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提言「日本の停滞を打破し新産業創出を促す社会基盤と研究強化~応用物理からの提言~」のポイント

1 現状及び問題点

 応用物理は、産業と学術、理学と工学など、様々な面での結節点に位置する学問領域である。基礎物理を新産業に積極的に繋げ、応用先を見出すまでを目標にして研究開発に取り組み、新たな物と価値を創出する分野であり、産業の発展と密接に関連する。しかし近年、世界各国あるいは各地域と比較して、日本の科学技術や産業の進展には、停滞もしくは地盤沈下の傾向があることが強く懸念されている。その背景では多くの大学・研究機関における実研究時間の減少という、危機的状況が進んでいる。
 本分科会では、いち早くこれらの危機を正面から見据え、学術の立場から応用物理の視点で解決の糸口を探るべく議論を重ねてきた。応用物理関連分野は、大学、産業ともに規模の大小や地域性によらず多岐にわたり、社会に貢献する潜在力を持つ。小規模であっても先鋭的な技術をもつ大学、企業をも含めて多様な研究人材を支援し、その力を引き出す仕組みが求められる。これら背景のもと、わが国の研究力の低下に歯止めをかけ、新産業の創出を促すための研究環境向上と社会基盤強化に向けて、次の3項目を提言する。。

2 提言の内容

  • (1) 本来生まれるべき成果を創出するため、評価にかかる時間的コストを低減すべき

     公的資金の配分においては、極端な選択と集中をやめて均等配分の割合を増やすことが重要である。これにより重点化配分のためにかかる事務コストを削減することができる。すなわち運営側事務コストのみならず、競争的資金獲得のための研究者の応募資料作成などの稼働を減らし、実質的な研究に充てることができ、さらなる研究成果が期待できる。また、案件選考にかかる査読・評価など審査側の稼働を極力減らすことで、その稼働にかかる人件費と研究能力の高い人材が評価にかけていた時間を研究開発に向けることができる。均等配分部分、すなわち運営費交付金などの基盤的研究経費を増やすことで、配分のためのコストを削減し、その分を実際の研究費にまわすことで、研究力の強化につなげられる。
     重点化配分のための競争的資金の運営管理についても、極力簡略化することが有効である。すなわち採択後の中間・最終・事後など複数のタイミングで行われる報告を例えば最終報告などの1回に絞れば評価のために費やす報告書作成稼働、事務処理稼働、調整稼働などを減らし、その時間と労力を実質的な研究に充てることができる。国がこれらの施策を行うことで、より実りの多い研究成果が期待できる。

  • (2) 新産業創出に向けて多様な研究人材の支援が必要

     既存の枠組みにとらわれず、学術の分野から新たな産業を創出するためには、これまで必ずしも研究資金が潤沢でなかった大学に、国と企業が協同して研究資金を注入するべきである。研究者として高度な教育を受けた人材は、科学技術に立脚したベンチャーを起業し、ひいては新たな産業を創出できる可能性をもつ人材である。そのためにも、地域社会と結びついた地方大学や、個性的な教育研究を行える人材を有する私立大学において、多様な研究人材を支援することで大学発ベンチャーが推進されることが期待される。産業の芽を育てる、イノベーション人材を育てるという観点から、個々の額は大きなものである必要はなく、より広く行き渡らせる施策が重要である。
     これら研究費が有効に活用されるためには、多様な大学において大学教員自身も多様性が担保されていることが重要である。このため、応用物理を含む理工系分野の女性教員や外国人教員比率向上などが必要である。さらに人材を育成、輩出し続けていくためには、減少を続ける博士課程学生に対する欧米並みの生計維持可能な経済的支援は急務であり、大学からの企業に対する働きかけとともに、国からの積極的支援が必要である。

  • (3) 産学連携における人材交流の促進、地域との連携によるイノベーションエコシステムの構築が重要

     国際競争力を有しイノベーションで発展を遂げるには、各地域において経済力と技術力を増強させる必要があり、人材活躍の場を広げ起業やその進展につなげる環境整備が重要となる。先端技術を基盤とする知識の集約と新規な取り組みを求める様々な産業との交流を円滑に進めるためには、地域を主体とし大学や研究機関を核とする連携が望ましい。大学教員も新たな環境に触れることで再教育の場を得るべきである。大学の多様な知の営みを活用した産学連携を強化するためには、単発の施策の組み合わせにとどまらず、大学や企業の規模、地域性、人材の年齢や交流の目的や期間などの多様性に対応しつつ、継続的に人材交流を支援するプラットフォームの構築が必要である。
     カウンターパートとして大企業だけでなく研究開発マインドを持った中小企業に多くの参画を望み、新たな産業の創出を図るべく各地域に適したシステムの実現を期待する。ここで、それぞれの地域における「知識の集約」と「人的交流」を図り産業を創出し国際競争力を持たせるために国と自治体が協同して、地域の中小企業の連合体と大学や研究機関の連携によるイノベーションエコシステム構築のための施策を推進することが重要である。





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