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提言「化学・情報科学の融合による新化学創成に向けて」のポイント

1 現状及び問題点

 化学の各分野でのAIの利用は、化学の研究手法の変革のみならず、教育改革、さらに物質生産を通して化学産業構造にまで影響を与える可能性がある。
 AIは、構造決定、機能解析、材料設計、合成経路設計、反応予測などの化学の各局面で、高効率化の鍵として、また研究者・技術者の思考を支援するツールとして、積極的に利用され始めている。このような分野でAIを活用するためには、信頼できる大がかりなデータベースが不可欠であるが、歴史的に実用的なデータベース構築は海外に先んじられてきた。今からでも、エネルギー資源確保の戦略と同様に、自前のデータベースの確保が最重要であるが、そのためにかけられる人的、経済的資源が限られていることを考えると、従来と異なる発想に基づくデータベースの構築が必要である。
 化学分野に特化したAIに関する基礎教育も必要であるが、化学を専門とする教員個人が独力で情報教育を行うのには限界がある。また、フラスコや試験管を用いる従来の古典的化学実験では、実験者の技量に依存するので信頼性の高いデータを入手することが困難である。
 我が国の化学プラントにおいては、プラントのメンテナンス、製品の品質管理等をはじめとしてAI技術の導入が進みつつある。しかし、異常事態などの安全面での対応については、データ数が圧倒的に不足しており、AI活用の目途もたっていないのが現状である。また、「機能設計から生産までのシームレスな連動」という理想像にはほど遠い状況にある。

2 提言の内容

  • (1) AI利用を意識した化学データの戦略的収集と戦略的創出(経済産業省、文部科学省)
     あらゆる化学の実験データは、これからの化学技術革新を生み出す貴重な資源である。国として、研究・教育機関に散在する化学実験データをデータベースとして集約し、より機能的に活用するための施策が重要である。大学・研究機関への、統一規格の自動合成システムや電子実験ノート導入等で、実験データのデジタル化を推進し、今後得られるデータベースと既存データベースとの融合化を早急に行い、統合情報として有効活用することを推進すべきである。
     また、新たな物質・材料の物性や機能と構造、構造と合成法、さらに合成法と生産プロセス間の関係について、ネガティブデータを含めた新規データベースとして戦略的に収集・創出し、それを重要な資源として管理、有効活用していく仕組みを構築することが重要である。そのためには、高分子、製薬、機能性材料等の分野で化学に特化したデータベースの構築、その活用法の開発、自動合成・データ蓄積システムの開発を行いつつ、情報化時代の化学者の研究力強化を支援する組織(新化学創成センター)を設置すべきである。

  • (2) 情報科学を活用した化学教育の変革(文部科学省)
     学生の誰もがAIを使う研究手法を学べる環境づくりが重要であり、理論的なものにとどまらず、ロボティクスのような機器制御法や正しいデータの取り扱い方のような実践面での知識までを含む教育カリキュラムの導入が求められる。またその教育のための教員研修の早急な実施が求められる。このような化学とAIの融合教育の推進が我が国の化学研究力強化につながる。その推進のためには、従来の化学の枠組みを超えたデータ駆動型統合的科学を学習できる環境づくりが重要であり、上記(1)で提案した新化学創成センター等を活用して実施すべきである。

  • (3) 情報科学活用による化学産業の高度化(経済産業省、文部科学省、日本化学連合)
     分子設計から生産までをAI技術で繋ぐためには、機能-構造相関、構造-合成法相関に加え、合成法-プロセス相関、すなわち所望の構造を合成するプロセスの設計にまで直結させるデータベースの構築が重要となる。プラントで異常が生じた場合にも対応できる運転支援システムの構築には、極めて精緻なプロセスシミュレータの開発とそれによるプラント異常に関するビックデータ創出が不可欠である。新化学創成センターでは、その新システムの開発も行い、機能設計からプラント設計・運転までをシームレスにつなげるデータシステムの構築を行う。
     このようなAI技術をベースとした支援システムの構築は、化学産業における生産性向上や設備保全に大きく貢献するだけでなく、熟練技術者の減少を補い、男女共同参画、ダイバーシティの推進、働き方改革にもつながる。営利企業が協力し合うAI融合型高度生産システムの構築を産学官が協力して進める我が国独自の体制を構築するべきである。

  • (4) 化学と情報科学の融合による新化学の創成(日本化学連合)
     化学と情報科学の融合によって生まれる新化学が、産業・社会に与える影響の大きさを考えると、産学官の連携による新化学創成を支援する施策が求められる。その中心施策である上記(1)から(3)の実施を支援する、産学官からなる「新化学創成協議会」を設置すべきである。





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