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提言「住居領域における専門教育と資格教育のあり方」のポイント

1 作成の背景

 本分科会では、報告「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準―家政学分野―」を公表した。そこでは家政学の定義、役割、家政学を学ぶ学生が目指すべき基本的素養に加えて、家政学を学修して取得できる資格についても触れられている。すなわち、家政学を構成する一領域として「住まうことに関する領域(住居領域)」が定義され、住居領域を深めることにより取得できる資格として建築士があげられている。
 本提言では家政学部・生活科学部住居系学科を持つ大学の多くが取得できる資格とした「建築士」(一級、二級、木造)の資格教育と専門教育についてアンケート調査を実施し、その結果などに基づいて住居領域に関連する学科・専攻を有する教育機関を対象として、専門教育について提案を行う。

2 現状及び問題点

  • (1) 専門教育における資格取得の位置づけ
     従来から家政学部・生活科学部の住居領域学科の多くでは、資格教育の一環として卒業後に建築士の受験資格を付与すべく、指定科目の分類別必要単位数を満たしてカリキュラムを構成してきた。アンケート調査の結果、資格教育の内容と住居領域の専門教育とは矛盾するものではないことが明らかとなった。しかしながら、同様に建築士資格教育を行っている工学部建築学科にはない住居領域固有の独自性をいかに確保していくかが課題である。

  • (2) 住まいの問題解決のための課題
     我々の生活空間を住宅から地域、国レベル、さらには世界、地球単位で見たときに、社会の高齢化の進展、都市化だけでなく、気候変動、人口の爆発的増加に伴う居住環境の大変換に対応できる持続可能な開発に資する視点が必要になる。一方、世界保健機関(WHO)による「住宅と健康のガイドライン」には生活者の健康や安全を担保するために住まいに求められる要件が示されており、熱中症対策など喫緊の課題が提示されている。さらには、近年の巨大災害や感染症の急激な拡大に対して避難生活の中で、生活者のQOL(生活の質)を確保する住まいのあり方が新たな問題として浮上している。したがって、これらの視点を家政学における住居領域の専門教育にどのように取り入れるかが課題である。

  • (3) 住居領域におけるカリキュラム設計
     今回の調査によれば、住居領域学科の専門教育では建築士資格に係る指定科目の「その他」においてそれぞれの独自性が現れていた。すなわち、その科目名称は多岐にわたるが、人を対象とし、人の暮らしを支えるための視点や人と生活を総合的科学的に判断できる視点での知識の修得を目指す点では多くの学科が一致していた。したがって、建築士の資格取得のための教育と本来の専門教育との併存のためには、住居領域独自の科目をカリキュラムの中にいかに位置付けるかが課題である。

3 提言

  • (1) QOL(生活の質)の視点からの住居領域での教育のあり方
     住まいは生活のよりどころであり、住まい手やその置かれた状況によって求められる姿が異なる。したがって、家政学・生活科学における住居領域に関連する学科・専攻を有する機関での教育は、これまでと同様に人を中心として生活の質(QOL)の維持・向上を居住空間から支える学問領域としての位置づけを保ちつつ、気候変動に伴う熱中症頻発やその背景にある高齢化の進展など自然環境や幅広い年齢層、障がい者、外国人など多様な人々が共存する社会構造の変化に対応できるよう再構築を図るべきである。また、バリアフリーやユニバーサルデザイン的発想から、人そのものをみつめる、きめ細やかな視点で個々の条件や問題に応じた居住空間を提案する方向へと変化し、知識を記憶するだけでなく問題解決に向かう、考える教育を志向すべきである。

  • (2) 資格教育に捉われない住居領域での専門教育の構築
     建築士資格取得のための教育内容は住居領域学科の専門教育に矛盾するものではないが、当該教育機関は住居領域での専門教育の独自性を明確にするために資格教育とは切り離し、ICTなどの利用による生活者単位での最適な居住環境の提案につながる住まいの新たな役割や枠組み、方向性について論じる住居領域固有のカリキュラムへと発展していくべきである。また、資格教育の位置づけを学部教育と大学院教育とで区別して、大学院における教育の質の向上を図り、リカレント教育にもつながる新しい知識の提供を可能にする体制づくりが求められる。

  • (3) 住居領域の専門教育を担う人材育成
     現状では、住居領域学科の専門教育開講科目担当者に住居領域出身者が多いとはいえない。このような状況の中で今後の教育体制を考えると当該教育機関は、建築士の資格教育と住居領域の専門教育の併存のためには建築学などの隣接学問分野との連携を保ちつつ、住生活学などの伝統的な科目や人間工学、生理学などの人を対象とした科目及び情報学などを取り入れた新たな専門教育を担える人材を備えるべきであり、その育成のために大学院教育を充実させる必要がある。





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