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提言「高校国語教育の改善に向けて」のポイント

1 作成の背景

 高等学校の国語の教科については、2018年に新しい高等学校学習指導要領(以下、新指導要領と称する)が告示され、翌2019年には、その解説である『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 国語編』(東洋館出版社、平成31年2月)が刊行された。この新指導要領によって、国語の科目構成は、次のように変化することになる。すなわち、共通必履修科目が現行の「国語総合」(4単位)1科目から、「現代の国語」「言語文化」(各2単位)の2科目へ、選択科目が、「現代文A」(2単位)「現代文B」(4単位)「古典A」(2単位)「古典B」(4単位)「国語表現」(3単位)の5科目(実質的には、「現代文」「古典」「国語表現」の三種の科目)から、「論理国語」「文学国語」「古典探究」「国語表現」(各4単位)の4科目への変更である。細分化を進めるこの科目構成の在り方には問題があり、改善されるべき点がある。その改善方法を示すとともに、この指導要領のもとで行われる教科書編集、および教科書検定において留意すべき点を示し、合わせて不人気科目であることが解消されないことが予想される古典教育の改善について提案を行う。

2 現状および問題点

 新指導要領では、共通必履修科目が「国語総合」1科目から「現代の国語」・「言語文化」の2科目へ、選択科目が、A・Bの別を除けば、「現代文」「古典」「国語表現」の三種の科目から、「論理国語」「文学国語」「古典探究」「国語表現」の4科目に分割される。問題点は、科目を分割したこと自体、および分割の仕方に存する。
 今回の改訂の柱となるのは、「生徒の主体的な言語活動の重視」であるが、新指導要領は、これを共通必履修科目としては「現代の国語」に、選択科目としては実質的にその展開科目である「論理国語」を中心に担わせようとしている(ただし、新旧ともに選択科目として存する「国語表現」は、いま除いて考える)。科目を分割したのは、その「現代の国語」の内容を必ず学ばせ、かつ論理国語を実質的に必修化しようとの意図があると考えられる。
 まず共通必履修科目を2科目に分断したことに対しては、高校生が生きる実社会と言語文化を切り離し、現代社会を生きることと古典とを分断してしまう結果をもたらすという危惧がある。新指導要領のいう実用的な文章と、同じくいうところの文学的な文章は、これまで以上に緊密な関連のもとに学ぶことが望まれる。
 新指導要領における選択科目では、総体的にいえば、「現代文」が「論理国語」と「文学国語」に分割されたととらえることができる。これでは「論理」と「文学」があたかも相反する領域であるかのような誤解を与えてしまう。「文学国語」の設定は、本来生きた現実社会に深く関わるべき「文学」を、伝統文化、狭義の言語芸術に封印してしまう危惧があり、むしろ時代に逆行するものである。また「論理国語」では「論理的な文章」「実用的な文章」を扱うことが明示されているが、これらはいずれも一義的な内容を伝達する文章が想定されている。しかしそれでは異なる世界観への想像力をはぐくむことはできず、新指導要領が自ら目標とする「思考力、判断力、表現力等」の育成も十分果たせないだろう。
 選択科目における古典教育は、「古典探究」が主として担うことになるが、これは現行の「古典A」「古典B」と大きな違いはなく、不人気科目である古典の教育を改善することは困難である。新指導要領の「言語文化」では、古典と現代の文章を積極的に関連づけることを理念としているが、教科書編集もこの理念に基づいて行われるべきである。

3 提言の内容

  • (1) 共通必履修科目「総合国語」を設ける
     共通必履修科目は、「現代の国語」「言語文化」に分割せず、両者を有機的に統合した「総合国語」1科目とすることを、長期的展望に基づく提言とする。この考え方に則り、短期的展望に基づく提言として、教科書会社には、「現代の国語」と「言語文化」との境界領域を重視した教材選定と、それぞれにかかわる教材を密接に関連させる教科書編集を要望する。同時に、文部科学省の教科書検定に対しては、そのような編集に対して、柔軟かつ弾力的な対応をすることを要望する。

  • (2) 選択科目を「思考と言語」「言語と創造」「言語文化」「国語表現」の4科目とする
     短期的展望に基づく提言としては、教科書編集においては、境界領域を重視した柔軟な編集を行い、教科書検定においては、柔軟かつ弾力的な対応を要望する。長期的展望に基づく提言としては、「論理国語」を「思考と言語」(仮称)に、「文学国語」は、「言語と創造」(仮称)に、「古典探究」は、「言語文化」に改編することを提案する。「国語表現」は、新指導要領の性格規定に従い、共通必履修科目で養成された能力に基づき、情報化社会に対処するスキルの習得に留意し、実践的な表現力を養うことを目標とする。

  • (3) 古典教育を改善する
     長期的展望に基づく提言としては、上記(2)のように「古典探究」を「言語文化」とし、現代社会と古典との関係を深く理解する教育を提案する。短期的展望に基づく提言としては、近現代・江戸以前を分ける考えから抜け出し、江戸時代をも含めた体系的な言語文化教育を徹底すること、小学校・中学校・高等学校において同じ教材を繰り返し学ぶ利点を重視すること、文字情報以外の聞くこと・見ることを活用すること、古典芸能を積極的に活用することを提案する。





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