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提言「長期の温室効果ガス大幅排出削減に向けたイノベーションの加速」のポイント

1 現状及び問題点

 パリ協定では、長期目標として、2℃や1.5℃、また温室効果ガス排出量を今世紀後半に実質ゼロが目標とされた。そして、CO2の累積排出量と気温上昇との間には線形に近い関係が見られるため、気温を安定化させようとすれば、その時点では世界の正味CO2排出量をほぼゼロにする必要があり、長期的には実質ゼロ排出(脱炭素化)が求められている。一方で、世界の温室効果ガス排出量の上昇は止まっていない。効果的な排出削減の推進のためには、世界排出量が減らない現在の構造をより良く理解しなければならない。温暖化問題の本質上、世界すべての国による排出削減への協調が重要であり、その追求は必要である。しかし、実質ゼロ排出等の実現には、極めて大きな削減費用が必要とされている。世界全体が参加する協調体制の確立には大きな困難が伴うことを認識する必要がある。
 日本政府は、2019年に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を策定し、「最終到達地点として『脱炭素社会』を掲げ、それを野心的に今世紀後半のできるだけ早期に実現することを目指す」とした上で、非連続なイノベーション等を推進し、環境と経済の好循環を実現するとしたが、現状を良く理解するとき、これは妥当な戦略と考えられる。
 望ましい技術進展、社会変化も見られている。気候変動問題の重要性の認識は、国内外で高まってきている。太陽光発電のコストは大きく低減した。また、コンピュータの高速化も進み、高速な情報処理が可能となってきている。このような技術進展と社会変化の芽が、新たな結合を生み出し、大きな技術、社会イノベーションを生み出す可能性がある。

2 提言の内容

  • (1) 安定的なエネルギー及び気候変動政策の確立
    •  脱炭素化に向けて大きな投資が必要な中、安定的なエネルギー及び気候変動政策の確立が重要である。不安定な政策は、投資を難しくする。エネルギー基本計画には状況を踏まえた変化が必要ではあるが、骨格である3E+Sのバランスを踏まえたエネルギーとする方針は今後も安定的に維持すべきである。
  • (2) 低炭素、脱炭素を実現するエネルギーインフラ投資の予見性の向上
    •  低炭素化、脱炭素化対策は、基本的に資本費が高いことが一般的である。電力自由化の下では、初期設備費が小さく、短期的に投資回収が可能な投資に向かいやすい。また、再生可能エネルギー(再エネ)拡大のためにも、電力ネットワークへの投資が必要であるが、これも電力自由化の下では大規模な投資が難しい状況にある。そのため、発電、送配電ともに、投資予見性を高める料金回収の制度など、エネルギーインフラ事業者に投資のインセンティブを与える制度の再構築を行うべきである。
  • (3) 電力化率向上と電源の低炭素化、脱炭素化の加速、再エネの課題認識と取組
    •  脱炭素化のためには、電力化率向上と電源の脱炭素化(再エネ、原子力、二酸化炭素回収利用・貯留(CCUS)など)が求められる。再エネの拡大においては、調整力の確保と系統制約の克服が大きな課題となってきている。バーチャルパワープラント、ディマンド・リスポンスといったビジネスモデルが、IT 技術を活用しながら、課題の一部を解決できる可能性もある。こうした新たなビジネスモデルが適切に展開できるよう、提供される価値に見合った報酬が得られるように、制度の再構築を進めるべきである。
  • (4) 基礎的な研究に重きをおいたイノベーションの誘発
    •  気候変動緩和策が進まない根本的な理由は、費用が低廉で大きな排出削減を実現できる技術が乏しいためである。基礎的な研究を充実させながら広範なイノベーションを誘発することが必要である。特に、ICT 等の情報・デジタル技術、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー等は、部門を超えて幅広い社会イノベーションを誘発できる可能性がある。例えば、ICT 等の進展により完全自動運転車が実現すれば、シェアリング経済が誘発される。効率化が図られることで、必要な自動車台数は減少し、素材生産量も減り、結果、製品の製造やサービス提供において消費されるエネルギーも減少する。
  • (5) 長期的な視点を踏まえた費用対効果の検証と基礎研究の充実
    •  非連続的なイノベーションを誘発するために政府の支援が必要であるが、予算は限られており、費用対効果の検証を進めながら支援しなければならない。予算の効率化を図りながら、短期的には評価が難しい基礎的な研究にも研究資金の厚みを増すべきである。

 技術イノベーションの芽は生まれつつある。それを進展させ、更に部門横断的に波及させ、社会イノベーションまで昇華しなければ、大きな排出削減にはつながらない。行政機関のみならず、産業界、消費者、学術界等すべてが、変革を求められていることを共通的に理解して取り組むことが求められている。早急かつ強力に取り組むべきである。




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