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提言「活力ある超高齢社会の構築に向けて-これからの日本の医学・医療、そして社会のあり方-」のポイント

1 作成の背景

我が国は高齢化が進む中で、2025年に75歳以上の後期高齢者が2000万人を超えると推定されている。さらに過去10年以上、平均寿命と健康寿命の差を短縮させることが出来ていない。従って、さらなる健康寿命の延伸、そして健康長寿社会の構築が喫緊の課題である。医療面に関しては、必然的に疾病構造や医療需要も変化し、結果的にその需要に合った医療提供体制の変更を余儀なくされている。すなわち、認知症とともに加齢とともに環境因子に対する脆弱性が高まった状態「フレイル」への対策も重要であり、高齢者、特に後期高齢者に対して、医療に加え、生活の質を重視したサービス提供が求められる。いつまでも元気で、活力のある超高齢社会の実現に向けて、これからの日本の医学・医療、そして社会のあり方を再考する必要がある。

2 現状及び問題点

  • (1) 健康長寿社会実現における健康寿命と平均寿命の格差
     中年期の生活習慣病を高齢期のフレイルや認知症の危険因子として捉え、その包括的な予防・管理、および健康寿命の性差の要因の解明により健康長寿社会を築くことが課題である。
  • (2) 超高齢社会・健康長寿社会構築への次なる医療における課題
     生活習慣病管理も含めた高齢者に適した診療ガイドラインの促進、老化に関する俯瞰された総合研究(基礎研究~臨床研究~地域連携研究等)の推進、「治す医療から治し支える医療」へのパラダイム転換への具現化等が課題である。さらに各地域での高齢者の総合診療体制の構築や次世代の医療人材育成等、今後の地域包括ケアの展望が鍵である。
  • (3) 超高齢社会におけるフレイル予防・対策の普及
     フレイルには多面性や可逆性の意味が包含されており、各地域における従来の予防活動等への刷新も含め、包括的な取り組み(高齢者における栄養状態、運動を含めた身体活動、多様な社会参加の場と参加状況等)が必要である。
  • (4) 高齢者における不安定な食および低栄養の課題
     我が国の国民健康・栄養調査でも、75歳以上の日本人ではエネルギー摂取量とたんぱく質摂取量が低く、特に80歳以上では低栄養と栄養素等の摂取不足が顕著である。高齢者の低栄養は増加傾向にあり、女性において顕著である。その背景には、独居・孤食、貧困等の社会的要因、食材確保へのアクセス問題等、複数の要因が挙げられる。
  • (5) 高齢者の薬物療法:ポリファーマシー対策
     高齢者のポリファーマシーに対して、薬物有害事象、相互作用、薬効重複、特に慎重な投与を要する薬物の存在等の問題に加え、薬剤費の高騰、大量の残薬等の医療経済的な課題にも対策を講じる必要がある。この対策上、疾患単位の複数医療機関受診、職種間の連携不足、患者・家族の理解不足が障壁となっている。
  • (6) 健康長寿社会における地域のあり方
     生産年齢人口の減少も大きな課題であるが、この少子高齢化を危機ではなくチャンスとして活用するような転換が必要である。人生100 年時代の到来を見据え、包括的な社会づくりや地域づくりを再考しながら、誰もがいくつになっても活躍でき、安心して暮らすことのできる地域共生社会、エイジフリー社会を目指すべきである。

3 提言等の内容

    単に個の健康という視点だけではなく、環境や地域社会の在り方という広い視野から高齢化する日本社会の将来ビジョンを今回提言としてまとめた。本提言を踏まえ、厚生労働省、文部科学省、内閣府、各種職能団体などの政策に反映されることを期待する。
  • (1) 健康長寿社会構築に向けた、医療における「治す医療から治し支える医療」へのパラダイム転換を推し進めるべきである
    高齢者医療における先制医療をさらに進めながら、同時に多領域において高齢者に適した診療ガイドラインの作成を促進するべきである。また基礎老化研究、臨床研究(介護分野も含む)、地域までをも俯瞰したトランジショナルリサーチを推進すべきである。さらに「治す医療から治し支える医療」へのパラダイム転換を推し進めるなかで、様々な高齢者総合診療体制の構築と地域包括ケアシステムの強化を推進すべきである。
  • (2) 老年病専門医の養成を含め、高齢者医療に包括的に対応できる次世代の医療人材の育成を推進すべきである
    今後、多病でフレイルな高齢者が急増していく中で、過不足ない医療を提供するために、地域包括ケアのなかで多職種と連携しながらリーダー的な老年病専門医の養成も含め、高齢者医療を包括的に対応できる次世代の医療人材の育成を推進すべきである。
  • (3) 高齢者のフレイル対策を医学的視点とまちづくりの視点の両方から推進すべきである。
    包括的な評価や介入が必要となるフレイルに対して、フレイル予防の3つの柱(栄養・運動・社会参加)を取り込み、地域特性を踏まえながら各自治体内においてまちづくりの一環として取り組むべきである。そのなかでも、高齢期の栄養管理に関する考え方及び専門分野各学会におけるガイドラインの刷新も必要である。また、医学的問題だけではなく、社会的要因にまでも配慮しながら、各地域での産学官民連携を強化し、高齢者への低栄養対策に関する地域全体の機運の醸成を促すことが重要である。
  • (4) 高齢者の薬物療法においてポリファーマシー対策を推進すべきである
    医師・薬剤師連携体制の推進、その他の多職種協働体制の構築とそれを支える医療・介護保険制度の整備が必要である。また国民の意識変革が必須であり、医療介護者向け・一般向け啓発資材の充実も含め、あらゆるレベルでの啓発活動が求められる。さらに、ビッグデータの活用等により医療経済的影響についても、迅速に明らかにすべきである。
  • (5) 医療面及びまちづくりの視点の両面におけるイノベーションを推進させるべきである
    今後、医療面とまちづくりの双方におけるイノベーションを視野に、特に地域共生社会の考えの下、社会参加等の集学的取組み(例:身近な通いの場への参加等)を工夫する必要がある。さらに、生涯現役としての活躍の場(就労等)、人とのつながりの促進、高齢者支援技術等の推進、生活支援など、これら全般を含む産学官民連携が必要である。



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