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報告「学術とSDGsのネクストステップ -社会とともに考えるために-」のポイント

本報告は、前期の「持続可能な開発目標(SDGs)対応」分科会と環境学委員会から送られた諸課題に対して、今期の学術会議とその「科学と社会」委員会がどのように取り組んだかを自らレヴューし、さらに次期に引き継ぐべき課題を示すものである。

1 現状及び問題点

 上記課題のうち、「学術会議以外の国内外の組織の動きや議論のあり方に関する情報を集め、フィードバックするなどして、学術会議での議論の相対化に留意する」に従い、第1章では、学術会議以外の国内外の学術組織がSDGsに関してどのような議論や取り組みを行っているかをまとめる。
 まず、SDGsの特徴である社会課題志向・社会との共創・学際性を、科学技術政策史の観点から巨視的に位置づけ、反対にSDGsに不足していると言われる文化や精神的価値の研究を受け持つ人文・社会科学がSDGsにどう関係するのかを、議論の前提として概観する。次に、学術による取り組みを、大学と大学以外の研究機関に分けて報告する。前者に関しては、SDGsは、大学が象牙の塔から「社会のための学術」を体現する機関への転換を遂げる上で、わかりやすく共有しやすい旗印として採用されるケースが増えたが、他方、本来なら大学の強みであるはずの文化や精神的価値の探究という点からSDGsを補完する試みは不足していることが指摘できる。他方、大学以外の研究機関は、大学に比べ、応用研究や政策研究に直接従事する傾向があるため、SDGsに馴染みやすい。だが、現状としては、研究内容やプロジェクトをSDGsの17目標に「紐づけ」ることに留まるケースが多い。169ターゲットのレベルで、その実現を目ざすための研究をどう進めていくのか、戦略レベルで考えていくことが本来は求められている。
 続いて、第23期から送られた課題のうち、「研究者、とりわけ若手研究者に対する業績評価をSDGsとの関係で見直すことを視野におく」「SDGsは2030年までの実現を目ざす目標であり、学術界としても継続的に取り組んでいく必要があるため、学術会議の若手アカデミーにも、SDGs達成に向けた貢献を期待する」について、若手研究者による議論や取り組みをまとめる。
 その中で特筆すべきは、SDGs的課題に科学者が取り組む場合、既存のファンディングシステムでは研究費を得難いため、民間資金の積極的活用や公的研究資金の配分の見直しが必要との指摘がなされていること、また、SDGs達成には市民と科学者の協働が重要だが、それが一般市民により研究成果を上げる活動「シチズンサイエンス」と深い関係にあることについて認識が広がったことである。実際に若手研究者を中心とした多様なシチズンサイエンスの活動が始まっていることを報告する。
 第2章では、課題のうち、「経済・社会・環境の3側面を統合したSDGsに貢献するために、SDGsとの関係の認識が薄い分野をも巻き込み、学術会議全体で学術とSDGsについて議論を行う」、「(その議論において)「学術会議がSDGsにどのように関わるか」とともに「学術会議自体がSDGs対応によってどのように体質改善するのか」も含める」「SDGsに照らして学術界をレヴューし、学術界もまたSDGsをレヴューする」に従い、今期の学術会議と「科学と社会」委員会の議論と取り組みを整理する。
 今期はまず、学術会議が発出してきた提言類とSDGsの関連づけを行い、学術会議のHPで紹介するという試みを「科学と社会」委員会主導で行った。これは学術会議の活動の可視化、社会への発信力の強化という点で効果があり、さらに、SDGsに関する議論に学術会議のすべての分野を巻き込むことや、SDGsを介しての「社会のための学術」という姿勢づくりにも貢献した。しかしそのような「紐づけ」を超えて、SDGsの目標間のトレードオフ問題などを組織的・体系的に分析するまでには至らなかった。提言等の発出以外では、「科学と社会」委員会の「市民と科学の対話」分科会によるサイエンス・カフェの試みが、SDGsの目標4の達成に寄与する学術のアウトリーチとして評価できるが、少人数に対し細やかな対応を行うため、コストパフォーマンスや広がりの面で課題もある。

2 総括と次期への課題

 以上のように、今期はSDGsへの取り組みを具体的に進めた結果、学術会議の持てるリソースによって可能なこと、困難なことについてもある程度判断が可能になったため、それを踏まえて次期に次の課題を引き継ぎたい。

  • (1) 「SDGsを学術会議がレヴューする」という課題を学術会議の個々の活動に落とし込む

     SDGsについての議論は継続すべきだが、「SDGsを学術会議がレヴューする」「17目標間のトレードオフを解消する」と大上段に構えると(学術会議の活動面に現状では物理的制約があるため)取り組みにくくなる。諸委員会・分科会がそれぞれに行う活動の中でSDGsを意識する方が現実的である。とくに提言等の作成において、特定の研究分野の利害を優先するのではなく、対象となる課題について複数の意見があることを示し、SDGsの総合的達成を念頭に置くことが効果的と考えられる。提言の発出者が自ら、あるいは他の分野の研究者や市民との対話を通して、異なる意見をSDGsに関連づけながら考察するならば、その提言をトレードオフ・シナジー関係の分析のケーススタディとしても位置づけられるだろう。

  • (2) 「社会との共創によってSDGs達成に貢献する」という観点から「新型コロナウイルス後の世界」を構想する

     「新型コロナウイルス後の世界」が次期の分野横断的課題になると予想される。2019年冬に始まった世界的パンデミックは、経済と環境、経済と生命・健康といったSDGsの目標間の競合がまさに重大な問題であることを、科学者だけでなく市民にも認識させた。したがって、この課題の検討は、学術のアウトリーチ以上に「社会との共創」に直結するシチズンサイエンスとして行うことにも適している。新型コロナウイルス感染拡大中に普及したオンライン会議システムなどを利用するならば、異なる地域の住民の意見、あるいはサイエンス・カフェなどの会場に行くことが困難な市民の意見を共有することができ、新たな効果が見込まれる。




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