提言「国土構造の将来像を踏まえた第2期地方創生施策の実施に向けて」のポイント

1 作成の背景

 2014年9月から始まった地方創生施策は、2020年度より第2期を迎えることになる。第2期に向けた有識者会議の場でも話題になったが、2020年代後半には、リニア中央新幹線の品川-名古屋間の開通が予定されるなど、国土構造の大きな変動が予測される。また、現下の新型コロナウイルスの感染拡大は、人々の生活様式や企業の立地行動のみならず、東京と地方との関係についても大きな変容をもたらしつつある。感染症や災害など、今後も予想される社会の危機に対処するため、国土構造のあり方を踏まえた第2期の地方創生施策の展開が重要になると考えられる。本提言では、第2期の地方創生施策が始動するにあたり、留意すべき点を指摘し、地方創生施策が実効あるものになることを提言する。

2 現状及び問題点

 2019年11月のまち・ひと・しごと創生会議において、「第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の基本的方向」が提示され、12月には第2期の「長期ビジョン」と「総合戦略」が閣議決定された。4つの基本目標は、第1期とほぼ同じ内容だが、第1期と異なるのは、Society5.0やSDGsといった「新しい時代の流れを力にする」、「多様な人材の活躍を推進する」という横断的な目標が掲げられた点である。第1期と比べ、政策の体系性が見えやすくなったと評価することができるが、具体的な施策展開において、施策間での連携を強め、相乗効果が発揮されるような一層の工夫が求められる。
 第1期の検証会で中心的に議論された東京一極集中については、要因分析を的確に行うとともに、有効な施策を今後一層進めていくことが求められる。また、第1期の「地方版総合戦略」の策定においては、十分な準備ができなかった自治体も少なくなかったが、第2期の地方創生においては、ボトムアップで「地方版総合戦略」を打ち出していくことが重要であろう。地域経済分析システム(RESAS)などのオープンデータを政策立案に活かしていく工夫も求められる。
 地方創生関係交付金については、効果検証が進められ、ガイドブックがまとめられている。有効に交付金を使っていくことが引き続き求められる。交付金がいかなる地域間の格差を生んでいるか、また新たな試みとして、KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)やPDCAサイクル(Plan、Do、Check、Actを継続的に繰り返し、事業の管理・改善を行う手法)が導入されたが、こうした政策の効果を検証するしくみをどのように活かしていくか検討する作業を行い、今後の政策評価につなげていくことが重要であろう。
 ところで、国土政策については、21世紀に入り、全国総合開発計画の時代から、国土形成計画の時代に移行した。今後、新型コロナウイルス対策をも踏まえつつ、「第二次国土形成計画」のフォローアップが進められていくと考えられるが、第2期の地方創生施策との関係性を強化し、連携した動きをつくっていくことが重要となろう。
 また、「第二次国土形成計画」で取り上げられた「スーパー・メガリージョン」については、むしろ三大都市圏と地方圏との地域間の格差が拡大することが懸念され、第2期の地方創生施策には、この点を留意した施策展開が重要となる。

3 提言の内容

  • (1) 東京一極集中の是正について実効性のある第2期地方創生施策の展開
     東京への高次機能の新たな集積が進むなかで、地方に魅力のある雇用の創出がどうしたら可能であるのか、実効性のある政策展開が求められる。
     地方中枢・中核都市においては、各地域の個性を活かしながら都市機能の魅力を高め、とくに東京圏への転出が顕著な若年女性にとって魅力のある雇用の場を創出し,生活環境を向上させることが重要である。政府関係機関の地方移転については、第1期の成果を検証しつつ、第2期においては、出先機関への機能移転も含めた新たな施策展開が求められる。民間企業の本社機能を地方に移転する施策については、現在進められている税制優遇を通じた地方移転促進策を強化するとともに、新型コロナウイルスに対処するため、リモートワークの推進やサテライトオフィスの整備、工場の国内回帰への支援を進めていくことが重要となる。また、グローバル競争が激化する中でも、地方都市において本社が競争力を発揮できることを、具体例をもって示していく、大規模災害に対するリスク管理を徹底させるなど、合理性があり社会的合意が得やすい形で進める必要がある。
     さらに、これまで日本人労働力が不足する一方、外国人労働力の貢献が不十分だった地方圏へ、彼らを政策的に誘導することも検討すべきである。そのために、出入国管理及び難民認定法の改正に伴って新設された「特定技能1号」を、地方創生に積極的に活かすことは、時宜を得た有望な施策である。
  • (2) 地域の知を活かした地方創生の推進
     地方創生を担う人材の育成という観点からは、この間地方大学で増えてきた地方創生関係の学部・学科における教育を強化・充実させていくことが重要である。
     また文部科学省では、地方創生に関する高等学校の機能強化を進めているが、必修化される「地理総合」を、地域学習の重要な柱にしていくことが求められる。さらに、学校教育の現場だけにとどまらず、大学生や社会人を含め、幅広い層が地域について学ぶ機会を増やし、「地域の学」を発展させていくことも必要である。
  • (3) 国土政策を踏まえた地方創生の推進
     まち・ひと・しごと創生本部は、国土構造の将来像を踏まえて、第2期の地方創生施策を展開すべきである。これにかかわっては、とくにリニア中央新幹線による国土構造の改変が、三大都市圏と地方圏との地域間格差を拡大することが懸念されるところではあるが、第2期の地方創生施策においては、地方圏の広域地方計画に、中枢・中核都市、中小都市等を位置づけ、人口減少をおさえ、魅力ある雇用の場を創出するとともに生活環境の向上を図り、魅力のある「まち・ひと・しごと」の創生に力を尽くすべきである。
     また、日本の森林政策は、明治以来の大きな変革期を迎えており、この成否は、森林を有する農山村地域の再生にとってきわめて重要である。第2期の地方創生施策は、この点にも留意すべきである。さらに、南海トラフ巨大地震や首都直下地震などの激甚災害への対応として、救助・復旧・復興の拠点として地方都市は重要であり、東京に集中する企業の BCP(事業継続計画)を考える場合でも、リスクの分散を図るべきである。



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