日本学術会議は、わが国の人文・社会科学、自然科学全分野の科学者の意見をまとめ、国内外に対して発信する日本の代表機関です。

提言「感染症の予防と制御を目指した常置組織の創設について」のポイント

1 背景

 新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げますとともに、ご遺族の皆様に謹んでお悔やみを申し上げます。
 本提言は、令和2年3月6日に公表した日本学術会議幹事会声明「新型コロナウイルス感染症対策に関するみなさまへのお願いと、今後の日本学術会議の対応」を受け、本年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行(以下、「COVID-19流行」または「コロナ禍」という)に関する行政等の対応(国民への適切な情報発信、社会・経済的影響への対策を含む)、学術界の異分野協働や産官学連携などを検証し、米国などの先行例も参考としつつ、大規模感染症・危機的感染症の予防・制御に必要な体制とその整備について検討した結果をまとめたものである。

2 現状と問題点

 COVID-19 流行は、わが国が新しい感染症に対するレジリエンスが不十分であることを改めて認識させ、感染症対策とそれに付随する社会・経済的影響への対応など様々な問題点を浮かび上がらせた。特に対応が困難であった点は、無症状病原体保有者の把握とその対応、ウイルス検査と保健・医療の現状分析と必要な体制の整備、感染源・感染経路対策と、その結果生じたこれまでに経験のない社会・経済的影響への対策と人々の現在と将来の生活への不安・ストレスへの対応、人権問題としての誹謗中傷・差別、入国制限の判断、クルーズ船検疫などであった。

3 必要な対策、組織、体制、人材育成

 国立感染症研究所は、今後、新たな流行の波が来ることは必然としている。G20ドイツ2017に付随して行われたS20 Dialogueは、個人の福祉と、世界の健康の脅威である感染性・非感染性疾患に対抗するため、学術的知見に基づいた短期的および長期的で強力な戦略の必要性を指摘した。今後も起こりうる緊急時において、遅滞なく感染症対策を講じるためにも、国は専門の組織を設置するなど、平時から必要な法律・体制の整備を行う必要がある。また都道府県は、感染症流行対策のため、知事が指揮する司令塔組織と専門家からなる助言機関を設置し、国の担当組織と連携しながら、平時から感染症(大規模感染症・危機的感染症を含む)に対し、必要な対策と人材養成を行うべきである。

4 提言

  • (1) 内閣府に常設の組織として感染症予防・制御委員会(仮称)を設置すべきである
     大規模感染症・危機的感染症の予防と制御を図るため、平時から学術的・専門的知見に基づき国民への保健・医療提供、および保健・医療関係者等の安全の確保などの現状を検討し、その結果と科学的知見を踏まえて、公正中立な立場で必要な施策を策定し、内閣に助言等を行う感染症予防・制御委員会(仮称、以下「感染症委員会」という)を常設の組織として設置し、緊急時への備えをもつ体制を平時から構築することが必要である。感染症委員会は感染症に関する公衆衛生学・臨床医学・基礎医学などの専門家で構成され、委員会のもとに専門部会を設立する。必要であれば、経済・社会・法律分野の専門家を含む部会も設置する。緊急対応が必要と考えられる場合、原則として複数のシナリオを想定し、それらを基に案を内閣に提示するものとする。感染症委員会が行政機関としてどのような性格をもつにせよ、内閣府に常設の機関として設置すれば、省庁の縦割りによる弊害を避けやすいと考える。感染症委員会は大規模感染症・危機的感染症以外の感染症対策にもあたることとする。平時から様々な感染症対策の経験と情報を蓄積することで、大規模感染症・危機的感染症への対応能力を高めることが期待される。
     同時に内閣は、政治レベルで感染症対策に責任をもつ常設のポストを設けて感染症委員会との緊密な連携のもとで感染症対策に自らの責任をもって当たるべきである。感染症委員会が提示する案を基に、内閣が具体的な対策を政策的判断で決定し、内閣の責任において一元的に感染症対策に当たることとする。指揮系統を一本化することにより系統的な対策を講じ、国民に情報発信することが重要である。また地域の特性・感染症の流行状況・保健医療の体制などを基に独自の判断を取ることができるように、都道府県知事に可能な限り裁量権を与え、地域の実情に応じた柔軟な対策を実施すべきである。
     近年、わが国では自然災害が相次いでおり、災害時の避難者の感染症対策も感染症委員会の重要な任務と考える。複合災害に備え、感染症委員会は中央防災会議等の関係機関とも連携すべきである。

  • (2) 都道府県に常設組織を設置すべきである
     感染症対策に関して都道府県知事に助言を与える専門家の常設組織を設置すべきである。この専門家委員会には、保健所長、感染症の様々な側面に関する学問分野の専門家、医師会・主要医療機関の代表などが入ることが望ましい。都道府県は、大規模感染症・危機的感染症対策のために、知事を長とし、都道府県の危機管理および防災担当、保健福祉担当、経済政策担当などからなる常設の都道府県感染症対策本部(仮称)を設置すべきである。都道府県の判断により、大規模災害時の感染症対策など、他の感染症対策も含める。また、都道府県を越えた流行の広がりを予め考慮に入れ、隣接する都道府県間での連携を準備すべきである。本対策本部は、平時から大規模感染症・危機的感染症の脅威に備え、大規模・危機的感染症等の予防と制御、人材養成を主な任務とする。

  • (3) 体制の強化
     感染症研究の促進、人材の養成、流行時の緊急対策等の観点から、感染症対策に関わる機関の体制を強化し機能を高度化すべきである。特に、国が責任をもって感染症に関するデータセンターを設立し、国内全ての感染症および感染症対策に関する基礎的・疫学的・臨床的電子データを保存すべきである。また、このようなデータを必要とする幅広い研究者に提供し、オープンサイエンス*を促進する環境を整備すべきである。


  • *情報通信技術を活用して、研究データを含めた研究成果を、特定の組織・分野に所属する研究者だけではなく、それを必要とする研究者と広く共有して多様な科学の進め方を促進すること。





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