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提言「外国人の子どもの教育を受ける権利と修学の保障――公立高校の「入口」から「出口」まで」のポイント

1 作成の背景

 日本の在留外国人数は近年増加の一途を辿っているが、平成31年(2019年)4月1日から施行された改正入管法によって、今後、外国人の定住が一段と進むことが予想される。外国人に関する施策については地域間格差が著しく、国として明確な指針を示すことが求められる。
 多文化共生政策のなかで、今期(第24期)本分科会が検討を加えてきたのは、義務教育段階に比べて対策の遅れが目立っている後期中等教育における施策である。最近文部科学省が開始した様々な関連事業については、その効果が期待されるものの、事業範囲はまだ限定的である。本提言は、公立の高等学校(以下、「高校」)に特化した上で、高校の「入口」から「出口」までの「外国人生徒」(外国につながりをもつ生徒。日本国籍を所持しているが、父母のいずれかが外国人である場合も含む)に関わる背景的事象と現在の課題を検証し、高校進学、修学、卒業後の進路保障に関する改善案を提言するものである。
 外国人生徒に対する教育については、日本が批准している「児童(子ども)の権利に関する条約」「人種差別撤廃条約」などの国際条約においても、教育を平等に受ける権利が保障されていることは想起されるべきである。

2 現状及び問題点

  • ・文部科学省が平成31年(2019年)に初めて公表した調査結果により、義務教育相当年齢の外国籍就学不明者が約2万人にも上るという実態が明らかにされた。他方、外国人生徒の日本の高校進学の実態を知るための公表データは乏しいままである。
  • ・外国人生徒の入学試験の特別枠・特別措置をめぐっては、都道府県間で大きな格差が生じている。実施高校の範囲は限定的であり、また選抜方法にも課題が残っている。
  • ・高校進学率は、全国平均が99%であるのに対し、日本語教育が必要な生徒の進学率は極めて低く、また公立高校の中退率も、全国平均と比べると著しく高い。
  • ・学校内において、教職員や部活動の学外コーチなどを含めて、外国につながりをもつ人たちが少なく、多様性が確保されていない。
  • ・外国人生徒は、将来幅広い職業の選択肢があることを知らない場合が多い。
  • ・アイデンティティ育成や言語的多様性を保障するための母語の授業が少ない
  • ・高校の管理職及び教員の多文化共生についての理解を深める研修の機会が極めて限られている。
  • ・教員免許取得のための教職科目において多文化共生関連の授業が必修でないため、教員はその基礎知識を身につける機会がないまま、現場での対応を迫られている。
  • ・全生徒を対象とした多文化理解を主題とする教育の機会が少ない。
  • ・高校卒業後の進学率や就職率においても全国平均と外国人生徒の間で大きな格差が生じている。入試で外国人特別枠を設ける大学は少数である。
  • ・国内高等学校等出身の外国人学生を対象とする経済的支援制度の不足が、外国人生徒の大学進学率を低くしている一因となっている。

3 提言の内容

 後期中等教育における外国人生徒に関する施策は、義務教育段階に比べて大幅に遅れている。とりわけ、高校進学率や中退率をめぐる全国平均と日本語教育が必要な外国人生徒の間の著しい格差は、早急に解消に向けた対策がなされるべきである。多文化共生分科会は、文部科学省に対して、以下の提言を行う。
 なお、文部科学省が設置した「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議」が、本提言案の審査中であった令和2年(2020年)3月に報告書を発表した。そこで推奨されている施策と重複するものについては、文部科学省においても検討中であると理解し、以下の提言では分けて記載することとする。

  • (1) 本分科会が最優先課題として提言するもの~速やかに取り組みを始めるべきもの
    1. ① 外国人生徒が多い地域や高校における「多文化共生コーディネーター」「多文化共生担当教員」(仮称)の創設。
    2. ② 外国人生徒の学習の動機づけや学習意欲向上のため、また学校内における多様性確保のため、外国につながりをもつ人たちの学校内での配置(部活動の学外コーチ・顧問などの委嘱においても多様性を確保)。
    3. ③ 教員免許取得のための必修教職科目に、多文化共生を主題とする科目追加。
    4. ④ とくに高校の管理職を対象とする、多文化共生に関する研修の義務化。
    5. ⑤ より多くの大学における、外国人生徒対象の推薦入試、特別枠の実施。
  • (2) 本分科会が強く提言するもの

    「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議報告書」(令和2年(2020年)3月)が推奨していることと同類で、本分科会も強く提言するもの

    1. ⑥ 外国人児童生徒の実態把握のため、国籍、母語、都道府県の項目を含めた調査実施およびデータの公表。
    2. ⑦ 全国的な公平性確保のため、全都道府県で外国人生徒のための高校入学試験における特別枠・特別措置の設置。

    「早期に取り組むべきもの」として本分科会が強く提言するもの

    1. ⑧ 外国人生徒のアイデンティティを育成し、また言語的多様性を活かすため、外国語を母語とする生徒が多い学校における、コミュニケーション力・思考力向上のための母語授業の開設(需要の高い言語から優先的に)。
    2. ⑨ 外国人生徒が、将来幅広い職業の選択肢があることを具体的に想定しやすいように、ロールモデル(模範となる先輩外国人)との交流や社会見学の機会の提供。
    3. ⑩ 大学生等対象の奨学金における、「国内高等学校等出身外国人学生」(仮)特別枠等の設置。



     提言全文はこちら(PDF形式:730KB)PDF
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