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報告「都市域土壌の現状と課題」のポイント

1 都市域土壌の捉え方と背景

 宅地、商業用地、工業用地、都市公園などの都市的地域の土壌やその他の人為を強く受けた土壌に対して国内外において様々な用語が用いられている。これらの用語を定義すること自体が今後の課題だが、本報告では関連用語を土地利用や地理的分布に基づいて整理し、都市域土壌と仮称する。
 2050年には世界人口の2/3以上が都市部に住むという2011年の国連の報告は衝撃的であった。日本は都市への人口集中が著しい国の一つであり、都市的土地利用の在り方について関心が払われつつある。だが、都市的土地利用が論議される際に、その構造物の下などに存在する土壌に注意が向けられることは必ずしも多くなかった。その一方、人口減少による都市域の縮退現象が進み、都市周辺地域の再緑地化や再農地化の可能性も考えられる。このような中、20世紀後半からは都市域の土壌に関しても土壌学的データに基づいて論議されるようになり、2000年には国際土壌科学連合(IUSS)の第3部門に人為の影響を受けた土壌を扱うワーキンググループが組織された。その学術活動を通じて研究が進み、日本国内においても研究論文や書籍の出版がなされるようになった。これらの活動を通じて抽出された課題や将来に解決すべき課題について検討し、本報告を取りまとめた。

2 都市域土壌の現状

  • (1) 都市域土壌の性質
     都市域土壌の性質は、これまでにデータ集積のある農地・林地など自然に近い土壌とは大きく異なり、多様でもある。公園等の都市緑地の土壌もあれば、構造物の下では重機で固めるために著しく固結した土壌もある。これらの土壌はコンクリートやアスファルトに代表される人工物質を多く含むこともある。また、混入する人工物質が土壌をアルカリ性にしており、農地や林地の土壌と性質を異にする。農地等のような生物活動は著しく損なわれていたり、偏っていたりする現状も報告され、ある程度の土壌生物の活動があってもいびつな生態系として存在している可能性が指摘されている。
  • (2) 都市域土壌の管理
     都市的土地利用においては土地の造成や構造物が完成された後は地表面に出ていても構造物の下にあってもその土壌の性質は不変であるということが通念かも知れない。そのため、これらの土壌に注目した管理はほとんど行われない。しかし、実際にはその土壌に変化が認められることもある。都市緑地の土壌でも生物生産に関わる特性は損なわれていることが多い。
  • (3) 都市域土壌と土壌生成因子
     自然界における各種土壌の生成はそれぞれの土壌の母材、気候、地形、生物、時間、人為などの因子(土壌生成因子)に分けて論議される。これらのうち前5者は自然的な因子だが都市域土壌では人為の影響が強く、その影響はその前5者にも及ぶ。母材には自然にない組合せと分布が起こり、気候には被覆物や都市熱の影響が加わり、地形は均平化傾向、生物活動は制限される。時間スケールも自然土壌の生成時間より大幅に短いが、都市域土壌が造成された後にその環境条件に応じた性質変化がありうる。
  • (4) 都市域土壌の生態系サービス
     土壌の大きな役割は生態系の基盤となり、多面的な生態系サービスを支えることである。都市域土壌の生態系サービスとして期待されるのは、都市緑地としての景観の形成やレクリエーションの場、壁面緑化や屋上緑化などにおける植生の培地となることである。都市域の生産緑地を除けば積極的な生物生産が期待されることは少なく、植物は適度に生育し、ある程度で成長停止することが望まれる場面も少なくない。

3 都市域土壌に関する主な課題

  • (1) これまでに形成された都市域土壌
     公園など都市緑地となっている土壌や都市構造物の下にあってその基盤となっている土壌など都市域土壌のおかれている環境は多様である。土地の造成と都市的土地利用の開始後に認められる都市域土壌の変化に次のようなことがある。植栽管理や落ち葉清掃が有機物の蓄積を妨げたり、根の露出を促進したり、土壌劣化が進行することが知られている。また、道路や建物など構造物下の土壌では地表面を不透水層で被覆するために土壌の変化はわかりにくいが、補修やインフラの交換で土壌が掘り上げられ、還元状態から酸化状態になることがある。土壌材料に海成堆積物を含む場合では酸化・酸性化の問題も指摘されている。また、構造物の下の土壌に一旦水の通り道ができると侵食が進む可能性がある。レクリエーション施設における定期的な植栽と土壌の管理が地盤強度を低下させる可能性もあり、長期的な管理・利用を考慮した場合、定期的なモニタリングと必要に応じた修復が望まれる。
     近年の異常気象により頻発するようになった都市域土壌の土砂崩れへの対策は喫緊の課題である。特に造成で盛土がなされた土壌で発生していることに鑑み、地盤の強度や脆弱性の予測を可能とする新旧地形図のデジタル標高モデルの整備を通じた造成履歴のデータベースの構築が望まれる。現状では各自治体単位でのみ把握されている都市域土壌の改変(造成、土壌汚染など)に関する地図情報と地質地盤情報データベース及び土壌情報を国土交通省と農研機構が協力する等の体制で一元化し、更新していく必要がある。
  • (2) これからの都市域土壌
     都市域の多様な土壌はそれぞれに長期的に望まれる機能を果たすような管理法を確立する必要がある。人口が減少傾向になり、今後面積の増加が見込めない都市域や縮退現象に直面している都市では、これまでに拡大した都市域の土地利用変化を想定しておく必要がある。従来の都市的土地利用から農村的土地利用への転換もありうる。その際には生物生産を意識した造成・施工をすることが望ましい。現在の対応としてコンパクトシティー化が計画されているが、残存する都市縁辺部の都市的土地利用下にある土壌に対する対策として人工的手法により自然を生み出す技術を要することになろう。衰退した都市域では自然または半自然条件に任せた管理、いわゆるグリーンインフラを整備することが望ましい。そのグリーンインフラには緑地や将来のスマート農業への転換が図れる可変性を持たせた整備施工法を用い、潜在土壌分布等のデータベースを構築しておく必要があろう。



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