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提言「日本紅斑熱・SFTSなどのダニ媒介感染症対策に関する緊急提言」ポイント

1 作成の背景、現状及び問題点

 日本学術会議農学委員会応用昆虫学分科会、食料科学委員会獣医学分科会、基礎医学委員会病原体学分科会は、2019年4月に公表した提言「衛生害虫による被害の抑制をめざす衛生動物学の教育研究の強化」において、SFTSをはじめとするマダニ媒介感染症が我が国でも重要な公衆衛生上の問題となりつつあることを指摘した。実際、我が国には媒介生物(ベクター)を介した感染症が局地的に存在しており、国内感染症(土着感染症)対策の一つとして、一部のダニ媒介感染症に関し速やかな対策が必要である。

 2020年にはオリンピック・パラリンピック東京大会が開催されるが、その前に、重篤な後遺症を引き起こしうる感染症が国内で流行し、国内外でセンセーショナルに報じられれば、開催・運営に深刻な影響を与える可能性もある。また、東京大会では東京都以外でも競技が行われること、選手団のキャンプ予定地が全国に広がっていること、来日外国人の行動範囲が従前のいわゆる観光地外まで広がってきていることなどを考えると、感染症対策は東京都だけの問題ではない。しかし、東京都以外の道府県での取り組みは必ずしも十分ではない。

 オリンピック・パラリンピック東京大会を一つの契機として、SFTSと日本紅斑熱に関し、緊急に対策が必要と考える。

 日本紅斑熱:夏期を中心に近年では通年発症が認められ、発生数の増加、発生地の拡大が認められている。1998年以前は鹿児島県、宮崎県、高知県、徳島県、兵庫県(淡路島)、島根県、和歌山県、三重県、神奈川県、千葉県などであったが、1999年以降拡大し、広島県、長崎県、静岡県でも発生がみられるようになった(東京大会の競技が行われる地域、キャンプ予定地が含まれる)。マダニ類で媒介される感染の増加・拡大の原因として、シカや野ネズミなどの齧歯類の生息範囲の拡大・ヒト居住地への近接が考えられている。

 SFTS(重症熱性血小板減少症候群):2013年以降に我が国で報告されたダニ媒介感染症である。夏期に多い。昨年度までの報告例は、石川県、福井県、滋賀県、三重県以西に限られているが、年々東進している。これら以東の都県でも、捕集されたマダニ類やシカ、イノシシなどの感染巣となる動物(リザーバー)から病原体や抗体を認めたとする報告がある。野生のイノシシ、シカ、アライグマ、キョン等の生息域拡大は、最近著しい。これに伴い、マダニ類の生息範囲が拡大し、ダニ媒介感染症の要警戒地域も拡大していると考えられるが、系統的な調査は行われておらず、実態を定かにできない現状である。

 マダニ対策:マダニは、森林や草地だけではなく公園や河川敷の草むらにも潜んでいる。マダニ媒介感染症対策として最も有効なのはマダニに刺咬されないことであり、ダニ忌避剤の携行・塗布の励行を普及することが、予防策として重要である。適切な衣服の着用も重要であるが、夏季であることを考えると励行は容易でない。また、会場・キャンプ地周辺の雑草・草むらを適期の草刈りや、環境に配慮しつつ必要最小限の除草剤を使用することにより除去し、マダニの潜伏箇所を減らすことも効果的である。

2 提言

 開催地・キャンプ地(及び招致地域)とその周辺には雑草・草むらが多い地域もあり、感染機会は無視できない。そこで、これらの地域(行政の垣根に縛られることな く、必要と考えられる敷地・区域)で、SFTS と日本紅斑熱の二疾患に絞って、ダニ類の生息状況(もしくは分布や密度)を調査・確認することを主な目的とする強化サーベイランスを地方自治体等が本年初秋に1回実施し、来春に2回目を実施して、どちらの強化サーベイランスでもダニ類の捕獲されなかった地点を除く地区の強化サーベイランスを行うことを提言する。その結果、大会開催期間中・キャンプ期間中に感染の可能性が高いと判断された開催地・キャンプ地とその周辺では、ダニ忌避剤の携行・塗布の励行、会場周辺の雑草・草むらの除去等の予防対策を計画し、適切な時期に実施することが必要である。なお、除草剤を使用する場合には、環境への配慮が必要である。また、過去に患者が発生している日本紅斑熱・SFTS の浸淫地域を持つ都府県では、開催地・キャンプ地になる地域(及び招致地域)で、リザーバーの抗体検査を強化サーベイランスの一部として行うことも併せて提言する。

 ダニ媒介感染症対策は一般の国民にも必要であり、また、東京オリンピック・パラリンピック後も必要である。本提言で述べた対策が実施されれば、一般の国民のダニ 媒介感染症に対する注意喚起となり、また、今後の対策のモデルケースとなることが期待できる。



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