、フードシステムを構成する組織間の情報共有が必要であり、俯瞰的な学術研究分野であるスマートフードシステム科学の構築が求められる。

    (3)
  • 諸外国と連携して、産業技術革新に呼応した農業情報分野におけるオープンイノベーションを推進すること。

  • すべての生産工程を自動化し、無人の農業生産体系を技術的に担保することは、生産性の向上のみならず、災害等で生産体制が崩壊した際の復興シナリオ作成に有用である。また、システムの維持向上のため人知が関与しなければならない部分や、障がい者の生産活動参加に適切な部分を探索して生産技術体系を再編するうえでも、すべての生産工程のデータベース化は重要である。その実現に関連するリソースを共有利用する必要があり、領域を超えたオープンイノベーションが必要である。

    (4)
  • スマートフードシステムを推進するため、基礎と応用・専門と学際・学術とビジネスの課題に同時に対応できる人材チームの養成システムを創成し拡充すること。

  • 農業におけるシステムイノベーションを駆動し促進する人材は、生産現場の技術管理、技術システム間の接続と改善、生産技術体系の構築と改善という新たな課題群に対して解決策を現場展開できる資質と知識が求められる。そのため、グローバルな視野と現場体験を同時に提供できる他分野との連携や卓越大学院等の仕組みが期待される。





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