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提言「アディクション問題克服に向けた学術活動のあり方に関する提言」のポイント

1 現状及び問題点

 依存(dependence)とは、薬物やアルコールなど物質に対して自制できない程にのめり込んでいる状態であると国際的に定義されている。一方、物質依存に加えて、ゲームやギャンブルなど特定の行動に対する自制できない程度ののめり込み(行動嗜癖)を含めた、アディクション(addiction)が近年大きな社会問題となっている。物質依存に関する研究は個々に進められているものの、各国において大きな社会問題となっている対象は異なっており、さらには個々人においても対象が異なる、あるいは共存しているケースは多い。また、行動嗜癖に関してはその対象がさらに拡大し、多様性を有しているが、それらに対する共通基盤ならびに相違点の把握は未だ充分に行われておらず、研究・対策も効率的であるとはいえないのが現状である。したがって、物質依存のみならず、アディクションに苦しむ人々の実態の把握のために、早急な調査研究が必要である。基礎研究としては、脳神経科学を中心として進められているものの、近年では法曹、教育学など他研究領域との関わりも重視されてきている。しかしながらアディクション研究を有機的に連携して行える体制は整っていない。また、我が国においてアディクション症治療薬は研究段階で止まっており、その開発が殆ど進められていないのが現状であり、対策が希求される。また、アディクション症は精神疾患の一つであり、治療対象であるという認識が、日本国内において浸透していない。このような社会全般の無理解はアディクション症患者への差別を生み、アディクション症治療の大きな妨げになっている。さらに、将来のアディクション症対策の主眼は予防に置かれる必要があり、有効な予防教育や再発防止教育のためのプログラム開発は急務である。

2 提言等の内容

  • (1) アディクションにおける多様性の把握と関連研究・教育の推進
    • 物質依存に関する研究は個々に進められているものの、各国における社会問題は異なっている。特に、行動嗜癖に関してはその対象が拡大し、多様性を有しているが、共通基盤ならびに相違点の把握は未だ充分に行われておらず、研究・対策も効率的であるとは言えない。日本国民におけるアディクションの現状を正確に把握し、その 上で、社会の変化とともに将来変化していくであろうアディクションの現状にも柔軟に対応できるような包括的な予防・医療・研究・教育体制を構築することが肝要である。
  • (2) アディクション症対策におけるテーラーメイド化推進
    • アディクション症脆弱性の個人差には環境要因・遺伝要因が関与しており、画一的な対策・治療では、十分な効果が得られない。アディクションの基礎研究およびアディクション症の臨床研究には、依存性薬物感受性およびその個人差に関する遺伝的要因研究やアディクション症の形成過程に焦点を当てた包括的な研究などを含めるとともに、各個人に対するアディクション症のテーラーメイド医療を行う体制を構築することを提言する。
  • (3) アディクション研究人材の育成
    • アディクション研究者は減少しており、これにはアディクション研究体制の不備や、諸外国と比較しアディクションのための研究費は極端に少ないことが原因として挙げられる。このため、官民合わせたアディクション研究体制の確立および予算の拡充を提言する。また、アディクション研究は、精神医学、心理学、薬理学、脳科学、法医学、教育学、法学など、様々な学問領域と関連した学際的な研究領域である。このような関連領域の研究テーマと関連付けることで、関連領域の研究者がアディクション研究にも参画する可能性があり、連携研究の推進も支援していく必要がある。
  • (4) 薬物依存症者の社会復帰のための新しいガイドラインの作成
    • 日本は、薬物問題に対する厳罰政策により国民の薬物生涯経験率を極めて低く抑えており、一定程度奏功している。しかしその一方で、薬物依存症者を治療から疎外し、その回復を阻害してきた可能性がある。近年、国連は、薬物問題に対する厳罰政策の弊害を認識し、これを反省する声明を相次いで発表している。わが国もまた、諸外国と同様、規制・取り締まり偏重の対策から、治療体制の整備や治療法の開発、さらには薬物使用による二次被害低減も視野に入れた対策へと重点を移していくことが望まれる。そこで、薬物依存症に苦しむ者が安心して治療を受けることができる治療環境を保証し、薬物依存症者が孤立せず、回復しやすい社会環境を実現するために、「薬物依存症者の社会復帰を促進するための新しいガイドラインの作成」を提言する。
  • (5) アディクションに関する情報収集・研究・対策・治療・広報を包括的に取り扱う専門機関の設置
    • 諸外国においては、アディクションを専門に行う研究調査拠点が存在するのに対して、日本においては、大学・研究所などの研究室単位において研究が進められているのが現状である。このため、予算不足や所属機関同士でのシステムの違いなどにより、思うような有機的連携が行えていない。提言①~④を踏まえ、アディクション症を正しく理解し、適切な防止策や治療・改善方法を確立するために、物質依存と行動嗜癖を包括的に取り扱い、分野・領域を横断したアディクション研究が行える体制及 び拠点研究機関の設立を提言する。




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