提言「発達障害への多領域・多職種連携による支援と成育医療の推進」のポイント

1 作成の背景

急速な社会構造の変化、超少子高齢化、それに伴う経済格差、健康格差、教育格差の拡大などが進んだわが国では、次世代育成は最重要な政策課題の一つである。今日、大きな社会問題となっている発達障害は、成育医療を含むあらゆる公共施策においてもニーズの高い人々の特徴であることがわかっている。発達障害への対応は、医療のみならず、保健、教育、福祉などの多領域との連携が必要不可欠であり、領域間の連携の難しさが支援サービスの普及の阻害要因となってきた。本提言は、今日のわが国の社会に現存するバリアの解決のポイントを整理し、関係各所に実効性のある対応を求めるものである。

2 現状の課題と克服すべき問題点

平成30年12月に制定された、「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律(以降、成育基本法)」は、子どもの心身の健やかな成育の確保を医療・保健、教育、福祉などの多領域と協働して行うことを謳った理念法である。成育医療の課題に対して実効性のある施策を策定する際には、発達障害の問題を個別障害としてではなく、最新の科学的知見を取り入れて、ユニバーサルな健康課題として捉え、地域での包括的な多領域・多職種連携による支援施策を立てることが必要不可欠である。本提言では、本分科会の過去2期の活動を集約し、なお残る今日的な課題の解決に向けて、具体的提言を行うものである。

3 提言の内容 (提言の対象となる主な所轄省等をカッコ内に示す)

  • (1) 発達障害への対応を考慮した地域における成育医療等の連携体制の強化
    発達障害に対応できる成育医療を地域内で公平に分配するためには、既存の医療資源を効率的に活用することが必要不可欠である。地域内にあって高度な検査や治療などを行う三次医療機関から専門外来で診療を提供する二次医療機関へ、二次医療機関からプライマリ・ケアを担うかかりつけ医などの一次医療機関への技術支援を通常業務として明記するといった推進策を断行する必要がある。成育医療が発達障害児とその家族のウェルビーイングに資するためには、メンタルヘルスを含む医療的支援が適切に学校や福祉現場にインプットされるように多領域・多職種連携が強化されなくてはならない。そのためには省庁あるいは部局の縦割りによるバリアを解消しうる省庁あるいは部局横断的な施策の立案・推進が必要である。また医療機関から教育機関への情報提供や指導に対して診療報酬の規定はなく、成育医療の業務として診療報酬の設計上の工夫が必要である(厚生労働省、文部科学省、都道府県)。
  • (2) 発達障害児とその家族の支援ニーズに合わせた包括的な子育て支援体制の充実
    子育て支援には、愛着形成支援と発達支援の双方の視点が必要であるが、既存の愛着形成に関するエビデンスは定型発達児からのデータをもとにしており、児童虐待のリスク要因となる発達障害のある児の愛着形成に関するエビデンスは乏しい。成育医療関係者への最新の科学的知見に基づく愛着形成の知識の普及と同時に、発達障害児の愛着形成について長期的に検証できる多領域での研究体制整備が早急に必要である。児童虐待の予防や事後対応の際には、家族の発達障害特性のアセスメントを定式化し、特に脆弱な家族への子育て支援の質の向上を図る必要がある。発達障害児とその子育てに困難のある養育者双方への介入プログラムの有効性検証やその普及、そして愛着と発達の統合的視点を有する専門家育成のための教育体制整備も必要である(厚生労働省、文部科学省、都道府県)。



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