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提言「大学入試における英語試験のあり方についての提言」のポイント

1 作成の背景

 文部科学省は2024(令和6)年度実施の大学入試から「新たな英語試験」を導入すべく、2019(令和1)年12月に「大学入試のあり方に関する検討会議」の設置を決め、1年間で検討を行うとしている。大学入試の英語試験を巡っては、大学入学共通テストの枠組みにおいて民間事業者等の実施する資格・検定試験(以下、民間試験という)を活用する方針が2017年7月に一旦決定されたが、2019(令和1)年11月1日に、その見送りが公表された。これを受けて、新たに設置された会議において検討が進められているのであるが、この検討の結果として出される英語入試改革の方向性は、日本における言語教育・外国語教育に極めて大きな影響を与えることになる。言語教育・外国語教育の問題を扱ってきた分科会として、こうした検討に資するため、これまで重ねてきた議論をまとめ、提言として公表するものである。

2 問題点

 大学入試における英語試験については、「大学入試で4技能の評価を行う」という方針に基づいた民間試験導入が議論の焦点となったが、その根拠となる「4技能をバランス良く」伸ばすべきであるとする教育目標について以下のような問題点を確認する必要がある。
 第一に、外国語学習は、母語習得のような豊富なインプットが望めない環境で、母語の制約を受ける形で行われる。したがって、母語であれば暗黙知として獲得される文法体系を、明示的な知識として習得することが重要である。この基礎知識は、言語能力の「4技能」として捉えられる諸側面に共通する基盤となるものであり、それが十分に習得されていない段階で、4技能に切り分けた「読む、書く、聞く、話す」といった活動に焦点をあてた教育を行っても、根底にある言語能力を育成することにはならない。
 第二に、言語を用いたやりとりの中で、通常は、内容的な面で受容の力(読んだり聞いたりして理解する力)を超える産出の力(書いたり話したりする力)を持つことはない。したがって、特に外国語学習の途上にある生徒にとって、4技能を別々に切り分けて計測した場合に均等な成績がとれることは、決して目指すべき「バランスの良い言語能力」ではない。受容の力が発信の力を牽引していくことのできるようなバランスこそが重要である。
 以上を確認した上で、具体的に検討すべき問題点は以下の5点にまとめられる。

  • (1) 「4技能」を切り分けて入学試験を課すことの問題点
     「4技能」とは言語能力の異なる側面を捉えたものであり、実際の言語活動はこ れらを総合的に用いるものである。高等学校学習指導要領でも「4技能」に「やりとり」を加えた「5領域」の指導を通して能力を「一体的に育成する」ことを目標としている。したがって、4技能を切り分けて別々に計測する必要はないし、そのような計測によって学習指導要領に沿った教育を受けた生徒の英語力を正しく評価することもできない。

  • (2) 「書く」、「話す」力を、大規模な入学試験で計測することの問題点
     「書く」、「話す」能力の計測は、大規模な試験では公平性を保証することが困難であり、コストも大きいことから、大学入学共通テストのような大規模な入学試験で一律に「書く」、「話す」力を計測することには無理がある。

  • (3) 民間試験を大学入学共通テストの枠組みで実施する上での問題点
    1. ① 学習指導要領と整合しない試験を共通テストに用いることになる。
    2. ② 経済的負担が大きく、受験機会の公平性に欠け、地域格差・経済格差を助長する。
      また、障害のある受験生に対する配慮にも不十分な点がある。
    3. ③ 出題・採点の質および公正性の保証が民間事業者任せであり、実態が不明である。
    4. ④ 目的も実施方法も異なる試験の点数を公平に比較することはできない。
    5. ⑤ 機密保持や不測の事態への対応が民間事業者任せになっている。

  • (4) CEFR(欧州言語共通参照枠)を入学試験に用いることの問題点
     CEFRのCan Do 記述文は、詳細にわたって細分化されており、また「これこれのことができる」という非常に緩やかな判断基準である。これは、言語学習の行程を明確化し、学習者・指導者などが共有するために策定されたものだからである。民間試験の一点刻みの点数とCEFRとの対照表を作成し、それを入学者選抜に用いることは、このCEFRの趣旨とは正反対の発想である。

  • (5) 検討のあり方にかかわる問題点
    2017年の方針決定は、当事者の意見が適切に反映されない形で行われた。またセンター試験をどのように評価し、何を改善するための方針であったのかがわかりにくかった。
  • 3 提言の内容

    • (1) 「書く」、「話す」能力の計測は大学入学共通テストの枠組みに含めず、各大学が必要に応じてそれぞれの形式で実施する(問題点(1),(2)に対応)
       大学入試という極めて高い公平性が求められる試験において、50万人規模で一斉実施する大学入学共通テストの枠組みで「書く」、「話す」力の計測を行うのは適切でない。各大学が、それぞれのアドミッション・ポリシーや教育理念に基づき、入学後のカリキュラムとの接続を考慮して、入学者が入学までに持っているべき能力を計測するために適切な形で実施すべきである。2節(2)の問題も、大学ごとの規模であれば、工夫によって最小限に抑えることができる。

    • (2) 民間試験の活用は各大学の判断に委ねる(問題点(3),(4)に対応)
       この形をとることによって、各大学が適切であると判断する民間試験を活用でき、CEFRとの対照表を用いない実施も可能である。

    • (3) 「大学入試のありかたに関する検討会議」における検討についての具体的な提案(問題点(5)に対応)
       高校・大学の英語教育にかかわる当事者の意見を反映させて検討を行う。また、センター試験の評価を行い、それを踏まえて共通テストの英語試験の継続実施を検討する。




         提言全文はこちら(PDF形式:708KB)PDF
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