提言「持続可能な人間社会の基盤としての我が国の地球衛星観測のあり方」のポイント

1 現状及び問題点

 コロナ禍の裏で、地球温暖化に伴う気候変動は着々と進行し、複合災害も危惧されている。気候変動に伴い、近年、自然災害が多発し、社会の人的・経済的損失は甚大である。この損失を最小限に抑えることは、国の「広義の安全保障」と捉えるべきであり、その体制強化が喫緊に必要である。地球衛星観測は、気候変動とその症状としての異常気象の仕組みを理解し定量化するために重要な社会基盤であり、その有効性を最大限に引き出すことのできる長期計画が必要である。しかしながら、昨今の宇宙基本計画の改訂方針は、宇宙防衛を主眼におく狭義の安全保障及び宇宙の産業利用や国際宇宙探査の拡大に集中し、持続的な人間社会の基盤としての地球衛星観測計画の将来を十分に見通すことができない。

2 提言の内容

  • (1) 持続的な人間社会の基盤としての地球衛星観測計画の強化の必要性
     近年、豪雨、巨大台風、猛暑などの極端現象による災害が多発し、気候変動との関係が指摘されている。国連国際防災戦略(UNISDR)によると、1998年から2017年の20年間の自然災害による世界の経済損失額は325兆円と見積もられており、そのうち気候変動によるものは77%を占めると報告されている。国別では、日本は国土の狭さにも拘わらず米国、中国に次ぐ3位であり、20年間に約43兆円の経済損失を気候変動と関連した自然災害から被ったと見積もられた。政府は、気候変動とそれに伴う自然災害に立ち向かうことを重要な「広義の国家安全保障」と捉え、迅速且つ適切な適応策を打つべきである。そのためには、温暖化物質の全球的監視のみならず、気候変動と自然災害との関連や仕組みを定量的に理解し対策を講ずる必要があり、適切な地球衛星観測は、その実現に必須の社会基盤である。
     しかしながら現在の宇宙基本計画工程表においては、気候変動問題に関わる地球の水・エネルギー循環・植生等の科学に関する衛星観測が「その他」のカテゴリに分類され、将来にわたる計画の維持すら不明である。宇宙基本計画工程表において気候変動問題に関連する計画は「地球環境観測(仮)」としてカテゴリを設け、持続可能な開発目標(SDGs)・フューチャー・アースへの貢献と国民の広義の安全保障とを共に目指すため、現象解明のための多様な項目のデータ取得と長期モニタリングとの双方を必要とする地球環境観測の要請を満たすよう工夫された持続的衛星計画を策定すべきである。

  • (2) 地球衛星観測の戦略的計画推進の仕組み
     持続可能な人間社会の基盤として地球衛星観測を世界と協力しながら戦略的に計画推進するためには、産学連携コミュニティからのボトムアップの提案と行政からのトップダウン的判断を有効に連携させる必要がある。そこで、文部科学省の地球観測推進部会と宇宙開発利用部会の下に「地球衛星観測委員会(仮称)」を、宇宙政策委員会の宇宙産業・科学技術基盤部会と宇宙民生利用部会の下に「地球観測小委員会(仮称)」を設置し、この2つの委員会が地球衛星観測に関する情報交換体制を強化・拡充して連携し、予算計画を含む長期的戦略を明示すべきである。これにより、世界の地球衛星観測における我が国の適切な貢献を推進することができる。

  • (3) 観測データアーカイブ体制の構築と利活用の促進
     国は地球衛星観測データの継続的な利活用を促進するため、高速ネットワークを利用してバーチャルに一元化したデータ保管庫とその利活用機能を備えた「地球観測データリポジトリ」の構築を推進すべきである。大学などが進めるデータプラットフォームの活用や、観測情報を利用しやすく編集して伝える技術を備えた専門研究職などの人的資源を備えたネットワークサービス体制の充実が必要である。人工衛星群による防災や災害復興に役立つ情報をリアルタイムで自治体が活用できる様々な仕組みも構築されるべきである。
     データアーカイブに当たっては、国際的に議論されているデータ原則「FAIR」:F(Findable、発見可能)、A(Accessible、アクセス可能)、I(Interoperable、相互利用可能)、R(Reusable、再利用可能)にも配慮し、社会に開かれたデータ共有を推進するべきである。

  • (4) 人材育成の体制強化と地球観測リテラシー(知識・知恵及びその活用能力)の向上
     地球観測衛星の企画立案から実現には数年から10年程度の時間を要し、ミッションの継続性も重要であるため、地球衛星観測技術の向上と地球観測特有の大容量データ取扱いの高度化を担う人材育成の強化は喫緊に必要である。大学院生など産官学の若手も参加した宇宙航空研究開発機構(JAXA)、大学、気象庁など関連官庁、産業界による人材育成プログラムの連携や、日本地球惑星科学連合での産官学の議論を通した教育が期待される。地方自治体の地球観測情報活用能力の育成も推進すべきである。初等・中等・高等教育から地球観測の魅力と重要性を伝える教育も重要であり、地学・地理教育の普及にも力を入れることが望ましい。





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